4月17日(日)、いよいよフランス北部の石畳を舞台に第119回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が開催される。「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」の見どころをチェックしておこう。



選手とメカニックを悩ませる、農道の荒れた石畳選手とメカニックを悩ませる、農道の荒れた石畳 photo:CorVos
パリ〜ルーベ2022コースマップパリ〜ルーベ2022コースマップ (c)A.S.O.「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で実に第119回を迎えるパリ〜ルーベが本日、4月17日日曜日に開催される。2020年はコロナ禍によって中止、2021年は10月に延期開催されたため、4月開催は2019年以来3年ぶりだ。

パリ〜ルーベの特徴は何と言っても荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースレイアウトだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。

パリ北部のコンピエーニュをスタートする257.2kmのコースはオールフラット。平野部を縫うように蛇行しながらベルギー国境近くのルーベを目指す。フルフラットと言っても、レース前半には2〜3%ほどの細かいアップダウンが登場するため、獲得標高差は1,300mほどに達する。

レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。フィニッシュ地点ルーベに至るまでに登場するパヴェは合計30区間で、パヴェ区間の総延長は54.8km。最初の「No.30 トロワヴィル〜アンシー」を越えると、そこからフィニッシュまでのレース後半部の約3分の1がパヴェに覆われている計算になる。

パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。毎年補修が行われているものの、普段は巨大なトラクターが行き交う農道であり、石と石の間の土は風雨によって浸食されている。鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こすため、チームは総力を挙げて選手をサポートする。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ないだろう。

そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力、そしてパヴェをこなすための的確な空気圧セッティング。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。昨年は約20年ぶりに雨泥レースとなったものの、今年は快晴。ハイスピードのドライレースとなりそうだ。

毎年落車が頻発するセクター19「トルエー=ド=アランベール」毎年落車が頻発するセクター19「トルエー=ド=アランベール」 photo:CorVos
数あるセクターの中でも特に有名なのが、難易度5つ星の「No.19 アランベール」と「No.11 モンサン・ぺヴェル」、そして「No.4 カルフール・ド・ラルブル」の3区間だ。いずれも全長が2kmを超え、その路面の荒れ具合を見ると5つ星も納得だ。

「アランベールの森」を貫く直線的な「アランベール」の全長は2,400mで、その路面は荒れに荒れている。両脇が観戦用のフェンスで覆われているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。そしてここからレースは加速して行く。

難所の「モンサン・ぺヴェル」を越えるとフィニッシュまで残り約45km。ここからのラスト1時間は一つのミスが命取りになる。終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度の高い3区間(No.7 シソワン・ブルゲル、No.6 ブルゲル・ワヌエン、No.5 カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場する「カルフール・ド・ラルブル」だ。長さ2,100mのこの難所を越えると、フィニッシュまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、この5つ星セクターで勝負が決まる可能性が高い。

トレーニング中にパンクしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)トレーニング中にパンクしたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVosアンテルマルシェの空気圧は3.63BARアンテルマルシェの空気圧は3.63BAR photo:CorVos


そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。
登場するパヴェ30区間
区間 レース距離 区間 区間距離 難易度
30 96,3km Troisvilles to Inchy 2,2km ☆☆☆
29 102,8km Viesly to Quiévy 1,8km ☆☆☆
28 105,4km Quiévy to Saint-Python 3,7km ☆☆☆☆
27 110,1km Saint-Python 1,5km ☆☆
26 117,9km Saint-Martin-sur-Écaillon 2,3km ☆☆☆
25 123,7km Haussy 0,8km ☆☆
24 130,6km Saulzoir to Verchain-Maugré 1,2km ☆☆
23 134,9km Verchain-Maugré to Quérénaing 1,6km ☆☆☆
22 137,6km Quérénaing to Maing 2,5km ☆☆☆
21 140,7km Maing to Monchaux-sur-Ecaillon 1,6km ☆☆☆
20 153,7km Haveluy to Wallers 2,5km ☆☆☆☆
19 161,9km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2,3km ☆☆☆☆☆
18 167,9km Wallers to Hélesmes 1,6km ☆☆☆
17 174,7km Hornaing to Wandignies 3,7km ☆☆☆☆
16 182,2km Warlaing to Brillon 2,4km ☆☆☆
15 185,6km Tilloy to Sars-et-Rosières 2,4km ☆☆☆☆
14 192km Beuvry-la-Forêt to Orchies 1,4km ☆☆☆
13 197km Orchies 1,7km ☆☆☆
12 203,1km Auchy-lez-Orchies to Bersée 2,7km ☆☆☆☆
11 208,6km Mons-en-Pévèle(モンサン=ぺヴェル) 3km ☆☆☆☆☆
10 214,6km Mérignies to Avelin 0,7km ☆☆
9 218km Pont-Thibault to Ennevelin 1,4km ☆☆☆
8 223,4km Templeuve 0,2km ☆☆
8 23,9km Templeuve - Moulin-de-Vertain 0,5km ☆☆
7 230,3km Cysoing to Bourghelles 1,3km ☆☆☆
6 232,8km Bourghelles to Wannehain 1,1km ☆☆☆
5 237,3km Camphin-en-Pévèle 1,8km ☆☆☆☆
4 240km Carrefour de l'Arbre(カルフール=ド=ラルブル) 2,1km ☆☆☆☆☆
3 242,3km Gruson 1,1km ☆☆
2 249km Willems to Hem 1,4km ☆☆
1 255,8km Roubaix - Espace Charles Crupelandt 0,3km
ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) (c)CorVos
プロトンにおける最大の注目は、やはりマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)とワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)のライバル対決だろう。シクロクロスのジュニア世代から続く2人のライバル関係は、シクロクロスからロードに主戦場を移した現在に至るまで、プロトンのメインストーリーとして世間を賑わせてきた。

これまで数々のビッグレースで勝利を収めてきた両者だが、ことパリ〜ルーべに関しては互いに勝利がないどころか、昨年ファンデルプールがソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)とのスプリントに敗れた3位が最上位。ファンアールトは2021年の7位が最高位と巡り合わせが悪く、ここは何としても表彰台の頂点が欲しいところだ。

石畳の感触を確かめるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)石畳の感触を確かめるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
ただし今年、ファンアールトは2週間前にコロナ感染して以降の初レースと不安材料を抱えている。「自分自身どこまで走れるか、大きなクェスチョンマークを抱えたまま走ることになる。現時点で気分は良いけれど、実際レースとなれば話は別だ。この美しいレースを走れることが嬉しいけれど、僕にとってはかつてないほど難しいレースになるだろう」とファンアールト。クリストフ・ラポルト(フランス)のサポートに回るという話も聞こえるものの、これまで何度も驚きの走りを披露してきたベルギーチャンピオンだけに言葉を信じることはできかねる。

一方のファンデルプールは、前哨戦ドワーズドールとロンド・ファン・フラーンデレンを制した勢いそのままコンピエーニュのスタート地点に立つ。背中の膝の怪我でシーズンインが危ぶまれていたのも今は昔。「ここ数週間良い状態をキープできているよ。僕の目標は勝つこと。いつも通りに」と余裕を感じさせるコメントを残している。両者とも強力なアシストに恵まれているが、チーム力で言えば若干ユンボに分があるか。

ここ数戦チーム力を発揮しているイネオス・グレナディアーズここ数戦チーム力を発揮しているイネオス・グレナディアーズ photo:CorVos
ミラノ〜サンレモ覇者マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)ミラノ〜サンレモ覇者マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos今季クラシックレースで見せ場を作れていないクイックステップ・アルファヴィニル今季クラシックレースで見せ場を作れていないクイックステップ・アルファヴィニル photo:CorVos


設立以降長きにわたってグランツールチームと目されてきたものの、ここ近年クラシックレースの成績をメキメキと伸ばしているのがイネオス・グレナディアーズだ。特にここ1週間はチーム戦略を駆使してアムステルゴールドレースでミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)が制し、続くブラバンツペイルではマグナス・シェフィールド(アメリカ)が独走勝利。ルーベ初出場のトーマス・ピドコック(イギリス)や、ここ数戦でアシスト力を輝かせているベン・ターナー(イギリス)、さらにロンド2位のディラン・ファンバーレ(オランダ)、フィリッポ・ガンナ(イタリア)といったタレント選手が揃っている。

ロンドで表彰台に上がったヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ)ロンドで表彰台に上がったヴァランタン・マデュアス(フランス、グルパマFDJ) photo:CorVos
これまでパリ〜ルーベで度々存在感を見せつけてきたグルパマFDJは、今年波に乗っている。E3で3位、ロンド5位、アムステル8位とクラシック順応を果たしたシュテファン・キュング(スイス)と共にロンドで3位に食い込んだヴァランタン・マデュアス(フランス)が勝負に食い込んでくるはずだ。「フランドル後脚がまでフレッシュだったのでルーベのメンバー入りできるよう頼んだんだ。チームからは自由に動いていいと言われている」と25歳のマデュアスは言う。一方キュングも「マチューとワウトに他選手が注目する隙を突きたい」と鼻息は荒い。

今季「北クラシック」で1勝しかできていないクイックステップ・アルファヴィニルはこの窮地を脱せるか。マッズ・ピーダスン(デンマーク)ら強力メンバーを揃えるトレック・セガフレードは女子レース勝利の波に乗りたいところ。レーススケジュール変更によって予定外のキャリア初出場となった新城幸也はミラノ〜サンレモ覇者マテイ・モホリッチ(スロベニア)のアシストを務めることとなる。新城がヴェロドロームまで辿りつけば、別府史之(2011年)に続く日本人2人目のパリ〜ルーベフィニッシャーとなる。

パリ〜ルーベ初出場を果たす新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス)パリ〜ルーベ初出場を果たす新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
他にもグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、Ag2Rシトロエン)やニキ・テルプストラ(オランダ、トタルエネルジー)、マッテオ・トレンティン(イタリア、UAEチームエミレーツ)、イバン・ガルシア(スペイン、モビスター)といった有力どころが多数集結。単独逃げか数名の逃げ切りか、それとも小集団スプリントか。展開の読めない石畳決戦が間もなく始まる。

text:So Isobe

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