超級山岳ジュ・プラーヌ峠を越えるドーフィネ最終日で、前日勝者マーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)が逃げ切り勝利。過去に総合2位を2度経験した36歳リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)が念願の総合優勝に輝いた。



アルプスの山岳地帯を走るメイン集団アルプスの山岳地帯を走るメイン集団 photo:CorVos
クリテリウム・デュ・ドーフィネ2021第8ステージ クリテリウム・デュ・ドーフィネ2021第8ステージ photo:A.S.O.8日間の大会を締めくくるクリテリウム・デュ・ドーフィネ第8ステージは、距離が147kmと短い中に6つのカテゴリー山岳が詰め込まれているタフなレイアウト。スタート直後の4級から、2級、2級、1級と立て続けに越え、最後は超級山岳ジュ・プラーヌ峠(距離11.7km/平均8.5%)にアタック。10kmに及ぶ下りをクリアしてノンカテゴリーのレ・ジェ(距離2.4km/平均4.6%)にフィニッシュする。

この日も激しいアタック合戦の末、ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)やケニー・エリッソンド(フランス、トレック・セガフレード)、ピエール・ロラン(フランス、B&Bホテルズ KTM)など強力な19人の逃げグループが形成される。この中に入った前日勝者マーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)は、メイン集団に残る山岳賞トップのローソン・クラドック(アメリカ、EFエデュケーション・NIPPO)とのポイント差を詰めていった。

プロトンはリーダージャージのイネオス・グレナディアーズが、最大5分差まで広げた逃げ集団とのタイム差を徐々に縮めながら牽引。序盤から積極的に動き役割を果たした中根英登 (EFエデュケーションNIPPO)が残り78km地点でレースを終えると、超級山岳ジュ・プラーヌ峠から逃げとメイン集団の両方でアタック合戦が始まった。

19名によって形成された逃げグループ19名によって形成された逃げグループ photo:CorVos
牛と並走するメイン集団牛と並走するメイン集団 photo:CorVos
超級山岳でアタックするナイロ・キンタナ(コロンビア、チーム アルケア・サムシック)とベン・ヘルマンス(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション)超級山岳でアタックするナイロ・キンタナ(コロンビア、チーム アルケア・サムシック)とベン・ヘルマンス(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション) photo:CorVos
全長11.7kmの登坂が始まると、ともに先行集団から飛び出したマルタンとパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)からパデュンが1人ペースを上げ、昨日の調子をそのままに重たいギヤで後方との差を広げ始める。パデュンはそのままメイン集団に3分18秒の差をつけ超級山岳の頂上を通過し、15ポイントを加算し山岳賞ジャージを確定させた。

モビスターとイネオス・グレナディアーズが先頭に人数を揃えるプロトンでは、ベン・ヘルマンス(ベルギー、イスラエル・スタートアップネイション)や、今大会では精彩を欠くナイロ・キンタナ(コロンビア、チーム アルケア・サムシック)、ステフェン・クライスヴァイク(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)が次々に飛び出すものの早々に吸収。連日献身的な動き見せているテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)の引きに代わると、38秒遅れの総合6位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター)によるアタックもペース走法で捉え、ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)に先頭を託しながらメイン集団も山頂を越えた。

頂上直前に飛び出したジャック・ヘイグ(オーストラリア、バーレーン・ヴィクトリアス)に、10kmの下りでブリッジをかけたトーマスがコーナーで落車する。それにより周りにチームメイトのいなくなったリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)は孤軍奮闘。1分差以内の総合上位勢に囲まれる展開のなか、38秒遅れのヨン・イサギレ(スペイン、アスタナ・プレミアテック)や33秒遅れのウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)によるアタックに、ポート自ら反応しなければならない窮地に立たされる。

逃げ集団から追走するヨナス・ヴィンゲゴー(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)とパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)に約1分30秒差でパデュンが残り1kmアーチを切ると、そのまま昨日のクイーンステージに続き超級山岳の難関ステージで2日連続の勝利を挙げた。「夢の中にいるようだ。昨日の勝利でも信じられなかったのに。今朝、あまりの幸福感が大きすぎて目が覚めたぐらいだ。でも今日は昨日のことを忘れ集中しようと思った」と語り、パデュンは山岳賞も獲得している。

その2分後方のメイン集団では、アタックの連続で脚を使った選手たちによるお見合いでペースが緩むと、残り4kmでトーマスが懸命の追走で合流する。そして9人の集団はトーマスが先頭でフィニッシュラインにし、ポートが初となる総合優勝を決めた。

重たいギヤでペースを刻むマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)重たいギヤでペースを刻むマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
ジロとツールの総合優勝者のアシストを受けるリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)ジロとツールの総合優勝者のアシストを受けるリッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
昨日に続きトップでフィニッシュ山頂にやってきたマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)昨日に続きトップでフィニッシュ山頂にやってきたマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
「今日は逃げに乗り、最後の登りまで前に残っていればジャック(ヘイグ)のアシストをしようと思っていた。その後チームカーから山岳賞ジャージを狙えると聞き、それも手に入れることができた。最終山岳では2分のリードがあったので、もしかしたらいけるのではないかと思った。今日は何もかもが思い通りに進み、信じられない気持ちだよ」とパデュンは昨日に続くサプライズを喜んだ。

2013年、2017年と逃した総合優勝はポートの手に。「ここでは総合2位に2度なっており、(2017年は)残り数kmで失っていた。ついに優勝することができ天にも昇る心地だよ。妻や2人の子どもと離れるという犠牲に見合った結果だ」と語り、「ツールでの自分の役割について勘違いはしない。このレースで勝つ意味は非常に大きく、常に楽しんで走ってきたレースだ。36歳にして勝てたことは最高の瞬間だ」と、6月26日に開幕するツール・ド・フランスに向けて意気込みを語った。

ポイント賞は第3ステージで勝利し、3度の2位に入った好調ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)がキープに成功。ヤングライダー賞には先月のトレーニング中に事故に見舞われた総合9位のダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)が獲得した。

総合2位アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック)、総合1位リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)、総合3位ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)総合2位アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック)、総合1位リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)、総合3位ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
山岳賞も獲得したマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)山岳賞も獲得したマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
クリテリウム・デュ・ドーフィネ2021第8ステージ結果
1位 マーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス) 4:06:49
2位 ヨナス・ヴィンゲゴー(オランダ、ユンボ・ヴィスマ) 1:36
3位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
4位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) 1:57
5位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) 2:10
6位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)
7位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック)
8位 リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ)
9位 ジャック・ヘイグ(オーストラリア、バーレーン・ヴィクトリアス)
10位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック)
DNF 中根英登 (EFエデュケーションNIPPO)
個人総合成績
1位 リッチー・ポート(オーストラリア、イネオス・グレナディアーズ) 29:37:05
2位 アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、アスタナ・プレミアテック) 0:17
3位 ゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 0:29
4位 ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、ボーラ・ハンスグローエ) 0:33
5位 ジャック・ヘイグ(オーストラリア、バーレーン・ヴィクトリアス) 0:34
6位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、モビスター) 0:38
7位 ヨン・イサギレ(スペイン、アスタナ・プレミアテック)
8位 ベン・オコーナー(オーストラリア、AG2Rシトロエン) 0:47
9位 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ) 1:12
10位 テイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) 1:57
その他の特別賞
山岳賞 マーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス)
ポイント賞 ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)
ヤングライダー賞 ダヴィド・ゴデュ(フランス、グルパマFDJ)
チーム総合成績 イネオス・グレナディアーズ
text:Sotaro Arakawa
photo:CorVos