ツール・ド・フランス4日目に、ここまで3日連続2位だったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)がついに勝利した。チームメイトによる最終登坂でのペースアップから独走に持ち込み、そのまま残り10km超を逃げ切った。



この日40歳の誕生日を迎えたフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル)この日40歳の誕生日を迎えたフィリップ・ジルベール(ベルギー、ロット・スーダル) photo:Makoto AYANOサインに応じるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)サインに応じるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:Makoto AYANOs

フランス本土最北端の街ダンケルクをスタートフランス本土最北端の街ダンケルクをスタート photo:CorVos
7月5日(火)第4ステージ ダンケルク〜カレー 171.5km7月5日(火)第4ステージ ダンケルク〜カレー 171.5km image:A.S.O.第4ステージ ダンケルク〜カレー 171.5km第4ステージ ダンケルク〜カレー 171.5km image:A.S.O.


大歓声に包まれたデンマークでのグランデパールを終え、移動日を挟んでツール・ド・フランスがいよいよ母国へと凱旋した。フランス本土最北端でベルギーとの国境に近いダンケルクを出発し、内陸をぐるっと回ってユーロトンネルの街カレーを目指す第4ステージは171.5kmの「丘陵ステージ(主催者発表)」だ。

低い丘が広がる当地方を表現するかのように、この日の最高標高地点はたったの199m。レース前半から後半にかけて満遍なく合計6ヶ所の4級山岳が散りばめられているが、どれも登坂距離は1km超と短く、この日35歳の誕生日を迎えたアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)によれば「スプリンター間でも差をつけるのは難しい」難易度。しかし最後の4級山岳「キャップ・ブラン・ネ」はフィニッシュ地点から10.8kmしか離れておらず、この登坂を舞台に今後暫く語り継がれるであろう、劇的なアタックが生まれることとなる。

ダンケルクの海岸沿いをスタートしていくダンケルクの海岸沿いをスタートしていく photo:Luca Bettini
逃げるアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)とマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)逃げるアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)とマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Luca Bettini
初日から誰一人リタイアすることなく、プロトンは176名のままデンマークステージ最終日に起きたコペンハーゲンでの銃撃事件を悼む時間を経て、晴れ渡るダンケルクを出発。正式スタートとともに、この日も山岳賞ランキング首位の証・マイヨアポワを着るマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)とアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)が一目散に飛び出した。

メイン集団は山岳ポイント狙いのコルトとペレスをあっさりと見送り、ステージが始まって早々この日の逃げが確定する。タイム差はすぐに6分台まで到達し、ここから総合首位ワウト・ファンアールト(ベルギー)擁するユンボ・ヴィスマはもちろん、この日のゴール勝負を狙うスプリンターチームがコントロールを開始した。

逃げグループを形成した2名
マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)山岳賞1位
アントニー・ペレス(フランス、コフィディス)

大歓声を受けて逃げるマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)とアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)大歓声を受けて逃げるマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)とアントニー・ペレス(フランス、コフィディス) photo:Makoto AYANO
逃げを見送ったメイン集団がスローペースで進む逃げを見送ったメイン集団がスローペースで進む photo:Kei Tsuji
第2ステージで逃げてマイヨアポワを獲得し、続く第3ステージでは母国ファンの大歓声を浴びながら一人逃げ&山岳ポイント加算。一躍デンマークのヒーローとなったコルトと、2020年ツールの第3ステージで山岳ランキング首位浮上を叶えたにも関わらず、ダウンヒルでの落車・鎖骨骨折でマイヨアポワを受け取ることができなかったペレスの2人逃げ。山岳賞にこだわる2人は緊張感を高めた状態で1つ目の4級山岳コート・ド・カッセル(距離1.7km/平均4.2%)に突入した。

ヘント〜ウェヴェルヘムにも登場する石畳が敷かれた登坂路。体力を絞り尽くすかのようなロングスパート合戦を制したのはコルトだった。さらに1ポイントを加算し、続く63km地点の中間スプリントポイントでは争うことなくペレスが先頭通過。握手をして紳士協定(コルトが山岳、ペレスがスプリントと敢闘賞)を結んだ2人は、ローテーションを回して「仏フランドル地方」と呼ばれるアップダウン区間を駆け抜けた。

コルトは第5山岳ポイントまで先頭通過を果たし、合計5ポイントを加算(開幕以降ここまで11ヶ所のカテゴリー山岳を全て先頭通過)した。風が吹き付ける区間で時折ナーバスな状態となりつつ、それでも決定的な横風分断作戦に打って出るチームが現れないまま、残り45km地点でメイン集団は逃げる2人との差を1分強まで縮めていた。するとペレスがアタックし、翌日以降の山岳争いに力を貯めたいコルトは粘ることなく離脱を選んだ。

コルトを置き去りにして一人逃げるアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)コルトを置き去りにして一人逃げるアントニー・ペレス(フランス、コフィディス) photo:CorVos
終盤まで集団内で過ごすマイヨジョーヌのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)終盤まで集団内で過ごすマイヨジョーヌのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Kei Tsuji
スプリンターチームが逃げる2人を追いかけるスプリンターチームが逃げる2人を追いかける photo:CorVos
「うまく協調できたし、マグナスとの逃げはとても気分がよかった。彼が(山岳)ポイントを獲った後に(自分に対して)先行するように伝えてきたんだ。実際逃げ切り優勝の可能性は低かったけれど、それでも素晴らしい瞬間を楽しむことができた」と言うペレスは暫く1分リードを維持していたが、徐々に緊張感を高めるスプリンターチームを抑えることはできず、残り15km地点でリードは30秒まで減少。すると最後の4級山岳「キャップ・ブラン・ネ」突入前の下り区間で、イネオス・グレナディアーズが猛烈なペースアップに打って出た。

80km/hオーバーでダウンヒルをかっ飛ばし、そのままの勢いで複合コーナーを抜け登坂がスタート。すると「同じようなコースレイアウトだったパリ〜ニース初日にそうだったように、ユンボ・ヴィスマが何か仕掛けてくるだろうと思っていた」というアダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)の予想通り、イネオスと共に集団先頭を固めていたユンボ勢が先頭に立ち、猛烈なペースアップを開始した。

ティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の背後でファンアールトがアタックを待つティシュ・ベノート (ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)の背後でファンアールトがアタックを待つ photo:CorVos
20秒リードで逃げるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)20秒リードで逃げるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
ネイサン・ファンホーイドンク(ベルギー)のフルもがきでペレスを飲み込み、登坂中腹でティシュ・ベノート (ベルギー)にバトンタッチ。僅か900mと短いものの、平均7.5%に達する勾配でユンボが集団を木っ端微塵に破壊する。スプリンターチームはおろかイネオスとユンボ以外の全チームが遅れを取り、頂上付近でべノートに連結したのはファンアールトとヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)、そしてイェーツのたった3名だけ。べノートが残り240m地点で離れると、いよいよマイヨジョーヌのファンアールトが勝負の手札を切った。

「ついて行ったけれど、正直ユンボが速すぎて残り100~150mで千切れてしまった」と言うイェーツ(と、そのチェック役に回ったヴィンゲゴー)を置き去りにし、ファンアールトが独走を開始した。バラバラになった後続グループが追走体制を組む間に一気に20秒を稼ぎ出す。開幕初日の個人タイムトライアルで2位に入ったプロトン屈指の超オールラウンダーが、TTモードでフィニッシュまで続く平坦区間を駆け抜けてゆく。

ほぼ一つにまとまった集団側もスプリンターチームを中心に必死の追走を試みたものの、ユンボの一斉攻撃でスピードマンが脱落していたこと、そしてバイクエクスチェンジ・ジェイコ勢が1分遅れたディラン・フルーネウェーヘン(オランダ)のヘルプに回ったため思うようにペースを上げられない。人数を残したユンボ勢がメイン集団先頭でじわりとローテーションを妨害したこともファンアールトの大きな助けとなった。

マイヨジョーヌがたった一人で集団との差を維持し、観客が詰めかけたカレーの街のフィニッシュ地点に戻ってくる。集団スプリント、あるいは丘で抜け出した小集団勝負という当初のレース予想をはるかに上回る、劇的すぎるほどの独走逃げ切り。羽ばたくジェスチャーを繰り出し、力強く右手を突き上げてファンアールトが勝利した。

マイヨジョーヌのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が独走勝利マイヨジョーヌのワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)が独走勝利 photo:Kei Tsuji
勘違いのガッツポーズでフィニッシュするヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス)勘違いのガッツポーズでフィニッシュするヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
チームメイト全員と抱き合うワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)チームメイト全員と抱き合うワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
開幕から3日連続のステージ2位という「笑い話にすらならない(ファンアールト)」92年ぶりの不名誉記録を経て、ファンアールトがついにステージ優勝を掴む。8秒差まで迫っていた集団のスプリント勝負は、勝利と勘違いしてガッツポーズしたヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が先着した。

「マイヨジョーヌが僕に翼を与えてくれた。僕のキャリアの中で間違いなく最高の勝利の一つになった」と、ようやく掴み取った勝利をファンアールトは喜んだ。「マイヨジョーヌを着て勝つのは本当に特別だ。運よく明日もこのマイヨジョーヌで走ることができる。今日僕たちはチームとして凄いことを成し遂げた。僕たちにとって完璧な一日になった」。

満面の笑みで表彰台に上がるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)満面の笑みで表彰台に上がるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto AYANO
山岳ポイントを積み重ねたマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト)山岳ポイントを積み重ねたマグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Makoto AYANO敢闘賞を獲得したアントニー・ペレス(フランス、コフィディス)敢闘賞を獲得したアントニー・ペレス(フランス、コフィディス) photo:Makoto AYANO


総合上位勢は全員8秒遅れの集団内でフィニッシュ。ボーナスタイムを合わせてこの日22秒を積み重ねたファンアールトは、総合2位イヴ・ランパールト(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル)に対して25秒リードで、やはり活躍が期待されている翌日のパヴェステージを迎えることになった。


ツール・ド・フランス2022第4ステージ結果
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 4:01:36
2位 ヤスパー・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) +0:08
3位 クリストフ・ラポルト(フランス、ユンボ・ヴィスマ)
4位 アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
5位 ペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー)
6位 ルカ・モッツァート(イタリア、B&Bホテルズ・KTM)
7位 ダニー・ファンポッペル(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)
8位 ユーゴ・オフステテール(フランス、アルケア・サムシック)
9位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ・ジェイコ)
10位 バンジャマン・トマ(フランス、コフィディス)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 13:02:43
2位 イヴ・ランパールト(ベルギー、クイックステップ・アルファヴィニル) +0:25
3位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) +0:32
4位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) +0:36
5位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) +0:38
6位 ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ユンボ・ヴィスマ) +0:40
7位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) +0:41
8位 アダム・イェーツ(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:48
9位 シュテファン・キュング(スイス、グルパマ・エフデジ)
10位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:49
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 170pts
2位 ファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル) 109pts
3位 ペテル・サガン(スロバキア、トタルエネルジー) 80pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 マグナス・コルト(デンマーク、EFエデュケーション・イージーポスト) 11pts
2位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 1pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 13:03:15
2位 トーマス・ピドコック(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) +0:17
3位 フロリアン・フェルメルシュ(ベルギー、ロット・スーダル) +0:26
チーム総合成績
1位 ユンボ・ヴィスマ 39:09:52
2位 イネオス・グレナディアーズ +0:29
3位 トレック・セガフレード +0:45
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO, Kei Tsuji, CorVos

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