パリ〜ニースで総合優勝を飾るには登坂力だけでなく横風への対応力が求められる。前日同様に横風が集団を破壊した第2ステージ。総合優勝候補の中でニバリやシャフマン、イギータが残った11名の精鋭集団のスプリントでジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)が勝利した。


逃げるホセ・ディアス(スペイン、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンス)とジョナタン・イヴェール(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)逃げるホセ・ディアス(スペイン、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンス)とジョナタン・イヴェール(フランス、トタル・ディレクトエネルジー) photo:CorVos
10度を切る気温と、降っては止み、止んでは降るを繰り返す雨。そして西からコンスタントに吹き付ける風。まだまだ「太陽へのレース」の目的地である地中海が見えてこないフランスの内陸部は冬。パリ〜ニース第2ステージは「スプリンター向きの平坦ステージ」という一言では表せない過酷なものになった。

3月9日(月)第2ステージ シュヴルーズ〜シャレット=シュル=ロワン 166.5km3月9日(月)第2ステージ シュヴルーズ〜シャレット=シュル=ロワン 166.5km photo:A.S.O.ツール・ド・フランスと同じデザインのマイヨアポワを着るジョナタン・イヴェール(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)が開始早々ホセ・ディアス(スペイン、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンス)とともに逃げを打ち、降りしきる雨にも負けずメイン集団を引き離した。2分前後のリードで逃げたイヴェールは、ステージ前半に設定された3つの3級山岳を連続先頭通過。狙い通り合計12ポイントを稼いだイヴェールが山岳賞首位をキープした。

逃げる2名をフィニッシュまで60km以上を残して早々に吸収したメイン集団では、ボーナスタイムをかけた動きが生まれる。残り50km地点の第2スプリントポイントに差し掛かるとペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が先頭に立ち、元世界チャンピオンにリードアウトされた総合首位マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)が先頭通過して3秒を獲得。そこからスプリンターチーム主導のレース展開が見られると思われたが、平野部に吹き付ける風が荒れた展開を生み出した。

田舎町を通過するたびに長く伸びた集団が、その後の横風区間で分断し、しばらくして一つに戻るを繰り返す。決定的な集団分裂が発生したのは残り33km地点。教会を中心に形成された人口130人の小さな町メゾンセル=アン=ガティネの出口から先、シャレット=シュル=ロワンのフィニッシュラインまでのおよそ33kmは戦場と化した。

世界チャンピオンのマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が力強い走りを見せる世界チャンピオンのマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が力強い走りを見せる photo:CorVos
トレック・セガフレードやボーラ・ハンスグローエ、イスラエル・スタートアップネイションが集団を破壊するトレック・セガフレードやボーラ・ハンスグローエ、イスラエル・スタートアップネイションが集団を破壊する photo:CorVos
イエロージャージを着るマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)も好位置をキープイエロージャージを着るマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)も好位置をキープ photo:CorVos
横風吹き付ける平坦路で大柄なクラシックライダーがローテーションを回し始めると、集団後方の選手はエシュロンを形成しながら次々に脱落。オリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)やシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)、ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)らの牽引により瞬く間にメイン集団は人数を減らした。

この重要なタイミングで総合4位ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)がパンクで遅れ、続いてナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)が落車で脱落してしまう。全く同じ身長&体重の弟ダイエルからバイクを受け取って再スタートしたキンタナはアラフィリップらとともに追走集団を形成したものの、横風&追い風に乗る先頭集団とのタイム差は縮まらない。キンタナとアラフィリップだけでなく、総合2位ティシュ・ベノート (ベルギー、サンウェブ)や総合3位ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・マクラーレン)がことごとく遅れる展開。

先頭集団の中で特に目立ったのはトレック・セガフレードとボーラ・ハンスグローエの存在感だった。ステージ優勝狙いを公言しているリッチー・ポート(オーストラリア)は脱落したものの、トレック・セガフレードの世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク)やアレックス・キルシュ(ルクセンブルク)が強力な牽引を見せ、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)のポジションを守りながらライバルたちを引き離して行く。

残り10kmを前に、トレック・セガフレードとボーラ・ハンスグローエの連合軍の攻撃によって先頭集団の人数はさらに半減。ここでロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)やティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)が遅れた一方で、大柄な選手に混ざって身長166cmのセルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング)は自力で先頭集団に食らいついた。

残り3kmを切ってからステージ優勝に向けて仕掛けたのは人数を揃えるボーラ・ハンスグローエ。シャフマンとフェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)がアタックとカウンターアタックで揺さぶり、その動きをニバリが封じた状態でフラムルージュを通過する。

最後はアシスト役に徹するサガンが完璧なリードアウトでパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)を発射する。最大出力1,418Wで踏み始めたアッカーマンだったが、最高速63.0km/hをピークにスピードを失ってしまう。誰もが疲労困憊の表情を浮かべる中、アッカーマンの後ろから捲ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)が両手を広げた。

精鋭集団のスプリントを制したジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)精鋭集団のスプリントを制したジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:CorVos
今シーズン2勝目を飾ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)今シーズン2勝目を飾ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:CorVos
「予想以上に雨が降って、なんともストレスフルな一日だった。今日は総合狙いのボーラ・ハンスグローエが仕掛けてくると予想していたので、彼らの後ろで体力を温存することを心がけたんだ。そして最後は迷うことなくアッカーマンの番手をとった。素晴らしい働きをしてくれたチームとともに、これからも勝ち続けたい」と、1月のツアー・ダウンアンダー第5ステージに続く今シーズン2勝目を飾ったニッツォーロ。現在新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化しているロンバルディア州生まれのスプリンターがNTTプロサイクリングにシーズン6勝目をもたらした。

この日の平均スピードは43.4km/h。急激にペースが上がった残り33km地点からフィニッシュラインまでの平均スピードは52.6km/hに達している。そんなハイスピードレースの中でも常に集団前方に位置し、時に自ら動きを見せながら安全にフィニッシュしたシャフマンがイエロージャージをキープ。「今日はペテル(サガン)が強力な走りで集団を破壊。リードアウトには加われなかったものの、チームとして素晴らしい走りができた。総合争いの観点から見ると状況は良くなっている」と総合リーダーは語る。

シャフマンが総合ライバルの中で最も危険な存在として警戒するのが23秒遅れの総合4位につけるイギータだ。苦しむと思われた横風ステージを持ち前のパンチ力で乗り切った22歳の小柄なコロンビアチャンピオンは「目標を達成するためにチームメイトの存在は欠かせない。自分一人では決してここまで走ることができなかった」と、セップ・ファンマルク(ベルギー)をはじめとするチームメンバーに感謝する。

この日のもう一人の成功者は、落ち着いたレース運びを見せたニバリ。延期されたティレーノ〜アドリアティコからパリ〜ニースに行き先を変更した35歳のベテランは「終盤にかけて吹く風が勝負を決めると分かっていた。常に集団先頭を守るチームの走りは完璧だったよ。特にマッズ(ピーダスン)は野獣のように強力な走りを見せてくれた。総合ライバルたちからリードを奪う結果になったけど、これからも地に足をつけて走りたい。数ヶ月にわたって良いトレーニングを積んだので、とても調子が良いんだ」と、3度目の出場となるフレンチレースの総合成績に向けて自信を見せている。

バルデやピノはタイムロスを18秒に抑え込んだものの、ベノートとトゥーンスは36秒遅れ、アラフィリップとキンタナは1分25秒遅れる結果に。タイミングの悪いパンクによってチャンスを失ったアラフィリップは「悪天候にもかかわらず集中して良いレースができていた、パンクに見舞われるまでは。パンクによって先頭集団から第3〜4集団まで落ちてしまい、そこからチームメイトたちが奮闘してくれたけど、大きなタイムを失う結果になってしまった。まだレースが終わったわけじゃないけど、総合争いにおいては致命的な遅れだ」と語っている。

イエロージャージを守ったマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)イエロージャージを守ったマキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVosヤングライダー賞ジャージを手にしたセルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング)ヤングライダー賞ジャージを手にしたセルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング) photo:CorVos
パリ〜ニース2020第2ステージ結果
1位 ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) 3:49:57
2位 パスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
3位 ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)
4位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)
5位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング)
6位 マッズウルス・シュミット(デンマーク、イスラエル・スタートアップネイション)
7位 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード) 0:00:03
8位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
9位 フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
10位 クリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・スタートアップネイション)
18位 ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール) 0:00:18
20位 ティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)
34位 ティシュ・ベノート (ベルギー、サンウェブ) 0:00:36
42位 ディラン・トゥーンス(ベルギー、バーレーン・マクラーレン)
53位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:01:25
54位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、アルケア・サムシック)
個人総合成績
1位 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) 7:22:06
2位 ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) 0:00:15
3位 ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード) 0:00:21
4位 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング) 0:00:23
5位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション) 0:00:25
6位 マッズウルス・シュミット(デンマーク、イスラエル・スタートアップネイション)
7位 フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) 0:00:28
8位 クリスツ・ニーランズ(ラトビア、イスラエル・スタートアップネイション)
9位 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)
10位 ティシュ・ベノート (ベルギー、サンウェブ) 0:00:38
その他の特別賞
ポイント賞 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
山岳賞 ジョナタン・イヴェール(フランス、トタル・ディレクトエネルジー)
ヤングライダー賞 セルジオ・イギータ(コロンビア、EFプロサイクリング)
チーム総合成績 イスラエル・スタートアップネイション
text:Kei Tsuji

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