2020年モデルとしてスコットはオールラウンドロード「ADDICT RC」のモデルチェンジを行った。軽量マシンとして名を馳せるADDICT RCのラインアップより、ULTEGRA完成車をピックアップしインプレッション。ULTIMATEに次ぐミドルグレードフレームの実力に迫る。



スコット ADDICT RC 30スコット ADDICT RC 30 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スコットのロードバイクと言えば軽量性というイメージを持つ方も少なくないのではないだろうか。スコットは世界で初めてフレーム重量1kgを下回るTeam Issueを2001年にリリースしてから、名車と名高いCR1と続き、軽量ロードのパイオニアとしての立ち位置を確立。CR1登場以後、各メーカーはロードバイクの軽量化を目指した開発競争が激化したことを顧みてもその影響力は小さくなかったことがわかるだろう。

CR1を投入した4年後の2007年、リリースされた初代「ADDICT」は、フレーム重量790g、フォーク重量330g、市販完成車重量が5.9kgと世界最軽量バイクとして世界に衝撃を与えた。更に、当時最強のスプリンターであったマーク・カヴェンディッシュと彼をフィニッシュに導くリードアウトマンたちの圧倒的ハイパワーにも耐えうる剛性を備えたバイクとして、ADDICTは選手たちから厚い信頼が寄せられた。

ケーブル類が一切露出しないヘッド周りのデザインケーブル類が一切露出しないヘッド周りのデザイン 非常に独創的なシートクランプを採用する非常に独創的なシートクランプを採用する カーボン製のD型断面シートポストが採用されているカーボン製のD型断面シートポストが採用されている


フレームとフォークの合計重量が1kgを切り、軽量性に磨きを掛けた2013年のモデルチェンジ以降、スコットのADDICTは長らく変更が加えられること無くUCIワールドツアーを走り続けてきた。各社が次々と新しいモデルをレースに投入していく中で、ミッチェルトン・スコットは2013年生まれの2代目ADDICTを駆り、サイモン・イェーツ(イギリス)によるブエルタ・ア・エスパーニャ2018総合優勝を果たすなど好成績を収め、バイクが高性能であることを示し続けてきた。

2019年、2代目が誕生してから丸6年、スコットは満を持してADDICTのモデルチェンジを行った。今回の進化でスコットはADDICTにはリムブレーキモデルを用意せず、ディスクブレーキのみラインアップするという舵を切る。現段階でリムブレーキの自転車と比較するとディスクブレーキモデルは重量が増すことは事実。それを飲み込んだ上で、スコットは自転車としてのパッケージ全体での軽量性、空力を含むオールラウンドな性能を追求する自転車として新しいADDICTの開発を行っている。

フレームの各部にエアロ形状を取り入れているフレームの各部にエアロ形状を取り入れている ADDICT RC 30は機械式変速、ステムとハンドルが別体ながら内装式としているADDICT RC 30は機械式変速、ステムとハンドルが別体ながら内装式としている

軽量性を追求したリアエンド形状軽量性を追求したリアエンド形状 非常に短いヘッドチューブも特徴だ非常に短いヘッドチューブも特徴だ


新型のポイントとなるのはフレームとフォークのみならず、コックピット、シートポスト&クランプなど全てスコットの設計思想が反映されていること。バイクブランドの領分であるフレームにはFOILで採用される「F01エアフォイル」という空力に優れたチューブ形状が与えられるとともに、カーボンレイアップなど細かい部分のアップデートが行われている。

フレームの進化も重要な部分ではあるが、新型ADDICTの技術的コアは、傘下のパーツブランド"シンクロス"と共同開発を行ったワイヤー類のフル内装システムだ。エアロダイナミクスとルックス上の観点から、最新バイクの必須事項とも言える設計の1つとなっている。これを実現するアプローチはオリジナル設計やパーツブランドが開発したシステムを採用していたりとアプローチ方法はそれぞれ異なる。

フロントディスクブレーキを留めるボルトはマグネットカバーで隠されるフロントディスクブレーキを留めるボルトはマグネットカバーで隠される 剛性を14.5%も向上したというBB周り剛性を14.5%も向上したというBB周り


スコットのコックピットシステムは傘下のパーツブランドであるシンクロスとの共同開発とすることで、ハンドルとステム、ヘッド、ステアリングコラムを狙ったパフォーマンスを実現している。加えて、ステム一体型ハンドルだけではなく、別体のハンドルとステムも用意することで、新型ADDICTは全てのグレードで内装化を実現している。

先述したように新型ADDICTは、フレーム、フォーク、コックピット、シートポスト&クランプを含むパッケージで開発が行われている。その結果、今回インプレッションを行うHMXカーボンを使用したセカンドグレードでトータルで-100gのダイエットに成功している。HMX-SLカーボンを使用した「ULTIMATE」グレードでは-160gという大幅な軽量化が行われている。オールラウンドでありながら、ヒルクライマーたちの活躍に貢献する軽量バイクに仕上げられている。詳細のテクノロジーは登場時の特集Vol.1とVol.3が詳しい。リンクはこちら

カーボン製のD型断面シートポストが採用されているカーボン製のD型断面シートポストが採用されている カムテールデザイン「F01エアフォイル」のダウンチューブカムテールデザイン「F01エアフォイル」のダウンチューブ 非常にハイボリュームなフロントフォーク非常にハイボリュームなフロントフォーク


ADDICTにはフラッグシップのULTIMATEと、セカンドグレード以降のPREMIUM、PRO、10、20、30という6種類のラインアップが揃う。ULTIMATEにはこれまでADDICT SLで使用されてきたHMX-SL素材ではなく、近年のスコットMTBで使用されている一歩進化させたHMX-SLを使用。この素材はロードバイクでは新型ADDICT RC ULTIMATEにのみ使用されている。

PREMIUMとPROグレードには従来通りハイエンドと位置づけられたHMXカーボンを採用。ミッチェルトン・スコットの選手たちも基本的にこのグレードのフレームを使用しているという。新型ADDICTのカーボン素材トピックとして、10、20、30というナンバリングモデルに採用されていたミドルグレードのカーボン素材、HMFを使用しなくなったこともあげられる。ナンバリングモデルでも高強度のHMXカーボンとすることで、末端までパイプ構造の超軽量フレームの設計が可能になった。

PREMIUMおよびPROグレードは、カーボン製の専用一体型バーステム”CRESTON iC SL”を使用し、数字グレードはアルミ製の専用ハンドル/ステム”CRESTON iC 1.5ハンドル”と”RR iCステム”を使用しているのが大きな違い。

今回インプレッションを行うのはベースモデルのADDICT RC 30。上位グレードと同じフレームを使用しながらも、コストパフォーマンスに優れた1台に仕上がる。シマノULTEGRAのコンポーネントが搭載され、完成車重量7.95kgのバイクをインプレライダーたちはどう評価するのか。インプレッションに移ろう。



― インプレッション

「高剛性バイクが好みの方には最高の1台」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

剛性が非常に高く、硬い自転車が好みの方には最高の1台でしょう。従来のADDICTとエアロロードのFOILを足して2で割ったような走行性能で、パワーを掛けてあげるとスイスイっと自転車が軽やかに加速していきます。エアロであるし、なおかつ山岳もカバーする。従来の2モデルの中間に位置する良い感じのバイクですよ。

「高剛性バイクが好みの方には最高の1台」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)「高剛性バイクが好みの方には最高の1台」遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)
重いギアで思いっきり力をかけるとスプリントが気持ち良く伸びていってくれるので、パワー重視で走っているライダーが乗れば加速感が優れていると感じられるでしょう。スプリンター系の選手であれば、私が感じた以上にスピードが伸びていくと思いますし、これでスプリントもいけるはずです。FOILを使用しなくても良いかもしれないとも感じさせられました。

とはいえ登坂能力が衰えた訳ではなく、平地での走行性能が向上しオールラウンド性が増したという印象です。ただ、どのような脚質が適しているかと言ったら、軽量ヒルクライマーよりも体重のあるパワー系ライダーの方が扱いやすいと思います。バイク全体としては剛性が高いため、ロングライド向きではなく、レース向きバイクです。

ディスクブレーキ化による影響ですが、フロント周り、特にハンドリングのフィーリングはリムモデルと大差ない印象があります。剛性が高くなっていると感じますが、リムブレーキからディスクブレーキへの違和感なく移行できるはずです。新車はディスクブレーキモデルと考えている方であれば、新型ADDICT RCは選択肢に入れても良いでしょう。

28Cタイヤが標準で装着されていますが、漕ぎ出しの軽さは今までと変わらず、走りには影響していません。現在のスコットは28Cが標準となっており、今後はこのように太いタイヤがスタンダードになっていく機運があります。プロ選手の中でも太いほうがコーナーを攻めやすいという意見があるようですし、太いからと言って走りが遅くなるわけではありません。グリップや衝撃吸収の面を考慮するとワイドタイヤのほうがメリットがあると思っているので、そのまま使用しても問題はありません。

インプレを行ったバイクは機械式変速のシマノULTEGRA完成車でしたが、プロ選手が使用しているフレームで47万円という価格はかなりお買い得ですよ。アルミホイールなどパーツ交換の余地は残されているので、この完成車をベースに少しずつアップグレードしていくのも一つの手です。2020モデルで乗り換えを考えていて、かつトップモデルが良いという人ならこのモデルは狙い目ですよ。

「踏み込んだ時、俊敏に加速してくれる高剛性バイク」流郷克哉(ユーキャン)

「踏み込んだ時、俊敏に加速してくれる高剛性バイク」流郷克哉(ユーキャン)「踏み込んだ時、俊敏に加速してくれる高剛性バイク」流郷克哉(ユーキャン) 新型のADDICTは軽さにフォーカスしたいバイクですね。自転車として軽量ということもありますが、何よりもフレームの乾いた高剛性感が演出する走りの軽やかさが特徴です。ディスクブレーキロードの中でも非常に踏み出しが軽いです。それは従来のADDICTの性格を受け継いでいる部分ですし、ブレーキの変化に合わせてバージョンアップが行われた結果だと思います。完成車がアルミホイール、チューブドの28Cタイヤを使用していることを考慮しても、同じ足回りのセッティングとしたリムブレーキモデルでは実現できないであろう軽快さを感じます。

フレームの挙動としては、大きな力を入れた際フレームから脚に伝わる跳ね返りのリズムが早いという特徴があります。綺麗にペダルを回すスキルを持つライダーやダンシングを多用する方がフレーム性能を活かせるという印象で、いわゆるガチャ踏みと言われるような適当なペダリングでは、剛性が高いだけに脚へのダメージが顕著に表れてくると思います。

ADDICTの剛性感は特別に硬い部分があるわけではなく、バイク全体として高剛性に仕上げられています。ディスクブレーキロードに共通する性格だと考えていますし、バイク全体が硬いという性格はこれからのロードバイクの傾向になっていくでしょう。プロ選手たちの走り方も軽いギアをクルクルと回すペダリングとなっていますし、乗車姿勢も昔と比べると変化しています。ディスクロードを買う場合は、綺麗に回すペダリングを身につけたり、ポジションを見直したりしてもいいかもしれませんね。

ディスクブレーキによる恩恵は、バンピーな路面でも車体が跳ねにくい性格にも繋がっています。リムブレーキモデルでADDICTのように高い剛性としようとするとリアが暴れてしまうでしょう。路面からのゴツゴツとしたインフォメーションは身体に伝わりますが、後輪は接地し続けてくれます。デフォルトで装備されているタイヤが28Cとワイドな物という事は理にかなっているということですね。

FOILはペースを維持させる走り方を得意としていますが、ADDICTは出入りが激しいレースと言った反応性が求められるシチュエーションで輝きます。レーサーではなくてもペダルを綺麗に回すことができれば、ADDICTの魅力を引き出せるはずです。

ただセッティングによって好みの味付けができる車体だとも思います。例えば、標準装備からチューブレスタイヤに変えれば、ADDICTの高剛性による性格をカバーすることができるでしょう。ホイールという面でも、これから続々とキャラクターが異なるカーボンモデルがリリースされると思うので、自分の好みに合わせられる可能性は大きいです。ADDICTは高剛性で反応性に優れ、ハンドリングも良好というロードバイクとしての基本を抑えたバイクでした。

スコット ADDICT RC 30スコット ADDICT RC 30 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スコット ADDICT RC 30
フレーム:Addict RC Disc HMX Road Race geometry /Replaceable Dropout internal cable routing
フォーク:Addict RC HMX Flatmount Disc 1 ¼” – 1 ½” Eccentric Carbon fork steerer
ステム:Syncros RR iC 1 1/4”
ハンドルバー:Syncros Creston iC 1.5 Compact Alloy
コンポーネント:Shimano Ultegra
ホイール:Syncros RP2.0 Disc
タイヤ:Schwalbe ONE Race-Guard Fold 700x28C
サイズ:XXS/47、XS/49、S/52、M/54、L/56
重量:7.95Kg
価格:468,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)遠藤健太(サイクルワークス Fin’s) 遠藤健太(サイクルワークス Fin’s)

新潟県長岡市に店舗を構えるサイクルワークス Fin’sの店長。学生時代にBMXから始まり、MTBやロードバイクまで幅広く自転車を楽しむバリバリの走れる系店長。2012年には全日本選手権ロードに出場した経験も。お店は完璧なメカニックサービスを提供するべく、クオリティの高い整備が評判だ。ショップ主催のサイクリングやレース活動に積極的で、初めての人から実業団レースで活躍したい人まで手厚いサポートを心がける。

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サイクルワークス Fin’s HP

流郷克哉(ユーキャン)流郷克哉(ユーキャン) 流郷克哉(ユーキャン)

東京、神奈川、静岡、山梨で展開するサイクルショップ「YOU CAN(ユーキャン)」に勤めて20年。大磯店や海老名店に立ちながらもエリアを統括するマネージャーとして働く。選手時代は脱サラ後、複数チームを経て30歳で日本鋪道と契約。フランスにも単身渡仏しレース活動を行う。生涯成績はジャパンカップアマチュア部門優勝、ツールド東北ステージ優勝など。2004年に引退し現在はクラブチームの若手育成にも力を注ぐ。

ユーキャン HP

text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto.AYANO