コリマが満を持してリリースしたフラッグシップ級のディスクブレーキホイール「MCC WS+ DX」。ディスクブレーキ化にあたりコリマが出した答えは特殊フランジの開発だった。前後12本ずつのスポーキングが目を引く意欲作をインプレッションしよう。



コリマ 47mm MCC WS+ DX (チューブラー)コリマ 47mm MCC WS+ DX (チューブラー) photo:Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ロードバイクのディスクブレーキ化の流れが著しい昨今。当然のようにホイールにもディスクブレーキ対応が求められており、各社が試行錯誤を行いながら従来とは異なるブレーキタイプに適応しようとしている。アスタナやNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスに機材を供給するフレンチホイールブランドのコリマもその一社だ。

コリマは既にミドルグレードのWSシリーズでディスクブレーキ化を進めている一方、上級グレードであるS+などにはディスクブレーキ対応とすることに慎重な態度を示してきた。2018年にコリマ初のディスクブレーキ対応ホイールがローンチされてから2年。2020年に満を持してフラッグシップ「MCC」にディスクブレーキモデルが追加された。

ちなみにコリマのモデル名は、Wとつくものがワイドリム、SやS+はハブのグレードを表す。S+はプロチームが採用するハイエンドであり、今回紹介するモデルなどに与えられるMCCというのはカーボンスポークを採用したフラッグシップにあたる。アスタナなどは山岳ステージなど、ここぞという時にMCCを投入している。

MCC WS+ DXの最大の特徴であるY字型ビッグフランジMCC WS+ DXの最大の特徴であるY字型ビッグフランジ
MCCの特徴といえば圧倒的に少ないスポーク本数であり、今作"MCC DX"でも前後12本というスポーク本数を維持している。一般的にディスクブレーキに対応するために、各社はリムの再設計はもちろんのことスポーキングの試行錯誤を繰り返しており、その中でも最もポピュラーな設計はスポーク本数を増やし、クロス組とすることで剛性を強化すること。最も採用されるディスクブレーキ化の手段を考慮すると、コリマのアプローチは非常に特異であることがわかるだろう。

コリマがスポーク本数を維持できた設計は前後でそれぞれ異なる。フロントはこれまでハブから放射状にスポークが伸びるラジアル組みだったところ、ハブ円周の接線方向に伸びる構造に変更されている。引っ張る力に強いカーボン素材の特性を活かした作りとなり、ブレーキングフォースに対応する。

対してリアはディスクブレーキのために新しいY字型ハブテクノロジー「D2T(Double Torque technology)」を採用。カーボンスポークが二股に伸びることでブレーキングフォースとペダリングパワーどちらの力も受け止めることが可能となっている。

リムは47mmハイトで、これまでと同じ様にマグネットが備えられているリムは47mmハイトで、これまでと同じ様にマグネットが備えられている フロントホイールのスポークは円周の接線方向に伸びる設計となったフロントホイールのスポークは円周の接線方向に伸びる設計となった

カーボンスポークはリム内側で接着されるカーボンスポークはリム内側で接着される ハブボディはテーパーしているような形状が採用されているハブボディはテーパーしているような形状が採用されている


今作のフロントで採用されている接線方向に伸びるパターンの場合は、車輪にかかるブレーキとペダルどちらか一方にフォーカスしているということだ。そのためペダリングパワーの影響を受けないフロントは、ブレーキングフォースに対応させるためD2Tを採用せずシンプルな作りが採用されている。

MCC DXには新設計のカーボン製エアロスポークが用いられていることもポイントだ。新しい断面形状を与えられたスポークは2019年モデル比でフロントが9%、リアが18%のエアロダイナミクス改善。12本という数少ないスポークのおかげもあり、横風からの影響を受けにくいのがMCCの特徴の一つだ。

コリマの特徴でもある3Kカーボンを使用したリムコリマの特徴でもある3Kカーボンを使用したリム
リムはこれまでのコリマホイール同様「Torsion box」というテクノロジーが採用されている。これはリムの内部に発泡フォームを充填する特許取得テクノロジーであり、フォームにより薄いカーボンリムの屈曲を抑えて剛性を高め、パワーの伝達性を向上させる効果があるという。振動や音を吸収してくれる役割もあり、ノイズのない快適なライドを実現してくれる。

また、リムの内側には発泡フォームに加えて、左右のリムウォールをつなぐカーボン補強が加えられている。このカーボンリブがリム剛性を更に向上させ、コリマによるとスポークが1本折れたとしても走り続けられるほどの剛性を獲得しているという。

今回テストを行ったのはリムハイト47mmのチューブラー仕様。重量は1340g(F:580g、R:760g)。あらゆるサイクリストの目を引く独創的なディスクブレーキ対応ホイールの実力は如何に。



― インプレッション

「乗り心地の良さが際立ち、踏んだ時に剛性感が現れるホイール」藤野智一(なるしまフレンド)

「乗り心地の良さが際立ち、踏んだ時に剛性感が現れるホイール」藤野智一(なるしまフレンド)「乗り心地の良さが際立ち、踏んだ時に剛性感が現れるホイール」藤野智一(なるしまフレンド)
今回のテストではジャイアントのTCRに装着してみましたが、MCC WS+ DXを履いた途端からバイク全体の振動吸収性が驚くほど高められましたね。自転車は衝撃をいなすことができないと推進力が打ち消されてしまいますし、バイクが大きく振動しているところではペダリングが綺麗ではなくなるのでパワーをかけても自転車が進んでくれません。

しかし、振動吸収性に優れるホイールであれば推進力が消されにくく、路面が悪くても綺麗なペダリングが可能です。結果としてより効率的にバイクを前に進ませられますね。快適な乗り心地である分、体重68kgの私より重い方が乗られるとさらに感じ方は変わってくると思います。

乗り心地が良い快適なホイールでありながら、動力となる後輪の剛性がしっかりとしているので、ペダリングパワーは素直に推進力に変換されます。乗り心地と反応性の良さはカーボンスポークが大きく寄与しているでしょう。パワーをかけずに走っている時はふわっとしている感覚があり、パワーを掛けるとカーボン素材の引っ張りと突っ張り方向への強さが顔を現し、スポークがたわまずにスピードに繋がっていく印象です。

車体に装着したサイドビューからは軽量な雰囲気が伝わってくる車体に装着したサイドビューからは軽量な雰囲気が伝わってくる
スポーク数が少ない影響は見た目の印象以上に感じませんね。パワーをかけた時に横方向へのしなりはありますが、そのウィップ感が長時間踏み続けることを可能にしています。先程も言ったように私より体重が重くて、パワーがあるライダーのなかには剛性感が物足りないと感じるかもしれません。フレームとの剛性バランスを見極めたほうが良さそうですね。私の場合は圧倒的な剛性感のあるフレームと、このホイールを組み合わせてみたいです。例えば、フェルトのAR FRDなどですね、それではちょっと贅沢が過ぎますけど。(編集部注、藤野さんによるAR FRDのインプレはこちら

急制動でもホイールがディスクブレーキの制動力に負けること無く、ブレーキがガツンと効いてくれますし、スポークが少ないことによるネガティブな印象はあまりありません。横風の影響も受けにくく、かつスポークがエアロ形状とされているので高速域で失速する感じもありませんでした。

ホイールの細部を確認するインプレライダーの藤野さんホイールの細部を確認するインプレライダーの藤野さん
重量面ではMCC WS+ DXよりも軽量なレーシングホイールは存在します。ディスクブレーキのホイールはしっかりと作らないといけないですからね。それらと比較した時にこのホイールが勝るところは、やはり乗り心地の良さです。今回はチューブラーでのテストでしたが、私が個人的に選ぶとしたらチューブレス仕様ですね。更に乗り心地の良さを引き上げられるかと思います。

カーボンの一体型ホイールだと調整できないことが気になる方はいらっしゃいます。メーカーが考える振れ幅の基準とユーザーが許容できる基準がマッチしない場合もあります。幸いにもコリマのホイールでトラブルは起きたことはありません。リムに関しては剛性が高く、安心できるコリマらしさがあります。

コリマ 47mm MCC WS+ DX (チューブラー)
リム高:47mm
リム幅:26mm
ディスクブレーキタイプ:センターロック
スルーアクスル:12x100mm(フロント)、12x142mm(リア)
重量:1340g(F:580g、R:760g)
税抜価格:208,000円(フロント)、225,000円(リア)



インプレッションライダーのプロフィール

藤野智一(なるしまフレンド)藤野智一(なるしまフレンド) 藤野智一(なるしまフレンド)

92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。

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ウェア協力:カステリ

text:Gakuto.Fujiwara
photo:Makoto.AYANO