144kmの個人タイムトライアルを敢行した初山翔は1日にしてイタリア国内で名前を覚えられる存在に。ヴィヴィアーニが降格処分を受けるなど、後味の悪さが残ったジロ・デ・イタリア第3ステージを振り返ります。


ジロ第3ステージのスタートを迎えたヴィンチの街ジロ第3ステージのスタートを迎えたヴィンチの街 photo:Kei Tsuji
仲良くスタートにやってきたファビオ・サバティーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)とフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)仲良くスタートにやってきたファビオ・サバティーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)とフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji
トスカーナ名物の「カントゥッチ」で作られたジロのマークトスカーナ名物の「カントゥッチ」で作られたジロのマーク photo:Kei Tsuji
出走サインの順番を待つ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)出走サインの順番を待つ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
スタート地点はトスカーナ州の典型的な田舎町といった雰囲気のヴィンチ。周辺の集落を含めると人口14,000人ほどの小さな町だが、レオナルド・ダヴィンチの故郷として世界的に知られ、年間50万人の観光客を集める。何を隠そう、ダヴィンチ(da Vinci)という名前自体が「ヴィンチ出身者」という意味を持っている。

1452年4月15日にヴィンチ近くで生を受けたレオナルド・ディ・セル・ピエーロ・ダヴィンチは、ご存知の通りルネッサンスを代表する芸術家として活躍した。誰もが知っている「モナリザ」や「最後の晩餐」を描き、また科学者としても名を馳せた。そんなイタリアが誇るダヴィンチがフランスで亡くなったのが1519年5月2日。つまりダヴィンチの没後からちょうど500年が経ったことを記念して、ジロがヴィンチの町を訪れた。

レンガ作りの建物は平気で何百年と保つため、ヴィンチの町中にはおそらくダヴィンチがその目で見たであろう建物が並ぶ。プロトンの中にはこのトスカーナ北部出身選手が多く、例えばファビオ・サバティーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、UAEチームエミレーツ)らの名前が挙がる。

他にもパリ〜ルーベやロンド・ファン・フラーンデレン、ロンバルディアで優勝し、2006年に引退したアンドレア・タフィもこの付近出身で、現在はアグリトゥーリズモ(農村民宿)を経営している。さらに西に行くとパオロ・ベッティーニやマリオ・チポッリーニの故郷もあり、トスカーナはイタリア有数の自転車競技州であると言える。

「逃げに乗る」と言ってスタートした初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)「逃げに乗る」と言ってスタートした初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
ソロエスケープを開始した初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)ソロエスケープを開始した初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が単独で逃げ始める初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が単独で逃げ始める photo:Kei Tsuji
初山を見送ったメイン集団がゆったりと進む初山を見送ったメイン集団がゆったりと進む photo:Kei Tsuji
横風を警戒して、平坦ステージにも関わらず多くの選手が比較的リムの低いホイールを選んだこの日、「そろそろ逃げに乗らないと」と語っていた初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)がスタートから逃げた。

「監督のマリオからは『逃げに乗れ』と言われていました。昨日も同じオーダーが自分とチーマに出ており、昨日はチーマが乗ったので、今日はお前が行け!という感じ。風もあったので集団にいてもラクではないと思っていたので、スタート直後からアタックを仕掛けました。誰も付いてこなかったので、タイム差が1分ほど開いたところで少し後ろを待ったが誰も来ず、これはもう一人で行くしかないと思った」。そこから、水谷壮宏監督がハンドルを握る第2チームカーを引き連れての長い長い一人旅が始まった。

Velonの公開データによると、初山は最初の60kmを平均出力275Wで踏み続けた。同じ区間、マリアローザのプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)の平均出力は160W。マリアローザ候補たちにとって、総合に関係しない初山の逃げは大歓迎だったはず。

約3時間半にわたって逃げ、2時間ほど国際映像を独占した初山。残り75km地点で吸収されることになるが、この上ないスポンサーアピールになったことは間違いない。NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネが「WHAT A SHOW(翔)」と興奮気味に配信するほど、まさに独り舞台だった。「逃げ切りの可能性はないと思っていましたが、できるかぎり逃げたい、ゴールから近い位置で捕まりたいと考えながら走り続けました。無茶に踏んでいっても、捕まることはわかっていたし、今日のゴールまでの展開や、まだ3週間レースが続くということも考慮して無理をしない程度に温存しながら走りました」。

距離にして144km、時間にして3時間半におよんだソロエスケープ中、平均スピードは36.3km/h、最高スピードは72.2km/hで、平均出力は255W、最大出力は930Wだった。平均ケイデンスは87rpm。逃げている間の消費カロリーは3,520kcal。初山は中間ポイント賞で4位に入るとともに、逃げた合計距離で争われるフーガ(逃げ)賞のステージ成績1位、総合成績9位に入っている。なお、中間スプリントとカテゴリー山岳、フィニッシュのポイントで争われるステージ敢闘賞は残念ながらアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)の手に渡っている。

「逃げに乗れたことは良かった。思った以上の反応をいただいていて嬉しく思います。明日からもエネルギーを温存できるところはとことん温存しながら、逃げなのか、何かできることをしたい。今日1日で3週間分の仕事をしたとは思っていないので、また明日からも引き続き頑張りたいと思います」。フィニッシュ後すぐ、スタッフに囲まれて激励を受けた初山は、どこか満足感のある笑みを浮かべていた。

ビッグレースで日本人選手が逃げると、いつでも鳥肌が立つ。それが単独逃げならなおさら。コースのあちこちで「日本人が一人で逃げているらしい」という話をしている姿を見ると、自然と誇らしくなる。初山という名前がイタリアでどうしてもアツヤマ(Hを発音しない)になってしまうことは置いておいて、また逃げで大いにアピールしてほしいと思う。

並木道を走るプロトン並木道を走るプロトン photo:Kei Tsuji
トスカーナらしい丘陵地帯を走るトスカーナらしい丘陵地帯を走る photo:Kei Tsuji
下りをこなす初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)下りをこなす初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
逃げ続ける初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)逃げ続ける初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)が故意に斜行したかどうかなんて、本人にしかわからない。もしかすると本人にもわからないかもしれない。でもUCIコミッセールは斜行によってマッテオ・モスケッティ(イタリア、トレック・セガフレード)のラインを潰したとして、ヴィヴィアーニに集団最後尾への降格を言い渡した。降格処分発表とともに大ブーイングが巻き起こった。

しかもただ降格になるだけではなく、ヴィヴィアーニには500スイスフランの罰金と30秒のタイムペナルティが課せられ、さらに手痛い50ポイント減点。18ポイントから一気に50ポイント引かれたヴィヴィアーニは現在マイナス32ポイントで、ポイント賞トップのガビリアと90ポイント差。2年連続マリアチクラミーノ獲得に黄信号が灯った。ペナルティの少なさで争われるフェアプレー賞でもドゥクーニンク・クイックステップは断トツの最下位だ。

イタリア語を流暢に話すガビリアは、昨年までのチームメイトで見るからに仲の良いヴィヴィアーニを気遣った。ヴィヴィアーニに敗れたと判断してチームバスに戻り、シャワーを浴びていた時に勝利の連絡を受けたガビリア。大きく遅刻してやってきた表彰式では笑顔を浮かべることなく、両手を挙げることもなく、ただ仏頂面で花束を受け取り、無表情で祝福のキスを受けた。もちろんジロらしいスプマンテを振りまくステージ優勝者の特権も行使しなかった。

「今日のステージ優勝者はエリア(ヴィヴィアーニ)だ。今日は自分が負けた。故意にラインを変えたわけじゃない。レースの勝者が勝者であるべきなんだ」と、ガビリアはUCIコミッセールの判断に納得していない。表彰台の裏で長時間待たされてから降格が言い渡されたヴィヴィアーニは、ブラマーティ監督とともにUCIコミッセールの元へと力強い足取りで向かった。

後味の悪すぎる今大会2回目のスプリント。ガビリアとヴィヴィアーニが満面の笑みで表彰台に上る姿を早く見たい。

先着したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)が両手を離す先着したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)が両手を離す photo:Kei Tsuji
チームスタッフに迎えられる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)チームスタッフに迎えられる初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
納得のいかない表情でコミッセールのもとに向かうエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)納得のいかない表情でコミッセールのもとに向かうエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
随分と遅れて表彰台にやってきたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)随分と遅れて表彰台にやってきたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Orbetello, Italy

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