ロードレースにおいてアルカンシェル(世界チャンピオン)と並んで最も栄誉とされるのがマイヨジョーヌ。ツール・ド・フランスの総合リーダーの証である「黄色いジャージ」の仕組みと、注目選手をチェックしておきましょう。



大会の象徴、栄光のマイヨジョーヌ

個人総合リーダーに着用が許されるマイヨジョーヌ個人総合リーダーに着用が許されるマイヨジョーヌ photo:Luca Bettini
イエロージャージを意味するマイヨジョーヌは総合リーダーの証。個人総合成績首位の選手だけが着用を許される栄光のジャージであり、総合優勝者は最終日パリの表彰台でマイヨジョーヌを受け取ることになる。簡潔に説明するならば、3,484kmという距離を最も少ない時間で走った選手が総合優勝に輝く。

仮に総合成績の上で2名が同タイムの場合、タイムトライアルの成績を1/100秒のタイムまでさかのぼって比較する。それでも同タイムの場合は全ステージの順位の合計が少ない選手が上位に。また、それでも同順位の場合は最終ステージの順位で決定する。

1903年に初開催されたツールだが、マイヨジョーヌが初めて登場したのは1919年の第13回大会のこと。リヨンに拠点を置くLCL銀行(コーポレートカラーも黄色)が1987年から一貫してジャージのスポンサーを務めている。

黄色い「B」で記されているのがボーナスポイント黄色い「B」で記されているのがボーナスポイント photo:A.S.O.2020年も引き続きボーナスタイムが導入されている。ステージ1位の選手は10秒、ステージ2位の選手は6秒、ステージ3位の選手は4秒のタイムが総合時間からボーナスとしてマイナスされる(個人TTを除く)。つまりステージ上位に入った選手が有利に総合争いを進めることができるため、積極的なレース展開につながる。

2018年に初めて導入された「ボーナスポイント」は継続。従来の「スプリントポイント」とは別に設定され、ポイント賞に関係するポイントは与えられない。全て山岳ステージの終盤(フィニッシュの一つ手前の山岳)に設定されており、先頭通過者3名には8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが与えられる。

2019年はエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)がコロンビア人初の総合優勝を達成2019年はエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)がコロンビア人初の総合優勝を達成 photo:Makoto Ayano
ボーナスタイム
順位 1位 2位 3位
フィニッシュ 10秒 6秒 4秒
ボーナスポイント 8秒 5秒 2秒


イネオスvsユンボの様相 地元フランス勢の奮起にも期待

約4ヶ月の中断を経て再開した2020年シーズン。再開後のステージレースでは、チームイネオス(ツールではイネオス・グレナディアーズ)とユンボ・ヴィスマの2チームが激しい覇権争いを繰り広げている。チームスカイ時代から数えて過去8年間で7回の総合優勝を果たし、大会6連覇がかかったイネオス・グレナディアーズが2020年ツールでも圧倒的なチーム力を発揮すると思われたが、ユンボ・ヴィスマがその勢いに待ったをかけた形。

ツール2連覇に挑むエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)ツール2連覇に挑むエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) (c)INEOS Grenadiers
ツールメンバー入りしたリチャル・カラパス(エクアドル、チームイネオス)ツールメンバー入りしたリチャル・カラパス(エクアドル、チームイネオス) (c)CorVosパヴェル・シヴァコフ(ロシア、チームイネオス)パヴェル・シヴァコフ(ロシア、チームイネオス) photo:Kei Tsuji

当初イネオス・グレナディアーズは2019年の総合優勝者エガン・ベルナル(コロンビア)と2018年の総合優勝者ゲラント・トーマス(イギリス)、そして2013年と2015年〜2017年の総合優勝者クリストファー・フルーム(イギリス)という豪華トリプルエース体制を敷くと見られたが、調子の上がりきらないトーマスはジロ・デ・イタリアに、前年の落車負傷から完全には復調していないフルームはブエルタ・ア・エスパーニャに照準を合わすために欠場することが決まった。

これにより、出場選手の中で唯一の総合優勝経験者である23歳ベルナルを単独エースとし、2019年ジロ覇者のリチャル・カラパス(エクアドル)を招集。クリテリウム・デュ・ドーフィネでベルナル(背中の痛みを理由にリタイア)よりも登れていた23歳パヴェル・シヴァコフ(ロシア)をサブエースとする体制を取った。トーマスとフルームを含まずとも、例年同様スプリンターを排除してクライマーとルーラーをバランスよく揃えた必勝布陣でツールに挑む。

前哨戦ドーフィネではユンボ・ヴィスマがチーム力でイネオスを上回った前哨戦ドーフィネではユンボ・ヴィスマがチーム力でイネオスを上回った photo:CorVos
ドーフィネで力を見せるも落車の影響が心配されるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)ドーフィネで力を見せるも落車の影響が心配されるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVosドーフィネでステージ優勝を飾ったセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)ドーフィネでステージ優勝を飾ったセップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos

今シーズンここまでイネオス・グレナディアーズの勢いを封じているのがユンボ・ヴィスマのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)。2019年にブエルタを制した30歳は、8月のツール・ド・ランでベルナルを抑えて総合優勝を飾り、クリテリウム・デュ・ドーフィネでも大会2日目から首位を快走した。

しかしログリッチはドーフィネ第4ステージで落車し、リーダージャージを着ながらツールを優先するため最終日をスタートしなかった。落車の怪我についてユンボ・ヴィスマは「問題ない」と繰り返しているが、少なからずログリッチの好調ぶりに影響を与えると見られる。

さらにユンボ・ヴィスマはドーフィネの落車でステフェン・クライスヴァイク(オランダ)の欠場が決まるなど悪いニュースが続くが、2007年ジロ覇者で新加入のトム・デュムラン(オランダ)や、ドーフィネで抜群の山岳アシストぶりを見せたセップ・クス(アメリカ)、ジョージ・ベネット(ニュージーランド)、ロベルト・ヘーシンク(オランダ)ら、イネオス勢に対抗できる戦力を有している。好調ワウト・ファンアールト(ベルギー)も『風のステージ』で心強い存在だ。

2019年のツールでジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)がステージ2勝&マイヨジョーヌ14日間着用&総合5位の大活躍を見せたことが記憶に新しい。2020年もアラフィリップは安定した力を見せているが、ミラノ〜サンレモ2位、フランス選手権3位と、1年前の勢いには及ばない。「総合成績は重視しない」というアラフィリップの言葉通り、ドゥクーニンク・クイックステップもスプリンター重視のメンバーを集めている。

2014年の総合3位以上が期待されるティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)2014年の総合3位以上が期待されるティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ) photo:CorVos
ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:LaPresse - D'Alberto / Ferrari / Alpozziロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)ロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) (c)CorVos

では最もマイヨジョーヌに近いフランス人選手は誰か。ドーフィネ総合2位のティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)は例年以上に仕上がっている印象で、しかも今大会では最終日前日の個人タイムトライアルが生まれ故郷をスタートするなど、高いモチベーションを持って開幕を迎えることが予想される。ツールではステージ優勝を3回経験済み。過去7回の出場の中でリタイアが4回という不安定さもあるが、2014年の総合3位からジャンプアップする準備は整っている。

ピノに次いでドーフィネを総合3位で終えたギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス・ソルシオンクレディ)は、母国フランスチームへの移籍が功を奏したのか、2020年シーズンは安定した好成績を残している。そして2016年ツール総合2位、2017年総合3位のロマン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)はドーフィネで総合6位。ツールでは3歳年下のピエール・ラトゥール(フランス)とダブルエースを組む予定だ。

ドーフィネを総合4位で終えたタデイ・ポガチャル(スロベニア)ドーフィネを総合4位で終えたタデイ・ポガチャル(スロベニア) photo:So.Isobeダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ)ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAEチームエミレーツ) photo:CorVos

アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター) (c)CorVosモビスターはユンボやイネオス勢に一矢報えるかモビスターはユンボやイネオス勢に一矢報えるか (c)CorVos

出場選手の中で3番目に若く、最終日パリの翌日に22歳の誕生日を迎えるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)はドーフィネ総合4位。グランツール初出場となった2019年のブエルタで同じスロベニア出身のログリッチの背中を追いかけて総合3位に入ったポガチャルは、ファビオ・アル(イタリア)、ダビ・デラクルス(スペイン)、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア)という山岳アシストたちのサポートを受ける。

モビスターからは出場選手の中で最年長40歳のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)も出場するが、新加入エンリク・マス(スペイン)やマルク・ソレル(スペイン)ら若手オールラウンダーたちのアシストに回ると予想される。

コロンビア勢を中心に据えるEFプロサイクリング。リゴベルト・ウランを中心にマルティネスやイギータら若手クライマーが揃うコロンビア勢を中心に据えるEFプロサイクリング。リゴベルト・ウランを中心にマルティネスやイギータら若手クライマーが揃う (c)tourcolombiauci.com
落車負傷者の回復具合が鍵となるボーラ・ハンスグローエ落車負傷者の回復具合が鍵となるボーラ・ハンスグローエ (c)CorVosエースとして最後のツールに挑むリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)エースとして最後のツールに挑むリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) photo:CorVos

フランス(38人)、スペイン(17人)、ベルギー(17人)、イタリア(16人)、ドイツ(12人)に次いで出場人数が多いのがコロンビア(10人)。ベルナル以外にも、ジロとブエルタで総合優勝経験のあるナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)や、ドーフィネ総合5位ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)といったグランツールレーサーが豊富に揃う。

中でも3人のコロンビア人選手を中心にチームを組み立てるのがEFプロサイクリング。エースを担うのは2017年ツール総合2位のリゴベルト・ウラン(コロンビア)で、ドーフィネを制したダニエル・マルティネス(コロンビア)と2019年ブエルタの山岳ステージを制した新鋭セルジオ・イギータ(コロンビア)が周りを固める。さらにヒュー・カーシー(イギリス)やティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)といったアシストも揃っている。

ボーラ・ハンスグローエはドーフィネとロンバルディアで落車負傷者が続出したものの、予定通り2019年ツール総合4位のエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)やパリ〜ニース総合優勝者マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)をニースに送り込む。

念願の単独エースの座を手にしたミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)や、逆に2021年以降はフルームのアシストを担うことになるダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)も総合上位候補。エースとして挑む最後のツールになる見込みのリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)はバウケ・モレマ(オランダ)とダブルエース体制を組む。
歴代のツール総合優勝者
2019年 エガン・ベルナル(コロンビア)
2018年 ゲラント・トーマス(イギリス)
2017年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2016年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2015年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2014年 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)
2013年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2012年 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス)
2011年 カデル・エヴァンス(オーストラリア)
2010年 アンディ・シュレク(ルクセンブルク)※コンタドール失格による繰り上げ
2009年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2008年 カルロス・サストレ(スペイン)
2007年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2006年 オスカル・ペレイロ(スペイン)※ランディス失格による繰り上げ
2005年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2004年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2003年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2002年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2001年 ランス・アームストロング(アメリカ)
2000年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1999年 ランス・アームストロング(アメリカ)
1998年 マルコ・パンターニ(イタリア)
1997年 ヤン・ウルリッヒ(ドイツ)
1996年 ビャルヌ・リース(デンマーク)
1995年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1994年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1993年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1992年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1991年 ミゲル・インドゥライン(スペイン)
1990年 グレッグ・レモン(アメリカ)
text:Kei Tsuji in Nice, France

最新ニュース(全ジャンル)