ベルギーのブリュッセルで開幕する第106回ツール・ド・フランス。『ミュール』が登場する初日や2日目のチームTT、スプリンター向きの平坦ステージ、6日目に早くも登場するヴォージュ山脈の激坂フィニッシュなど、総合争いにおいて重要な戦いが続く前半ステージを紹介します。


7月6日(土)第1ステージ → コースマップ
ブリュッセル〜ブリュッセル 194.5km


7月6日(土)第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 194.5km7月6日(土)第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 194.5km photo:A.S.O.『マイヨジョーヌ100周年記念』と銘打ったツール第106回大会の開幕地はベルギーの首都ブリュッセル。同国が誇るロードレース史上最強のレーサーであるエディ・メルクスがツールで初総合優勝を飾ってから50年という節目に、ツールは自転車大国を訪れる。ブリュッセルを発着する194.5kmのロードコースはメルクス所縁の地を繋いだもの。メルクスがプロ初勝利を飾ったプティ・アンガンや、初マイヨジョーヌ着用を果たしたヴォリュヴェ・サン・ピエールを通過し、レース初出場の地となったブリュッセルの町外れに位置するラーケンの王宮前でフィニッシュを迎える。

ステージ前半にはフランドルを代表する3級山岳ミュール・ド・グラモン(距離1.2km/平均7.8%/最大13%)と4級山岳ボスベルグ(距離1km/平均6.7%)という2つの石畳坂も登場。勝負に影響する登りではないが、ここを先頭で通過することができればマイヨアポワ(山岳賞ジャージ)着用のチャンスが巡ってくるだけに、逃げ形成のためのアタック合戦はスタート後しばらく続きそうだ。最後はブリュッセル市内を横断し、残り1kmを切ってからラーケン王宮まで緩やかに登っていく。勾配にして3%前後の登りスプリントを制したスプリンターが今大会最初のマイヨジョーヌに袖を通す。



7月7日(日)第2ステージ → コースマップ
ブリュッセル王宮〜ブリュッセル・アトミウム 27.6km(チームTT)


7月7日(日)第2ステージ ブリュッセル王宮〜ブリュッセル・アトミウム 27.6km(チームTT)7月7日(日)第2ステージ ブリュッセル王宮〜ブリュッセル・アトミウム 27.6km(チームTT) photo:A.S.O.まだメンバー8名全員が残っていると予想される大会2日目に27.6kmのチームタイムトライアルが設定された。ブリュッセル中心部の王宮前を22チームが5分間隔でスタートし、チームの中で4番目にフィニッシュした選手のタイムがチームの成績に反映される(脱落した選手には反映されない)。ブリュッセルの幹線道路を繋いだコースは中盤のボワ・ド・ラ・カンブレ公園道路を含めて幅広で、大きくスピードを落とすようなコーナーは少ない。トップチームは60km/h近いスピードで高速巡航することになるだろう。

第1ステージのフィニッシュ地点ラーケン王宮の温室庭園や日本風の五重の塔、中国館を通過すると、いよいよ選手たちの目には1958年ブリュッセル万国博覧会のモニュメントである「アトミウム」が見えてくる。かつての万博会場であるエゼル公園走る残り1kmはロータリーの連続。その名の通り、鉄の結晶構造(体心立方格子構造)を表している高さ103mの「アトミウム」の真下を通過して、30分前後のレースは締めくくられる。ステージ優勝は秒差の争いになるが、ここで分単位のタイムロスを被るチームも出てくるだろう。



7月8日(月)第3ステージ → コースマップ
バンシュ〜エペルネ 215km


7月8日(月)第3ステージ バンシュ〜エペルネ 215km7月8日(月)第3ステージ バンシュ〜エペルネ 215km photo:A.S.O.ベルギー南部ワロン地域のバンシュをスタートする第3ステージはパンチャー向き。スタート後すぐ、10km地点でベルギーに別れを告げてフランスに入国すると、そこからフィニッシュ地点エペルネまで一直線に南下する。215kmステージの大部分は平坦だが、残り55kmを切ると大地は上下にうねり始める。沿道に広がるのはワイン畑。そう、スパークリングワインのシャンパーニュ(日本ではシャンパンと呼ばれる)の産地であるシャンパーニュ地方の丘陵を通過する。

登場する4級、3級、3級、3級のカテゴリー山岳は短距離&急勾配。ワイン畑に覆われた丘を直登する最後の3級山岳ミュティニー峠は距離900mで平均勾配12.2%という難易度で、しかもフィニッシュまで16kmしか離れていないため、ステージ優勝を狙うアタッカーたちが攻撃を仕掛けてくるだろう。残り4km地点で頂点を迎えるモンベルノン(距離1km/平均5.5%)を越え、最後は残り500mから平均8%の登りをこなしてフィニッシュ。集団スプリントに持ち込まれた場合でも、ピュアスプリンター勢揃いというわけにはいかなさそうだ。

なお、2019年から「ボーナスポイント(地図と高低図の黄色いB)」が新たに採用されている。第3、6、8、9、12、15、18、19ステージの終盤に登場するカテゴリー山岳の頂上に設定された「ボーナスポイント」の上位通過者3名に、8秒、5秒、2秒のボーナスタイムが付与される(フィニッシュのボーナスタイムは変わらず10秒、6秒、4秒)。この日は3級山岳ミュティニー峠で早速ボーナスタイムをかけた動きが見られそうだ。



7月9日(火)第4ステージ → コースマップ
ランス〜ナンシー 213.5km


7月9日(火)第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5km7月9日(火)第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5km photo:A.S.O.終着地パリまで車で1時間半ほどの距離のランスから、ツールはヴォージュ山脈に向かって東へ。前日に引き続き210kmオーバーのロングステージだが、前半はほとんど起伏のない平野で、後半もまたほとんど起伏がない。しかしすんなりとナンシーに向かうというと決してそうではなく、残り15km地点に4級山岳マロン峠(距離3.2km/平均5%)が設定された。

山頂通過後に直線的な平坦路が続くため、仮に登りでアタックがかかっても逃げ切りは難しく、また、仮に登りで遅れても集団復帰のチャンスはある。ナンシーの街を抜け、残り1.4km地点で最後の直角コーナーを曲がってムルト川に沿った平坦路へ。緩やかな左コーナーを抜けると、そこからフィニッシュラインまでは長さ300m、道幅6.5mの直線路が続く。登り基調だった第1ステージに対してこのフィニッシュはど平坦。4級山岳をフレッシュな状態でクリアしたピュアスプリンターたちがハイスピードバトルを繰り広げる。なお、ステージ前半の平野部に吹く風には警戒が必要だ。



7月10日(水)第5ステージ → コースマップ
サン・ディエ・デ・ヴォージュ〜コルマール 175.5km


7月10日(水)第5ステージ サン・ディエ・デ・ヴォージュ〜コルマール 175.5km7月10日(水)第5ステージ サン・ディエ・デ・ヴォージュ〜コルマール 175.5km photo:A.S.O.ツールは大会最初の山岳であるヴォージュ山脈に突入。ドイツ国境に接し、実際にドイツ文化の強いアルザス地方を走る。175.5kmステージに設定されたカテゴリー山岳は4つ。いずれも標高500〜600mの峠で、残り70kmを切ってから2級山岳オー・クニクスブール峠(距離5.9km/平均5.8%)、2級山岳トロワエピ峠(距離4.9km/平均6.8%)、3級山岳サンク・シャトー峠(距離4.6km/平均6.1%)を立て続けにクリアする。

「5つの城」を意味する3級山岳サンク・シャトー峠からフィニッシュまでは19.5km。テクニカルな下り区間を経て、アルザスらしい街並みのコルマールまで平坦路が続く。ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)に代表されるパンチャーや、「登れるスプリンター」を擁するチームがレースをコントロールしない限り、大逃げが決まる可能性も。ここまでのステージと比べてカテゴリーの高い山岳が登場するため、マイヨアポワ狙いの選手たちも積極的に逃げに乗ってくるだろう。



7月11日(木)第6ステージ → コースマップ
ミュールーズ〜ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ 160.5km


7月11日(木)第6ステージ ミュールーズ〜ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ 160.5km7月11日(木)第6ステージ ミュールーズ〜ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ 160.5km photo:A.S.O.「TTの距離が短く、とにかく山岳が厳しい」。それがツール第106回大会の前評判だ。ヴォージュ山脈を駆け巡る第6ステージはピレネーやアルプスステージに匹敵する難易度を誇っており、実に7つのカテゴリー山岳が160.5kmに詰め込まれた。スタート後すぐに、ヴォージュ山脈最高峰1,424mのグランバロン山のすぐ脇を通る峠に向かって長い登りが始まる。

折り返し地点を通過してから始まる1級山岳バロン・ダルザス(距離11km/平均5.8%)は、1905年にツール史上初めて導入された峠。今から50年前の1969年にエディ・メルクスがステージ初優勝を飾った峠でもある。そこからさらに「ボーナスポイント」が設定された急勾配の2級山岳シュヴレール峠(距離3.5km/平均9.5%)を越え、最後に姿を現すのがツール史上4回目の登場となる1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユだ。

ラ・プランシュはこれまで距離5.9km/平均8.5%/最大20%の難所として登場してきたが、2019年はそこからさらに標高1,140mの山頂まで続く林道を走る。路面はしっかりと固められているものの未舗装。この1.1kmの延長によりラ・プランシュは距離7km/平均8.7%/最大24%と、さらなる破壊力を身につけている。フィニッシュ手前に登場する24%の激坂区間でマイヨジョーヌ候補たちの間にタイム差が生まれるのは間違いない。第6ステージで総合優勝を決めることはできないが、第6ステージで総合優勝を諦めなければならない選手が出てくるかもしれない。



7月12日(金)第7ステージ → コースマップ
ベルフォール〜シャロン・シュル・ソーヌ 230km


7月12日(金)第7ステージ ベルフォール〜シャロン・シュル・ソーヌ 230km7月12日(金)第7ステージ ベルフォール〜シャロン・シュル・ソーヌ 230km photo:A.S.O.大会最初の山岳決戦を終えて、ツールはヴォージュ山脈から中央山塊へと移行する。今大会最長230kmステージは、ジュラ山脈をかすめるように走る前半に3つのカテゴリー山岳が設定されているものの、後半の90kmはほぼ真っ平らだ。

フィニッシュ地点シャロン・シュル・ソーヌがツールに登場するのは32年ぶり、5回目。前年度にイギリス人選手として初めてステージ優勝を飾ったブライアン・ロビンソンがこのシャロン・シュル・ソーヌにフィニッシュする1959年第20ステージで逃げ切り勝利を飾ったが、この第7ステージは十中八九もしくはそれ以上の確率で大集団スプリントで決するだろう。町の外周道路をぐるっと回り、残り1.6km地点の最終コーナーを抜けるとそこからはソーヌ川に沿った平坦路。6時間近いレースの最後に、リードアウトマンたちに導かれたピュアスプリンターたちが先頭でバトルを繰り広げる。



7月13日(土)第8ステージ → コースマップ
マコン〜サン・テティエンヌ 200km


7月13日(土)第8ステージ マコン〜サン・テティエンヌ 200km7月13日(土)第8ステージ マコン〜サン・テティエンヌ 200km photo:A.S.O.フランス中部、同国の国土の15%の面積を占める広大な「マッシフサントラル」。日本で中央山塊、中央高地、または中央山地と呼ばれる(山脈とは呼ばない)通り、標高1,000〜1,500m程度の山が広域にわたって延々と続いている。大都市リヨンの西側に広がる同地域を南下する第8ステージの距離はジャスト200km。登坂距離が10kmに満たないカテゴリー山岳が合計7つ詰め込まれている。

獲得標高差が4,000m近くに達するこの中級山岳ステージはパンチャー向き。平坦区間がないようなこのアップダウンコースの残り12.5km地点には「ボーナスポイント」に指定された3級山岳ラ・ジェイレール峠(距離1.9km/平均7.6%)が設定されており、ステージ優勝とボーナスタイムをかけたバトルがいつもより早めに動き出す。サン・テティエンヌのフィニッシュ前も複雑で、残り2kmをピークにした登りでアタックを仕掛ける選手も出てくるだろう。安全に走りきるだけでも神経を尖らすステージになりそうだ。



7月14日(日)第9ステージ → コースマップ
サン・テティエンヌ〜ブリウド 170.5km


7月14日(日)第9ステージ サン・テティエンヌ〜ブリウド 170.5km7月14日(日)第9ステージ サン・テティエンヌ〜ブリウド 170.5km photo:A.S.O.前日同様に中央山塊を走る1日。登場するカテゴリー山岳の数は3つで、最大勾配が19%に達する1級山岳ミュール・ドレック・シュル・ロワール(距離3.2km/平均11%)がステージ前半に組み込まれている。

ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の故郷ブリウドにフィニッシュするこの第9ステージで最も注目すべきは、残り13km地点でピークを迎える「ボーナスポイント」付きの3級山岳サンジュスト
峠(距離3.6km/平均7.2%)だろう。残り30km付近で一旦ブリウドの街をかすめるように走ってから向かうこの3級山岳はまさしくバルデが幼少期から慣れ親しんだ登りであり、下りフィニッシュは地元出身者に味方するはず。地元の英雄のアタックを大声援が後押しする。また、キャトーズジュイエ(フランス革命記念日)の7月14日だけに、バルデだけでなくフランス人選手たちの鼻息は荒いはずだ。



7月15日(月)第10ステージ → コースマップ
サン・フルール〜アルビ 217.5km


7月15日(月)第10ステージ サン・フルール〜アルビ 217.5km7月15日(月)第10ステージ サン・フルール〜アルビ 217.5km photo:A.S.O.3日間続いた中央山塊最終日ならびに長い長い第1週の最終日。例年は開幕から9日間連続でレースを行なってから月曜日を休息日に充てたが、第106回大会は月曜日に第10ステージを行なってから火曜日を休息日に設定している。待ちに待った休息日を過ごすアルビの街に向かって、選手たちは217.5kmのロングステージをこなす。

コースプロフィールを見る限りでは3級〜4級のカテゴリー山岳が4つ設定された難易度の低いステージだが、実際には細かいアップダウンが無数に登場するため単純なスプリンター向きコースとは言えない。最後はフラムルージュ(残り1kmアーチ)を通過してからタルン川をまたぐ「1944年8月22日橋」を渡って、勾配4〜5%ほどのリスジョルジュポンピドー大通りを駆け上がってフィニッシュ。大人数の逃げが先行する展開も考えられるが、スプリンターチームが力づくで勝負に持ち込むことが予想される。何しろスプリンターがこの日のチャンスを逃すと、彼らに残されたチャンスは第11、16、21ステージの3回しかない。



7月16日(火)休息日





text:Kei Tsuji in Brussels, Belgium