トラックの東京五輪代表に内定している6選手が揃って出場した全日本選手権トラック。大会初日に代表選手がそれぞれ共同会見に応じた。ナショナルチーム短距離ヘッドコーチのブノワ・ベトゥ、中距離ヘッドコーチのクレイグ・グリフィンのコメントもあわせて紹介する。



脇本雄太「世界選手権以降、自分が一番で勝つという意識を表に出せるようになった」

脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato
純粋に、全日本を迎えられたことが嬉しいです。でもこの大会に合わせたと言うよりも、昨年の今頃はワールドカップが開幕した時期なのでそれに近い感覚ですね。僕らは調整もせずにワールドカップに臨むこともあるので、ちょうど2019年の11月に時間を巻き戻したイメージです。

2月の世界選手権のケイリンで銀メダルを取った脇本雄太(日本)2月の世界選手権のケイリンで銀メダルを取った脇本雄太(日本) (c)JCF世界選手権で銀メダルを獲ったところから、トップスピードを上げる練習とか、フォームの改善をしながら使う筋肉を鍛えるとか、細かいところを追求しています。トップスピードを上げつつ、自分の持ち味である持久力を発揮できるようになっていると思いますが、思ったところまでトップスピードがまだ伸びていないと感じています。その点は今後より追求していきたいと考えています。

世界選手権以降変わったと思うのは、常に自分が一番で勝つという意識を表に出せるようになったことです。リオ五輪後、強い気持ちを持つことだとコーチに強く言われてきて、今年になってより表に出せていると思います。

男子ケイリン決勝 先行して最終周回に入る脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)男子ケイリン決勝 先行して最終周回に入る脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato「負ける言い訳をつくってからレースに臨んでいるのではないか」と言われたこともあったので、その言い訳をせず、常に勝ちたいという意識を表に出しながら、いかに強気にレースを出来るかというのが課題でした。それが出来るようになり、成績にも繋がっていると思います。レースでは「逃げ」にこだわっていると言われますが、勝ちたい意識の先に「逃げ」がついてきていると思っています。

僕はレース中に一番強い選手だけを見てしまっているクセがりましたが、全体が見えるようになってきてレースで勝てるようになってきたと感じています。この気持ちを忘れないようにしたいですね。



新田祐大「怪我から復帰して、自分のやるべきことをしっかり理解出来ている」

新田祐大(ドリームシーカーレーシングチーム)新田祐大(ドリームシーカーレーシングチーム) photo:Satoru Kato
今回の全日本は、250mバンクで走る五輪やワールドカップとは違うところがあるので、応用力を学ぶ大会であり、日頃からトレーニングしてきた体力的な部分とかマインド的な部分とか、自分の成長を測る大会として考えています。ひとつのレースとして考えた時、普段の練習で感じる変化はなくても、レースで培ってきたことが発揮できれば、成長を結果として見られるのではないかと思っています。

ドリームシーカーレーシングチームのメンバーとして出場したチームスプリント では日本記録を更新ドリームシーカーレーシングチームのメンバーとして出場したチームスプリント では日本記録を更新 photo:Satoru Kato自分の中で足りないのは持久力であることは判っていたので、ここ数ヶ月はそれに取り組んでいます。持久力を高めるには限界を超えるトレーニングを続けることが必要で、昔言われていた「根性論」が必要になってきます。僕が取り組んでいるのはまさに根性の部分で、キャパシティを広げるという意味でやっていて、それが普通になった時に持久力がついてくると考えています。

最初ははっきり変わったという感覚は無かったけれど、後にタイムとかパワーの数値に現れてきたので、進化したという感覚が得られました。でも五輪までその練習を続けるわけではなく、その先に質を高めるトレーニングにチェンジしていく必要があると思っています。

実は五輪延期の発表があった翌日、山で練習中に大ケガをしてしまい、2週間ほど入院していました。このまま終わるのかとも思いましたが、時間をかけて復帰することが出来ました。僕自身意識はしていませんでしたが、気持ちが切れていたのかもしれません。

昨年の今頃は目標にしていた世界選手権に向けて突っ走っている状態で、その時はなんとなくうまくいってるという感覚がありました。このまま行けば五輪でメダル取れると思っていたし、ある意味舞い上がっていたのかなと。それが今は自分に対して「落ち着け」と思えるようになったし、目指すものは何なのかを考えながら日々を過ごせるようになりました。本業の競輪に対しても何を目指すのかが明確になっているし、自分のやるべきことをしっかり理解出来ている。それが1年前と違うところだと思います。



小林優香「自分の範囲に入ったら無敵というものを強化したい」

小林優香(ドリームシーカーレーシングチーム)小林優香(ドリームシーカーレーシングチーム) photo:Satoru Kato
全日本は競輪とは違う部分はあるが、レース感は似ていると思うし、緊張感を恋しく思っていたので、プラスになると思っています。東京五輪代表に選ばれたからこそ責任ある立場なので、勝ちたいという気持ちも強いが、自分の脚を痛めて勝てれば誇りを持つことが出来ると思うので、しっかりやりたいです。

女子ケイリン決勝 小林優香は惜しくも2位に終わった女子ケイリン決勝 小林優香は惜しくも2位に終わった photo:Satoru Kato五輪まで1年を切っていますが、まずは5月のアジア選手権に向けてしっかり取り組みたいです。「自分の範囲に入ったら無敵」というものを強化して、メンタルと言うよりは自分の得意範囲に相手を動かしてレースをするとか、自分が動いて得意範囲に持っていけるようにしたいです。

練習の中でレースを意識したものが無いので、タイムとかパワーデータを見てコーチと話しながら進めていこうと思います。スピードの強化と、長い距離を踏むことをもっと極めていきたいです。

私は常にライバル意識を持っていて、それが自分の成長に繋がっていると思っています。



ブノワ・ベトゥ短距離ヘッドコーチ「五輪がある前提で準備していかなければ良いトレーニングは出来ない」

ナショナルチーム短距離ヘッドコーチ ブノワ・ベトゥナショナルチーム短距離ヘッドコーチ ブノワ・ベトゥ photo:Satoru Kato
五輪が延期になり、選手達はモチベーションを取り戻すのに時間が必要だった。長い間レースが無い期間が続いたが、この期間は自分のレベルを向上させるために重要な期間だったと思う。

私自身も延期の発表があた時はモチベーションは下がった。でも今は誰もが経験していない状況に対して適応して準備していくことが求められる。今度の五輪は、それに一番適応した選手が強くなると思う。五輪があるか無いかは前日にわかれば良い。五輪がある前提で準備していかなければ良いトレーニングは出来ないと思っている。

男子1kmTT 大会新記録で優勝した新田祐大(ドリームシーカー・レーシングチーム)男子1kmTT 大会新記録で優勝した新田祐大(ドリームシーカー・レーシングチーム) photo:Satoru Kato脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)には競輪グランプリ優勝という今年最大の目標が控える脇本雄太(チームブリヂストンサイクリング)には競輪グランプリ優勝という今年最大の目標が控える photo:Satoru Kato

新田の1kmタイムトライアルは、もしこの大会が高地で行われていたら58秒台が出たのではないかと思う。1kmタイムトライアルに特化した練習をしてきたわけではないので、このタイムはもっと更新できると思う。

小林選手は残念ながら期待された成績は出せなかったが、つらい時期を乗り越えて今に至っていることを考えれば良かったと思うし、持っている武器を活用出来たと思う。今後、今以上のレベルにしていくことは可能だと思っている。

脇本のハロン(スプリント予選の200mフライングタイムトライアル)は良いタイムだった。でもスプリントでは過去と同じミスを犯してしまい、結果にはがっかりした。でもケイリンも含め、全体で見ればレベルは上がっていると思う。脇本にとってはグランプリ優勝が今年一番の目標だ。

レベルの高い若手選手も増えているので、それが五輪代表選手を強化してくれる環境になっていると感じているし、良い刺激になっていると思う。



橋本英也「競輪とロードレースがうまくシナジーを生んでパフォーマンスを上げていると思う」

橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato
 窪木一茂に続いて周回する橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) 窪木一茂に続いて周回する橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato窪木(一茂)さんは前回のリオ五輪の時からライバルで、リオの時は僕が選考されなくて悔しい思いをしました。最近は窪木さんが競輪学校なので、今回久々に一緒のレースを走りました。エリミネイションは窪木さんと2人の対決になって良い勝負が出来たと思います。

今年のトラックシーズンが先月のJBCF(=JBCF全日本トラックチャンピオンシップ)から始まって、調子の良さを感じています。その前にロードレースも走っていて、競輪とロードレースがうまくシナジーを生んで僕のパフォーマンスが出来上がっているんじゃないかと思っています。数値的に言うと、有酸素運動出力がトラックレースで速いペースの際に休める値として重要になるのですが、レースを重ねるごとに数値が向上していて、今回のエリミネイションで後ろについている時に休めていたので効果が出ていると実感しています。10月のJBCF全日本トラックチャンピオンシップを走った橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)10月のJBCF全日本トラックチャンピオンシップを走った橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato

コンディションはかなり仕上がっていると思います。もともとオリンピックは今年ですが、延期になって一度落ちて、そこから盛り直してきています。五輪に向けてどの段階かと言うと半分くらいまで来てると思います。世界で走ってないからわからないけれど、昨年の全日本よりも楽に展開できていると感じています。有酸素能力を上げた他に、トップスピードがあと少し必要と考えているので、競輪に出たり、モーターペーサーでのトレーニングで今後向上させていきたいです。

五輪代表なので勝って当たり前と見られるし、プレッシャーもあります。でもそれは自分の中ではワクワクしなくて、一戦一戦レースが出来ることを楽しみしにして、結果としてリザルトがついてくる。そう思うことで初日はうまく走れたので、今回の全日本は自分の中では普通のレースと考えて走るようにしています。



梶原悠未「エリミネイションの戦術研究は他の種目にも活かせる」

梶原悠未(筑波大学大学院)梶原悠未(筑波大学大学院) photo:Satoru Kato
五輪代表として6種目全てで優勝すること、トレーニングの成果を結果として見せること、東京五輪の後のパリ、さらにその後の五輪に向けて、それを目指すジュニアの選手に自分の姿を見せてトップレベルに引き上げたいという思いで今回の全日本に臨んでいます。

4月から大学院に進学しましたが、コロナ禍でずっとオンライン講義が続いているので、大学には行けていません。暗いニュースが続いているけれど、トレーンミングに集中出来たので充実していました。普段の練習は伊豆のベロドロームを使っていますが、五輪本番に走路に描かれるであろう五輪のマークや、満席になった観客席をイメージして練習しています。練習コースにしている山に神社があるのですが、そこで毎回「五輪で金メダルを取ります」と宣言して下って、また登ってと繰り返しています。

全日本選手権は梶原悠未のアルカンシェル初披露の場となった全日本選手権は梶原悠未のアルカンシェル初披露の場となった photo:Satoru Kato憧れていたアルカンシェルを身につけてレースを走れることはとても嬉しいことです。その自覚と覚悟を持って練習し、レースを走りたいと思っています。

戦術の研究と反省のためにレースの映像を見返していますが、大学の卒論でも書いたエリミネイションの戦術について、大学院でもより深く研究して修士論文にまとめる予定なので、そのために英語の論文を探して読んでいます。オムニアムで表彰台に上がる選手はエリミネイションで6位以内に入っているとか、エリミネイションのレース中は集団中ほどの、スプリンターレーンより少し上に位置取りしているというデータもあったので、今回はそれを意識してみました。

エリミネイションを研究すれば他の種目にも活かせることは多いと思うので、今後も研究と技術開発を続けていきたいです。



中村妃智「コロナ禍で自分の弱いところを再認識」

中村妃智(日本写真判定株式会社)中村妃智(日本写真判定株式会社) photo:Satoru Kato
久しぶりのレースで、マディソンは2月の世界選手権以来です。練習では250mバンクでスプリントのタイミング練習をしてきましたが、今回は1周の長さが違うので、レースを走ってみないとタイミングの掴み方とかわからない部分もありあす。でも今までの経験に自信をもって自分達のレースをしたいと思っています。

梶原悠未と組んでマディソンに出場した中村妃智梶原悠未と組んでマディソンに出場した中村妃智 photo:Satoru Katoパートナーの梶原は年下ですけれど、チームの中でも頼れる存在で、優しさが助かります。競技としては頼りない先輩ですけれど、昔から慕ってくれているかわいい後輩ですね。

お客さんの前で走る、人に見られているという緊張感はレース独特なものですね。マディソンはルールは難しいけれど、交代する瞬間とか、その時の加速とか、他の種目にない魅力があるので、詳しく知らなくても単純にその迫力を感じて楽しんでもらえればと思います。

コロナ禍で五輪が延期になり、その間は自分の弱いところの再認識になりました。最初は単独練習が多く、自分の現状とか競技について考えながら練習していました。きついなと思うと体が勝手に(力を)抜いてしまうクセがあるので、1人で走っていると「今踏みやめた」という瞬間がわかるようになりました。それを我慢して踏んでパワーを継続しなければいけないと思うことが多々ありましたね。1人で走って、例えば3時間全体のアベレージスピードとかパワー数値とか、きついラインでずっと踏んでいかねばならないところを指定して、それを自分の力だけで出さねばならない。集団でロード練習に行っていると、人の後ろで休めたり、きつくなるとちぎれたりしてしまうので、そこが自分の弱いところだと感じました。



クレイグ・グリフィン中距離ヘッドコーチ「梶原は今のままいけばメダルの可能性は高い」

ナショナルチーム中距離ヘッドコーチ クレイグ・グリフィンナショナルチーム中距離ヘッドコーチ クレイグ・グリフィン photo:Satoru Kato
こんなに長い間大会が無いことは初めてだし、選手にとっても初めての経験だったと思う。その間も選手は真面目にトレーニングしていたが、監督としては心配もあったし、選手は自分の立ち位置がわからないので不安があったと思う。

梶原と橋本の結果は全体的に良かったと思う。梶原は戦略の強化、橋本はフィジカルの強化が課題だったが、2人とも強化出来ていた。橋本はコロナのせいでロードトレーニングは最低限しか出来ていなかったが、ここ2、3週間はトレーニングを積んでフィジカル面が向上してきたと思う。梶原は戦略の基礎的技術が身についていることが今回のレースで感じられた。

フィジカルの強化が課題だったという橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)フィジカルの強化が課題だったという橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Satoru Kato全日本選手権では出場6種目全てで優勝した梶原悠未(筑波大学大学院)全日本選手権では出場6種目全てで優勝した梶原悠未(筑波大学大学院) photo:Satoru Kato

マディソンについては、今回は4チームしか走っていなかったので、スキルをつけるには足りなかった。世界大会ではもっとチーム数が多く、混沌とした中で交代する技術を求められる。今回は基礎的な技術は確認出来たが、同じことを18チームで走った時にも出来るかを見なければいけないと思う。

梶原は、今のままいけばメダルの可能性は高いと思う。橋本は今の状態ではまだまだだが、今後の強化により向上すればメダルの可能性が見えてくると思う。


text:Satoru Kato