前半からの高速な展開によりピュアスプリンターが軒並み脱落したツール・ド・フランス第7ステージ。後半にかけて吹いた追い風&横風によりタデイ・ポガチャルやミケル・ランダ、リッチー・ポートらが脱落する中、小集団スプリントでワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)がステージ2勝目を飾った。



晴わたるミヨーの街にマスク姿の選手たちがやってくる晴わたるミヨーの街にマスク姿の選手たちがやってくる photo:Kei Tsuji
9月4日(金)第7ステージ
ミヨー〜ラヴァール
距離:168km
獲得標高差:2,000m
天候:晴れ
気温:25〜32度

カテゴリー山岳とスプリントポイント
9km地点 3級山岳リュザンソン峠(距離3.1km・平均6.1%)
58km地点 スプリントポイント
73.5km地点 3級山岳ペロナン峠(距離14.5km・平均3.9%)
97.5km地点 4級山岳ポレ峠(距離1.1km・平均7%)

9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km photo:A.S.O.9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km9月4日(金)第7ステージ ミヨー〜ラヴァール 168km photo:A.S.O.

追い風に備えてフロントに56Tを用意したジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)追い風に備えてフロントに56Tを用意したジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:Kei Tsuji背中を痛めているトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)がスタート前に微調整背中を痛めているトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)がスタート前に微調整 photo:Kei Tsuji

追い風を警戒するイネオス・グレナディアーズのセルファイス・クナーフェン監督追い風を警戒するイネオス・グレナディアーズのセルファイス・クナーフェン監督 photo:Kei Tsujiスタート直後のペースアップに備えてローラー台でアップするスタート直後のペースアップに備えてローラー台でアップする photo:Kei Tsuji



ボーラ・ハンスグローエが序盤からマイヨヴェール奪回作戦を実行

中央山塊での戦いを終え、足早にピレネー山脈へと向かう選手たち。この日は主塔の高さが世界一高い(343m)ミヨー橋の下を潜って、3つの3級山岳&4級山岳を含むアップダウンをこなしながら平野を目指す。残り43.5km地点のカストルの街から先、フィニッシュ地点ラヴァールまでの平坦路には、この地域特有の南東(進行方向の真後ろ)からの「オータンの風」が吹き付けた。

獲得標高差が2,000mに達するものの、ピュアスプリンターにとってピレネー突入前の最後のチャンスと見られたこの日、追い風に備えてスプリンターは54〜56Tのアウターチェーンリングを、そしてマイヨジョーヌ候補たちも54Tのアウターチェーンリングを踏んでスタートを切る。するとすぐさま、ボーラ・ハンスグローエがマイヨヴェール奪回作戦を実行に移した。

サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)に奪われたマイヨヴェールを
取り返すために、スタート後すぐの3級山岳リュザンソン峠でボーラ・ハンスグローエがハイペースを刻むとメイン集団は100名程度に縮小する。山岳ポイント獲得のために動いたブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール)らを飲み込みながら、ボーラ・ハンスグローエは第1集団のペースを上げ続けた。

主塔の高さが世界一高い(343m)ミヨー橋主塔の高さが世界一高い(343m)ミヨー橋 photo:Luca Bettini
序盤からハイペースを刻んでスプリンターをふるい落としたボーラ・ハンスグローエ序盤からハイペースを刻んでスプリンターをふるい落としたボーラ・ハンスグローエ photo:Luca Bettini
ステージ序盤に脱落したカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)ステージ序盤に脱落したカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Luca Bettini
ボーラ・ハンスグローエは狙い通りベネットを蹴落とすとともに、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やケース・ボル(オランダ、サンウェブ)、アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、UAEチームエミレーツ)、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス)といったピュアスプリンターたちを引き離すことに成功。

ベネットを含む約30名の第2集団、そしてユアンを含む約40名の第3集団を引き離しながら、約100名の第1集団は58km地点のスプリントポイントに到着。サガンは先頭通過こそマッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)に許してしまったものの、ここで暫定的にポイント賞トップに返り咲いた。

スプリントポイント通過後も第1集団のペースは落ちず、第2集団&第3集団とのタイム差を広げながらステージ後半へ。ユアンを集団復帰させたいトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)が第1集団のペースダウンを期待して単独逃げを試みたものの、タイム差は1分を超えず、自身28回目のエスケープは残り35km地点で終わりを迎えた。

約100名に絞られたメイン集団が高速で進む約100名に絞られたメイン集団が高速で進む photo:Kei Tsuji
第1集団に入ることができなかったマイヨヴェールのサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)第1集団に入ることができなかったマイヨヴェールのサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
中盤にかけて独走したトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)中盤にかけて独走したトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) photo:Luca Bettini
ステージ中盤のアップダウンをこなすマイヨジョーヌのアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ステージ中盤のアップダウンをこなすマイヨジョーヌのアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini


イネオスやユンボの追い風ペースアップにより集団が分裂

風力発電の風車が勢いよく回る平野で、追い風&斜め後ろからの横風による集団分断作戦が始まる。指揮をとったのはイネオス・グレナディアーズやユンボ・ヴィスマで、吹きっさらし区間でペースが上がった集団はエシュロンを形成しながら分裂。総合3位タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)や総合7位エステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)、総合11位バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)の他、元チームスカイの総合13位ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)と総合15位リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)が後方集団に取り残されてしまう。

1年前の強風ステージで苦い思いを味わったグルパマFDJやアスタナもイネオス・グレナディアーズやユンボ・ヴィスマに加わって第1集団を牽引。UAEチームエミレーツやバーレーン・マクラーレン、トレック・セガフレードが率いる第2集団とのタイム差はすぐさま1分まで広がった。

残り35km地点からの追い風区間でエシュロンが発生する残り35km地点からの追い風区間でエシュロンが発生する photo:Luca Bettini
第1集団を自ら牽引するアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)第1集団を自ら牽引するアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Luca Bettini
イネオス・グレナディアーズやユンボ・ヴィスマが第1集団を牽引イネオス・グレナディアーズやユンボ・ヴィスマが第1集団を牽引 photo:Luca Bettini
グルパマFDJやアスタナも集団前方で追い風区間をこなすグルパマFDJやアスタナも集団前方で追い風区間をこなす photo:Luca Bettini
ユンボ・ヴィスマを先頭に後続を引き離す第1集団ユンボ・ヴィスマを先頭に後続を引き離す第1集団 photo:Kei Tsuji
その後もタイム差は拡大を続けながら、最終的に42名に絞られた第1集団がフィニッシュ地点ラヴァールにやってきた。グルパマFDJを先頭にフラムルージュ(残り1kmアーチ)を駆け抜け、残り500mでエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)のためにミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング)が先頭でリードアウトを開始。

ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)やワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、そしてサガンを引き連れるボアッソンハーゲンが、残り200mでゴグルの肘の合図を受けて加速する。後方から早めに仕掛けたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が別ラインから加速してボアッソンハーゲンに並びかけるが、隣を走るストゥイヴェンに接触してバランスを崩した。

隙間を見つけてラインを変えながらもチェーンを落としてしまったサガンらを背に、ボアッソンハーゲンの後ろでタイミングを伺うファンアールトが残り100mで加速。プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)の風除けとして働き続けたルーラー/パンチャー/スプリンター/元シクロクロッサーのファンアールトが、ハンドルを投げるボアッソンハーゲンやブライアン・コカール(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)の隣で両手をあげた。

エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)を抜いて先頭に立つワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)を抜いて先頭に立つワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
小集団スプリントを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)小集団スプリントを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos


アシストの鑑のステージ2勝目とイェーツのマイヨジョーヌキープ

この日の平均スピードは47.5km/h。追い風区間となったラスト35kmの平均スピードは59.1km/hに達している。

最終ストレートで70.4km/hのトップスピードをマークし、ボアッソンハーゲンとコカールを下してステージ2勝目を飾ったファンアールトは「今日のステージ優勝を誇りに思う。今日はスタートから全開走行で、最初の山岳でスプリンターをふるい落としたボーラ・ハンスグローエの走りは見事だった。常に風を感じながらのレースで、プリモシュ(ログリッチ)を守るために全力を尽くした。総合争いの観点から見ても、何名かのライバルたちがタイムを失ったので良い1日になった」と語る。

「プリモシュを安全に走らせることを最優先にしながらも、小集団スプリントでステージ優勝のチャンスがあるなら狙わない手はなかった。右側にスペースを見つけて、完璧なタイミングでスプリントに持ち込めたんだ。昨年もこの近くで(横風ステージで)優勝したけど、今朝の時点ではステージ争いに絡むとは全く予想していなかったから、この勝利はスペシャル。予想外のハードなステージだったので尚更だ」。

ボーラ・ハンスグローエの作戦が功を奏し、サガンはステージ13位に沈みながらもマイヨヴェールに返り咲き。長時間メイン集団を牽引したダニエル・オス(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)がステージ敢闘賞を獲得している。32ポイント差のポイント賞3位に浮上したファンアールトは「開幕前から何度も言ってるけど」と笑いながら念を押す。「チームの目標はプリモシュの総合優勝であり、今日のようなチャンスが回ってこない限り、自分のために動くことはない」。

追い風区間で脱落したポガチャル、ランダ、モレマ、ポート、そしてタイミングの悪いパンクで脱落したリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)は1分21秒遅れ。マイヨブランはポガチャルからエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)に移動し、マイヨジョーヌはアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が守った。

「ピレネーを前に平穏なステージを期待したけど、ボーラ・ハンスグローエは別の考えを持っていた。彼らは0km地点から最後まで集団を引き続けたんだ。トラブルに巻き込まれることなく、マイヨジョーヌを守ることができたので良い1日だったと言える。明日はチームとしてどんな走りができるのか楽しみだ」と、ログリッチから3秒のリードでピレネー初日に挑むイェーツは語っている。

ステージ2勝目を飾ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)ステージ2勝目を飾ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
マイヨブランを獲得したエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)マイヨブランを獲得したエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
夏の終わり夏の終わり photo:Kei Tsuji


デイリーハイライト: J SPORTSでツール・ド・フランス全21ステージ独占生中継

ツール・ド・フランス2020 第7ステージ結果
1位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 3:32:03
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、NTTプロサイクリング)
3位 ブライアン・コカール(フランス、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)
4位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
5位 ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
6位 クレマン・ヴァントゥリーニ(フランス、アージェードゥーゼール)
7位 ユーゴ・オフステテール(フランス、イスラエル・スタートアップネイション)
8位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)
9位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)
10位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
43位 タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) 0:01:21
46位 ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)
51位 リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)
59位 バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
62位 リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)
マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 30:36:00
2位 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:03
3位 ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) 0:00:09
4位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) 0:00:13
5位 トム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)
6位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)
7位 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)
8位 ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)
9位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)
10位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFプロサイクリング)
マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 138pts
2位 サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ) 129pts
3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) 106pts
マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール) 25pts
2位 ミヒャエル・ゴグル(オーストリア、NTTプロサイクリング) 12pts
3位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サンウェブ) 11pts
マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) 30:36:13
2位 ルイス・マス(スペイン、モビスター) 0:00:09
3位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング) 0:00:28
チーム総合成績
1位 EFプロサイクリング 91:48:46
2位 ユンボ・ヴィスマ 0:01:29
3位 アスタナ 0:02:16
text:Kei Tsuji