2019/04/02(火) - 16:13
総合スポーツ用品メーカーであるイーストンがリリースするダイレクトマウント式クランク「EC90SL」をインプレッション。ダブル⇔シングルの変更も容易かつ、スピンドル交換によりパワー計測も可能な拡張性を備えたクランクセットをCW編集部員が自腹インプレ。
野球やホッケー、アーチェリーなどなど、多岐にわたるスポーツ分野において大きな存在感を放つ北米ブランド、イーストン。もともとは、アルミチューブを得意とするメーカーだったが、素材に対する知見を活かしアルミやカーボンなどを駆使したハイエンドなプロダクトを送りだす最先端のスポーツ用品メーカーとして支持を集める存在だ。
スポーツサイクルの分野においても、ハンドルやステム、シートポストといったコンタクトポイントのコンポーネントからホイールに至るまで様々なカテゴリの高性能パーツをリリースしている。今回紹介するのは、同社のカーボンテクノロジーを駆使して製作されたクランクセット「EC90SL」。
2009年にデビューした超軽量カーボンクランク「EC90」の後継として、更なる軽量性と剛性を実現したのが「EC90SL」となる。最大の特徴は、近年主流になりつつあるダイレクトマウント方式を採用したクランクであるということ。ロードバイクではいまだ馴染みが無いが、MTBにおいてはもはやスタンダードとなるに至ったダイレクトマウント方式は、クランク周りの軽量化と剛性強化につながる規格として支持されている。
兄弟ブランドであり、MTB界においては非常に高い支持を受けるレースフェイスと共通の規格”CINCH(シンチ)”を採用し、チェーンリングやスピンドル、クランクアームを自由に組み合わせることが可能となる。イーストンとしても、フロントシングルおよびダブル用のスパイダーアームを用意しており、172.5mmクランクに40Tのシングルギアを装着した状態で442g、同様の長さのクランクと52/36Tというダブルギアの組み合わせで590gと非常に軽量に仕上がっている。
38~50Tまで2T刻みの7サイズが用意されるナローワイドのシングルチェーンリング、そして53/39、52/36、50/34という3種類のダブルチェーンリング、更にクランクアームは170、172.5、175mmという3サイズ展開に。さらに、スピンドルにはパワー計測に対応するモデルも用意されており、あらゆるニーズを満たすバーサタイルなクランクセットでもある。今回は、ロングタームで使用したCW編集部員・安岡の自腹インプレをお届けしよう。
― 編集部インプレッション
ロードバイク乗りにとって、コンポーネントブランド純正ではないクランクセットというのは、それなりにキワモノの部類に入るのではないだろうか。ワールドチームが使用するローターや、完成車に良くスペックインされているFSAといったブランドであれば馴染みもあろうが、そうではないブランドとなればなおのこと。
変速性能やマッチングの面で見ればトータルで開発されている純正品が最高だろうし、重量差だってそこまで大きなものじゃない。でも、やっぱり拗らせた自転車オタクとしてはどこか外した選択で、なけなしの個性をアピールしたいもの。
そんな中でイーストンを選んだ理由は、メインコンポーネントのスラムRED eTapと同郷であること、スピンドル計測方式のパワーメーターがあること、そしてなによりあまり人と被らない一方で信頼感のあるプロダクトだということ。さらに言えば、JIS対応するGXP仕様の純正クランクより僅かながら軽いというのも選んだ理由の一つである。
当初はパワーメータースピンドルが届いておらず、ノーマルな状態で組み付けることに。ダイレクトマウントのメリットを最大限に享受するのであれば、本来は様々な使用シーンが想定されるCXバイクやオールロードといったバイクこそが最も似合うのだろうが、今回は古色蒼然たるロードレーサーへの取り付けとなることをお許しいただきたい。取り付けはいたって簡単。右クランク側のフィキシングボルトを締め込み、左クランクの根本に着けられたプリロードリングで左右のガタを取れば終了だ。
乗ってみての第一印象はかなり固めの踏み心地。太めの断面積を持つボックス形状のクランクアーム、がっしりとした30mm径のスピンドルによって生み出される剛性感は数あるクランクセットの中でも上位に入るだろう。一方で、Qファクターは少し広めに感じる。数値で見ても149mmとなっており、シマノなどに比べると片側1.5mmずつ広い設計となる。幸い個人的にはクリートの調整範囲に収まっていたため特に不具合は無かった。
さて、サードパーティーのクランクセットで最も気になるのが、変速性能だろう。正直、見た目の時点で個人的には満足していたし、多少変速が甘かろうが遅かろうがシリアスな走りをするわけでもないので、大目に見るつもりでいた。そもそも変速性能を云々するのであれば、楕円チェーンリングでもないのだから大人しく純正品を使えばよいのである。
そんなわけで、大した期待もせずに変速レバーを押し込む。「スチャ」と一瞬でアウターへとチェーンが駆けあがる。もう一度レバーを押すと、「カシャン」と小気味よい音を立ててインナーリングにチェーンが落ちる。一連の動きに全く淀みは無い。あまりにもスムーズ過ぎて、いろんなギアポジションで変速してみる。ロー側に入れてアウターへ。「スチャ」。トップ側に入れてインナーへ。「カシャン」。
かなり意地悪な状況で変速を試みても、平気な顔でスチャカシャ変速してくれる。もちろん、電動変速機のパワーもあるだろうが、それにしたってチェーンの上りが速い。サードパーティー製のチェーンリングに対してこれまで持っていた偏見(差別感情といっても良いかもしれない)は一気に打ち砕かれた。
改めて見てみると、アウターチェーンリングの裏側にはかなり精巧な変速ポイントが設計されており、純正品顔負けの変速スピードも納得。さすがに中空チェーンリングを採用するシマノに対しては構造的なビハインドを持っているとは思うのだけれど、ブラインドテストで判断しろと言われるとどちらかを当てる自信は無い。
そんなわけで、器量よし性格よし、というクランクセットに満足していたところ、追加で届いたのがパワーメーター対応のスピンドル。さっそくアセンブルしようとクランクを外し、左アームとスピンドルを分解しようとしたところ、問題が発生。
スピンドルとクランクアームを締結しているフィキシングボルトが外れない。16mm(なお8mmからの変換アダプターは同梱されている)のボルトなのだが、かなりのトルクで締めこまれているようで、工具を万力に固定し大人3人がかりでクランクアームを回して何とか外すことに成功。
レースフェイスが公式にスピンドル交換の手順をまとめた動画内では片手でラクラク回しているが、実際に相当苦労するのは間違いないのでパワーメーターモデルを考えていらっしゃる方は、最初から組付けられたパッケージをオススメする。
そのあとはスムーズにアセンブル完了。校正の正確さに影響するためだろう、スピンドルのクランクアームに対する角度は指定されているので注意が必要だ。充電はマイクロUSB。満充電になるとインジケーターが赤から緑へと変化して教えてくれる。充電を終えて、防水キャップを付ければインストール完了だ。
↑相当な腕力の持ち主である コンチネンタルのおばちゃんに匹敵するのではないだろうか
キャリブレーションはガーミンなどサイクルコンピューターから行うことも出来るが、公式に用意されたCINCHアプリからも行うことが可能。ファームウェアのアップデートもCINCHアプリから行うことになるため、同時にインストールした方が良いだろう。
パワーメーターとしての機能は標準的なもので、出力に加えてトルクエフェクティブネス、ペダリングスムースネスといった項目に対応する。パワートレーニングに必要な情報は網羅しており、過去に使用してきたパワーメーターと比べて精度面でも問題は無い。
というよりも、ベクトルを解析できる現状パイオニアのペダリングモニターや楕円チェーンリングに対応するローターの2INPOWERを除けば、各社のパワーメーターにスペック面での差異はほぼ無い。普段の使い心地や数値の安定性といった部分がパワーメーターを選ぶにあたって重要なポイントとなる。
その点CINCHパワーメーターは非常に優秀だ。クランクスピンドルに内蔵されているため、外気温の変化や浸水にも強く、衝撃に対しても堅牢で多少ラフに扱っても問題ない。何度か雨の中を走り、またバイクを水洗いしても動作は安定しており、耐久性については最高レベル。CXやグラベル、さらにはトレイルなど、ロードバイクよりも過酷な状況でもこのシステムなら安心して使い続けられそうだ。ダイレクトマウント方式も相まって、非常に汎用性の高いパワーメーターシステムとして完成している。
また、通信の安定性も優れている。これまで使用した経験のあるパワーメーターでは、送電線の近くなどで接続が途切れることもあった。一方、CINCHパワーメーターでは1度もそういったことはなく、非常にストレスフリーに使用できる。
バッテリー容量についても、日々の通勤と週末ライドというような使い方では1年間で充電した回数は2回程度。先述のアプリでも残量が確認できるほか、サイクルコンピューターにも残量警告は通知されるので、電池切れによって計測できないというストレスは無い。
そして何よりも大きな特徴は、洗練されたルックスだろう。他社のパワーメーターは「自分、パワーメーター付けてるんで!」と声高に主張するかのようなモデルが多い。ここ数年で一気にコモディティ化してきたとはいえ、パワーメーターを装着している=シリアスサイクリスト、という偏見はまだまだ根強い。ペーシングにも使えるし、サイクリング派にもとても有用なんですけどね……。
自分はもはやシリアスアスリートとは程遠い位置にいるサイクリストであるので、あらぬ誤解を受けぬように出来るだけ目立たないパワーメーターが欲しかった。自意識過剰だと言われようが、カラフルなおにぎりがクランクにくっついていたり、明らかに純正と異なるスパイダーアームだったりするのは個人的にちょっと違うのだ。
しかも今後のアップデートではボイスコマンドにも対応してくれる……かもしれない。Hey!CINCH!
その点、CINCHパワーメーターは通常モデルとルックス面で異なるのは防水キャップのみ。市場に流通しているパワーメーターの中で、もっとも見た目の違和感が少ないモデルだろう。まあ、逆に言えばパワーメーター付けたんだよ!と自慢したい方には物足りないデザインとも言えるのだけど、そこはニーズの違いである。
スマートな見た目とクランクシャフト内蔵という堅牢な構造、更にダイレクトマウントシステムによる拡張性を考えれば、今後自転車を乗り換えてもパワーメーターを買い替える必要もなく長い付き合いが出来るはず。総合的に見て非常に完成度の高いクランクセットでありながら、人とは違うものが欲しいというひねくれ者の願いも叶えてくれる。そんなアンビバレンツなプロダクトをお探しのそこの貴方、そう、この長い駄文を最後まで読んでくれている貴方にこそ、このクランクはオススメできる逸品である。
EC90 SL パワーメーター&クランクアーム
クランク長:170mm、172.5mm、175mm
スピンドル径:Φ30mm
対応BB規格:BSA68mm、PF30、BB86、BB386
材質:クランク EC90カーボン
センサー規格:Bluetooth、ANT+
電源:USB充電(駆動時間約400時間)
ソフトウェア:CINCH Power Meter アプリfor iPhone or Android
価格:129,000円(税抜)
EC90 SL チェーンリング&スパイダー
素材:EA90アルミニウム
歯数構成:53T/39T、52T/36T、50T/34T
価格:24,000円(税抜)
text:Naoki.Yasuoka
野球やホッケー、アーチェリーなどなど、多岐にわたるスポーツ分野において大きな存在感を放つ北米ブランド、イーストン。もともとは、アルミチューブを得意とするメーカーだったが、素材に対する知見を活かしアルミやカーボンなどを駆使したハイエンドなプロダクトを送りだす最先端のスポーツ用品メーカーとして支持を集める存在だ。
スポーツサイクルの分野においても、ハンドルやステム、シートポストといったコンタクトポイントのコンポーネントからホイールに至るまで様々なカテゴリの高性能パーツをリリースしている。今回紹介するのは、同社のカーボンテクノロジーを駆使して製作されたクランクセット「EC90SL」。
2009年にデビューした超軽量カーボンクランク「EC90」の後継として、更なる軽量性と剛性を実現したのが「EC90SL」となる。最大の特徴は、近年主流になりつつあるダイレクトマウント方式を採用したクランクであるということ。ロードバイクではいまだ馴染みが無いが、MTBにおいてはもはやスタンダードとなるに至ったダイレクトマウント方式は、クランク周りの軽量化と剛性強化につながる規格として支持されている。
兄弟ブランドであり、MTB界においては非常に高い支持を受けるレースフェイスと共通の規格”CINCH(シンチ)”を採用し、チェーンリングやスピンドル、クランクアームを自由に組み合わせることが可能となる。イーストンとしても、フロントシングルおよびダブル用のスパイダーアームを用意しており、172.5mmクランクに40Tのシングルギアを装着した状態で442g、同様の長さのクランクと52/36Tというダブルギアの組み合わせで590gと非常に軽量に仕上がっている。
38~50Tまで2T刻みの7サイズが用意されるナローワイドのシングルチェーンリング、そして53/39、52/36、50/34という3種類のダブルチェーンリング、更にクランクアームは170、172.5、175mmという3サイズ展開に。さらに、スピンドルにはパワー計測に対応するモデルも用意されており、あらゆるニーズを満たすバーサタイルなクランクセットでもある。今回は、ロングタームで使用したCW編集部員・安岡の自腹インプレをお届けしよう。
― 編集部インプレッション
ロードバイク乗りにとって、コンポーネントブランド純正ではないクランクセットというのは、それなりにキワモノの部類に入るのではないだろうか。ワールドチームが使用するローターや、完成車に良くスペックインされているFSAといったブランドであれば馴染みもあろうが、そうではないブランドとなればなおのこと。
変速性能やマッチングの面で見ればトータルで開発されている純正品が最高だろうし、重量差だってそこまで大きなものじゃない。でも、やっぱり拗らせた自転車オタクとしてはどこか外した選択で、なけなしの個性をアピールしたいもの。
そんな中でイーストンを選んだ理由は、メインコンポーネントのスラムRED eTapと同郷であること、スピンドル計測方式のパワーメーターがあること、そしてなによりあまり人と被らない一方で信頼感のあるプロダクトだということ。さらに言えば、JIS対応するGXP仕様の純正クランクより僅かながら軽いというのも選んだ理由の一つである。
当初はパワーメータースピンドルが届いておらず、ノーマルな状態で組み付けることに。ダイレクトマウントのメリットを最大限に享受するのであれば、本来は様々な使用シーンが想定されるCXバイクやオールロードといったバイクこそが最も似合うのだろうが、今回は古色蒼然たるロードレーサーへの取り付けとなることをお許しいただきたい。取り付けはいたって簡単。右クランク側のフィキシングボルトを締め込み、左クランクの根本に着けられたプリロードリングで左右のガタを取れば終了だ。
乗ってみての第一印象はかなり固めの踏み心地。太めの断面積を持つボックス形状のクランクアーム、がっしりとした30mm径のスピンドルによって生み出される剛性感は数あるクランクセットの中でも上位に入るだろう。一方で、Qファクターは少し広めに感じる。数値で見ても149mmとなっており、シマノなどに比べると片側1.5mmずつ広い設計となる。幸い個人的にはクリートの調整範囲に収まっていたため特に不具合は無かった。
さて、サードパーティーのクランクセットで最も気になるのが、変速性能だろう。正直、見た目の時点で個人的には満足していたし、多少変速が甘かろうが遅かろうがシリアスな走りをするわけでもないので、大目に見るつもりでいた。そもそも変速性能を云々するのであれば、楕円チェーンリングでもないのだから大人しく純正品を使えばよいのである。
そんなわけで、大した期待もせずに変速レバーを押し込む。「スチャ」と一瞬でアウターへとチェーンが駆けあがる。もう一度レバーを押すと、「カシャン」と小気味よい音を立ててインナーリングにチェーンが落ちる。一連の動きに全く淀みは無い。あまりにもスムーズ過ぎて、いろんなギアポジションで変速してみる。ロー側に入れてアウターへ。「スチャ」。トップ側に入れてインナーへ。「カシャン」。
かなり意地悪な状況で変速を試みても、平気な顔でスチャカシャ変速してくれる。もちろん、電動変速機のパワーもあるだろうが、それにしたってチェーンの上りが速い。サードパーティー製のチェーンリングに対してこれまで持っていた偏見(差別感情といっても良いかもしれない)は一気に打ち砕かれた。
改めて見てみると、アウターチェーンリングの裏側にはかなり精巧な変速ポイントが設計されており、純正品顔負けの変速スピードも納得。さすがに中空チェーンリングを採用するシマノに対しては構造的なビハインドを持っているとは思うのだけれど、ブラインドテストで判断しろと言われるとどちらかを当てる自信は無い。
そんなわけで、器量よし性格よし、というクランクセットに満足していたところ、追加で届いたのがパワーメーター対応のスピンドル。さっそくアセンブルしようとクランクを外し、左アームとスピンドルを分解しようとしたところ、問題が発生。
スピンドルとクランクアームを締結しているフィキシングボルトが外れない。16mm(なお8mmからの変換アダプターは同梱されている)のボルトなのだが、かなりのトルクで締めこまれているようで、工具を万力に固定し大人3人がかりでクランクアームを回して何とか外すことに成功。
レースフェイスが公式にスピンドル交換の手順をまとめた動画内では片手でラクラク回しているが、実際に相当苦労するのは間違いないのでパワーメーターモデルを考えていらっしゃる方は、最初から組付けられたパッケージをオススメする。
そのあとはスムーズにアセンブル完了。校正の正確さに影響するためだろう、スピンドルのクランクアームに対する角度は指定されているので注意が必要だ。充電はマイクロUSB。満充電になるとインジケーターが赤から緑へと変化して教えてくれる。充電を終えて、防水キャップを付ければインストール完了だ。
↑相当な腕力の持ち主である コンチネンタルのおばちゃんに匹敵するのではないだろうか
キャリブレーションはガーミンなどサイクルコンピューターから行うことも出来るが、公式に用意されたCINCHアプリからも行うことが可能。ファームウェアのアップデートもCINCHアプリから行うことになるため、同時にインストールした方が良いだろう。
パワーメーターとしての機能は標準的なもので、出力に加えてトルクエフェクティブネス、ペダリングスムースネスといった項目に対応する。パワートレーニングに必要な情報は網羅しており、過去に使用してきたパワーメーターと比べて精度面でも問題は無い。
というよりも、ベクトルを解析できる現状パイオニアのペダリングモニターや楕円チェーンリングに対応するローターの2INPOWERを除けば、各社のパワーメーターにスペック面での差異はほぼ無い。普段の使い心地や数値の安定性といった部分がパワーメーターを選ぶにあたって重要なポイントとなる。
その点CINCHパワーメーターは非常に優秀だ。クランクスピンドルに内蔵されているため、外気温の変化や浸水にも強く、衝撃に対しても堅牢で多少ラフに扱っても問題ない。何度か雨の中を走り、またバイクを水洗いしても動作は安定しており、耐久性については最高レベル。CXやグラベル、さらにはトレイルなど、ロードバイクよりも過酷な状況でもこのシステムなら安心して使い続けられそうだ。ダイレクトマウント方式も相まって、非常に汎用性の高いパワーメーターシステムとして完成している。
また、通信の安定性も優れている。これまで使用した経験のあるパワーメーターでは、送電線の近くなどで接続が途切れることもあった。一方、CINCHパワーメーターでは1度もそういったことはなく、非常にストレスフリーに使用できる。
バッテリー容量についても、日々の通勤と週末ライドというような使い方では1年間で充電した回数は2回程度。先述のアプリでも残量が確認できるほか、サイクルコンピューターにも残量警告は通知されるので、電池切れによって計測できないというストレスは無い。
そして何よりも大きな特徴は、洗練されたルックスだろう。他社のパワーメーターは「自分、パワーメーター付けてるんで!」と声高に主張するかのようなモデルが多い。ここ数年で一気にコモディティ化してきたとはいえ、パワーメーターを装着している=シリアスサイクリスト、という偏見はまだまだ根強い。ペーシングにも使えるし、サイクリング派にもとても有用なんですけどね……。
自分はもはやシリアスアスリートとは程遠い位置にいるサイクリストであるので、あらぬ誤解を受けぬように出来るだけ目立たないパワーメーターが欲しかった。自意識過剰だと言われようが、カラフルなおにぎりがクランクにくっついていたり、明らかに純正と異なるスパイダーアームだったりするのは個人的にちょっと違うのだ。
しかも今後のアップデートではボイスコマンドにも対応してくれる……かもしれない。Hey!CINCH!
その点、CINCHパワーメーターは通常モデルとルックス面で異なるのは防水キャップのみ。市場に流通しているパワーメーターの中で、もっとも見た目の違和感が少ないモデルだろう。まあ、逆に言えばパワーメーター付けたんだよ!と自慢したい方には物足りないデザインとも言えるのだけど、そこはニーズの違いである。
スマートな見た目とクランクシャフト内蔵という堅牢な構造、更にダイレクトマウントシステムによる拡張性を考えれば、今後自転車を乗り換えてもパワーメーターを買い替える必要もなく長い付き合いが出来るはず。総合的に見て非常に完成度の高いクランクセットでありながら、人とは違うものが欲しいというひねくれ者の願いも叶えてくれる。そんなアンビバレンツなプロダクトをお探しのそこの貴方、そう、この長い駄文を最後まで読んでくれている貴方にこそ、このクランクはオススメできる逸品である。
EC90 SL パワーメーター&クランクアーム
クランク長:170mm、172.5mm、175mm
スピンドル径:Φ30mm
対応BB規格:BSA68mm、PF30、BB86、BB386
材質:クランク EC90カーボン
センサー規格:Bluetooth、ANT+
電源:USB充電(駆動時間約400時間)
ソフトウェア:CINCH Power Meter アプリfor iPhone or Android
価格:129,000円(税抜)
EC90 SL チェーンリング&スパイダー
素材:EA90アルミニウム
歯数構成:53T/39T、52T/36T、50T/34T
価格:24,000円(税抜)
text:Naoki.Yasuoka
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