新城幸也(Bboxブイグテレコム)が5月のジロ・デ・イタリアで逃げを決め、3位になったのが第5ステージ。そしてその「第5ステージ」に縁起をかついで、アタックに動こうと決めていたのがこの日だ。

ちなみにコースはまったくの平坦ステージでスプリンター向き。逃げが決まったとしてもゴールスプリントに持ち込みたいチームが終盤に向けて逃げを潰すように組織的に追撃してくるというのがお決まりのパターンだから、逃げ切るのは簡単なことではない。

「逃げる」と公言していた第5ステージに挑む新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)「逃げる」と公言していた第5ステージに挑む新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano

チームバスで手身近なミーティングをすませ、バスから出てきたユキヤ。すでにヘルメットを被りサングラスを掛けて恐ろしいぐらい集中している。ムービーでも収録したスタート前のコメントから。

世界各国のメディアが新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)の興味を示す世界各国のメディアが新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)の興味を示す photo:Makoto Ayano—第5ステージですが?
逃げるように挑戦はしてみますが、レース(展開)によります。行った選手を見てです。アタックが決まってしまったら無理して行く必要はないですし。

—気合が入っているように見えますが? チームオーダーはありますか?
そうですか。アハハハ。チームオーダーはとくにありません。昨日も(捕まったのが)残り3kmですからね。運じゃないんです。計算を狂わすんです。皆、「後ろの集団が間違える」とか言うけど、間違えるんじゃなくて計算を狂わすのが逃げなんです。後ろになにかあることを期待しちゃいけないんです。脚の調子はいいですよ。いつもどおりです。

ヴィラージュでフルーツジュースを飲む新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ヴィラージュでフルーツジュースを飲む新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano—第5ステージにはこだわる?
いえ、とくにそうではないです。そろそろかな、と思っています。

—今朝のサイクリングニュースは見た?「ユキヤは今日アタックする」というケネさんの記事が載っていますが。
いえ見てないです。それ、ダメじゃないですかぁ、バラしちゃ!(笑)。

ユキヤは3週間のレースで3回、つまり一週間に一度ぐらいは何か面白いことがしたいと考えている。この日はチーム監督のジャン=ルネ・ベルノドーさんの誕生日だということで、ちょっとした日本のプレゼントも渡していた。しかしもっと大きなプレゼントをしたいとも考えていたはずだ。


南フランスを思わせる酷暑 シャンパン街道を行く

かなり手のこんだ巨大シャンパンかなり手のこんだ巨大シャンパン photo:Makoto Ayanoフランスでも北に位置するというのに、この日は正午には南フランスのような暑さが訪れた。アスファルトから立ちのぼる熱気と降り注ぐ太陽。石垣島出身のユキヤも暑いと言って日焼け止めを塗るぐらいだ。昨夜はエアコンなしのホテルで寝苦しい夜を過ごしたそうだ。

エペルネーはシャンパンのひとつであるentrepotの産地として知られている。スタートしてすぐの通りの両脇にはシャンパンの飾り付けが続く。ちょうどお昼時でもあり、地元の人がワインを飲みながらツールの通過を待つ。ほのかに上品なアルコールが匂う。


そしてどうやらジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)の地元でもあるようで、応援がやたらと目立つ。そしてスキンヘッドにピアスとタトゥー、シクロクロスとロードの兼用選手でクライマーという一風変わったキャラを持つ渋い選手ガドレだけに、応援する人たちにカメラを向けてもノリはやや大人しめ。

ジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)の応援ジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)の応援 photo:Makoto Ayano


早々に決着したスタートからのアタック合戦

逃げるジュリアン・エルファレ(フランス、コフィディス)、ユルゲン・ファンデワール(ベルギー、クイックステップ)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、ケスデパーニュ)逃げるジュリアン・エルファレ(フランス、コフィディス)、ユルゲン・ファンデワール(ベルギー、クイックステップ)、ホセイバン・グティエレス(スペイン、ケスデパーニュ) photo:Makoto Ayano0km地点をスタートしてすぐにアタック合戦となる。レースラジオが伝える選手のなかにユキヤのビブナンバーが入ることに注意していたが、スタート6kmまでにホセイバン・グティエレス(スペイン、ケスデパーニュ)、ジュリアン・エルファレ(フランス、コフィディス)、ユルゲン・ファンデワール(ベルギー、クイックステップ)の3人の逃げが決まり、集団も即座に容認体制になった。

スペインのTT&ロードのWチャンプ、スピードマンのグティエレスが先導する3人の逃げ。
独走力のグティ、逃げて勝てるエルファレ、クラシックを得意とするルーラーのファンデワールの3人は少数精鋭だ。

手作りプラカードを持って応援手作りプラカードを持って応援 photo:Makoto Ayano

酷暑のなか先頭を引き続けたシウトソウ

メイン集団の先頭を引き続けるカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、チームHTC・コロンビア)メイン集団の先頭を引き続けるカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayanoそれを追うメイン集団の先頭を引き続けるのはカンスタンティン・シウトソウ(ベラルーシ、チームHTCコロンビア)だ。シウトソウの後ろにマイヨジョーヌ擁するサクソバンクが固め、そして他のチームが続く。

シウトソウの先頭固定は、他のHTC・コロンビアのチームメイトたちをスプリント勝負が始まる終盤までに温存しておくことが目的だ。2004年ヴェローナ世界選手権U23チャンピオン、そして2009ジロ第8ステージに勝利しているオールラウンダーはすべてをカヴェンディッシュの可能性に捧げていた。

ヒマワリ畑の横を通過するメイン集団ヒマワリ畑の横を通過するメイン集団 photo:Makoto Ayano気温はぐんぐん上昇。いつもの時期より状態のいい向日葵が、早くも沿道にみられるようになる。逃げる3人も集団も淡々とペースを刻みモンタルジへと向かった。横風も吹き、集団先頭では斜めに隊列を組む半エシェロン状態もみられた。ユキヤは集団内で大人しく走ることに決めたようで、こちらがカメラを構える姿を見つけると「逃げれなかった」という苦笑いの表情を送ってくれる。

総合狙いのチーム以外は誰もが逃げたいとアタックするツール。逃げる意思を強く持って臨んだとしても、それが叶うのはタイミングと運、一緒に行ったメンバー次第だ。残り6kmで最後の可能性にかけて単独飛び出したグティ。しかしそれは許されなかった。チームHTC・コロンビアは、自身の総合成績を狙いたいマイケル・ロジャースもカヴのために先頭交代に加わり、逃げを潰した。

カヴの感情が爆発した

マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)が好位置からスプリントを開始マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)が好位置からスプリントを開始 photo:Makoto Ayanoガーミン・トランジションズが集団先頭を固めてモンタルジの最終コーナーに突っ込んできた。

第2ステージの落車で手首近くの骨にヒビが入っている状態のタイラー・ファラー(アメリカ)に勝利を狙わせようと、ジュリアン・ディーン(ニュージーランド)とロバート・ハンター(南アフリカ)、デーヴィッド・ミラー(イギリス)の3人が理想的なリードアウトを見せる。その後ろにカヴェンディッシュ、さらにその後ろにフースホフトが控えた。

ボアッソンやチオレックらを下したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)ボアッソンやチオレックらを下したマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayanoランプレ、サーヴェロ・テストチームらも入り乱れて突入するゴール前は、僅かな上り坂。チームHTC・コロンビアの最終発射台であるマーク・レンショーは、ガーミンもサーヴェロも蹴散らすリードアウトを見せた。レンショーから解き放たれたカヴは、発射されると(以前のように)その持ち前のスピードを爆発させ、フィニッシュラインを駆け抜けた。

両手を上げ、何度も何度も拳を突き出して喜びを表現するカヴ。大歓声で聞こえないが、大声で吠え、感情を爆発させていた。

シウトソウと抱き合うマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)シウトソウと抱き合うマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayano勝利を欲しいままにし、スポンサーのHTCの電話をかける仕草や、オークリーのグリーンのカスタムサングラスをアピールする余裕さえを見せてゴールシーンを弄んた昨年のツールのゴールシーンとは一転、まるでミラノ〜サンレモを制した時のような感情的なゴールゼスチャーだ。。

カヴは戻ってくるチームメイトすべてと抱き合って感謝の気持ちを表した。チームスカイのブラドレー・ウィギンズとも抱き合った。ウィギンズとはトラックのマディソン競技でペアを組み、イギリスに2度の金メダルをもたらしている仲だ。カヴを祝福する他チームの選手も<少なくなく>声をかけていく。

「やったんだ、やったんだ、サンキュー」。声はかすれ、サングラスのレンズの脇から涙が大量に流れていた。
そして表彰台に立つとき、目から涙が溢れ出して止まらなかった。喜びよりも、泣き崩した表情になってしまった。きっと涙で何も見えなかったに違いない。

2004年ツールで4勝、2009年に6勝。この勝利がツール通算11勝目だ。しかし単に数字以上に、この勝利がカヴにとってどれだけ意味があるかをその涙が物語っている。

昨年は驚くべき結果を残したが、今シーズンは歯にできた膿瘍の治療のために冬場のトレーニングがほとんど行えなかった。調整が遅れ、6月までの勝利数わずか3勝でツールに乗り込んだ。しかし不調に苦しみ、勝てないプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。第4ステージの惨敗は、それに輪を掛けた。昨夜はどん底だった。

カヴは言う。「「1年間背負い続けて来たプレッシャーから解放された気分。これまでの努力がようやく報われた。もちろんこれからのステージでも優勝を狙って行く。ツール・ド・フランスは世界最大のロードレース。ここで再びステージ優勝を飾るのが今年の大きな目標だった。僕の勝利を望まなかった人がいるかもしれない。多くの人が批判的で、それが自分の走りに悪影響を及ぼし、プレッシャーが増していた。

表彰台で涙を見せるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)表彰台で涙を見せるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayano

チームは最初の数日間は運に見放されていた。昨日チームは100%パーフェクトな働きでスプリントに持ち込んでくれたけど、僕が彼らを落胆させる結果になってしまった。諦めてもおかしくない状況で、今日、また彼らは100%の走りをしてくれたんだ。自分たちに課せられた仕事以上の走りを見せてくれた。僕を信頼して走ってくれる素晴らしいチームメイトたち。包帯を巻いた満身創痍のコスタ(カンスタンティン・シウトソウ)は、2日間で300kmは集団を牽き続けた。総合成績が懸かったトニ・マルティンやマイケル・ロジャースも勝利に貢献してくれたし、僕の仕事はレンショーに付いていくことだけだった。ライバルたちを押しのけながら進むレンショーに、完璧なラインで解き放たれたんだ。昨日のゴール後は自分の走りに疑問を感じていたけど、今日の勝利で吹っ切れたよ」。

勝てる時の生意気な発言が反発を生み、5月のツール・ド・ロマンディではステージ優勝しながらも、手の甲を向けて指2本を立てる勝利のポーズが侮辱的だとして罰金をくらった。6月のツール・ド・スイスでは落車を引き起こしたラフなスプリントでは批判のために選手たちがストを起こした。

シーズン当初からすべてが噛み合わない時期を過ごしたが、この勝利がそれらを帳消しにする。

新興スプリント勢力の台頭 ユキヤは安定感のある15位

マイヨヴェールのトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)とエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)マイヨヴェールのトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)とエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) photo:Cor Vos勝負に絡むことがなかったオスカル・フレイレ(ラボバンク)、昨ステージ覇者のアレサンドロ・ペタッキ(ランプレ)やマイヨヴェールのトル・フースホフト(サーヴェロ・テストチーム)が囲まれて沈む一方、ゲラルド・チオレック(ドイツ)の2位、そしてエドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)の2日連続の3位が光る。

ウィギンズが「もっとも才能ある選手」と太鼓判を押すボアッソンは、オールラウンダーとしての評価だけでなくスプリンターとしても通用しはじめている。ボアッソン自身もスプリントを学んでいる過程で、このツールのうちに結果を出せるかが楽しみだ。そして安定的に上位争いに加わる場合、ポイント賞の候補にもなりそうだ。

ステージ15位でゴールする新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)ステージ15位でゴールする新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayanoまた順位を上げて6位のセバスティアン・テュルゴー(フランス、Bboxブイグテレコム)に続き、ユキヤも15位でフィニッシュ。最後は流しながらゴールに入ってきたが、堅実にスプリントで上位に来れる力をみせている。今日の逃げ切りは早々に諦めざるを得なかったが、これからもチャンスをみて動いてくれるだろう。

同じように平坦系のスプリンター向き第6ステージには逃げのチャンスもある。酷暑と言えるほど暑いが、天気は崩れそうだ。スプリンターチームの勢力争いが複雑な今、計算を狂わせる要因はいくつもありそうだ。

text&photo:Makoto Ayano
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