昨夜、NTTプロサイクリングに加入することが発表された入部正太朗。一夜開けた15日、都内で共同会見を開き、移籍の経緯や心境を語った。



東京都内のホテルロビーで開かれた会見には、NTTプロサイクリングのダグ・ライダーGMも同席。入部はシマノブルーより濃い青のチームシャツを着て会見に臨んだ。

NTTプロサイクリングのダグ・ライダーGMと握手する入部正太朗NTTプロサイクリングのダグ・ライダーGMと握手する入部正太朗 photo:Satoru Kato
― チームNTTへの移籍が決まった経緯は?

全日本選手権後の7月に話があって、その後エージェントを通してやり取りしていたが進展がありませんでした。本当に動き出したのは10月のジャパンカップが終わったあたりからで、契約書にサインしたのは昨日(14日)です。決まった時は「人生で最も幸せだ」と、つたない英語で言いました。サインしてまだ12時間くらいしか経ってません。

ダグ・ライダーGMと共に質問に答える入部正太朗ダグ・ライダーGMと共に質問に答える入部正太朗 photo:Satoru Kato― 急な話でしたが、準備はこれから?

チームキャンプが12月にスペインで行われるので、そこから合流します。

意識としては常に目指していたところだし、トレーニングもして準備はしていました。それ以外のところは色々問題があると思っています。まず英語だけのコミュニティに入ることはこれまでなかったことで、勉強はしているけれど、実際に話している場は違う。コミュニケーション出来るように頑張っていかねばならないです。

目標としているヨーロッパにチャレンジ出来ることに関しても、国内でずっと続けていて今年30歳という年齢で世界に挑戦することは決して簡単なことではないと十分承知しています。ワールドツアーがいかに厳しいところかは十分想像出来ているので、不安はあります。

自分の夢に向かっていろんな人に尽力してもらって、チームメイトにもアシストしてもらって全日本選手権で勝てました。みなさんのおかげで自分の夢を一歩進めることが出来たので、全身全霊をかけて命がけで可能な限りチャレンジしていきたいです。

― これまで海外を拠点に活動した最長期間はどのくらいですか?

今まではシマノレーシング1年目にオランダとベルギーを拠点に1ヶ月間滞在したのが最長です。今年は数年ぶりにヨーロッパに1ヶ月滞在して、スペイン、イタリア、チェコなどのレースに出ました。経験値としては多くないですね。

2018年ツアー・オブ・タイランド第2ステージで優勝した入部正太朗2018年ツアー・オブ・タイランド第2ステージで優勝した入部正太朗 photo:Satoru Kato― これまでアジアツアーのレースなどで優勝していますが、レベルがさらに上のレースになりますね?

アジアのレースでは勝負に絡めたこともあったし、今年のツール・ド・ランカウィでもラスト1kmまで逃げました。そこでは自信を持つことが出来たけれど、今年のヨーロッパ遠征した時にアジアとは雰囲気もレベルも違うなと感じました。出たのは1クラスや2クラスのレースだけれど、アジアの同じクラスよりレベルが上でした。ワールドツアーは未知の世界だし、走って衝撃を受けるだろうと思います。そこで戦うと決めたので、チャレンジしていきたいです。

例えば中根英登選手は大学の頃から知っているけれど、ヨーロッパに行って力をつけ、ジャパンカップで帰ってきても(海外勢に)見劣りしない走りを見せて先頭集団で戦っています。本人からヨーロッパで戦うのは厳しいと聞いたこともあるが、参考になる部分もあるし、色々話を聞きながら最善の走りが出来るようになりたい。

― 出てみたいレースは?

現実的にどのレースに出たいというのは言えないが、これから見る世界は全てが大きな目標の第一歩だし、それらをしっかり見てしっかりチャレンジしたい。その上で結果を出せるように頑張りたいです。中根選手も言ってましたが、レベルが高すぎるので「ツール・ド・フランスでステージ優勝が目標」なんて簡単に言えないです。まずはチームに貢献して勝利に携われることが第一と考えてます。勝ってみんなで喜んでいるところに入りたいですね。もちろん3大ツールは走ってみたいですが。

「これから見る世界は全てが大きな目標の第一歩」と入部正太朗「これから見る世界は全てが大きな目標の第一歩」と入部正太朗 photo:Satoru Kato― プレッシャーはありますか?

プレッシャーは当然あります。昨日の発表に多くの反響があったし、辛口のコメントもありました。それは十分承知しています。でもこうやって頂いたチャンスなので、全力でチャレンジしたいです。

全日本の時は新城(幸也)選手や別府(史之)選手が単騎で参戦してレースを動かしていましたが、次は自分がそうならなければならない。これからより一層努力していかなければならないと思っています。全ての点において数段パワーアップしていかねばならないし、甘くは無いと思っています。

競技を始めた時から、全日本選手権優勝、ワールドツアーチームに入って世界を見ること、オリンピック出場が3大目標であり、夢でした。そのスタートラインに立てたので、今は不安とかプレッシャーよりも挑戦する楽しみが大きい。僕らしく頑張っていきたいですね。

― これまでシマノレーシングに在籍してきたことについて、どう思っていますか?

僕は当初からシマノレーシングの環境に満足していていましたが、海外レースの出場が少ないからステップアップが難しいと言われたこともありました。でもツアー・オブ・ジャパンやジャパンカップ、ツール・ド・北海道など国内のUCIレースを総なめするようになればステップアップ出来ると考えていました。だから、レースが少ないからステップアップ出来ないとは考えていなくて、力をつければ上に行ける、それが出来ないのは自分の力が足りないからだと考えていました。過去に他チームからお誘いを頂いたこともありましたが、区切りをつけるならプロコンチネンタル以上と考え、シマノレーシングでの8年間を過ごしてきました。

今回は実力と言うよりも、全日本選手権でアシストしてくれたチームメイトや、ご尽力頂いた方々のおかげだと思っています。


NTTプロサイクリング ダグ・ライダーGM コメント

12日のチーム発表会で質疑に答えるダグ・ライダーGM12日のチーム発表会で質疑に答えるダグ・ライダーGM photo:So.Isobeグローバル企業であるNTTをメインスポンサーに迎えた我々にとって、日本人選手ワールドツアーに昇格させることは、これまで我々がアフリカ、エリトリア、ルワンダやモロッコ、アルジェリアから獲得してきたのと同じく、素晴らしいことだと考えています。現在ロードレースのマーケットは拡大を続けており、例えばツール・ド・フランスを制したエガン・ベルナルも、これまでロードレースの中心であった西ヨーロッパではないコロンビアの出身です。

我々にとって(NTTは)いちスポンサーではなくタイトルスポンサーの日本企業。長年の間、新城や別府はツール出場などを通して(日本人が活躍する)素晴らしいステップを踏んできました。その流れの中で入部の加入は大きなことだと考えています。今回入部と会い、非常にアグレッシブで、積極的にチャンスを見出して走る彼の選手としてのキャラクターを評価しました。そして我々としても、より日本のレース界に関わっていくことを考えています。ジャパンカップの主催者チームと会って来年の参加について話合いました。そして日本ナショナルチームのコーチとも会い、才能のある若手選手がまだまだ控えていること、イタリアで走っていることを確認しました。ですから今回のコラボレーションは、日本の自転車競技界、各チーム、クラブチームにも大きな意味を持たせることができると考えています。NTTもその活動を後押ししてくれますし、我々にとって非常にエキサイティングなことです。

12日のチーム発表会に出席したチームNTTのメンバー12日のチーム発表会に出席したチームNTTのメンバー photo:So.Isobeアグレッシブで、積極的にチャンスを見出して走る入部のキャラクターは、レースを楽しみ、積極的にチャレンジしていく我々のチームにとっても相性が良い。アグレッシブな走りで彼のチャンピオンジャージを示しつつ、日本人選手であることを示してほしい。このチームは国際色豊かなチームでダイバーシティを尊重し、マルチカルチャーな雰囲気です。入部選手の成長も期待しています。

昨晩の夕食時にアワーレコード保持者であるカンペナールツが彼の隣に座っていたのですが、今年までベルギーチームのロット・スーダルに、そのまえにオランダチームのユンボ・ヴィズマに所属していた彼は「このチーム(NTT)はこれまで所属したチームとは全く違い、とても国際色が豊かで、お互いを知ることでお互いの国のことを知ることができる」と言っていました。その中で入部の加入はよりチームに深みをもたらします。

もちろんコンチネンタルチームからワールドツアーへの昇格は「ビッグジャンプ」です。彼がこれまで走ってきたレースよりもハイレベルな舞台で走ることになりますし、ヨーロッパに移住することも大きな変化です。我々は年間280日以上もの過密なスケジュールを過ごしていますが、対する彼は80日。しかし6時間のワンデーレースでしっかりと走れますし、まずは厳しいワンデーレースや、1週間程度のステージレースで慣らしていくことが大切です。ただし彼自身もハードワーカーですし、我々の経験豊富なチームメイトたちから様々なことを伝えつつ、経験値を高めてもらえればと感じています。今後のレースプランはこの後行われるトレーニングキャンプでの走りによって決まります。

text:Satoru Kato

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