「ずっとツールでの勝利を夢見ていた。10年前に亡くした弟のためにも勝ちたかった」とユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック)は涙を流した。この日チームワークに徹したファンアールトなどツール16日目を終えた選手たちの言葉を紹介します。



区間優勝 ユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック)

独走でステージ初優勝を飾ったユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック)独走でステージ初優勝を飾ったユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック) photo:Kei Tsuji
レース直後インタビュー

僕はいままで勝利したことがなかった。そんな僕が初勝利を挙げる場所としてツール・ド・フランスは最高の舞台だろう。僕のアタックはマイケル・ウッズをお膳立てするためのだった。だがマイクのおかげで後続と差が生まれたので、そのままフルガスで突き進んだんだ。

その差は30秒と十分ではなかったものの、諦めず踏み込んだ。そして最後のテクニカルな区間で更にタイムを稼ぎ、1分までリードを拡大することができた。それを知った瞬間はこれが現実とはまるで信じられなかった。しかし最後は60kmに渡り補給食が取れなかったので脚がつり始めていたんだ。

僕にはプロになった頃に亡くした弟のために、ツールで勝利するという夢があった。そして今日、彼のために勝つことができた。10年に渡って走り続け、ようやく彼のために勝つことができた。なんて言葉にすればいいのかわからない。ただただ素晴らしい。

ステージ優勝とステージ敢闘賞を獲得したユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック)ステージ優勝とステージ敢闘賞を獲得したユーゴ・ウル(カナダ、イスラエル・プレミアテック) photo:Kei Tsuji
表彰式後インタビュー

逃げ集団での展開はいつも予測できない。そして勝つには運が必要だ。逃げに入ってからは自分の脚に力を感じ、全てがスムーズに展開していった。そして「とても疲れているが、僕が1人飛び出せばマイク(ウッズ)の勝利が近づく」と思いアタックした。誰もついてこなかったので、その後は最後までタイムトライアル状態だった。賭けだったよ。

急勾配区間はとても辛かったものの、頂上の時点で後ろと30〜40秒差があれば勝てるかもしれないと思った。そしてフィニッシュラインを越えた瞬間でさえ、この勝利が信じられなかった。ただただ嬉しかった。この10年間ずっと夢見ていた瞬間だ。この勝利を僕の弟に捧げたい。

区間2位 ヴァランタン・マドゥアス(フランス、グルパマFDJ)

もちろん勝ちたかった。勝利が可能だったからこそ残念だ。だけど彼(ウル)は最終山岳で最も強い選手であることを証明してみせたんだ。ツールで勝つには勇敢さと時の運が必要だ。彼にはその両方があった。しかしツールはまだ終わっていない。僕たちにはまだ勝つチャンスが残されている。

逃げ集団から終盤でチームを牽引したマイヨヴェールのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)

総合勢はワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を先頭にフィニッシュ総合勢はワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)を先頭にフィニッシュ photo:CorVos
チームから逃げ集団に誰かしら選手を送り込まないといけないと思っていた。最終山岳の勾配が厳しいため、ヨナス(ヴィンゲゴー)が1人になってしまう可能性があったからね。またその山岳からフィニッシュまで距離があるという懸念もあった。だがこの方法を取ればその不安を排除することができた。

僕自身がステージ優勝できるチャンスもあったと思うが、僕がレース先頭にいればヨナスに不運があった時に対応することができない。これが最善の作戦だっただろう。

マイヨジョーヌ ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)

ライオンを受け取ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ)ライオンを受け取ったヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
ポガチャルは良いアタックを見せたが、僕もそれは予想していた。チームとしては逃げから適切なタイミングで2人の選手が降りてきて、アシストをしてくれた。今日は計画が完璧にハマったね。マイヨジョーヌを2位とのタイム差が変わらないままキープすることができた。スーパーハッピーだよ。

ーマイヨジョーヌの重圧とどう戦っているのか?

勝つ時は勝つし、負ける時は負ける。僕にはベストを尽くす以外できることはない。だから負けても僕にはどうすることもできない。そう思っているよ。

総合2位&マイヨブラン タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)

ユンボ・ヴィスマにアタックを封じられるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)ユンボ・ヴィスマにアタックを封じられるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos
そんなに悪い日ではなかったね。ダウンヒルでアタックしたのだが上手くはいかなかった。明日からの2日間は長い登りが登場する。攻撃を仕掛けるチャンスは今日よりも多いだろう。

総合3位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)

今日はイェーツの調子がとても良かった。彼は今日、僕のために良いテンポで(最終山岳ミュール・ド・ペゲールの)ラスト1.5kmを牽引してくれた。またダニ(マルティネス)も山岳で存在感を示してくれた。とても良いチームパフォーマンスを見せることができたよ。

山岳で遅れ、総合6位まで順位を下げたロマン・バルデ(フランス、チームDSM)

大ブレーキに苦しむロマン・バルデ(フランス、チームDSM)大ブレーキに苦しむロマン・バルデ(フランス、チームDSM) photo:CorVos
一体何が起きたのか、僕自身、説明することができない。今日は競技生活でも最悪の日と呼ぶことができる。今朝の調子は良かったのに…本当に何が起きたのか分からないんだ。今後コンディションが戻ることを願っている。そんな僕を助け、励ましてくれた周りの人たちに感謝したい。今日のステージを走り切る力となった。

イスラエル・プレミアテック共同オーナーであるシルヴァン・アダムス氏

ユーゴとマイク、そしてチームを誇りに思う。なんて素晴らしい勝利なんだ。ユーゴはチームメイトに献身的な選手だが、彼自身が特別な選手であることをこのツールで証明した。数日前に勝利をあと一歩の所で逃し、今日は勇敢にその勝利を掴み取った。

これで(1988年にステージ優勝を挙げた)スティーブ・バウアー以来となるカナダ人による勝利。そして彼は今日、ユーゴをチームカーから勝利へと導いた。そんなチームを僕は愛してやまない。

text:Sotaro.Arakawa