スイス、デューベンドルフ空軍基地で開催となった2020年のシクロクロス世界選手権。今年も観客たちを熱狂の渦に巻き込んだ、世界一を決めた舞台を、フォトグラファーの田辺信彦さんが現地で感じたことなどを交えて2回に渡って振り返ります。まずは前編から。



コースの奥には雪を冠したアルプスの山々が見えるコースの奥には雪を冠したアルプスの山々が見える (c)Nobuhiko.Tanabe柔らかく、深く重い路面柔らかく、深く重い路面 (c)Nobuhiko.Tanabe

プレスセンターはなんと戦闘機が鎮座する博物館の中にあったプレスセンターはなんと戦闘機が鎮座する博物館の中にあった (c)Nobuhiko.Tanabe
会場となるデューベンドルフ空軍基地へ到着したのがレース前日の金曜午前だった。チューリッヒからほど近く、会場目の前には駅もあってアクセスは非常に良い場所だ。雪を冠するアルプスを望むロケーションに、"スイスに来たのだな"という実感が湧く。

まずは選手たちの試走を確認しながらコースチェック。始まる前こそ超フラットでつまらないコースなのでは?と言われていたが、実際に現地に足を運ぶと全く異なる感想を抱いた。

空港の滑走路脇ということもあり、芝生や土手は踏み固められていない柔らかい土。そして週初めから降り続いた雨と、繰り返される試走で耕された路面はとにかく重く、深くなる。いつだかの、雨の野辺山シクロクロスの泥に覆われた芝ゾーンをさらに柔らかくぬかるませたような感じに近いと言えようか。歩くのですらなかなかに疲れるほどだ。ただし、天気自体は朝から晴れで暖かく、翌土曜日も晴れ予報。粘土を増した泥によって一層スピードとパワーが求められるだろうと感じた。

巨大フライオーバーを試走する日本代表選手たち巨大フライオーバーを試走する日本代表選手たち (c)Nobuhiko.Tanabe
圧倒されるほどの大きさのフライオーバーが5箇所も設置されている圧倒されるほどの大きさのフライオーバーが5箇所も設置されている (c)Nobuhiko.Tanabe笑顔で試走し調子の良さを感じさせるアンヌマリー・ワースト笑顔で試走し調子の良さを感じさせるアンヌマリー・ワースト (c)Nobuhiko.Tanabe


土手を使ったキャンバー区間は2箇所。昨年のボーゲンセ(デンマーク)ほどの落差は無いものの、急な登り返しが多くテクニックを必要とする。試走をしていた織田聖選手に話を聞いたところ、ラインさえ間違えなければすべて乗車でいける。ただし少しでも轍を外すと登れないほどシビアと言う。

驚くべきは5つも設置されたフライオーバーだ。メディアや観客としてもコース内を行き来しやすくなる嬉しい配慮だったが、選手にとっては嬉しいものではなかった。フライオーバーそのものは今まで見たことのないほど巨大で、斜度もキツく、かなり体力が奪われる。事実、女子エリートレースではこの巨大フライオーバーが勝負を分けることになる。

マルセル・デュシャン的洗車台マルセル・デュシャン的洗車台 (c)Nobuhiko.Tanabe
試走日から洗車場はフル稼働だ試走日から洗車場はフル稼働だ (c)Nobuhiko.Tanabeインタビューを受けるディフェンディングチャンピオン、サンヌ・カント(ベルギー)インタビューを受けるディフェンディングチャンピオン、サンヌ・カント(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabe


「ピットから洗車場までが遠く、洗車機の台数も限られるためトップチームのように一人に4台〜5台も揃えている選手には大きくアドバンテージがある」と言うのは毎年日本代表チームのメカニックを買って出てくれるランジット氏。「2台しかバイクのない選手のメカニックは息をつく暇もないだろう」とも。重く深い泥、芝生、巨大フライオーバー、そして刻々と変わる天気。フィジカル、テクニック、そして機材面など全てが問われる難コースであり、世界一を決めるにふさわしいものだと感じた。

初日朝は快晴、午後に向けて崩れる予報となった初日朝は快晴、午後に向けて崩れる予報となった (c)Nobuhiko.Tanabe
各カテゴリー戦力の高いオランダ。サポーター達のテンションも初日からかなり高い各カテゴリー戦力の高いオランダ。サポーター達のテンションも初日からかなり高い (c)Nobuhiko.Tanabeアップするオランダチーム。サポート体制ではライバルのベルギーよりも手厚く感じたアップするオランダチーム。サポート体制ではライバルのベルギーよりも手厚く感じた (c)Nobuhiko.Tanabe

圧倒的な強さを見せたシリン・ファンアンローイ(オランダ)とそれに湧くオランダ人サポーター達圧倒的な強さを見せたシリン・ファンアンローイ(オランダ)とそれに湧くオランダ人サポーター達 (c)Nobuhiko.Tanabe
翌日、初日の朝の天気は晴れ。予報では午後から雨になるというものだった。踏み固められたトラックは超ハイスピードで、深い芝生区間はヘビー。素晴らしいドラマが生まれるのを朝の時点で感じていた。

まず世界選手権の最初のレースとなるのは女子ジュニアだ。今年から新設されたカテゴリーで、世界初の女子ジュニアチャンピオンとなるべく選手の士気はかなり高い。そして朝早くから多くの観客が集まっているのだが、例年よりもオランダ人サポーターが多いように思う。おそらく今年は全カテゴリーに世界王者の可能性が高い選手が散らばっているからだろう。そして蓋を開けてみれば、その女子ジュニアでは優勝候補筆頭のシリン・ファンアンローイ(オランダ)が、ホールショットから圧倒的な力を見せて優勝。ワールドカップなどでもその力を見せる彼女らしい強い走りだった。そして同じくオランダのパック・ピーテルスが2位に入り、オランダ人サポーターは第1レースから大きく湧き上がることとなった。

全米王者、ゲージ・ヘクトのバイクに乗車したシンプソンズのバート全米王者、ゲージ・ヘクトのバイクに乗車したシンプソンズのバート (c)Nobuhiko.Tanabe前日から気温も高くセミスリックを選択する選手も多かった前日から気温も高くセミスリックを選択する選手も多かった (c)Nobuhiko.Tanabe

頭一つ抜けた強さを見せたライアン・カンプ(オランダ)頭一つ抜けた強さを見せたライアン・カンプ(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
強さを見せた地元スイスのケヴィン・クーン、スイスサポーターの応援も熱い強さを見せた地元スイスのケヴィン・クーン、スイスサポーターの応援も熱い (c)Nobuhiko.Tanabe
オランダの2連勝に湧くオランダサポーター達オランダの2連勝に湧くオランダサポーター達 (c)Nobuhiko.Tanabeケヴィン・クーン(スイス)の健闘に盛り上がるスイスサポーターケヴィン・クーン(スイス)の健闘に盛り上がるスイスサポーター (c)Nobuhiko.Tanabe


続くのは男子U23だ。今回のレースでもっとも選手のレベルが拮抗しており、誰が勝ってもおかしくないこのレース。オランダのライアン・カンプやピム・ロンハール、フランスのアントワン・ブノワ、スイスのケヴィン・クーンとロリス・ルイエ、イギリスのベン・トゥレットなど強豪が揃う。

まずホールショットを奪ったのはフランスのブノワだ。そこに続くのはオランダ勢とスイスのクーン。母国開催の世界選手権でクーンが先頭グループに加わり、アタックを繰り出すと会場は大きく湧いた。

あらゆるところではためくスイス国旗が大きく彼を後押ししたが、後半にかけてはカンプが本当に強い走りを見せた。さすが今シーズンでは他を寄せ付けぬ強さを見せてきただけあり、独走へ持ち込み勝利。2位は観客を味方をつけて素晴らしい走りを披露したクーンだ。この結果に多くのスイス人サポーターが歓喜し大騒ぎ。オランダはこの日2人の世界チャンピオンを生み、同国サポーターの熱狂ぶりも半端ではない。そして、これから始まる女子エリートに向けて期待とテンションが最高潮に達した。

黙々とアップするサンヌ・カント(ベルギー)黙々とアップするサンヌ・カント(ベルギー) (c)Nobuhiko.Tanabeスタートラインで談笑するセイリン・デルカルメンアルバラードとルシンダ・ブラント(オランダ)スタートラインで談笑するセイリン・デルカルメンアルバラードとルシンダ・ブラント(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe

コンディションは変わらずだが、キャンバーでのミスを減らすためか男子U23と違いオールラウンドなトレッドパターンを選ぶ選手が多い印象コンディションは変わらずだが、キャンバーでのミスを減らすためか男子U23と違いオールラウンドなトレッドパターンを選ぶ選手が多い印象 (c)Nobuhiko.Tanabe
女子エリートも男子U23レースと並ぶほどの強豪揃い。オランダのセイリン・デルカルメンアルバラード、ルシンダ・ブラント、アンヌマリー・ワースト、ヤラ・カステリン、4連覇を目指すサンヌ・カント(ベルギー)、アメリカのケイティー・コンプトンなど、こちらも誰が勝ってもおかしくない。前日試走でブラントはシクロクロスレジェンドであり彼女のチームの監督であるスヴェン・ネイスによるライン取りなどアドバイスを熱心に受けていた。ワーストは男子エリート選手とともに笑顔を見せながら楽しそうに試走しておりその調子の良さが伺えた。この二人が大きなカギを握ると感じた。

15時、予想された天気予報とは異なり、雨は降らずどんよりとした曇り空。ライン上はこれまでの2レースによって踏み固められ、この日一番のハイスピードコースへと姿を変えた。ホールショットを奪ったのはアルバラードだ。初めてのエリートでの世界選手権に挑戦する彼女だが、今年のオランダナショナルエリートタイトルも取り、ワールドカップでも一際目立った強さを見せている。そして続くのはワーストとブラント。ここからの近年最も白熱した、記憶に残るレースが始まった。

ペースアップをはかるルシンダ・ブラント(オランダ)ペースアップをはかるルシンダ・ブラント(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
ワーストとブラントの様子を伺うセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ)ワーストとブラントの様子を伺うセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
アンマリー・ワーストもアルバラードとブラントを引き離すきっかけを生もうと幾度もアタックをかけるアンマリー・ワーストもアルバラードとブラントを引き離すきっかけを生もうと幾度もアタックをかける (c)Nobuhiko.Tanabe
後続を突き放したオランダ3名による、めまぐるしいアタックの応酬。オランダ人サポーターはもちろん、その場にいる全観客が戦いに魅せられ熱狂する。撮影する僕もその興奮に撮影を忘れてしまいそうになるほどだ。

ミスがなく完璧なレース運びをするのはワーストとアルバラード。だが決定的な差は生まれず一進一退。続くブラントはメカトラで少し後退するも、持ち前のパワーでトップ合流。後半にもミスで後退するも、最終周回にまたトップへ合流するという熱い走りを繰り広げる。

3人によるスプリント決着かと思われたその矢先、最後のフライオーバーでは2人よりも脚を使っていたブラントが遂に遅れ、ワーストとアルバラードの一騎打ちに持ち込まれた。

 劇的なゴールスプリントで勝利するセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ) 劇的なゴールスプリントで勝利するセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
全ての力を出し切ったゴールスプリント。アルバラードは攣った両足を引きづり、母に肩を借りてポディウムへ向かった全ての力を出し切ったゴールスプリント。アルバラードは攣った両足を引きづり、母に肩を借りてポディウムへ向かった (c)Nobuhiko.Tanabeゴールスプリントで敗れたワーストはゴール後泣き崩れてしまうゴールスプリントで敗れたワーストはゴール後泣き崩れてしまう (c)Nobuhiko.Tanabe


先行したワーストがゴールに向けて加速したが、その後ろにぴったりとついたアルバラードが力強いスプリントを見せゴール直前で抜きさり、悲願の世界チャンピオンへと輝いた。

全身全霊を全て出し切ってレース、そしてスプリントをした2人は共に倒れこみ、共に涙をこぼす。これこそがレース。本当の戦いなのだと心を打たれ、感動した。勝者のアルバラードは激しいスプリントを見せた直後両足を攣り、泣きながら母親の肩を借りてポディウムへ向かった。この素晴らしいレースを目の当たりにした、会場にいる全ての人がその戦いに歓喜したのだった。

悲願のアルカンシェル、最高の笑顔でポディウムに上がるセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ)悲願のアルカンシェル、最高の笑顔でポディウムに上がるセイリン・デルカルメンアルバラード(オランダ) (c)Nobuhiko.Tanabe
大興奮のオランダ、アルバラードサポーター達。中央にはセイリンの弟、サルヴァドールの姿も大興奮のオランダ、アルバラードサポーター達。中央にはセイリンの弟、サルヴァドールの姿も (c)Nobuhiko.Tanabe
この日は全レースでオランダが世界チャンピオンを獲得するという快挙。オランダサポーターたちは夜遅くまでDJのいるテントで大盛り上がりしていたのは言うまでもない。一方、それをよそに日が落ちた時間からコースフェンスが吹き飛ぶほどの強風が吹き、一気に天気は悪くなって雨も降り始めた。

この雨は明日いっぱい続く予報だ。コースコンディションは一変してマッドコンディションでタフなものになるだろう。激しくドラマティックなレースになるはずと確信したのだった。



田辺信彦aka”NB”プロフィール

フリーランスフォトグラファー。自転車を中心としたあらゆるスポーツや、音楽などの中心に宿るカルチャーを、写真を通じて美しく切り取る。ヨーロッパのシクロクロスに魅せられ、それを切り取った写真集プロジェクト「CROSS IS HERE」を進行中。

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