埼玉県さいたま市を拠点とする新チーム「さいたまディレーブ」は、10人目の選手として辻善光の加入を発表した。さいたまディレーブは体制発表会の際に9名の選手を発表していたが、もう1名とは契約交渉中であるとしていた。引退から5年経過しての選手復帰について、辻本人から寄せられたコメントも併せて掲載する。



2010年ツール・ド・熊野第1ステージで優勝した辻善光2010年ツール・ド・熊野第1ステージで優勝した辻善光 photo:Hideaki.TAKAGI2012年白浜クリテリムで優勝した時は、発足したばかりのチーム右京に所属2012年白浜クリテリムで優勝した時は、発足したばかりのチーム右京に所属 photo:Hideaki.TAKAGI

辻善光は宇都宮ブリッツェンやチーム右京などでスプリンターとして活躍。2010年ツール・ド・熊野でステージ優勝、Jプロツアーでもスプリント勝負となるクリテリウムで優勝を重ねた。2013年の第1回ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムでは、ペーター・サガンとポイント賞を争うスプリントをして競り勝って見せた。

2014年、レース中に不整脈が原因の発作で倒れ、心臓の手術を受けたことをきっかけに選手を引退。その後はトレーナーとして活動する傍ら、TeamZenkoとして個人でシクロクロスやトライアスロンに出場。今年はツール・ド・おきなわ市民210kmに出場した。

2020年は選手活動と並行してトレーナー業も継続するとしている。

ペーター・サガン(キャノンデール)と競り合う辻善光(湘南ベルマーレ)ペーター・サガン(キャノンデール)と競り合う辻善光(湘南ベルマーレ) photo:Makoto.AYANO
「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」出場を目指すさいたまディレーブは、スプリンターやスピードマンタイプの選手が揃っており、辻の加入によりさらにスプリンター色の強いチームとなりそうだ。



辻善光コメント全文「サガンと競り合った時のような走りができると信じて」

2014年 不整脈のため心臓手術を受ける2014年 不整脈のため心臓手術を受ける 提供:辻善光引退して5年が経ち、今また走ることになりました。

マトリックス、宇都宮ブリッツェン、チーム右京、湘南ベルマーレとトップチームでエースとして走っていました。身体の不調から戦うモチベーションの低下とレースへの恐怖心、そして不整脈の手術をしたことで心拍数を上げることに不安を感じ2014年に引退しました。

引退後はTeamZenkoと名乗り、シクロクロスやトライアスロンに出場しながらトレーナーとして活動しました。企業に所属せず、個人としての活動に様々な企業とサポーターの皆様に支えていただき今日まで活動を続けることができました。自転車競技だけでなく、陸上競技やフィギュアスケート、トライアスロンの選手のトレーナーをしたことにより多くの知識と経験を得ることができました。

そこから自分自身を見つめ直し、2019年7月からトレーニングを再開しました。心拍数を上げる恐怖心はなくなっており、自転車に乗ると現役時代に感じた”調子がいい”感触を繰り返し再現することができるようになりました。

2018年は東京マラソンに出場2018年は東京マラソンに出場 提供:辻善光トライアスロンの大会にも出場トライアスロンの大会にも出場 提供:辻善光

引退するときにエースのまま引退することに対してすごく悩みました。エースとアシストから成り立つこの競技でアシストしてもらった恩返しをせずに辞めてしまったのではないかと自問自答を繰り返していました。今ならアシストとして走ることができるのではないかと感じましたが、プロの世界で走っていた者として、35歳で復帰することは無理だと理解していました。

9月初旬にさいたまディレーブが発足するというニュースを見ました。そして宇都宮ブリッツェンのときに共に戦った長沼君が代表になると知りすごく嬉しく思いました。9月末にウエアメーカーのサンボルトに長沼代表が来ることになり、ミーティングに同席しました。そこでもう一度走らないかと提案を受けました。

陸上の藤光謙司選手をケアする辻善光。トレーナーとしての経験が自身のトレーニングにも活かせるという陸上の藤光謙司選手をケアする辻善光。トレーナーとしての経験が自身のトレーニングにも活かせるという 提供:辻善光現在全力で身体を戻すトレーニングをしています。5年ものブランクがありますが空白の5年間ではなかったと思っています。かっこ悪い走りから始まるかもしれませんが、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウムで2013年にサガンと競り合ったときのような走りができると信じてトレーニングをしています。

毎年、不整脈に悩んでいる方から相談を受けます。レース中に起こった発作により死にかけましたが適切な処置をし、今また全力で走れるようになりました。僕が伝えることで苦しみだけでなく、命も救えるかもしれません。走ることで勇気づけることができる選手になれるよう、ラストチャンス頑張りますので応援よろしくお願いいたします。

text:Satoru Kato