2019/05/19(日) - 16:03
マリアローザ争いにおいて極めて重要な山岳TTを翌日に控えたこの日、レース特別番組に出演した初山翔が流暢なイタリア語を披露。今大会最長239kmコースで行われ、カレブ・ユアンの雄叫びで締めくくられたジロ・デ・イタリア第8ステージを振り返ります。
風船で仕上げた力作 photo:Kei Tsuji
歓声を受けて出走サインに向かうチェザーレ・ベネデッティ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
愛犬の訪問に喜ぶヤン・ポランツェ(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
マリアローザカラーのバイクと記念撮影 photo:Kei Tsuji
今年のジロには200kmオーバーのステージが9ステージ設定されている。そのうち5ステージが1回目の休息日までの第1週目に集中。しかも第4、6、8ステージは230kmオーバーで、ワンデークラシック並みの距離を誇る。ワンデークラシック並みというか、実際にストラーデビアンケやラ・フレーシュ・ワロンヌよりも1ステージの距離が長い。
逃げた距離の積算で争われるフーガ賞(逃げ賞)の1位が逃げれば2位が逃げる。おそらく2位が逃げれば1位が逃げる。すでに合計411km逃げているマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)が逃げれば、合計364kmのダミアーノ・チーマ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が逃げないわけにはいかない。
この日の逃げでフラッポルティは209km、チーマは200kmを荒稼ぎした。フーガ賞1位のフラッポルティは逃げの積算距離を620kmに。ここまでのステージの合計距離が1,460.8kmなので、フラッポルティは半分近くを逃げている計算になる。
スタート後すぐに飛び出したマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)ら3名 photo:Kei Tsuji
マルケ州の幹線道路を延々と北上する photo:Kei Tsuji
マルケ州の幹線道路を延々と北上する photo:Kei Tsuji
逃げるマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)とダミアーノ・チーマ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームイネオス)には、何を隠そう日本に公式ファンクラブがあり、Facebookページには連日写真がアップされている(撮影者は知ってる人)。アクションハーゲンスベルマンに所属していた2015年のシーズン後半を研修生としてチームスカイで走り、同年ジャパンカップに出場するとともに2017年正式にチームスカイ入り。24歳のロンドンっ子にとってこれが2018年ブエルタ・ア・エスパーニャに続く2度目のグランツール出場。直前のツアー・オブ・アルプスでステージ2勝&総合2位という成績を残した若手有力株だが、初日の個人タイムトライアル7位と好発進しながら、第3ステージの落車で総合32位に沈んでいる。
タオはレース中も撮影者を見つけるのが得意なタイプ。海沿いの平坦路を走っている際にこちらの存在に気づいて手を挙げたものだから、チームカーのハンドルを握る監督が呼ばれたと勘違いして上がってきたらしい。ご迷惑をおかけしました。
日本に公式ファンクラブがあるタオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームイネオス) photo:Kei Tsuji
ロレートの街が突然目の前に広がる photo:Kei Tsuji
マルケ州らしい田舎町を走るエスケープ photo:Kei Tsuji
集団前方で登りをこなすカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
スプリンターチームを先頭に3級山岳モンテ・デッラ・マッテーラを進む photo:Kei Tsuji
集団内で登りをこなすマリアチクラミーノのパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
239kmのステージの前半は真っ平らで、後半はジェットコースターのようなアップダウン。残り100kmを切ってから内陸に舵を取り、ティレーノ〜アドリアティコでもよく登場するマルケ州の丘陵地帯を走る。コースが波打ち始めるのと同時に天候も悪化し、大雨ではないにしても小雨が路面を濡らした。
ペーザロのフィニッシュ手前に登場したスイッチバックが続く下り区間が危険であるとして、選手たちは救済措置(パンクや落車での遅れは救済される)を残り6kmまで延長するようにUCIコミッセールや主催者に要求したが認められず、いつも通り救済措置は残り3kmに。幸い土砂降りにならなかったこともあり、大きな落車が発生することなく集団はテクニカルダウンヒルを終えている。
フーガ賞とは逆に、集団を牽引した積算距離で争われる賞があればトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)が獲得するのではないだろうか。このジロに限らず、出場したほとんどのグランツールでデヘントが「集団牽引賞(ないけど)」を獲得するはず。逃げた距離も合わせた「先頭で風を浴び続けた時間賞(これもない)」があれば間違いなくデヘントがトップだ。
第7ステージで逃げに失敗したデヘントは第8ステージはしっかりと切り替えてメイン集団を引き倒し、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)のステージ優勝をお膳立てした。「ガッツポーズ賞」があればユアンが今大会トップ。ここまで勝てないステージが続いていただけに、ユアンの喜び爆発ぶりは頭一つ抜け出ていた。ユアンはジロに続いてツール・ド・フランスに初挑戦する予定だ。
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)を先頭に最終コーナーを抜ける photo:Kei Tsuji
スプリントで競り合うカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)とパスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Kei Tsuji
咆哮をあげるカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
ステージ優勝したカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)がクルーゲに感謝のサイン photo:Kei Tsuji
「今日もすごく長かった。疲れている選手が多いという雰囲気が集団内にある」。そう言ってフィニッシュした初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)は、フィニッシュ後にチームバスに戻ることなく、そのままイタリア国営放送RAIの指名によりジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」の特設スタジオに向かった。
マリアローザのヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)やダヴィ・ラパルティアンUCI会長も出演した番組の中で初山は第3ステージでの逃げを振り返り、この先のステージの展望について語った。MCとのやり取りはもちろんイタリア語。プレスセンターで仕事をしながら番組を見ていたジャーナリストやフォトグラファーたちは「めちゃくちゃイタリア語が上手いじゃないか」と驚いていた。
言語の力は強い。特にイタリアではイタリア語を話すだけで受け入れられ方が大きく変わってくる。例えば、2018年に総合優勝したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)はいつもイタリア語でインタビューに応えていたため、イタリア国内でかなり好意的に受け入れられている。
イタリアのアマチュアチームで走っていた初山は、もちろん努力と苦労を経てのことだが、言語の面で大きなアドバンテージを持っている。海外で活動するにあたって一番と言ってもいいほど重要なのはコミュニケーション能力(フォトグラファーも一緒)。英語に加えて、その土地の言語を話すこと(もしくは話そうと努力すること)は様々な面で活動のしやすさに直結する。
レース終了後にRAIの番組に出演した初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
メイン集団を長時間牽引したトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
明日の第9ステージは今大会3つあるうちの最も長い個人タイムトライアル。ビッグネームから5分以上のリードを得ているコンティがマリアローザを守ると見られるが、それと同時に注目したいのがプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)ら本命の間に生まれるタイム差だ。そしてこれらマリアローザ候補たちがそのままステージ優勝候補になる。
初日の個人タイムトライアルでついたタイム差を考えると、ログリッチェがライバルたちから1分以上のリードを奪ってもおかしくないが、果たして落車の影響があるのかないのか。第9ステージが終わった時点で今大会のマリアローザの行方がある程度見えてくるかもしれない。
なお、個人タイムトライアルのタイムオーバーは平均スピードに関係なく一律ステージ優勝タイムの30%。50分前後のタイムが予想されているため、長い1週目を終えて休息日を迎えるためには遅れを約15分までに抑えないといけない。
天候は雨。ずっと雨。特にタイムオーバーが心配される前半スタートの選手たちは大雨の中で走ることになる。初山は全体の2番手でスタートを切る。
text:Kei Tsuji in Pesaro, Italy




今年のジロには200kmオーバーのステージが9ステージ設定されている。そのうち5ステージが1回目の休息日までの第1週目に集中。しかも第4、6、8ステージは230kmオーバーで、ワンデークラシック並みの距離を誇る。ワンデークラシック並みというか、実際にストラーデビアンケやラ・フレーシュ・ワロンヌよりも1ステージの距離が長い。
逃げた距離の積算で争われるフーガ賞(逃げ賞)の1位が逃げれば2位が逃げる。おそらく2位が逃げれば1位が逃げる。すでに合計411km逃げているマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)が逃げれば、合計364kmのダミアーノ・チーマ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が逃げないわけにはいかない。
この日の逃げでフラッポルティは209km、チーマは200kmを荒稼ぎした。フーガ賞1位のフラッポルティは逃げの積算距離を620kmに。ここまでのステージの合計距離が1,460.8kmなので、フラッポルティは半分近くを逃げている計算になる。




タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、チームイネオス)には、何を隠そう日本に公式ファンクラブがあり、Facebookページには連日写真がアップされている(撮影者は知ってる人)。アクションハーゲンスベルマンに所属していた2015年のシーズン後半を研修生としてチームスカイで走り、同年ジャパンカップに出場するとともに2017年正式にチームスカイ入り。24歳のロンドンっ子にとってこれが2018年ブエルタ・ア・エスパーニャに続く2度目のグランツール出場。直前のツアー・オブ・アルプスでステージ2勝&総合2位という成績を残した若手有力株だが、初日の個人タイムトライアル7位と好発進しながら、第3ステージの落車で総合32位に沈んでいる。
タオはレース中も撮影者を見つけるのが得意なタイプ。海沿いの平坦路を走っている際にこちらの存在に気づいて手を挙げたものだから、チームカーのハンドルを握る監督が呼ばれたと勘違いして上がってきたらしい。ご迷惑をおかけしました。






239kmのステージの前半は真っ平らで、後半はジェットコースターのようなアップダウン。残り100kmを切ってから内陸に舵を取り、ティレーノ〜アドリアティコでもよく登場するマルケ州の丘陵地帯を走る。コースが波打ち始めるのと同時に天候も悪化し、大雨ではないにしても小雨が路面を濡らした。
ペーザロのフィニッシュ手前に登場したスイッチバックが続く下り区間が危険であるとして、選手たちは救済措置(パンクや落車での遅れは救済される)を残り6kmまで延長するようにUCIコミッセールや主催者に要求したが認められず、いつも通り救済措置は残り3kmに。幸い土砂降りにならなかったこともあり、大きな落車が発生することなく集団はテクニカルダウンヒルを終えている。
フーガ賞とは逆に、集団を牽引した積算距離で争われる賞があればトーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)が獲得するのではないだろうか。このジロに限らず、出場したほとんどのグランツールでデヘントが「集団牽引賞(ないけど)」を獲得するはず。逃げた距離も合わせた「先頭で風を浴び続けた時間賞(これもない)」があれば間違いなくデヘントがトップだ。
第7ステージで逃げに失敗したデヘントは第8ステージはしっかりと切り替えてメイン集団を引き倒し、カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)のステージ優勝をお膳立てした。「ガッツポーズ賞」があればユアンが今大会トップ。ここまで勝てないステージが続いていただけに、ユアンの喜び爆発ぶりは頭一つ抜け出ていた。ユアンはジロに続いてツール・ド・フランスに初挑戦する予定だ。




「今日もすごく長かった。疲れている選手が多いという雰囲気が集団内にある」。そう言ってフィニッシュした初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)は、フィニッシュ後にチームバスに戻ることなく、そのままイタリア国営放送RAIの指名によりジロ特集番組「プロチェッソ・アッラ・タッパ」の特設スタジオに向かった。
マリアローザのヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)やダヴィ・ラパルティアンUCI会長も出演した番組の中で初山は第3ステージでの逃げを振り返り、この先のステージの展望について語った。MCとのやり取りはもちろんイタリア語。プレスセンターで仕事をしながら番組を見ていたジャーナリストやフォトグラファーたちは「めちゃくちゃイタリア語が上手いじゃないか」と驚いていた。
言語の力は強い。特にイタリアではイタリア語を話すだけで受け入れられ方が大きく変わってくる。例えば、2018年に総合優勝したクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)はいつもイタリア語でインタビューに応えていたため、イタリア国内でかなり好意的に受け入れられている。
イタリアのアマチュアチームで走っていた初山は、もちろん努力と苦労を経てのことだが、言語の面で大きなアドバンテージを持っている。海外で活動するにあたって一番と言ってもいいほど重要なのはコミュニケーション能力(フォトグラファーも一緒)。英語に加えて、その土地の言語を話すこと(もしくは話そうと努力すること)は様々な面で活動のしやすさに直結する。


明日の第9ステージは今大会3つあるうちの最も長い個人タイムトライアル。ビッグネームから5分以上のリードを得ているコンティがマリアローザを守ると見られるが、それと同時に注目したいのがプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)ら本命の間に生まれるタイム差だ。そしてこれらマリアローザ候補たちがそのままステージ優勝候補になる。
初日の個人タイムトライアルでついたタイム差を考えると、ログリッチェがライバルたちから1分以上のリードを奪ってもおかしくないが、果たして落車の影響があるのかないのか。第9ステージが終わった時点で今大会のマリアローザの行方がある程度見えてくるかもしれない。
なお、個人タイムトライアルのタイムオーバーは平均スピードに関係なく一律ステージ優勝タイムの30%。50分前後のタイムが予想されているため、長い1週目を終えて休息日を迎えるためには遅れを約15分までに抑えないといけない。
天候は雨。ずっと雨。特にタイムオーバーが心配される前半スタートの選手たちは大雨の中で走ることになる。初山は全体の2番手でスタートを切る。
text:Kei Tsuji in Pesaro, Italy
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