アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)と並んで、ツール・ド・フランスの未来のチャンピオンとして注目を集めるロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)。現在24歳の新鋭オールラウンダーは、過去2年間のツールで着実な進歩を遂げている。近い将来総合優勝を狙うクロイツィゲルの今年の目標は総合トップ5入りだ。

2004年のジュニア世界選手権ロードで優勝したロマン・クロイツィゲル(チェコ)2004年のジュニア世界選手権ロードで優勝したロマン・クロイツィゲル(チェコ) photo:Cor Vosクロイツィゲルがツールデビューを飾ったのは2008年のこと。山岳で苦しみながらも3週間を闘い抜き、総合優勝に輝いたカルロス・サストレ(スペイン)から12分59秒遅れの総合12位でレースを終えた。

翌年、つまり昨年のツールに、クロイツィゲルは総合トップ10入りを狙って出場。総合7位に入ったチームメイトのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)と協力し、総合9位という好成績を収めた。

ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos今年、アルベルト・コンタドール(スペイン)は例年以上に圧倒的な力でツールを制圧しそうな勢いだ。コンタドールは今シーズンすでに3つのステージレース(ヴォルタ・アン・アルガルヴェ、パリ〜ニース、ブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオン)で総合優勝。ツール3勝目に向けて準備は万端と言ったところ。

だがクロイツィゲルにはしっかりとした、明確なプランがある。

2009年のツール・ド・フランスでマイヨブランを着用したロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)2009年のツール・ド・フランスでマイヨブランを着用したロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos「昨年より良い調子でレースに挑むことが出来れば、総合ジャンプアップは可能だと思う。レースでは何が起こるか分からないとは言っても、総合9位から総合1位までジャンプアップするのは非現実的。今年ツールで総合優勝出来るとは思っていない。総合5位前後が現実的なラインだと思う」。その口調には確固とした自信が感じられる。現在クロイツィゲルは北イタリアのガルダ湖の畔、バルドリーノに居を構えている。

昨年のツールで、クロイツィゲルはブラドレー・ウィギンズ(イギリス)に次いで総合5位に入るポテンシャルは充分にあっただろう。しかし第1週の山場であるアルカリス頂上ゴールを前に、胃腸のトラブルで体調ダウン。苦しんでピレネーを終えたクロイツィゲルは、アルプスまでの移行ステージで復調を目指した。そう、ちょうど世間の注目がコンタドールとランス・アームストロング(アメリカ)の覇権争いに注目しているその間に。

コンタドールはアルプス初日のヴェルビエ頂上ゴールで早速猛威を振るい、シュレクとニーバリの前でステージ優勝を飾る。まだ体調が完全に戻っていなかったクロイツィゲルは、何とかタイムロスを2分に抑えてゴール。その後もクロイツィゲルは徐々に体調を戻し、最後の難関山岳であるモンヴァントゥーで総合12位から総合9位までジャンプアップすることに成功した。

「総合トップ10入りを狙って、結果は総合9位。その結果には満足しなければいけない。いつでも浮き足立たず、現実的に自分の可能性を見極めるのがプロ選手の仕事。とにかくピレネーとアルプスではずっと苦しんでいた。モンヴァントゥーで何とかいつもの走りが戻って来たんだ。その証拠として、モンヴァントゥーの一週間後に行なわれたクラシカ・サンセバスティアンで2位に入った」。

今年、クロイツィゲルは総合トップ5入りに向けて着々と準備を進めている。彼はシーズン序盤のジロ・ディ・サルデーニャで総合優勝を果たし、パリ〜ニースでは総合4位。ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)に1秒届かず表彰台を逃したが、新人賞ジャージを手中に収めた。クロイツィゲルにとってパリ〜ニースは思い出深いレース。3年前のプロローグで、クロイツィゲルはデーヴィット・ミラー(イギリス)に次いで2位に入り、一躍その名を世界に知らしめた。

しかし、ツールでクロイツィゲルがチームリーダーになるとは限らない。過去に2度ツールで表彰台に上り、ジロ・デ・イタリアで総合優勝したばかりのイヴァン・バッソ(イタリア)とクロイツィゲルでダブルエースを組む予定だ。

「強靭なチーム力を誇るリクイガスは、他チームの脅威になると思う。チーム力で対抗出来るのはアームストロング、ライプハイマー、クレーデン、ホーナーのいるレディオシャック、そしてシュレク兄弟のいるサクソバンクぐらい。巷ではダブルエース体制に批判があるようだけど、イヴァンと同チームで走るのは歓迎すべきこと。彼から学ぶことは本当に多いんだ。ツアー・オブ・カリフォルニアではアシストとして僕のために走ってくれたし、ステージレースのノウハウを教えてくれた。チーム内の力配分は何も問題ない」。

ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos今月25歳になったばかりのアンディ・シュレク、24歳のロバート・ヘーシンク、そして25歳のヴィンチェンツォ・ニーバリとともに、次世代のグランツールレーサーとして注目を集めるクロイツィゲル。その言葉には芯が有り、力強さを覚える。何しろ彼のイタリア語は完璧だ。

ニーバリとクロイツィゲルは2006年に揃ってリクイガス入りを果たした。2008年には2人揃ってツール・ド・フランスに初出場。当時の成績はニーバリが総合9位、クロイツィゲル総合12位。昨年はニーバリが総合7位、クロイツィゲルが総合9位だった。

タイムトライアルを得意とするロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)タイムトライアルを得意とするロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vosこれまでの成績を見る限り、少しニーバリに水を開けられている感のあるクロイツィゲル。しかし今年のジロ・デ・イタリアで総合3位に入ったニーバリはツールを欠場する予定だ。

「仮に今年のツールにニーバリが出場しても、彼が狙えるのは総合5位までだと思う。彼のモーター(出力)はツールで総合を狙うには小さすぎる」。クロイツィゲルはシチリア生まれのチームメイトをそう分析する。

ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos「ツールの総合成績が5位止まりだとしても、彼にはクラシックレースで勝てる能力がある。近い将来ツールの総合表彰台に上る可能性があるのは、シュレク、ヘーシンク、そして僕の3人。まあ、少し年上のコンタドールはまだまだトップに君臨し続けるだろうけど」。

クロイツィゲルがシュレクの存在を初めて知ったのはジュニア時代のこと。当時クロイツィゲルはイタリアでのレース活動を望んでいたが、年齢の規定によってその望みは叶わず。代わりにスイスとオーストリアを拠点にレースを走り、そこでドイツ語を習得するとともにシュレクと出会った。

今年ジロ・ディ・サルデーニャで総合優勝を飾ったロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)今年ジロ・ディ・サルデーニャで総合優勝を飾ったロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス) photo:Cor Vos現在クロイツィゲルはチェコ語、イタリア語、そしてドイツ語を流暢に話す。今でもシュレクとはドイツ語で話す仲で、2人のどちらかが勝った時はSMSメッセージを送り合うのだそうだ。

「シュレクに関する最初の記憶は、確かお互いに13歳か14歳の時に出場したレース。オーストリアで行なわれた山岳タイムトライアルで、彼に30秒差で負けたんだ。今とは全然シチュエーションが違う。毎日一緒に2kgのパスタを食べ、2時間のレースで競り合っていた。懐かしい思い出だ」。

「当時は僕が勝つことの方が多かった。でもプロ入り後は彼が目立つようになる。彼はすでにリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで勝っているし、ツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアでも総合2位に入っている。僕はクラシックレースでの勝利どころかグランツールで表彰台も上ったことが無いのに」。

逆に短いステージレースではクロイツィゲルに分が有る。クロイツィゲルは2008年のツール・ド・スイスで総合優勝。同大会でシュレクは総合6位だった。2007年のパリ〜ニースを除いて、クロイツィゲルが好成績を収めている。タイムトライアルはクロイツィゲル、難易度の高い山岳はシュレクと言う具合だ。

「これからも彼とはずっと良いライバル関係であり続けると思う。ランス・アームストロングがレースを支配していた時代は、万年2位のヤン・ウルリッヒだけがライバルと呼べる存在だった。今はそんな巨頭体制ではない。もっとエキサイティングなレースが待っている。近い将来、シュレクとはマイヨジョーヌを懸けた接戦を繰り広げることになると思う」。

シュレクは2007年のジロ・デ・イタリアで新人賞に輝くと、ツール・ド・フランスでも2008年から2年連続で同賞を受賞。シュレクにとって今年のツールは新人賞対象の最後のレース。3年連続マイヨブラン(新人賞ジャージ)獲得が期待されるが、そこに立ちはだかるのがクロイツィゲルだ。

「気持ちはマイヨブランまっしぐら。シュレクもヘーシンクも総合上位を狙ってくるだろうから、ハイレベルな闘いになるだろうね」。今年はマイヨジョーヌ争いだけでなく、マイヨブラン争いの行方にも注目したい。

text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji