さいたまクリテリウムに参戦したブエルタ覇者プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)。翌日には五輪コースを試走し、帰国までの僅かな時間を割き、ビアンキストアで行われたサイン会でファンサービスに務めた。「コースに好感触を得た」と言う彼の1日に同行し、今シーズンや五輪コースについて聞いた。



五輪コースのフィニッシュ地点、富士スピードウェイに現れたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)五輪コースのフィニッシュ地点、富士スピードウェイに現れたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ) photo:So.Isobe
さいたまクリテリウムの喧騒から一夜明け、ブエルタ覇者の証であるマイヨロホを着てさいたま市内を沸かせたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)の姿は東京都内にあった。彼が乗り込んだクルマが目指したのは富士スピードウェイ。本人たっての希望にA.S.O.が協力し、さいたまクリテ翌日の日中を使って五輪コースの下見に向かったのだった。

「スキージャンプ時代に長野の白馬に滞在したことがあるので、日本は多分15年ぶりくらい。すごく美しい自然に感動したのを覚えているよ。今回のさいたまではたくさんのファンが迎えてくれたのでとてもびっくりした。選手仲間から聞いていた評判通り、素晴らしい時間だった」と、ログリッチェ(通称ログラ)はライドの準備をしながら答える。会話の途中にはスキージャンプの葛西紀明選手や原田雅彦選手の名前も飛び出した。

準備を進めるログリッチェと、OLTRE XR4準備を進めるログリッチェと、OLTRE XR4 いつでもスタンディングいつでもスタンディング


三国峠の急勾配区間を駆け上がるログリッチェ三国峠の急勾配区間を駆け上がるログリッチェ photo:So.Isobe
 走るにつれて表情が明るくなってくる 走るにつれて表情が明るくなってくる 昼食に選んだのは握り寿司ランチ昼食に選んだのは握り寿司ランチ


さいたまクリテで着用したマイヨロホではなく、黄色いチームジャージを身にまとい、五輪レースの勝負所となる三国峠の感触を試したログリッチェ。ブエルタを獲った時よりも一回りふっくらしているものの、急勾配区間も涼しい顔で登りきり「こんなのは坂じゃない」とジョークを飛ばす。山中湖畔の平坦区間ではトレーニングペースで踏み込み、本番を想定しながら籠坂峠(下り区間)までの距離を確かめた。

今季UAEツアー総合優勝を皮切りに、ティレーノ〜アドリアティコ総合優勝、ツール・ド・ロマンディ総合優勝、ジロ・デ・イタリア総合3位、ブエルタ総合優勝など、ワールドツアーステージレースでの最多勝利を記録するなど飛躍のシーズンを過ごしたログロッチェ。

試走前こそ疲れと時差ボケ(少なからず前日夜のお酒の影響も)で眠たそうだったものの、距離を重ねるにつれて表情も回復。駐車場に戻ると「登りも下りもすごく良い感じ。特に三国峠から少し下ったところの富士山と山中湖を見渡す景色は綺麗だった」とコースにも好感触を得た模様。汗を流しつつ来年7月末の宿泊先を探したりと、本番に向けての意欲を高めたようだ。

ビアンキストア丸の内で開催されたサイン会には大勢のファンが詰め掛けたビアンキストア丸の内で開催されたサイン会には大勢のファンが詰め掛けた 自身の記念モデルにサインを入れる自身の記念モデルにサインを入れる

ファンのビアンキバイクにサインを入れるファンのビアンキバイクにサインを入れる 急遽イラストを仕上げてきたというファンの方と急遽イラストを仕上げてきたというファンの方と

整理券を取り損ねたファンに対してもファンサービスに務めた整理券を取り損ねたファンに対してもファンサービスに務めた photo:So.Isobe
本人たっての希望で寿司ランチを楽しみ(しかし醤油とイクラが好みではなかった)、渋滞に巻き込まれながら東京に戻った後は、家族へのお土産を探すために銀座でショッピング。その後はサイクルヨーロッパジャパン主催による、ビアンキバイクストア丸の内で開催されたサイン会に趣いてファンとの交流を楽しんだ。急遽決定したサイン会は当日夕方に告知されたにも関わらず、50人分の整理券はあっという間に配布終了し、合計100人以上のファンが詰め掛けた。サイン会終了時間を遥かに過ぎても整理券を取り損ねたファンに対し、サインや写真の要望に応え続けるチャンピオンの姿がそこにはあった。

以下にインタビューの模様を紹介する。飛躍のシーズンを過ごしたログリッチェのシーズン総括と五輪ロードレースの展望、そして自身が乗るビアンキについて聞いた。



― 自転車選手としては初来日ですね。さいたまクリテリウムを走ってみてどんな印象を受けましたか?

マイヨロホを着用してさいたまクリテリウムを走ったプリモシュ・ログリッチェ(ユンボ・ヴィスマ)マイヨロホを着用してさいたまクリテリウムを走ったプリモシュ・ログリッチェ(ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto.AYANO
すごく良いイベントだったと思う。良い人々、ファンタスティックなファンに囲まれて良い時間を過ごせたし、ブエルタで優勝した僕がツールのイベントに参加させてもらえたので嬉しかった。2回目の日本だけど、ヨーロッパとは全く違う風景や食事など全てが僕の目には新鮮だ。

― 今年は初めてグランツール総合優勝を挙げるなど大成功のシーズンだっと思います。

今年はシーズン序盤から最後までコンスタントに結果を残すことができた。今は(プレッシャーから解放されて)バイクに乗ることを楽しめているよ。成功の理由の一つはオフシーズンのトレーニング。短い休息を取ってから、登りやTT能力を改善するために厳しい練習を重ねた。オールラウンダーとしてレベルを向上させる目標を持って臨んだんだ。

ブエルタ総合優勝に輝いたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)ブエルタ総合優勝に輝いたプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ) photo:Kei Tsuji
総合優勝という目標を持ってジロではいくつかミスを犯して3位止まりだったが、そこで学んだことを活かして新しいアプローチと新しい練習、新しい食事など様々なことを改善した。ジロよりも強力なチームメイトと共にブエルタに参戦できたことも大きな要因だ。

― ユンボ・ヴィズマは特にTT力に優れたメンバーを揃えているのが武器ですね。

個人それぞれの力が優れていることに加えて、チームとしてエアロダイナミクス向上に努力していることが要因。たくさんのことを研究して学び、それを機材やポジションに活かせている。来年は強力なトム・デュムラン(オランダ)が加わり、チーム力を強化できるので楽しみだ。

― ビアンキのバイクについて聞かせて下さい。今年チームはパリ〜ルーベを除いてOLTRE XR4を使いましたが、その印象は?

ログリッチェが駆るOLTRE XR4。普段トレーニング用として使う車体を持ち込んだというログリッチェが駆るOLTRE XR4。普段トレーニング用として使う車体を持ち込んだという photo:So.Isobe
「バイクはエアロを優先したセッティング」「バイクはエアロを優先したセッティング」 ハンドルバー上側にはエアロポジションを取る際の滑り止めをセットハンドルバー上側にはエアロポジションを取る際の滑り止めをセット


すごく気に入っている。スプリントも山岳も走れる良いバイクだし、自分としては空力を優先したいので、OLTRE XR4は巡航やダウンヒルも速いので軽量なスペシャリッシマよりも武器になるんだ。ハンドルもエアロ効果に優れる一体型を好んで使っている。

― リムブレーキとディスクブレーキの使い分けは?

ホイール交換時に時間を取られるリスクがあるのでリムブレーキを主としているけれど、今年は雨のレースで1、2回ディスクブレーキのOLTRE XR4を使った。(ディスク版は)バイク自体も良いし、重量制限近くまで軽くできる。

― 今日五輪コースを試走した感触は?

三国峠の急勾配区間を駆け上がるログリッチェ三国峠の急勾配区間を駆け上がるログリッチェ photo:So.Isobe
とても良いコースだった。コースを試走する前まではぼんやりとしていたけれど、実際に走ったら自分が好きなコースだった。オリンピックに本腰を入れられるかどうかは来年のスケジュールが確定していないので何とも言えないけれど、スロベニアには僕、(タデイ)ポガチャル、(マテイ)モホリッチなど強力なメンバーが揃っている。

― 本番はどのような展開を予想しますか?プレ五輪では三国峠の麓からアタックしたウリッシが独走勝利しました。

誰もが三国峠を勝負所だと構えるのでもっと複雑な展開になるはずだ。頂上で誰かが飛び出すことは可能ではあるものの、その後の平坦と下り、サーキットまでのアップダウンを考えれば独走は無理だ。三国峠で絞られたメンバーがアタックを繰り返しながらフィニッシュに向かうだろう。

誰が本気で狙ってくるか分からないけれど、(ティボー)ピノ、(ロマン)バルデ、(ジュリアン)アラフィリップと登れるメンバーを揃えるフランスは強力だ。パンチ力のある(ヴィンチェンツォ)ニバリ、(アレハンドロ)バルベルデ、(ヤコブ)フルサング、(バウケ)モレマ、(レムコ)エヴェネプール。登坂力のある(ラファル)マイカ、(エガン)ベルナル、(リチャル)カラパスも強力だ。TTは(ローハン)デニスや(トム)デュムランなど怪物級の選手が本気で狙ってくるし、コースも僕向きではないのでターゲットにはしていない。

「五輪本番では暑さが最大の敵になる」「五輪本番では暑さが最大の敵になる」 photo:So.Isobe
ただし最大の敵は暑さ。そこに湿度と獲得標高が加わるので非常にタフな展開になるだろう。ツール最終日から中6日しかないことを問われるけれど、個人的な意見ではオフシーズンから夏場を目指して長く積み上げてきたものが、たった1回の長距離移動で崩れるとは思わない。それだけに時差をどのように回復させて、暑さに身体を慣らすかが鍵になる。自分もプロである以上金メダルを目指す。スポーツ選手としてオリンピックの金メダルは是が非でも欲しいタイトルだ。来年再びここに戻ってくることを楽しみにしているよ。

text&photo:So.Isobe
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