スペシャライズドから新登場した超軽量ロードバイク「AETHOS」。国内ローンチにてテストしたCW編集部員2名によるインプレッションをお届け。どこまでだって登れるような軽さ、パワーを逃さない剛性、扱いやすいコントロール性、悪路にも足を伸ばせるタイヤキャパシティ。まさにオールラウンドにライドを楽しめる1台に仕上がっている。



S-WORKS AETHOSを国内ローンチでいち早くテストしたS-WORKS AETHOSを国内ローンチでいち早くテストした
今回インプレッションを担当したのは、さいたまディレーブ所属でJプロツアーを走るレーサー編集部員の高木と、今は週末ライドを嗜む程度に走る機材担当編集部員の村田という2名。2kmほどの登りと下りを含むコースで1時間弱乗り込んで得た感触を綴っていく。国内トップレベルのレーサー目線と、軽量級一般ヒルクライマー目線でそれぞれお伝えしよう。

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「体感したことのない加速感、リズミカルなダンシングが心地よい」CW編集部員・高木

今回、我々に用意された試乗車は52と54サイズ。身長175cm体重58kgの私はどちらでも問題なく乗ることができ、最初は52サイズから試した。まず初めに感動したのが、持った瞬間に感じた"軽さ"。これまで国内外のUCIレースに参戦してきたため、6.8kgよりも軽いバイクというのは未体験ゾーンだ。

「どこまでも登っていけるような異次元の軽さに感動を覚えた」「どこまでも登っていけるような異次元の軽さに感動を覚えた」
ペダルに足をかけ、踏み出すひと踏み目。これまでに体感したことのない加速感があった。TARMAC SL7よりも漕ぎ出しは明らかに軽く、しかもレースバイクにも近い高い剛性感のおかげで、踏み込むたびにスムーズな加速が味わえる。入力に対してもたつくことのない高い反応性が気持ち良く、やはりロードバイクにおける軽さというのは正義だと感じた。

まず最初に試した下り区間では、軽量バイクとは思えない安定感に驚かされた。これだけ軽いと乗っていてフラフラしやすいのではと想像していたが、そんな感覚は一切ない。フルブレーキングしてみてもフロント周りがビビることもなく、軽量ながらしっかりとした強度を持ったフロントフォークである事が分かった。ただ、車重の軽さのせいか下りコーナーではバイクが普段よりも倒れやすく、やや切れ込んでいくイメージだったためその点は慣れが必要そうだ。

オーソドックスなフレーム形状のおかげでTARMAC SL7よりも万人受けしやすい扱いやすさがあるオーソドックスなフレーム形状のおかげでTARMAC SL7よりも万人受けしやすい扱いやすさがある
パワーをかけても変にフレームがヨレることがないため、苦手そうに見える平坦でも非常に気持ち良く進んでくれる。バイクの形状からしてみてもTARMAC SL7のようなエアロ感はもちろんないのだが、フレーム剛性の高さはAETHOSの大きな特徴であり、パワーロスの少なさが心地よい推進力を生み出していると感じた。

そして注目の登りでは、軽いギアでも確実に前に押し出してくれるような軽快な走りが好印象。シッティングでくるくると回すペダリングでも思った以上に進んでくれるのはバイクの軽さのおかげだろう。ダンシングが苦手なビギナーでもキツイ登りをクリアしやすくなるのではないだろうか。

バイクが軽いことで左右に振りやすく、とにかくダンシングで気持ち良く走れるバイクバイクが軽いことで左右に振りやすく、とにかくダンシングで気持ち良く走れるバイク
対してTARMAC SL7は高いエアロ性能が活きたパワフルで伸びのある走りが特徴的対してTARMAC SL7は高いエアロ性能が活きたパワフルで伸びのある走りが特徴的
ダンシングをしてみてもフレームの軽さからくるバイクの振りやすさを顕著に感じた。オーソドックスなフレーム形状ゆえに、左右に振った時に素直にバイクが付いてきてくれるため、自分の思った通りのリズミカルなダンシングで登っていくことができるのはAETHOSの良さの一つ。TARMAC SL7ほどパワフルさを求めてこないような、若干の優しさを残した踏み心地のため、よりホビーライダー向きと言えるだろう。持ち前の軽さのおかげでどこまででも登っていけるような気分にさせてくれ、キツいはずのヒルクライムでも楽しく笑顔にさせてくれるほどの性能を感じられた。

また、52から54サイズに乗り換えるとまた印象の違った乗り味へと変化した。具体的には、52ではレースバイクのような剛性感が押し出たやや上級者向けの乗り味だったが、ワンサイズ大きい54ではBB周りにしなやかさがあり、よりエンデュランスな印象に仕上がっていた。サイズごとにマッチした剛性に調整しているとのことだが、やはりどうしてもサイズが小さいと剛性が高く感じる傾向にあるようだ。

完成車重量で6.8kgを優に下回るAETHOS。片手で軽々と持ち上げられるほど完成車重量で6.8kgを優に下回るAETHOS。片手で軽々と持ち上げられるほど
「あらゆるライドを楽しむ」というAETHOSのコンセプトを考えれば、快適性を重視して普段よりワンサイズ大きいフレームをチョイスしてもいいのかもしれない。スペシャライズドのフラッグシップらしいハイパフォーマンスな走りには文句無しで、山岳主体のロングライドやグランフォンドを楽しみつつ、レース参戦も十分にカバーしてくれる。そして何より、登る楽しさを改めて教えてくれるバイクだ。

「軽量バイクらしからぬ安定性や扱いやすい挙動に驚き」CW編集部員・村田

メディア限定の国内ローンチでいち早く我々の目の前に表れた時、正直なところスペシャライズドがこんな普通なロードバイクを作ってしまったのかとやや落胆した私。TARMAC、VENGE、ROUBAIX、それぞれに尖った3つのバイクと比べると、悪く言ってしまえば面白みに欠けるデザインだ。スペシャライズドを欲しがるユーザーは、デカデカと入ったS-WORKSロゴに憧れを抱いている面もあるだろう。本当に新しいチャレンジに踏み切ったのだと、その姿勢をバイクに触れることなく感じ取ることができた。

超軽量に加え高い剛性も備わっており、レースバイク並みの優れた加速性能を見せてくれた超軽量に加え高い剛性も備わっており、レースバイク並みの優れた加速性能を見せてくれた
ただ、バイクを手に取り持ち上げた瞬間にそんなネガティブな思考はどこへやら。「かるっ」と声に出さずにはいられないバイク重量に思わずニヤけが止まらない。過去にヒルクライムレースに注力していた時は、どうやって6.8kgを下回るバイクを作ってやろうかとパーツの試行錯誤をしていたものだが、そんな手間を無に帰す1台だ。しかもAETHOSはディスクブレーキ仕様……感動を覚えない訳がない。

結論から言ってしまえば、AETHOSは山岳特化の軽量ヒルクライムレーシングマシンという印象を受けた。もちろんそれはスペシャライズドが意図するところではないだろう。あらゆるレベルのライダーが楽しくライドをするために与えられた性能だということは理解できる。ビギナーであればバイクが軽ければ軽いほど登りは楽になるだろうし、優れたフレーム剛性はパワーの小さなライダーでも効率的にバイクを進ませる要因となってくれる。

悪路にも足を伸ばせるよう32Cのタイヤクリアランスを備えている悪路にも足を伸ばせるよう32Cのタイヤクリアランスを備えている
レースバイクではないという位置付けではあるものの、あのTARMAC SL7と同じテクノロジーや剛性目標で作られているのだ。レーシーさを感じない訳がない。重量剛性比を徹底的に突き詰めたというフレームはフラッグシップらしい硬さがあり、体重54kgという軽量級な筆者には少々スパルタンな踏み心地だった。"自転車遊び"に向けた優しさがあるのかと思いきや、そこは流石にS-WORKSバイクという印象だ。

一方でフレームがエアロ形状でない分、踏み味や挙動にゴチゴチ感はなく非常に扱いやすいフィーリングだった。より速くどこまでもスピードを求めてくるTARMAC SL7のような主張はなく、自分のペースで踏んでいきやすい。ただ、ここまで軽量だとどうしても横の動きにはクイックさを感じた。路面の小石や不意の段差を避ける時など、ややオーバーにバイクが反応するためその点は慣れが必要だろう。

スペシャライズド S-WORKS AETHOS(DURA-ACE DI2完成車)スペシャライズド S-WORKS AETHOS(DURA-ACE DI2完成車)
それでも、超軽量バイクにありがちなヒラヒラした不安定感はなく、平坦巡航でもペダリングの繋いでいきやすさが際立っていた。軽いバイクほど踏み始めの一瞬の加速でスピードが打ち止まってしまうものだが、このAETHOSは下死点近くまでトルクがかかっている感覚が強く、リズムの緩急で戸惑うようなこともなかった。TARMAC SL7でも同じような踏み心地を感じたため、この点はスペシャライズドが培ってきた剛性ノウハウなのだろう。

Alpinist CLXホイールも33mmハイトの割にはエアロ感があり、左右のペダリングの繋ぎ目でスピードを維持してくれるため、緩急の少なさに寄与しているのだと推測できる。軽量バイクが苦手とする平坦巡航でも十分にスピードに乗ってくれたため、標準装備のこのホイールがいい仕事をしているのは間違いない。フレームの硬さを和らげたいとなれば、チューブレス対応ホイールに交換するのも有りだろう。

深みのある美しいマーブル柄に仕上がったフレーム深みのある美しいマーブル柄に仕上がったフレーム
そして何と言っても登りでの軽さ、軽快さが非常に気持ち良い。もうこれは単純に重量の軽さによるものと言っていいだろう。これだけ軽いバイクが登りで遅いわけがない。緩斜面であればエアロに秀でたTARMAC SL7に軍配が上がるだろうが、一般ライダーが多くのシーンで気持ち良く登れるのはAETHOSになるだろう。ダンシングでのクセもなく、高い剛性&軽量性からくるシャキシャキとした進み方を見せてくれ、やはり登坂で真価が発揮されるバイクだと感じた。明らかに登りは速い。

硬いフレームはパワーロスなく進んでくれる感覚が強く、踏み込めば即座に加速してくれるため、レースのような速度の上げ下げにも問題なく対応可能。完成車そのままでヒルクライムレース優勝だって狙えるはずだ。フルカーボンサドルやフロントシングル化など、これでもまだ軽量化の余地は残されているため、軽さを重視してリムブレーキを愛用するハードコアなヒルクライマーもきっと満足するに違いない。

軽量バイクにありがちなヒラヒラ感はなく、下りでも安定したコントロール性を見せてくれた軽量バイクにありがちなヒラヒラ感はなく、下りでも安定したコントロール性を見せてくれた
積極的にシートステーがしなって快適という訳ではないため、未舗装路に足を伸ばす時はあくまでワイドタイヤでカバーするという感じになりそうだ。それでも、32Cまで入るタイヤクリアランスが確保されていることでライダーの選択肢の幅が広がるというのは非常にありがたい仕様だ。ただ、重量の軽さのせいで路面のギャップでは車体の跳ねやすさを感じたためその点は注意が必要。

見た目通りとも言えるが、乗り味に面白み(特有のクセやキャラクターとでも言おうか)があるようなバイクではない。逆に言えば、純粋にディスクブレーキで軽い高性能バイクが欲しいという全てのサイクリストがターゲットとなる1台だろう。これだけの軽さに仕上げながらも走りは全く破綻しておらず、スペシャライズドの技術の高さをまざまざと見せつけてきたAETHOS。ちょっとコアなファンに向けて言うなら、あのピーター・デンクがやりたい放題詰め込んだバイクなのだ、食指が動かないわけがないだろう。



スペシャライズド S-WORKS AETHOS - DURA-ACE DI2
コンポーネント:Shimano Dura-Ace Di2 R9150
ハンドルバー:S-Works Short & Shallow
ステム:S-Works SL, alloy
サドル:S-Works Power
ホイール:Roval Alpinist CLX
タイヤ:Turbo Cotton, 700x26mm
重量:6.0kg
価格:1,320,000円(税抜)

スペシャライズド S-WORKS AETHOS - SRAM RED ETAP AXS
コンポーネント:SRAM RED eTAP AXS
ハンドルバー:S-Works Short & Shallow
ステム:S-Works SL, alloy
サドル:S-Works Power
ホイール:Roval Alpinist CLX
タイヤ:Turbo Cotton, 700x26mm
重量:6.26kg
価格:1,320,000円(税抜)