サクソバンクやクイックステップのパリ~ルーベ用バイクとして活躍してきたS-Works Tarmac SLがフルモデルチェンジし、SL2へと進化した。さすがに超一流のプロチームが鍛え上げたバイクだけあり、その快適性と悪路での走破性の高さは、想像以上のものだった。

スペシャライズド S-Works Roubaix SL2スペシャライズド S-Works Roubaix SL2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

2009年、クイックステップのトム・ボーネンがパリ~ルーベに勝った時、その走りを支えたのはスペシャライズドが誇るパリ~ルーベ用バイク S-Works Roubaix SLであった。そのRoubaix SLをさらにリファインして誕生したのが、S-Works Roubaix SL2だ。
スペシャライズドにおけるこのバイクのカテゴリー「エンデュランスロード」のハイエンドモデルであり、「掛け値なしの滑らかさと速さ」を持つロングライド向けバイクと位置づけられている。

Roubaix SLはもちろん2010年のチームサクソバンクのパリ~ルーベ用メインバイクとして使用された。優勝したファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)の駆ったバイクはどうやら次期SL3(?)のプロトタイプだったようだが、基本設計はこのRoubaix SL2と同一だと思われる。

Zertsインサートを装備したフォークZertsインサートを装備したフォーク ヘッドチューブはやや長めの設定ヘッドチューブはやや長めの設定 シートステーのZertsインサートシートステーのZertsインサート


メインフレームは定評の高いS-Works Tarmac FACT 10rカーボンである。FACT ISコンストラクションと名づけられた3ピース構造を持っており、精度が高く、さらに残留応力が少ないのが特長だ。

このシリーズの特徴は、何といってもフォークとシートステーに埋め込まれたZertsインサートだろう。この振動吸収システムにより、軽量・高剛性なフレームでありながら、路面からの突き上げや不快な振動を見事に吸収してくれる。こと「乗り心地」という点に関しては、これ以上極上なフィーリングを演出しているバイクも他にないだろう。

このブラック×ホワイトはサクソバンクチームカラーだこのブラック×ホワイトはサクソバンクチームカラーだ Zertsインサートを装備したシートステーZertsインサートを装備したシートステー



一方、ヘッドまわりからダウンチューブ、チェーンステーにかけてはとても力強い作りになっていて、踏力を一滴も無駄にすることなく推進力へと変換するという設計思想を持っている。
ヘッドチューブはやや長めの設定だ。これは悪路での操作性と安定感を考慮したもので、ステム下にスペーサーを入れなくてもポジションが出るので、剛性感も高まる。日本人体型ならあえてそう選ぶという方法もあるだろう。

弧を描く湾曲したトップチューブ弧を描く湾曲したトップチューブ 力強いシェイプを持つチェーンステー力強いシェイプを持つチェーンステー


スペシャライズド・S-Worksクランクセット。歯数は50×34Tだスペシャライズド・S-Worksクランクセット。歯数は50×34Tだ 完成車に装備されるボディジオメトリーToupe w 中空Tiレールサドル完成車に装備されるボディジオメトリーToupe w 中空Tiレールサドル


さて、このプロユースのパリ~ルーベ用バイクを、インプレライダーはどう評価したのだろうか? 一般ライダーが乗るときのメリットとはなんだろうか? さっそくインプレッションをお届けしよう!




―インプレッション

「スムースでシルキーな乗り味が気持ち良い、”絹豆腐”のようなバイク」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)


「スムースでシルキーな乗り味が気持ち良い」戸津井俊介「スムースでシルキーな乗り味が気持ち良い」戸津井俊介 前作Roubaix SLはバックの振動吸収性は良かったものの、フロントフォークが硬くて、いまひとつ前後のバランスが取れていない印象を持っていた。しかし、このRuoubaix SL2はその不満が見事に解消されて、前後のバランスがとても良いバイクに仕上がっている。

とにかく乗り心地の良いバイクだ。荒れた路面でも実にフラットに走ることができるので、スピードの維持能力が非常に高い。試しに路面に埋め込まれている凹凸のタイルなどに意図的に乗ってみたが、何ら問題なく走ることができた。縦方向の振動吸収性は、かなりのものだ。

踏み出しの軽さは特に印象に残らなかったものの、中速域での伸びは結構良い。基本的には悪路用のバイクなので、路面のきれいなクロースズドサーキット向きではないのだろうが、ホビーレースで使う分にはまったく問題ないだろう。

コーナリングはちょっと独特な感覚だった。振動吸収性を高めたフォークのおかげで、荒れた路面でも安心して曲がれるのだが、ちょっとハイスピードのコーナリングになると横に煽られる感じなのだ。まあ「最近のガチガチに固められたバイクに比べると」ということなので、慣れてしまえばこれはこれで問題ないだろう。

ちょっと観念的な表現になってしまうけれど、最近のガチガチの剛性のレーシングバイクを「もめん豆腐」に例えると、このバイクのイメージは「絹豆腐」だ。スムースでシルキーな乗り味は、路面の凹凸を忠実に伝える現代のレーシングバイクとは一線を画している。とにかく、楽しく乗れるバイクだ。

最も適した使用用途は、ずばり「ラグジュアリーライド」だ。この素晴らしい振動吸収性は、荒れた路面を含むツーリングなどでかなり活きるはず。ちょっとした林道くらいなら何ら問題なく走破できる能力を持っているので、今まで走れなかったようなところをガンガン走ってみたら本当に楽しいだろう。


「スペシャ開発陣の心意気を感じるパヴェ最速バイク」
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)


「スペシャ開発陣の心意気を感じるパヴェ最速バイク」仲沢 隆「スペシャ開発陣の心意気を感じるパヴェ最速バイク」仲沢 隆

スペシャライズド社は、社長のマイク・シンヤードを始め、社員の多くがランチタイムライドをやるような「走り屋」が集まった会社である。そして、彼らはかねてから「悪路を快適に早く走れるバイクが欲しい」と考えていた。そんな彼らのイメージを具現化したバイクがRoubaixシリーズだ。

「どうせ悪路用のバイクを作るならば、パリ~ルーベも難なく走れるような最高のバイクに仕立てよう」ということで、与えられた名前が「Roubaix」。実際にパリ~ルーベのコースに持ち込んで徹底的にテストが行われ、新型が完成するたびにジャーナリストをパリ~ルーベのコースに招いてきた。私もこれまでに2度、その発表・試乗会に参加したが、とにかくスペシャライズのスタッフ達は研究熱心だ。

初代Roubaixが登場したのは2004年のことだったが、それから数えて今回のRoubaix SL2は4代目のモデル。こんな特殊なバイクの開発にここまで入れ込んでいるのであるから、この最新モデルの出来は相当なものだ。スペシャ開発陣の心意気を感じる渾身の1台である。

とにかく、ヘッドからBBまわりの剛性感の高さと、フォーク&バックの振動吸収性の高さとのバランスが素晴らしい。剛性感を高めると振動吸収性には不満が残り、振動吸収性を高めると剛性感に不満が残るというジレンマを、非常に高い次元で解決しているのだ。

荒れたアスファルト路面はRouvaixのメリットをもっとも感じさせてくれる荒れたアスファルト路面はRouvaixのメリットをもっとも感じさせてくれる 荒れた路面を走る時のフィーリングが最高だ。まるで極上のサスペンションがついているかのように、実にフラットな乗り味を提供してくれる。日本にはパヴェ(石畳)はほとんどないものの、アスファルト舗装が荒れてヒビが入っているようなところはよくある。そんなところを走るのに、このバイクは最高の相棒になってくれるだろう。

このバイクはレースよりはむしろ、普段のトレーニングや週末のロングライドなどで使うと良い。日本のレースはだいたい路面のきれいなところで行われるので、せっかくの振動吸収性を活かすことができないからだ。要するに、レースでこのバイクを活かす環境が日本にはないのである。

しかし、普段のトレーニングや週末のロングライドならば、荒れた路面を走るようなシチュエーションもしばしばある。そして、このカラダに優しい乗り心地は、ライディング後の肩や腰の痛みといったトラブルもかなり解消してくれることだろう。ヘッドチューブが長めに設定されているので、アップライトなポジションにも無理なく対応する。

日本のスペシャファンの場合、たいてい人はTarmac SL3に流れてしまうだろう。たしかにホビーレースだけを考えるならTarmac SL3は最高の1台だ。しかし、あえて勇気を持ってRoubaix SL2を選んでみてはいかがだろうか。

もちろんスペシャライズドが謳うように「快適ロードバイク」としてロングライド用途のために選ぶのも大正解だ。このバイクならきっと、今までになかったサイクルライフが開けるはずだ。それだけのポテンシャルを秘めたバイクである。



スペシャライズド S-Works Roubaix SL2スペシャライズド S-Works Roubaix SL2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

スペシャライズド S-Works Roubaix SL2

フレーム:S-Works FACT 10r、FACT ISコンストラクション、コンパクト・レース・デザイン、Zertzインサート、OSボトムブラケット
フォーク:S-Works Roubaixフルカーボンモノコック、Zertsインサート
メインコンポ:シマノ・デュラエース
クランクセット:スペシャライズド・S-Worksクランクセット 50×34T
ホイール:シマノ・デュラエース WH-7850-C24チューブレス
タイヤ:スペシャライズド・S-Works Turbo 700×23C 127TPI
ハンドルバー:S-Works SLエルゴカーボン
ステム:S-Works 3D鍛造アルミ+カーボンラップ
サドル:ボディジオメトリーToupe w/ 中空Tiレール
シートポスト:S-Works FACT carbon w/ Zertsインサート
カラー:カーボン×ホワイト、カーボン×レッド
国内取り扱いサイズ:49、52
希望小売価格(税込み) 780,000円(シマノ・デュラエース完成車)、420,000円(モジュール)、360,000円(フレームセット)






インプレライダーのプロフィール

戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)

1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート


仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)仲沢 隆(自転車ジャーナリスト) 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)

ツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリアなどのロードレースの取材、選手が使用するロードバイクの取材、自転車工房の取材などを精力的に続けている自転車ジャーナリスト。ロードバイクのインプレッションも得意としており、乗り味だけでなく、そのバイクの文化的背景にまで言及できる数少ないジャーナリストだ。これまで試乗したロードバイクの数は、ゆうに500台を超える。2007年からは早稲田大学大学院博士後期課程(文化人類学専攻)に在学し、自転車文化に関する研究を数多く発表している。






text:Takashi.NAKAZAWA
photo:Makoto.AYANO

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