スタートの出遅れをものともせず、最後尾から怒涛の追走劇を披露した今井美穂(CO2bicycle)が2度目のシクロクロス全日本チャンピオンに。自身も驚く走りで與那嶺恵理(OANDAJAPAN)が2位、そして復活した小林あか里(信州大学)が3位表彰台に登った。



女子エリートのスタート 松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN)がホールショット女子エリートのスタート 松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN)がホールショット photo:MakotoAYANO
泥を踏み抜くパワーとランニング能力、そして乗車/降車の判断力を問う飯山市長峰スポーツ公園の特設コース。前日の選手たちを苦しめた冷雨から一転、雲から姿を現した太陽と風によって粘着度を高めた泥がコース上を埋め尽くす厳しいコースが出来上がった。

1時間のオフィシャルトレーニングを挟み開催された女子エリート+U23の混走レースに出場したのは23名。ランキング上位選手たちが最前列から飛び出すなか、MTBクロスカントリーとのダブルタイトルを狙う今井美穂(CO2bicycle)が混乱に巻き込まれ、最後尾まで落ちるハプニングが発生する。前走者の後輪に接触したはずみで両ペダルを踏み外した今井が大きく失速を喫した。

今井美穂(CO2bicycle)が接触で両ペダルを踏み外し、最後尾までスローダウンする今井美穂(CO2bicycle)が接触で両ペダルを踏み外し、最後尾までスローダウンする photo:MakotoAYANO
バックストレートにトップで姿を表したのは小林あか里(信州大学)がバックストレートにトップで姿を表したのは小林あか里(信州大学)が photo:MakotoAYANO最後尾から猛然と追撃に入る今井美穂(CO2bicycle)。しかしトップは遠い最後尾から猛然と追撃に入る今井美穂(CO2bicycle)。しかしトップは遠い photo:MakotoAYANO


一方、レース先頭では小林あか里(信州大学)が、そしてこのレース限りで進学に伴う選手活動終了をアナウンスした前年度覇者の松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN)が、そして與那嶺恵理(OANDA JAPAN)がそれぞれ単独で泥コースを進む。

最後尾に落ちた今井だったが、国内オフロード界を席巻するそのフィジカルとテクニックは圧倒的だった。「諦めてはいけないし、選手の後ろについているとどんどん遅れてしまう。なので(前走者を)利用できるところは利用して、差をつけられるところで踏んで前を追いました」とハイペースを刻み、見る間にトップ5圏内への復帰に成功した。

キャンバーを下る與那嶺恵理(OANDA JAPAN)。苦手としたオフロードだが上達した走りを披露キャンバーを下る與那嶺恵理(OANDA JAPAN)。苦手としたオフロードだが上達した走りを披露 photo:MakotoAYANO
後続を引き離して独走する與那嶺恵理(OANDA JAPAN)後続を引き離して独走する與那嶺恵理(OANDA JAPAN) photo:MakotoAYANO引退を示唆した松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN)が声援を受けて走る引退を示唆した松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN)が声援を受けて走る photo:MakotoAYANO

諦めずに追走を続ける今井美穂(CO2bicycle)諦めずに追走を続ける今井美穂(CO2bicycle) photo:MakotoAYANO
レース先頭では松本や小林を抜き去った與那嶺が単独走に持ち込む。「ランニングの練習なんて全くやっていないし、前日試走の段階で私には絶対無理なコースだと思ったけれど、意外とランニングが遅くなくて自分でびっくりしてしまいました」と、自ら驚くペースで快走を続ける。2番手まで追い上げてきた今井との差は20〜25秒で固定され、むしろ長い舗装路ではリードを稼ぎ出す場面も。会場には大番狂わせの予感も漂った。

しかし3周目、ランニングが続く深く滑りやすい北側斜面で「冷静に走るよう言い聞かせた」と言う今井が一気にペースを上げ、階段区間で與那嶺をパス。「ここまで追い上げてきたんだから自分の方が速いだろうと思っていた」と言う今井が、瞬く間に與那嶺との差を広げにかかった。

先行した與那嶺恵理(OANDA JAPAN)を階段セクションで交わす今井美穂(CO2bicycle)先行した與那嶺恵理(OANDA JAPAN)を階段セクションで交わす今井美穂(CO2bicycle) photo:MakotoAYANO
U23ながら3位につける小林あか里(信州大学)U23ながら3位につける小林あか里(信州大学) photo:MakotoAYANO
激しい先頭争いの後方では、現在信州大学とUCIの育成組織に籍を置くU23の小林が3番手の座を築き、唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム)や松本がその後方。快調な出だしを見せたエリート初挑戦の石田唯(北桑田高校)もこれに続いた。

毎周回ピットでバイク交換を行いながら進む今井のペースは2番手與那嶺を大きく上回った。その差は5秒、10秒、と開いていき、最終周回終盤に入るとその差は20秒に到達。コース後半でもミスを出すことなく、危なげなく走りきった今井が噛みしめるようなガッツポーズでフィニッシュラインを切った。

感極まった様子でフィニッシュする今井美穂(CO2bicycle)感極まった様子でフィニッシュする今井美穂(CO2bicycle) photo:MakotoAYANO
「今日は勝つために、完璧なピットクルーを揃えて戦いました。自分は走るだけ。二人のピットクルーのおかげです」と、バイク交換必須の泥レースでのチームワークに感謝する今井。2017年に野辺山で掴んだ以来2度目のシクロクロス全日本タイトル獲得であり、MTBとの2度目のダブルタイトルも叶えることとなった。

2位の與那嶺恵理(OANDA JAPAN)が観客の声援に応えながらフィニッシュ2位の與那嶺恵理(OANDA JAPAN)が観客の声援に応えながらフィニッシュ photo:MakotoAYANO
全日本チャンピオンジャージを纏い登った表彰台で涙を見せた今井。その理由を「諦めちゃいけないと思っていたことと、自分のシクロクロス全日本選手権はこれが最後になると思っているから」と話した。「(MTBで代表内定している)オリンピックが終わったら選手活動は一区切りつけようかと思っていて、その色々な感情が湧き出ました」。

感極まった今井美穂(CO2bicycle)が大会ディレクターの小林輝紀氏に祝福される感極まった今井美穂(CO2bicycle)が大会ディレクターの小林輝紀氏に祝福される photo:MakotoAYANO
「オリンピック代表に選ばれたことで、自分自身どのレースでも意地を見せなければいけない、強くありたい、勝ってオリンピックに出たいという思い。国内では誰にも負けないという思いを持って走ってきました」と、その視線は2つのナショナルタイトルと共に挑むスポーツの祭典を見据えている。

2位には「正直不得意なコースコンディションでしたが、日本の皆さんの前で走るからにはどんなレースでも本気ですし、勝ちたいという思いで走りました。ただひたすらにキツかったですが、プロとして及第点はつけられるかなと思います」と言う、ロードレースで同じくオリンピック代表に選ばれている與那嶺。3位にはMTB世界選手権直前のワールドカップで倒れて以降2ヶ月レースから遠ざかっていた、そしてレースを走りたいがため夢にまで見たと言う小林がU23選手最上位として入った。

女子エリート表彰  優勝は今井美穂(CO2bicycle)女子エリート表彰 優勝は今井美穂(CO2bicycle) photo:MakotoAYANO
それぞれの思いを胸に秘め、女子エリートレース表彰台に登ったトップスリー。その興奮冷めやらぬうちに、男子エリートレースのスタートを告げる号砲が会場に鳴り響いた。
女子エリートレース結果
1位 今井美穂(CO2bicycle) 43:50
2位 與那嶺恵理(OANDAJAPAN) +0:22
3位 小林あか里(信州大学) +2:30
4位 唐見実世子(弱虫ペダルサイクリングチーム) +3:09
5位 松本璃奈(TEAM SCOTT JAPAN) +4:18
6位 石田唯(北桑田高校) +4:57
7位 西山みゆき(Toyo Frame Field Model) +5:13
8位 赤松綾(SimWorks Racing) +5:56
9位 鵜飼知春(and more) +6:59
10位 齋藤磨実(TEAM MASA+/BOMA) +7:15
text:So Isobe
photo:Makoto AYANO

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