アンダルシアでの休息日を経てブエルタ・ア・エスパーニャは北上。後半にかけてカンタブリアやアストゥリアスの難関山岳が連続し、定番コバドンガや初登場の激坂ガモニテイルを経てレースはガリシアへ。聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラでの個人TTで締めくくられる大会後半のステージを紹介します。



8月24日(火)第10ステージ → コースマップ
ロケタス・デ・マル〜リンコン・デ・ラ・ビクトリア 190.3km


8月24日(火)第10ステージ ロケタス・デ・マル〜リンコン・デ・ラ・ビクトリア 190.3km8月24日(火)第10ステージ ロケタス・デ・マル〜リンコン・デ・ラ・ビクトリア 190.3km image:Unipublicバカンスシーズン終盤のコスタ・デル・ソルをブエルタが走る。アンダルシア州の海岸線をロケタス・デ・マルからリンコン・デ・ラ・ビクトリアまで一直線に西へ。189kmコースの大半は平坦だが、残り40kmを切ってからコースは内陸へ。ボーナスタイム(3秒、2秒、1秒)が設定された2級山岳プエルト・デ・アルマチャル(全長10.9km・平均4.9%)が残り16km地点に置かれた。

白壁が美しいアルマチャルの街を横目に進む標高612mの2級山岳プエルト・デ・アルマチャルは、頂上手前5kmの平均勾配が8.3%で、とてもピュアスプリンターが集団内でクリアできる難易度ではない。下り区間での挽回も難しいため、スプリンターチームは最初からステージ優勝争いに興味を示さないかもしれない。

そうなれば逃げ屋の出番。すでに総合で遅れている選手を中心に逃げが形成されると思われるが、総合ジャンプアップを狙う選手たちが逃げに忍び込むことも考えられる。いずれにしてもスタート直後から始まるアタック合戦は激しいものになりそうだ。



8月25日(水)第11ステージ → コースマップ
アンテケラ〜バルデペーニャス・デ・ハエン 133.6km


8月25日(水)第11ステージ アンテケラ〜バルデペーニャス・デ・ハエン 133.6km8月25日(水)第11ステージ アンテケラ〜バルデペーニャス・デ・ハエン 133.6km image:Unipublic第11ステージは全長133.6kmという今大会の最短コース(個人タイムトライアルを除く)。定番のバルデペーニャス・デ・ハエン激坂フィニッシュが登場する。

スタート地点アンテケラから内陸の山岳地帯を進み、カテゴリーのついていない山岳をいくつもこなしながら徐々に標高を上げていく(獲得標高差は2,550m)。残り8km地点に設置された2級山岳プエルト・デ・ロクビン(全長8.8km・平均5%)で人数を減らした集団が激坂に挑むことになる。

バルデペーニャス・デ・ハエン激坂フィニッシュは2010年第4ステージ2011年第5ステージ2013年第9ステージに登場しており、いずれもスペインの軽量クライマーが優勝している。残り1kmを切ってから白壁の旧市街を貫く激坂がスタート。最大勾配20%のカテゴリーのつかないこの登りで大きなリードを奪うのは難しいが、思わぬタイムを失う選手が出てくるかもしれない。



8月26日(木)第12ステージ → コースマップ
ハエン〜コルドバ 175km


8月26日(木)第12ステージ ハエン〜コルドバ 175km8月26日(木)第12ステージ ハエン〜コルドバ 175km image:Unipublicハエンから広大なオリーブオイル農園を横目にコルドバへ。その道中に大きな登りは設定されていないが、残り70km地点で一旦コルドバのフィニッシュラインを通過してから選手たちは2つの山岳に挑むことになる。

まずは3級山岳アルト・デ・サンヘロニモ(全長13km・平均3.3%)を駆け上がってフィニッシュラインに戻り、次に2級山岳アルト・デル・カトルセポルシエント(全長7.2km・平均5.6%)にアタック。「カトルセ・ポルシエント=14%」という名前の通り、頂上手前1.5kmから延々と14%の勾配が続く激坂であり、ここで総合上位陣によるアタック合戦が勃発することも考えられる。

主催者は「再びの集団スプリントが予想される」と説明しているが、スプリンターたちがこの「14%」をクリアできるのかは疑わしい。逃げ切りが決まる可能性も高く、仮にスプリントに持ち込まれる場合でも精鋭たちによる小集団内の勝負になるだろう。



8月27日(金)第13ステージ → コースマップ
ベルメス〜ビリャヌエバ・デ・ラ・セレナ 203.7km


8月27日(金)第13ステージ ベルメス〜ビリャヌエバ・デ・ラ・セレナ 203.7km8月27日(金)第13ステージ ベルメス〜ビリャヌエバ・デ・ラ・セレナ 203.7km image:Unipublic今度こそ「再びの集団スプリントが予想される」ステージ。ベルメスからビリャヌエバ・デ・ラ・セレナまで北上するステージの全長は今大会最長となる203.7km。その距離の長さに反して獲得標高差は1,417mしかなく、しかも後半にかけてフルフラットなレイアウトのため、ピュアスプリンターにチャンスが回ってくる。

翌日のスタート地点であるドン・ベニトでスプリントポイント(残り11km地点)を争ってから、その17分後にはステージ優勝を決める集団スプリントが繰り広げられる。スプリンターにはポイント量産のチャンスだが、あまりにも2つのスプリントの距離が近いため、ステージ優勝に集中する選手とそうでない選手に二分されるだろう。

残り1kmアーチを通過後、残り500mでラウンドアバウトをクリア。勾配2%弱の最終ストレートで5時間におよぶ長旅は締めくくられる。



8月28日(土)第14ステージ → コースマップ
ドン・ベニト〜ピコ・ビリュエルカス 165.7km


8月28日(土)第14ステージ ドン・ベニト〜ピコ・ビリュエルカス 165.7km8月28日(土)第14ステージ ドン・ベニト〜ピコ・ビリュエルカス 165.7km image:Unipublic大会2週目を締めくくる2連続山岳ステージ。まず土曜日の第14ステージはエストレマドゥーラ州のトレド山地に挑む。注目は西側と東側から1回ずつ登坂する標高1,415mのコリャド・デ・バリェステロスだ。

ステージ中盤に登場する1級山岳コリャド・デ・バリェステロス(全長2.8km・平均14%)はコンクリート路面の激坂で、最大勾配は20%に達する。延々と14%前後の勾配が続くこの激坂でメイン集団は崩壊するだろう。そこからスプリントポイントを含む周回コースを走って今度は東側から登坂。標高1,415mの峠部分ではなく標高1,580mの山頂を目指す1級山岳ピコ・ビリュエルカス(全長14.5km・平均6.2%)でステージ優勝者が決まる。

最初の西側からの登坂よりも勾配のインパクトは小さいが、それでも頂上手前で最大勾配が15%に達するなど破壊力は抜群。絶景を楽しめる山としてサイクリストやハイカーに人気のピコ・ビリュエルカスで総合争いが動く。



8月29日(日)第15ステージ → コースマップ
ナバルモラル・デ・ラ・マタ〜エル・バラコ 197.5km


8月29日(日)第15ステージ ナバルモラル・デ・ラ・マタ〜エル・バラコ 197.5km8月29日(日)第15ステージ ナバルモラル・デ・ラ・マタ〜エル・バラコ 197.5km image:Unipublic大会2回目の休息日を前にした第15ステージには、グレドス山脈の4つの峠道を繋いだ197.5kmコースが用意された。スタートから約50km続く平坦区間を終えると、あとはフィニッシュまで登りと下りしかない。

まずは1級山岳アルト・デ・ラ・センテネーラ(全長15.1km・平均5.5%)と2級山岳プエルト・デ・ペドロベルナルド(全長9km・平均4.2%)で最初のセレクションがかかる。そして、この地域のどの峠もそうであるように、木々がなく岩が露出した1級山岳プエルト・デ・ミハレス(全長20.4km・平均5.4%)が登場。登坂時間が50分を超えるこの日最大の難所を越えてもまだフィニッシュは38kmも先。最後にボーナスタイム(3秒、2秒、1秒)付きの3級山岳プエルト・サンフアン・デ・ナバ(全長8.6km・平均3.8%)を素早く駆け上がってから短い下り区間を経てフィニッシュに至る。

首都マドリードから近いため、獲得標高差3,640mのコース沿道には多くの観客が詰めかけるはず。なお、第15ステージを終えた選手たちには、最後の休息地サンタンデールまで400km移動が待っている。



8月30日(月)休息日



8月31日(火)第16ステージ → コースマップ
ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km


8月31日(火)第16ステージ ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km8月31日(火)第16ステージ ラレド〜サンタ・クルス・デ・ベサナ 180km image:Unipublic一気に大西洋まで北上したブエルタは、カンタブリア州で最終週をスタートさせる。イベリア半島の北端を走る第16ステージは平坦基調。中盤にかけて3級山岳アルト・デ・ヒハス(全長4.2km・平均6.5%)を通過し、獲得標高差は2,090mに達するが、ここまでブエルタの山岳をこなせているスプリンターにとって問題はない。

最後はサンタンデール近郊のサンタ・クルス・デ・ベサナにフィニッシュ。ラスト2kmからフィニッシュまでは完全にフラットだが、コーナーが連続するため単純なスプリントとは言えない。

この頃にはマイヨプントスの持ち主がはっきりしているだろう。翌日からスプリントポイントはスプリンターの手の届かないところに設置され、しかも最終日はマドリードの集団スプリントではないため、スプリンターにとってはこの日が実質的にポイント獲得のラストチャンス。やはりどれだけポイント配分を変更しても、山岳の比重が高いブエルタのポイント賞は総合系ライダーに味方するかもしれない。



9月1日(水)第17ステージ → コースマップ
ウンケラ〜ラゴス・デ・コバドンガ 185.8km


9月1日(水)第17ステージ ウンケラ〜ラゴス・デ・コバドンガ 185.8km9月1日(水)第17ステージ ウンケラ〜ラゴス・デ・コバドンガ 185.8km image:Unipublic2021年ブエルタのクイーンステージ(最難関ステージ)はこの第17ステージか第18ステージ、もしくはその両方だ。選手たちはカンタブリア山脈のアストゥリアス連峰に挑む。

まず3級山岳を越えて山間部に足を踏み入れると、1級山岳ラ・コリャダ・リョメナ(全長7.6km・平均9.3%)が姿を現す。ブエルタ初登場で、中盤にかけて11%オーバーの急勾配がずっと続くこの1級山岳をクリアすると、ぐるっと回ってもう一回登り返し。この1級山岳ラ・コリャダ・リョメナのダブル登坂がプロトンに大きなダメージを与えるだろう。

そして最後は超級山岳ラゴス・デ・コバドンガ(全長12.5km・平均6.9%)の山頂フィニッシュだ。いつも霧に包まれた標高1,085mのラゴス(湖)が点在する高地に向かう道はとにかく険しい。残り7km地点から始まる急勾配区間(最大勾配20%)を越えると残り3.5km地点で一旦ダウンヒル。そこから登り返して、残り1.5kmから再び下り、そして残り300mから再び登り。このリズムを掴みにくい超級山岳は勾配5%ほどの最終ストレートで締めくくられる。

1983年の初登場以降、超級山岳ラゴス・デ・コバドンガはブエルタに合計21回登場してきた。近年はほぼ2年に1回の頻度で登場しており、2016年はナイロ・キンタナ(コロンビア)が、2018年はティボー・ピノ(フランス)がステージ優勝を飾っている。



9月2日(木)第18ステージ → コースマップ
サラス〜アルトゥ・デル・ガモニテイル 162.6km


9月2日(木)第18ステージ サラス〜アルトゥ・デル・ガモニテイル 162.6km9月2日(木)第18ステージ サラス〜アルトゥ・デル・ガモニテイル 162.6km image:Unipublicブエルタ定番の超級山岳を終えた次の日は、ブエルタ初登場の超級山岳の山頂フィニッシュ。舞台は引き続きアストゥリアス州で、カテゴリー1級、1級、2級、そして超級という前日よりも1,000m増しの獲得標高4,516mのたっぷりとした登りが用意された。

前半から連続する1級山岳プエルトゥ・デ・サンリャウリエンス(全長9.9km・平均8.6%)と1級山岳アルトゥ・デ・コベルトリア(全長7.9km・平均8.6%)はいずれも平気で10〜13%の急勾配が連発する難所。そこから名峰アングリルの近く(残り30km地点で通過するラ・ベガの街が登り口)を通過し、ボーナスタイム付き2級山岳アルトゥ・ラ・セガを経て、この日の、そして今大会のメインディッシュに至る。

初登場の超級山岳アルトゥ・デル・ガモニテイル(全長14.6km・平均9.8%)は今大会最難関峠であると言っていい。アングリル(全長12.4km・平均9.9%)に負けるとも劣らないスペックで、残り6km付近の緩斜面区間を除いてずっと11%前後の勾配が続く。容赦無く選手たちを痛めつけた後、残り1kmの平均勾配は12.3%で最大勾配は17%に達する。

残り5km地点から先は何も遮るもののない荒凉とした山岳風景。アンテナ塔が立った標高1,770mの頂を目指す荒れた山道で全てがひっくり返る可能性だってある。



9月3日(金)第19ステージ → コースマップ
タピア〜モンフォルテ・デ・レモス 191.2km


9月3日(金)第19ステージ タピア〜モンフォルテ・デ・レモス 191.2km9月3日(金)第19ステージ タピア〜モンフォルテ・デ・レモス 191.2km image:Unipublic2連続超級山岳決戦を終えた選手たちは終着地ガリシア州に向かう。まだステージ優勝を飾っていないチームの監督は、必ず逃げに乗るようにと朝のミーティングで選手たちを鼓舞するはず。第19ステージは逃げ向きのレイアウトが用意された。

ステージ前半から連続するカテゴリー山岳で形成された先頭グループがモンフォルテ・デ・レモスまで逃げ切るのが最も可能性の高いシナリオだ。コース的にも、タイミング的にも、チームのモチベーション的にも、3週間の中で最も逃げ切り向きのステージ。それだけにアタック合戦は熾烈になる。

もちろん3週目にかけてもなお好調なスプリンターがいる場合、そしてポイント賞争いがタイトな場合、スプリンターチームが状況をコントロールして集団スプリントに持ち込む可能性も排除できない。スプリンターにとっては正真正銘この日が最後のチャンスとなる。



9月4日(土)第20ステージ → コースマップ
サンシェンショ〜カストロ・デ・エルビリェ 202.2km


9月4日(土)第20ステージ サンシェンショ〜カストロ・デ・エルビリェ 202.2km9月4日(土)第20ステージ サンシェンショ〜カストロ・デ・エルビリェ 202.2km image:Unipublicリアス式海岸の語源となったリア(入り江)が多く、大西洋からやってくる海風によって霧や雲に覆われることの多いガリシア州を走る。後半に詰め込まれた5つのカテゴリー山岳はいずれも標高650m以下だが、常にアップダウンを繰り返すステージ全体の獲得標高差は3,450mもある。

カテゴリー3級、2級、1級、2級、2級と、登坂距離5〜10km程度の山岳が連続。主催者の「ミニ=リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ」という表現は的を射る。最も難易度が高いのは残り56km地点の1級山岳アルト・デ・モウガス(全長9.9km・平均6.3%)だが、やはりステージ優勝争いは最後の2級山岳アルト・カストロ・デ・エルビリェ(全長9.7km・平均4.8%)で決するだろう。残り6km付近には平均勾配11%・最大勾配16%の激坂区間も登場する。

再び逃げ切りが決まりやすいレイアウトであり、そしてここでマイヨモンターニャの最終的な持ち主も決まる。もちろん最終日の個人タイムトライアルを得意としない選手は少しでもタイムを奪うために動く。様々な思惑が交錯する最終ロードステージになりそうだ。



9月5日(日)第21ステージ → コースマップ
パドロン〜サンティアゴ・デ・コンポステーラ 33.8km(個人TT)


9月5日(日)第21ステージ パドロン〜サンティアゴ・デ・コンポステーラ 33.8km(個人TT)9月5日(日)第21ステージ パドロン〜サンティアゴ・デ・コンポステーラ 33.8km(個人TT) image:Unipublic個人タイムトライアルに始まり、個人タイムトライアルに終わる。最終日はマドリードでの集団スプリントではなく、巡礼の終着地サンティアゴ・デ・コンポステーラ。スペインでよく食されているシシトウガラシの一種ピメントス・デ・パドロンの産地パドロンから、獲得標高差634mというボリュームの登りをこなしながら33.8kmかけて聖地を目指す。

主催者が予想するステージ優勝者の平均スピードは50km/h強。2週間後に迫ったロード世界選手権エリート男子個人TTでアルカンシェルを狙うTTスペシャリストたちがステージ優勝争いを繰り広げることになるだろう。

この40分間の「時間との戦い」がステージ優勝者と総合優勝者を選び出す。フィニッシュラインが引かれているのはもちろん2014年大会と同様にサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の正面。そして総合優勝の栄冠を手にした選手が、大聖堂の前でマイヨロホを受け取る。

text:Kei Tsuji

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