スタートからフィニッシュまでチーム全員でハイペースで駆け抜けたボーラ・ハンスグローエ。目指したのは2013年のサガンのコピー勝利。そして風が集団を分裂。最後に手を挙げたのはまたしてもファンアールトだった。



イネオス・グレナディアーズのバイクが出走を待つイネオス・グレナディアーズのバイクが出走を待つ photo:Makoto.AYANO
朝の時間にツールの「ヴィラージュ」を訪問。優雅な招待客接待ゾーンであり、レース前に人と落ち合う必要がある際などに利用できるくつろぎスペースだ。今年は「レースバブル」に属する選手の立ち入りが禁止されているが、飲食を供する各ブースでは感染症対策のための対策をとりながらもほぼ例年通りのサービスを提供していた。

ミヨーのヴィラージュ。今年は選手たちは感染症対策で入場することができないミヨーのヴィラージュ。今年は選手たちは感染症対策で入場することができない photo:Makoto.AYANO
そして今年はヴィラージュ奥のエリアに「コンシエージュ」が登場。そこではなんとクリーニングサービスが提供されていた。長い3週間の帯同、スーツやワイシャツなど、とくに正装の必要な仕事の従事者にはキレイになった衣類を翌日受け取れることはありがたいはず。感染拡大防止のためにも清潔に過ごせるように。ASOの感染症対策は一流ホテル並みだ。

オフィシャルのクリーニングサービスが登場。もちろん感染拡大防止策だオフィシャルのクリーニングサービスが登場。もちろん感染拡大防止策だ photo:Makoto.AYANO3週間の帯同に嬉しいクリーニングサービス3週間の帯同に嬉しいクリーニングサービス photo:Makoto.AYANO


マイヨジョーヌのパートナーとマイヨジョーヌのパートナーと photo:Makoto.AYANO
9連日の長いツール第一週。締めくくりとなる明日からのピレネー2連戦を控えて、この日は体力を温存したいと思っているチームが多いステージのはずだった。後半に横風の吹く区間があることは織り込み済み。しかしそのことは警戒しながらも「序盤は平穏だろう」と誰もが思っていたはず。

スタート前にインタビューを受けるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)スタート前にインタビューを受けるワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto.AYANO
ポガチャルとフォルモロを吊るし上げるスタッフ(ホントは2人がジャンプしているだけ)ポガチャルとフォルモロを吊るし上げるスタッフ(ホントは2人がジャンプしているだけ) photo:Makoto.AYANO
UAEエミレーツのタディ・ポガチャルとダヴィデ・フォルモロがチームの広報カメラマンの求めに応じてジャンプしているのを見た。後で判ったのは「選手は強いけど、チームスタッフもっと強い」というSNS投稿のための撮影でした。陽気なイタリア(ベース)のチームのスタート前は、こんなちょっとした緩さも窺えるほどの雰囲気だったのだ。まさかポガチャルは本当にこの日の犠牲者になってしまうとは。


ミヨーの橋から走り出したプロトンが眺められるミヨーの橋から走り出したプロトンが眺められる photo:Makoto.AYANO
主塔の高さが世界一高い(343m)ミヨー橋の下が0km地点となったこの日。橋を眺めながらのスタートは、そのまますぐに緩いアップダウンの丘陵地へ。スタート前にはこの序盤からのアップダウンに備え、あるいは逃げを目論む選手たちが何人かはローラー台上でウォームアップをしていたが、多くの集団の選手たちにとってボーラ・ハンスグローエの選手たちのいきなりの動きはサプライズだったに違いない。なおボーラの選手たちがウォームアップする姿はスタート地点では確認できなかったから、きっと他のチームに悟られないようにエリア外の道を走って準備していたのだろう。

スタート直後からペースを上げてスプリンターを減らしにかかるボーラ・ハンスグローエスタート直後からペースを上げてスプリンターを減らしにかかるボーラ・ハンスグローエ photo:Makoto.AYANO
山岳ポイントさえ設定されない、リアルスタート直後の3.1km、勾配6.1%の「コート・ルザンションの丘」。傾斜は緩いものの、先頭に集まったボーラのフルメンバーが牽引するハイペースにスプリンターたちが次々に脱落した。サガンとチームがとったこの作戦は2013年ツールの第7ステージで成功した作戦のリピート。当時はキャノンデールプロサイクリングだったチームがとった作戦は、アップダウンで他のスプリンターをふるい落とすべくペースを上げて、路上のスプリントポイントを獲得し、ゴールスプリントでもサガンが勝利するというもの。その当時の作戦の成功に発想を得て、同じことを繰り返すべくサガンとチームメイトたちが決めたことだったという。チーム監督陣は最初は同意しなかったという。

ボーラ・ハンスグローエのペースアップに遅れるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)ボーラ・ハンスグローエのペースアップに遅れるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Makoto.AYANO
集団のペースアップにたまらず遅れるケース・ボル(オランダ、サンウェブ)集団のペースアップにたまらず遅れるケース・ボル(オランダ、サンウェブ) photo:Makoto.AYANO
ケース・ボル(サンウェブ)も、カレブ・ユアン(ロット・スーダル)も、アレクサンダー・クリストフ(UAEチームエミレーツ)も、アンドレ・グライペル(イスラエル・スタートアップネイション)も、ジャコモ・ニッツォーロ(NTTプロサイクリング)も、まだ0km地点のミヨー橋が見える最初の峠への上りでぼろぼろと遅れていった。アルカンシェルのマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)も遅れるほど、スプリンター傾向の身体プロフィールをもつ選手たちは軒並み苦しみ、後方へ追いやられた。

集団内にピュアスプリンターが居なくなったら、後半には総合勢の間でのふるい落としが始まった。フィニッシュまで残り25kmで後方からの追い風が吹くことは多くのチームで織り込み済みだったという。後ろからの風によって猛烈なスピードが出ながらも、コースの進行方向によって前走者の斜め後ろに並べなければ着いていけなくなるという、処理の厄介な追い風。

それ以上に、この風が吹くことと、その吹きはじめる位置=街を出た2つ目のロンポワン(ランドアバウト)を通り過ぎた時点、ということを正確に把握していたイネオス・グレナディアーズの攻撃によって今度は総合勢の脱落者も次々と生まれた。もっとも大きな被害を受けたビッグネームはマイヨ・ブランを着ていたポガチャルだった。横風の危険を事前に知っていながらもなお対処できなかったと言う。

牽引を続けるボーラ・ハンスグローエが集団の分断を図る牽引を続けるボーラ・ハンスグローエが集団の分断を図る (c)CorVos
横風区間で集団が割れると復帰するのは困難。前方集団がタイム差を開いていく横風区間で集団が割れると復帰するのは困難。前方集団がタイム差を開いていく (c)CorVos
ビッグネームのピュアスプリンターたちを含まない絞られた集団。ブライアン・コカールはチェーンを落とすも復帰。先頭でペダルを外したのはアラフィリップ。すぐさま手を挙げてアピールして下がる。そしてもっとも失望が大きかったのはサガンだ。7年前のコピー勝利を目指していたのに、大事な瞬間にチェーンが外れてしまった。

ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)がペダルを踏み外したことを悔しがるジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)がペダルを踏み外したことを悔しがる photo:Makoto.AYANO
エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(NTTプロサイクリング)やジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)が競り合うわずかな間隙を右端からついて、伸びたのはまたしてもワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)。

一日おいての再びの勝利で2勝目。あるときはヒルクライマー、ルーラー、パンチャー、タイムトライアリスト、そして今日はまたしてもスプリンターだった元シクロクロッサーのファンアールト。もはやそのタイプを形容する適切な言葉が見つからない!

小集団スプリントを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)小集団スプリントを制したワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto.AYANO
「こんなカオスな展開や戦いになるとは思っていなかったんだ。多くのスプリンターが遅れ、僕たちが先頭の小集団に残ったので再び自分のチャンスを掴みにいったんだ。他の選手たちがかなり早いタイミングでスプリントを開始したので、そのスリップストリームに入ることができた。(エドヴァルド)ボアッソンハーゲンが加速したとき、その動きにスプリントのタイミングを完璧に合わせた。かなりエネルギーが必要だったけれど、それだけの価値があった。信じられないよ」と話す。スタート前のミックスゾーンインタビューでは、今日のこの展開については予測していないと思われる「今日はトムとプリモシュのサポートに徹することになるだろう」と話していたのに。

ステージ2勝目を挙げたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)ステージ2勝目を挙げたワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto.AYANO
アラフィリップがスプリントで絡んだクレマン・ヴァントゥリーニ(フランス、アージェードゥーゼール)に謝るアラフィリップがスプリントで絡んだクレマン・ヴァントゥリーニ(フランス、アージェードゥーゼール)に謝る photo:Makoto.AYANO
自ら「僕はピュアスプリンターではない」と公言するサガンとボーラ・ハンスグローエの作戦は、フィニッシュ直前までうまくいった。しかしスプリント中にチェーンが脱落したおかげで13位に沈んだ。完璧に見えた一日を勝利で締めくくることが出来なかった。

レース後インタビューではマイヨヴェールを取り戻すことに成功しながらも、チームの働きに勝利で応えることが出来なかった不満を漏らし続けたサガン。あまりに正直な言葉が発せられた。

「がっかりだよ!最後までうまくいっていたのに、最後にとんだ不運だ。チェーンが落ちちゃった。そしてポイントをたくさん取りそこねた。これがサイクリングだ。チームメイトの皆を誇りに思う。彼らは今日素晴らしい働きをしてくれた。スタートから一日中プロトンをコントロールして牽引したんだ。最初から最後までね。最後の横風の中でもエマヌエル(ブッフマン)と自分が先頭グループに残ることができた。すべてうまくいっていたんだ。フィニッシュまでの展開もかなり良かったけれど、チェーンが外れた。ファッキン・サイクリング!」

ボーラのレナード・ケムナはレース後に「シンプルなプランだった。8000ワットでスタートからフィニッシュまで。痛みを伴って現実を知る。皆さんを楽しませることが出来たなら幸いです」とツイート。マキシミリアン・シャフマンは「今日の一言」とリツイート。

text&photo:Makoto AYANO in LAVAR FRANCE

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