3日間にわたって開催されたMTB全日本選手権を締めくくる最終レース。序盤からレースを掌握した山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)が自身12回目のチャンピオンに。その背中を見て成長する北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)はエリート選手を次々と抜き去り、全体の6番手で1周早くU23タイトル獲得を決めている。



最前列に並んだ山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)最前列に並んだ山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobeラストレースとなる中原義貴(WIAWIS RACING TEAM)ラストレースとなる中原義貴(WIAWIS RACING TEAM) photo:Makoto AYANO

男子エリートレースがスタート。沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)がダッシュを決めた男子エリートレースがスタート。沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)がダッシュを決めた photo:So Isobe
薄着で過ごせる程まで気温が上がり、背後の入笠山から吹き降ろす冷たい風によって湿り気が取り払われた富士見パノラマリゾートの特設コース。秋のうろこ雲が時々太陽を隠したが、MTB日本一を決めるにふさわしい、終始安定したコンディションの中男子エリートと男子U23混走による最終レースが行われた。

選りすぐられた52名のエリートレースでホールショットを奪い、先頭でゲレンデを駆け上がったのは、TEAM BRIDGESTONE Cyclingの一翼を担う沢田時だった。スタート前「(身体は)過去最高の仕上がりです」と自信を見せた沢田には、東京五輪での引退を発表、つまり最後の全日本選手権を走る山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)が、平林安里(TEAM SCOTT)が、そして前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)といった選手が数珠繋ぎに続いた。

沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)を引き連れて走る山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)を引き連れて走る山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
大岩のドロップオフを降る山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)大岩のドロップオフを降る山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
山本幸平を追走する平野星矢と沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)山本幸平を追走する平野星矢と沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO
1周目の半分も走らずして山本が先頭に立ち、沢田と共に先頭パックを作り上げる。「9月に予定していた海外遠征にピークを合わせていたのでどれだけ走れるか不安だった」と言う山本と、苦しげな表情を見せず淡々とついていく沢田。スタートで出遅れた平野星矢(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が3番手に浮上し、竹内遼(FUKAYA RACING)や、引退レースとして臨んだ中原義貴(WIAWIS RACING TEAM)が続く。前日試走で激しく転倒した前田は徐々にポジションを失い、その後静かにレースを降りている。

ラップタイム15分台を刻む合計5周回、合計22kmの男子エリートレースの先頭パックが崩れたのは2周目。「無理している感覚はありませんでしたが、2周目に入ってキツくなってしまった。2周目序盤の登りで徐々に離され、一度限界に達してしまった」と言う沢田が遅れ、淡々とペースを刻む山本が独走態勢を築き上げる。沢田には平野が追いつきペースメイクを行なった。

前日落車の傷を残し走る前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)はDNF前日落車の傷を残し走る前田公平(弱虫ペダルサイクリングチーム)はDNF photo:So Isobe現役最終レースを追い込んで走る中原義貴(WIAWIS RACING TEAM)現役最終レースを追い込んで走る中原義貴(WIAWIS RACING TEAM) photo:So Isobe

山本とほぼ同じペースを刻んだU23の北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)山本とほぼ同じペースを刻んだU23の北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
ドロップオフを飛ぶ竹内遼(FUKAYA RACING)ドロップオフを飛ぶ竹内遼(FUKAYA RACING) photo:So Isobeメカトラで1分を失うも、挽回した宮津旭(PAXPROJECT)は5位にメカトラで1分を失うも、挽回した宮津旭(PAXPROJECT)は5位に photo:So Isobe


「いつもの全日本選手権なら後続を突き放していくのですが、今日はあまり差が開かないまま淡々と進める形に。最低限の走りしかできなかった。それが正直な気持ちです」と言う山本だったがしかし、ブリヂストンの二人との差を維持し、後半に広げるには十分なペースだった。

全周回で1周15分台を維持したのは山本と、山本のチームメイトであり、山本の背中を見て成長を重ねるU23の北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)ただ二人だけ。北林は2分の時差スタートをひっくり返して次々とエリート選手を抜き去り、最終的に6番手で一周早くレースを離脱。カテゴリー2位に入った村上功太郎(松山大学)を4分47秒引き離す圧倒的な力でU23全日本チャンピオン獲得を決めている。

山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)エリートで唯一15分台のラップタイムを崩さなかった山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)エリートで唯一15分台のラップタイムを崩さなかった photo:So Isobe
6年連続12回目の全日本チャンピオンを決めた山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)6年連続12回目の全日本チャンピオンを決めた山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
バイクを掲げ、笑顔を見せる山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)バイクを掲げ、笑顔を見せる山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
家族が見守る前で淡々とペースを刻んだ山本が、フィニッシュラインまで危なげなく独走。最終的に平野を1分15秒、沢田を1分45秒引き離し、「プロとして臨む最後の全日本選手権」で勝利を飾り、フィニッシュライン上で全日本チャンピオンカラーにペイントされたバイクを高々と掲げた。

レース後インタビューに答える山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)レース後インタビューに答える山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:So Isobe
優勝した山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)と愛車のキャノンデールSCALPEL優勝した山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)と愛車のキャノンデールSCALPEL photo:Makoto AYANOMen Elite 表彰  優勝 山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)、2位沢田時、3位平野星矢(TEAM BRIDGESTONE Cycling)Men Elite 表彰 優勝 山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)、2位沢田時、3位平野星矢(TEAM BRIDGESTONE Cycling) photo:Makoto AYANO


「パーフェクトとは遠い走りでしたが、それでも最低限はクリアしました。秋に参戦予定だったワールドカップと世界選手権に向けてピーキングを行い、その時はキレのある走りができていた。自分自身本気で、勝つためにプロとして全日本に挑み、結果的に12回の優勝に繋がりました。北林くんも良い走りをしたと聞いたし、こうして練習を続ければ日本、アジア、そして世界で勝てる選手になれるんです」と優勝者インタビューで語った山本。今回の優勝で全日本エリートタイトル獲得数は12へと伸びている。

関西シクロクロスマキノ大会と全日本選手権、全日本MTBショートトラックを経てオフシーズンに入り、年明けには海外遠征を、そして6月に長野で高地合宿を行い、キャリア最大のレースに挑む山本。「今日感じた部分、そして日頃感じている部分をしっかりと強化して、自分自身最後の集大成として五輪に臨みたい」と、その視線は伊豆の過酷なアップダウンコースを見据えている。

Men U23優勝の北林力 (Dream Seeker MTB Racing Team)Men U23優勝の北林力 (Dream Seeker MTB Racing Team) photo:Makoto AYANO
「頭と身体にズレがあって、自分自身が思うようにペースを上げることができませんでした。これから原因をしっかりと考えたい」と振り返る平野が3年連続の2位となり、「勝つためにはあの展開しかなかったので後悔はありませんが、結果的にはぶら下がっているだけで終わってしまった。幸平さんがいるレースで最後に勝ちたかった」と言う沢田が3位。

粘り続けた竹内が4位、メカトラで1分ほどピットストップを余儀なくされながらも挽回した宮津旭(PAXPROJECT)がプロ選手の中5位に食い込んでいる。現役最終レースを最後の最後まで追い込み切った中原は7位に入った。
男子エリート結果
1位 山本幸平(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) 1:18:25
2位 平野星矢(TEAM BRIDGESTONE Cycling) +1:15.35
3位 沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling) +1:45.31
4位 竹内遼(FUKAYA RACING) +2:43.25
5位 宮津旭(PAXPROJECT) +4:29.26
6位 平林安里(TEAM SCOTT) +4:32.05
7位 中原義貴(WIAWIS RACING TEAM) +5:58.08
8位 竹之内悠(TOYOFrame) +7:28.05
9位 佐藤誠示 +9:14.96
10位 戸谷亮司(岩井商会レーシング) +9:46.15
男子U23結果
1位 北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) 1:02:52
2位 村上功太郎(松山大学) +4:47.77
3位 山口創平(日本体育大学) +5:24.76
4位 上野蓮(MASAYA RACING) +6:07.26
5位 久保一真(日本大学) +6:51.51
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