長野県松本市の乗鞍高原にあるMTBトレイル群が一般に開放されることとなった。これまでMTBガイドツアーに使われてきたトレイル群が、6月11日のオープニングイベントを皮切りに、利用者からの「トレイル整備協力金」によって運営される公開トレイルとして生まれ変わる。



日本の国立公園初の公開トレイル群

乗鞍高原内のフロウトレイルが、一般に公開されることとなった乗鞍高原内のフロウトレイルが、一般に公開されることとなった photo:Makoto Ayano
日本有数のヒルクライム大会で知られる長野県松本市の乗鞍高原は、本気なマウンテンバイカーにもよく知られた場所である。というのも乗鞍では、『NORTHSTAR』(ノーススター)というMTBガイドツアーが人気だった。

手をかけて走りやすくした乗鞍高原のトレイル群を、ガイドツアーでのみ走れるということで、多くのMTBライダーが訪れ人気を博していた。

白樺が並ぶ中を縫って走っていくトレイル。日本の山ではあまり見ない光景だ白樺が並ぶ中を縫って走っていくトレイル。日本の山ではあまり見ない光景だ photo:Makoto Ayano
よく整備されたトレイルを気持ちよく走っていけるよく整備されたトレイルを気持ちよく走っていける photo:Makoto Ayanoトレイルの要所に立てられている看板、見落とすことなかれトレイルの要所に立てられている看板、見落とすことなかれ photo:Makoto Ayano


そのガイドツアーで使われていたトレイルを含む総長15.4kmのトレイル群が、ツアーでなくても走れる認可オープントレイルになる。

その名称は『のりくら コミュニティ マウンテンバイク トレイルズ』、通称NCMT。日本の国立公園では初となる、MTBで利用可能な公開トレイルである。

観光案内所で受付をし、トレイル整備費を払って走る

まずは観光案内所へまずは観光案内所へ photo:Makoto Ayano
6月11日~12日にかけて行われるオープニングイベントから、NCMTは走れるようになる。(オープニングイベントの詳細は https://trail.norikura.gr.jp/opening-event/ にて)

利用には、『Gift NORIKURA』、『乗鞍BASE』といった施設でNCMTを走りたい旨を伝えて受付し、トレイルルールマナー同意書に署名する。トレイル整備協力金2,500円(500円の1日走行保険料が含まれる)を支払い、利用証リストバンドをもらえばOKだ。走行可能なトレイルマップもここでもらえる。

受付してトレイル整備金を払うともらえるマップ。いくつかのセクションに分けられる受付してトレイル整備金を払うともらえるマップ。いくつかのセクションに分けられる
NCMTを走る上で守るべき項目が書かれた看板。これが道路脇にあるNCMTを走る上で守るべき項目が書かれた看板。これが道路脇にある photo:Makoto Ayano
このマップに沿って走るのだが、経験あるMTBライダーが最も楽しめそうなのは、これまで『トロッコ道』と呼ばれてきた『ディープフォレストクリーク』だ。

『乗鞍ヒルクライム』でお馴染みの上りをコツコツと上り、ゆるりと20分ほど走ったところにある看板から、オフロードのトレイルが始まる。小手調べのグラベルを走ってシングルトラックに入る。

ヒルクライムコースをMTBで20分ほど上ると左にあるBセクション入口ヒルクライムコースをMTBで20分ほど上ると左にあるBセクション入口 photo:Makoto Ayano広めのグラベルとはいえ、路面に荒れたところもあるので注意は必要広めのグラベルとはいえ、路面に荒れたところもあるので注意は必要 photo:Makoto Ayano

メインライン『Bセクション』の走り心地

途中にはこんなアドベンチャーなセクションもある。重いE-MTBなら仲間と協力して途中にはこんなアドベンチャーなセクションもある。重いE-MTBなら仲間と協力して photo:Makoto Ayano
シングルトラック内では左右コーナーの振りと岩を抜けるライン選びが楽しいセクションが繰り返す。標高は1,600m近くあるので。植生がいつもの山とはなかなか違う。岩に苔むしたトレイルが続いていたり、白樺の林があったり、乗鞍高原ならでは景色が見られる。

川を横に見ながら、ときに越える。路面はロックセクションも含むワイルドなものに見えるが、走行ラインはよく整備されている(そのための協力金だ)。スポーツバイクに乗り慣れているならスピードを出しすぎなければ走りやすいだろう。

岩の上に苔むしたセクション。カナダ・ウィスラー周辺を思い起こさせるトレイルだ岩の上に苔むしたセクション。カナダ・ウィスラー周辺を思い起こさせるトレイルだ photo:Makoto Ayano
突然スコーンと現れる開けた草原。この開放感がたまらない突然スコーンと現れる開けた草原。この開放感がたまらない photo:Makoto Ayano
シングルトラックで左右コーナーを楽しんだ先には草原が待つ。時期を選べば乗鞍岳の美しい景色を見られる。流れるように走る、いわゆる『フロウ』する感覚のあるトレイルで、時期それぞれの乗鞍岳の美しさ楽しめるのもこのオープントレイルの魅力だ。

ここは自然のトレイルだ、看板を見落とすな

ハイカーとの共存区間。漢字も日本語も読めない人でも、これならユニバーサルハイカーとの共存区間。漢字も日本語も読めない人でも、これならユニバーサル photo:Makoto Ayano
ルートには要所に看板がある。看板に書かれた『このトレイルは、マウンテンバイクも走行します』という一文が心強い。この15.4kmのトレイル群にはMTB専用区間もあってパークのようにも走れる部分もある音だが、『歩行者優先』の共有区間も含まれる。

トレイル全体では歩行者優先区間が2.6km、MTB/歩行者共有区間が9.9km、MTB専用区間が2.5kmという区分になっている。トレイル内の看板にしっかり記載されているので、互いの安全のために、看板があったらしっかりと見ておくようにしたい。

共存区間でハイカーを見かけたら、積極的に降りて押そう。逆の立場を想像すればわかるだろう共存区間でハイカーを見かけたら、積極的に降りて押そう。逆の立場を想像すればわかるだろう photo:Makoto Ayano
マップを見れば、他にもいくつもコースがある。コースを外れさえしなければ迷うことはほとんどないだろう。むしろコースを外れてはいけない。無鉄砲な走りが安全を損なうのは、自然のトレイルでは当たり前のことだ。

さらに、受付のある「乗鞍BASE」の近くにはパンプトラックがある。波が大きく走りやすい、体全体でうねりに合わせるタイプのダイナミックなトラックだ。加速しスピードが乗ればジャンプも飛べる。斜めに入り斜めに抜ける、そんな3次元の動きが楽しめる、よくできたものだ。

自然のトレイルを走るなら忘れちゃいけない安全装備

高原ならではの、笹セクションもある。自然の知識があると景色だけでも楽しめる高原ならではの、笹セクションもある。自然の知識があると景色だけでも楽しめる photo:Makoto Ayano
NCMTは整備されたトレイル群とは言え、自然の中のトレイルだ。走りは基本的に自走、そして安全責任も自前である。ヘルメット、アイウェア、グローブといった基本装備はもちろんのこと、水、簡単な工具、スナックでいいから補給食、そして救急キット。万が一の転倒や草の切り傷に備え、長袖・長ズボンを着用し、肌の露出を極力抑えるのが賢い。

自転車保険に入るのは長野県の条例だし、今時の自転車乗りとしては当たり前の準備。またクマ鈴をつけるのもハイカーや自然動物に対する安全管理上のマナーである。クマ鈴にはいろいろあるが、値段の高いものほど軽やかな高い音色がする。高い周波数の方が遠くまで響くかららしい。

パンプトラックはパンプの波が大きめ、全身を使って加速しようパンプトラックはパンプの波が大きめ、全身を使って加速しよう photo:Makoto Ayano
とは言え、やはり安全を確かなものにしてくれる人と一緒に走りたい、という大人な方のために、先の『NORTHSTAR』がスクール&ガイドツアーを行っている。レンタルMTBもあり、ファミリーライドのアテンドもしてくれる。詳細はhttps://ridenorthstar.com/から確認して欲しい

初見より次が楽しい、できれば泊まって楽しもう

のりくら良いとこ一度は走ろう、自由に走れるんだからなおさら良いのりくら良いとこ一度は走ろう、自由に走れるんだからなおさら良い photo:Makoto Ayano
すべてのトレイルはその気になれば一日で走れる。ただ、先の『ディープフォレストクリーク』からの一連の流れは、ぜひおかわりして走って欲しい。トレイルは初見ではなく慣れた方が、絶対に走りやすく楽しいからだ。

日帰りではなく、できれば1泊で。あるいはワーケーションなりでの形で何日か滞在しながら、マウンテンとロードと共に楽しむ。日本初の国立公園内MTBトレイルであるNCMTは、そういったサイクリング・リゾートとして使っていきたい。

text: 中村浩一郎
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