ツール・ド・おきなわ市民レース最高峰の市民210kmに新たなチャンピオンが誕生。羽地ダムの上りでアタックを成功させた紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)が独走に持ち込み、2位以下に50秒の差をつけて優勝。一方で4連覇・6勝目のかかった高岡亮寛、優勝候補の井上亮、森本誠が落車して遅れるという不運も。激闘のレースをレポートする。



市民210kmの選手たちがスタートラインで健闘を誓い合う市民210kmの選手たちがスタートラインで健闘を誓い合う photo:Makoto.AYANO
ホビーレース甲子園の異名をもつツール・ド・おきなわ市民レース。その最高峰となるのが市民210kmだ。30周年記念大会の市民レース王者のタイトルに挑むのは、420人の参加者たち。この日を最大の目標として年間を通して厳しい練習を積み、研鑽してきた選手も多いことだろう。

コースは沖縄北部のやんばる地方を舞台に、名護から本部半島をほぼ一周してから海岸線を北上し、最北端の辺戸岬を経由し、「与那の坂」と呼ばれる普久川ダムへの6kmの登りを2回こなし、アップダウンが連続する東海岸を南下。消耗したレース終盤には勝負どころとして羽地ダムへの登坂が待ち構える。

優勝候補のふたり、高岡亮寛(Roppongi Express)と井上亮(Magellan System Japan)優勝候補のふたり、高岡亮寛(Roppongi Express)と井上亮(Magellan System Japan) photo:Makoto.AYANO昨年2位の松木健治(VC Fukuoka)昨年2位の松木健治(VC Fukuoka) photo:Makoto.AYANO


好天予報の通り、朝から雨の心配も不要なコンディション。午前7時27分、昨年より50人多い参加者が朝陽を浴びて走り出す。スタートすぐに逃げを試みる5人の選手たちが飛び出していく。

FIETS GROENの高野翔太と高橋伸成、ハヤサカサイクルレーシングチームの木村豊らが形成する5人の逃げは集団との差を開き、本部半島から平坦な海岸線へと逃げ続ける。その逃げは1回目の普久川ダムを経て奥の周回へと続いたが、2回目の与那の坂を前に吸収。登り始める前には落車が発生し、例年トップ10入りしている奈良浩(FIETS GROEN)らが巻き込まれる。

朝日を浴びて名護の街をスタートしていく選手たち朝日を浴びて名護の街をスタートしていく選手たち photo:Makoto.AYANO
スタート直後にアタックして逃げを試みる6人の選手スタート直後にアタックして逃げを試みる6人の選手 photo:Makoto.AYANO名護市街を背景に本部大橋を走る選手たち名護市街を背景に本部大橋を走る選手たち photo:Makoto.AYANO


有力選手が揃う大集団は大きなペース変化がないまま2回目の普久川ダムを越え、ダウンヒルを経て東海岸へと出る。ここからはアップダウンの連続する区間が続き、人数は徐々に絞り込まれることに。

有力選手が代わる代わる前に出てペースを上げ始めるとすぐに集団は30人ほどになる。そして激戦の火蓋が切られようとするまさにその時、アクシデントは起きた。残り60km地点、バランスを崩した井上亮(Magellan Systems Japan)が転倒し、4連覇のかかった高岡亮寛(Roppongi Express)と森本誠(GOKISO)を巻き込むことになってしまう。優勝候補筆頭の3人を含むメンバーが脱落する事態になったが、すでに集団は活性化しており、ペースが落ちることはなかった。

古代植物のヒカゲヘゴ繁るやんばる路を行く市民210kmの集団古代植物のヒカゲヘゴ繁るやんばる路を行く市民210kmの集団 photo:Makoto.AYANO
ヒルクライマー森本誠(GOKISO)が引くメイン集団ヒルクライマー森本誠(GOKISO)が引くメイン集団 photo:Makoto.AYANO井上亮(Magellan System Japan)が集団前方で普久川ダムをクリア井上亮(Magellan System Japan)が集団前方で普久川ダムをクリア photo:Makoto.AYANO


普久川ダムを下り東海岸へと進む市民210kmの先頭集団普久川ダムを下り東海岸へと進む市民210kmの先頭集団 photo:Makoto.AYANO
再び自転車にまたがって追走する高岡らと20人強のグループとの差は1分30秒。先頭グループでは紺野元汰と岡泰誠(イナーメ信濃山形)の元気がよく、小さなアタックを繰り返し打つ。とくに紺野は集団から大きく抜け出し、一緒に着いてこれる選手を探す素振りを見せるほど好調さを隠さない。アタックが連続してかかってハイペースの状態が続いたため、高岡らが再び先頭グループ合流にすることはできなかった。

東海岸の繰り返すアップダウンで集団は徐々に数を減らすが、それでも20人を下らない数が大浦湾まで残った。そこから始まる最後の勝負どころ、番越トンネルを経て羽地ダムへの上りへと突入する。

集団先頭に出て積極的に牽引する紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)集団先頭に出て積極的に牽引する紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
岡泰誠(イナーメ信濃山形)が集団から抜け出しを図る岡泰誠(イナーメ信濃山形)が集団から抜け出しを図る photo:Makoto.AYANO
白石慎吾(シマノドリンキング)が集団から抜け出しを図る白石慎吾(シマノドリンキング)が集団から抜け出しを図る photo:Makoto.AYANO
海の美しい東村に入り20人を越える人数がまだ残る先頭集団海の美しい東村に入り20人を越える人数がまだ残る先頭集団 photo:Makoto.AYANO
セレクション必至の勝負ポイントでまずアタックの口火を切ったのは、2003年と2012年の2度のチャンピオンで3年ぶりの出場となる白石真悟(シマノドリンキング)。これには紺野がすぐに反応し、追いつくと逆に前に出てペースをさらに上げる。後方からは松木健治(VC VELOCE)が寺﨑武郎(バルバレーシングクラブ)と田崎友康(F(t)麒麟山Racing)を引き連れて合流し、5人に。

小柄な身体をフルに使ってのダンシングで加速を続ける紺野の好調は明らかで、番越トンネルを抜けて右折し、短く急勾配の坂でさらにペースアップ。紺野は追走した4人を引き離すと、独走体制のまま頂上を越える。身体をさらに小さくするエアロ効果を意識したフォームでスピードを保ちながらダウンヒル。国道58号線へと出る。もしこの時点で30秒差を切っていたら一度グループに戻って再度仕切り直そうと考えていたという紺野だが、差は35秒から1分に開いていた。

羽地ダムの上りでアタックした紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)に3人が食らいつく羽地ダムの上りでアタックした紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)に3人が食らいつく photo:Makoto.AYANO
紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)が独走で国道58号線に出る紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)が独走で国道58号線に出る photo:Makoto.AYANO紺野元汰を追走する5人が協調しながら国道58号線を行く紺野元汰を追走する5人が協調しながら国道58号線を行く photo:Makoto.AYANO


追走グループには小畑郁(なるしまフレンド)が合流し、白石、松木、寺﨑、田崎の5人が先頭交代のローテーションをしながら紺野を追う。しかし人数で勝っても、エアロポジションでスピードを維持する独走の紺野との差を詰めるまでの脚は揃っていなかった。

約1分のタイム差をもって名護のフィニッシュに向かう紺野には、ラスト300mで沿道で見守る観客に向けて何度も勝利をアピールする余裕さえあった。

フィニッシュに向けて独走する紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)フィニッシュに向けて独走する紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
「最高の気分だけど、まだ実感が沸かない。3人ぐらいのスプリントに持ち込んで勝てればいいなと思っていたけれど、まさか独走で勝てるとは思っていなかった。レースしながら力が有り余っている感じがしていたので、最後は気合で独走に持ち込みました。高岡さん、森本さん、井上さんのビッグネーム3人が落車でドロップしたのに乗じて自分が先陣切って人数を絞り、ペースを上げたのはある。でも今日は誰のアタックにもキツさを感じなかった。ハマりにハマってたなと感じます。ここまでコンディショニングが完璧に決まったのは今までの自転車人生でも無かったこと。」

紺野の強さについては、レース前から下馬評が高く、紺野と事前に練習した有力候補たちはいずれもその好調ぶりに驚き、「ゴールスプリントまで連れて行ってはならない危険人物」としてマークを強めていたようだ。紺野本人も自信たっぷりで優勝を狙っていたものの、14kmの独走勝利は予想外だったと話す。紺野自身はスプリントで争いたくない相手として寺﨑武郎(バルバレーシングチーム)を警戒していたという。しかし独走で逃げ切るこの勝ち方は、本当に調子が良ければ十分できるだろうという予測もしていたプランだったと言う。

独走フィニッシュを決めた紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)独走フィニッシュを決めた紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
今シーズンはニセコクラシックで総合2位となり、イタリア、ヴァレーゼで開催されたグランフォンド世界選手権の19〜34歳カテゴリーで38位だった紺野。順位以上に「うまく走れば優勝が狙える」と感じたグランフォンドに手応えを感じた。その流れで好調を維持。さらにおきなわ前の1ヶ月相当で約3,000kmを乗り込み、万全の備えで狙った市民210kmだったという。来年の目標は、再びのグランフォンド世界選手権、そしておきなわ連覇にもチャレンジしたいと言う。

4連覇・通算6勝目がかかっていた高岡亮寛は追い上げたものの7分12秒遅れの20位でフィニッシュ。森本誠は9分29秒遅れの23位。なお井上亮はリタイアに終わっている。

市民210km表彰式  優勝は紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)市民210km表彰式 優勝は紺野元汰(SBC Vertex Racing Team) photo:Makoto.AYANO
高岡、井上、森本という3人の強者、そしてトップ10の常連選手たちが落車で遅れるという波乱に、もし彼らにトラブルが無ければという思いがある。しかし上位陣の選手たちは皆、紺野のこの日の強さは手のつけられないほどのものだったと話す。引退のない市民レースには、世代交代という言葉は当てはまらない。来年のやんばる路でリベンジマッチとなる熱き闘いが繰り広げられることに期待しよう。
ツール・ド・おきなわ市民210km リザルト
1位紺野元汰(SBC Vertex Racing Team)5:16:03.791
2位寺﨑武郎(バルバレーシングクラブ)+00:50.086
3位白石真悟(シマノドリンキング)+00:50.348
4位田崎友康(F(t)麒麟山Racing)+00:50.466
5位松木健治(VC VELOCE)+00:50.836
6位小畑郁(なるしまフレンド)+00:52.199
7位佐藤信哉(VC FUKUOKA)+01:32.762
8位持留叶汰郎(thcrew)+01:32.977
9位松田真和(VC FUKUOKA)+01:33.776
10位荒瀧隆公(Innocent)+01:34.272
photo&text:Makoto AYANO
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