ここ数年、日本のサイクリストにも身近になっているスペインのブランドがBHだ。スペインの自転車メーカーの最古参の1つとして、ロードバイクからMTBまで幅広いラインナップを揃えているマスプロメーカーである。


BH FUGABH FUGA (c)Makoto.AYANO/cycliwired.jp

特にカーボンフレームが主流となった近年では、オリジナリティあふれる「グローバルシリーズ」と呼ばれるラインナップを展開し、有力プロチームへのバイク供給をはじめ、世界的にも注目されるブランドへと成長している。

そんなBHだが、2010年モデルはフラッグシップが従来の「G4」から「G5」へと進化。G4の特徴であったエアロフォルムを継承しつつも、G5ではBB30や下部ベアリングをワンポイントファイブに設計したヘッド部など、最新の構造を搭載。でありながら、フレーム単体(未塗装、デイレーラーハンガー未搭載、XSサイズ)で810gという超軽量を実現し、数ある2010年モデルの中でも注目の1台としてロードバイカーの話題をさらっている。


トップチューブはシートチューブに向かって徐々に細くなり、ヘッド部の剛性と乗り心地を両立するトップチューブはシートチューブに向かって徐々に細くなり、ヘッド部の剛性と乗り心地を両立する しっかりとしたボリュームが確保され剛性を最適化するハンガー部。オーソドックスなねじ切り仕様しっかりとしたボリュームが確保され剛性を最適化するハンガー部。オーソドックスなねじ切り仕様



というG5の話題が冷めやらない中、BHは次なるホットモデルを投入してきた。それが2011年の先行モデルとして発売されるフルカーボンフレーム《フーガ》である。フレームセット価格は21万円ということから、BHのラインナップとしてはミッドレンジに位置づけられるモデルだ。しかし、フラッグシップのG5に酷似したカラーリングが与えられ、そのルックスは価格を思わせないほど完成された雰囲気を持っている。 

フレームはチューブ・トゥ・チューブ構造で製作され、重量は1050gというスペック。ミッドレンジのモデルとしては十二分な軽さを実現したと言えるだろう。フーガは、従来の G4やG5のようにグローバルシリーズを意味する「G」の頭文字を冠していないとはいえ、上位機種のDNAが見え隠れするフレーム設計だ。


ヘッドチューブの幅目一杯に設計された角形断面のトップ&ダウンチューブによりヘッド部の剛性が追求されるヘッドチューブの幅目一杯に設計された角形断面のトップ&ダウンチューブによりヘッド部の剛性が追求される リヤのシフトワイヤはチェーンステーに内蔵される仕様。G4 で採用された構造と同じだリヤのシフトワイヤはチェーンステーに内蔵される仕様。G4 で採用された構造と同じだ



まずジオメトリーに目をやるとシートアングルが72.5 と72度という、一般的なモデルに比べて寝かせて設計されている。次にチェーンステー長は400㎜に設計され、これも最近のモデルとしては短めだ。この寝たシートアングルと短いチェーンステーという組み合わせはG4のコンセプトに近いものだ。ちなみに G4の場合シートアングルは74と72度、そしてチェーンステーは400㎜に設計されている。

このジオメトリーは、チェーンステー長を詰めることで加速性を増し、短くなったチェーンステーにより失われるリアセクションの安定性は、シートアングルを寝かせてライダーの乗車位置を後乗りにして補正する狙いがあると推測できる。
アタック時に必要な優れた反応性とダウンヒルの安定性、そして上りのシッティングや平地の高速巡航におけるライディングを行いやすくするための後乗りのポジションという、レーシングバイクに必要な要素をバランスさせるためのジオメトリーと言えるだろう。

フレームワークは実に分かりやすい設計だ。大径化されたヘッドチューブには角断面のボリューム感あるダウンチューブとトップチューブが接合される。そしてハンガー部分にも大きな断面積が確保され、ヘッドからハンガー、チェーンステーに至るパワーラインがしっかり作られ駆動効率が追求されている。


ヘッドチューブの外径はかなり大きく設計されているヘッドチューブの外径はかなり大きく設計されている 横扁平されたブレード形状によりエアロ効果も追求されるフロントフォーク横扁平されたブレード形状によりエアロ効果も追求されるフロントフォーク シートステーはわずかなアールが与えられ、乗り心地の向上を狙っているシートステーはわずかなアールが与えられ、乗り心地の向上を狙っている



その一方、フレームのアッパー部分は快適性を確保するための定石通りの造りがみられる。横扁平のトップチューブはシートチューブに向かって徐々に細くなり、さらにシートステーにわずかなアーチシェイプを与えることで縦方向からの入力を拡散して乗り心地の向上が狙われている。また、バックセクションはシートステーの形状、シフトワイヤが内蔵されるチェーンステーなど、G4の面影が見て取れる。

そしてフロントフォークはこれまでのBHのモデルとは一線を画す形状だ。全体的なブレードのシェイプはわずかなアールを備えたエアロフォルムで、スコットCR1の処女作を思わせる。ブレード上部の断面積を大きくしてコーナリング時のねじれ剛性を追求しつつ、ブレード先端にわずかなアールを備えることで微細なしなりで振動を吸収する設計だ。剛性感と路面追従性、エアロ効果を上手くバランスさせた形状と言えるだろう。


大径の角形ダウンチューブが安定感あるライディングと優れた駆動効率に貢献する大径の角形ダウンチューブが安定感あるライディングと優れた駆動効率に貢献する 翼断面形状のシートチューブはホイールカットアウトが取り入れエアロ効果を高める翼断面形状のシートチューブはホイールカットアウトが取り入れエアロ効果を高める 短めのチェーンステーとモノステーでコンパクトに設計されたリヤセクション短めのチェーンステーとモノステーでコンパクトに設計されたリヤセクション



フラッグシップのG5、そしてG4までの派手さはないものの、フーガは上位機種のDNAを受け継ぎつつも、ミッドレンジとしてはかなり緻密な設計がされているモデルといえるだろう。価格も比較的手ごろに設定されているので魅力的な存在になりそうだ。果たしてテスター2人の評価はいかなるものだろうか?





― インプレッション


「しっかりしたフレームなのに乗り心地もいい。BHらしい走りが楽しめる」 佐藤 成彦(SPACE BIKES)


「しっかりしたフレームなのに乗り心地もいい。」 佐藤成彦「しっかりしたフレームなのに乗り心地もいい。」 佐藤成彦 フレーム単体重量が1050gと軽く仕上げられているので、その軽量性は走らせても体感することができました。そうしたフレームでありながらしっかり感も備えているので、ペダルを踏んだ分だけちゃんと進んでくれます。

ホイールにカンパニョーロ・ハイペロンがセットされているので、それだけに走行性能は優れていますが、それを差し置いてもレベルはかなり高いと思いました。

しっかりしたフレームだと路面からの突き上げが大きく、気になる場合もありますが、フーガは振動吸収性についてもかなり高いレベルが実現されていると感じました。なにしろ、ぱっと乗った瞬間に「これは乗り心地がいい」という感覚がありますから。

フレームのジオメトリーはコンフォート向けの設計ではありませんが、これだけ乗り心地が優れているのならホビーサイクリストがロングライドなどに使ってみるのも面白いかもしれません。

ハンドリングはちょっとクセがありますね。ちょっとクイックなのかもしれませんが、自分が理想とするフィーリングとは異なっているので違和感がありました。フレームのフロント部とリヤ部分で動きがずれるような感覚でした。


「トップチューブの角断面が剛性を確保しているが、内股に当たることが気になった」佐藤成彦「トップチューブの角断面が剛性を確保しているが、内股に当たることが気になった」佐藤成彦 個人的にはフレームとフォークのマッチングがもっといいと、レースなどでよりダイナミックに攻めるライディングができるのではないでしょうか。
ハンドリングはライダーによって好みの分かれるところですし、試乗時間も限られていたため、長時間乗り込んでゆけばバイクに慣れてカラダとの一体感が得られるのかもしれません。

BHは以前にG3というモデルに乗ったことがありますが、その乗り味はちょっとクセがありましたね。このフーガもハンドリングをはじめ、G3に似たところはあります。

そして、 軽くて、リアのバネ感があってよく前に進むというところも共通したフィーリングです。それがBHの特徴なのかもしれません。フレーム形状、ブルーカラーがキャッチーなグラフィックなど、見た目はかっこよく仕上げられたモデルだと思います。

しかし、トップチューブはフレーム剛性を確保するためか、横方向へのボリュームが大きく確保されたデザインなので、ライディングフォームによってはペダリングでヒザが当たってしまうこともあり、それがちょっと気になりました。

フーガはBHらいしい乗り味があって、BH好きのユーザーなら期待を裏切らないと思います。ハンドリングは自分の好みではありませんでしたが、それを除いたレーシング性能は高いレベルにあるので、ハンドリングがマッチするライダーならレース用にいいバイクだと思います。



「独創的なフレーム作りがオタク心をくすぐる」 鈴木 祐一(Rise Ride)


「長距離向きで性格にクセのある面白いバイク」鈴木祐一「長距離向きで性格にクセのある面白いバイク」鈴木祐一 フーガはすごくしなやかなライディングフィールで、これならばかなりの長距離を乗ってもライダーにイヤな疲れを残さないと感じました。

剛性が高いだけのフレームの場合、ペダリング時にクランクからの反発が脚に伝わりすぎて、ペダリングのリズムが合わず、それが次第に疲れとしてでてきてしまう場合がある。

ある程度のしなやかさを持っているフレームだと、どんなケイデンスでペダリングをしてもリズムがとりやすい懐の深さがありますね。フーガはそうした部分が非常に長けていると感じました。

フレームのデザインは一見すると、一般的に推進力を大きく左右するフレームの下半身(パワーライン)にはボリューム感があります。

しかし、その形とは裏腹に、乗ってみるとBBからチェーンステーは比較的柔らかく造られている印象を受けます。したがってペダリングのタイミングがとりやすい。

かといってパワーを逃がしてしまうようなデメリットはなく、自分の脚力をちゃんと推進力へと換えてくれるフィーリングが得られるのがいいですね。

全体的な柔らかさの一方、フレームの上半身であるトップチューブ、シートチューブのあたりには力強さを感じる。なので、全体的にしなやかなライディングフィールにしてはサドルに座っているとお尻に振動が伝わりやすい。もちろん、不快というレベルではない。

フレームすべてが柔らかい味付けだとフニャフニャなフィーリングで推進力がスポイルされるが、トップチューブとシートチューブでフレームの芯というか、シャッキリとしたフィーリングを出していると感じました。ちょっと今までのフレーム造りのアプローチとは一線を画すところがあることが興味深いですね。

「BHのユニークな造りがマニア心をくすぐってくれる」鈴木佑一「BHのユニークな造りがマニア心をくすぐってくれる」鈴木佑一 ボクも佐藤さんと同じく、フォークとフレームのバランスについては自分の理想とは違う感覚でした。やっぱり前輪と後輪の動きのタイミングが少しずれるイメージがありました。

特にコーナリングやダンシングの時に自分のカラダとバイクの動く感覚がずれている気がしました。自分がフーガに乗るのなら、自分の理想とするフィーリングに近づけるよう、フォークを差し替えてみるのも1つの楽しみかもしれません。

フーガは全体的に面白いフレーム作りをしていて、単に固いとか、柔らかいというだけではない、特徴的なライディングフィールを出しています。

なので、その性能を引き出すにも、僕ならシマノやカンパのコンポパーツをフル装備するのではなく、例えばサードパーティ製のパーツをアッセンブルしてみるのもオモシロイと思います。

個人的にはローターシステムのような楕円チェーンリングはフレームのペダリングフィールとは相性がいいのではないかと思いました。ちょっとクセがあり、それゆえに楽しめるバイクと言う意味ではサーベロに似た点がありますね。
フーガはそういうマニアックなパーツアッセンブルを楽しめる、ちょっとオタクごころをくすぐってぐれる面白い存在のバイクだと思います。





BH FUGABH FUGA (c)Makoto.AYANO/cycliwired.jp
BH FUGA
フレーム重量:1050g
フレームサイズ:44、49、55
フレームセット価格:21万円





インプレライダーのプロフィール


佐藤 成彦佐藤 成彦 佐藤 成彦(SPACE BIKES)

千葉県松戸市の「バイクショップ・スペース」のオーナー。身長179cm、体重64kg。実業団のBR-1クラスを走る現役のレーサーでもあり、近所に住んでいるシマノレーシングの鈴木真理選手と共にトレーニングをこなすほどの実力を有している。2009年の戦歴は全日本実業団BR1クラス3位、実業団富士SW BR1クラス2位など。ハードなロードレースで自らが試して得た実戦的なパーツ選び、ポジションのアドバイスに定評がある。
SPACE BIKES


鈴木 祐一鈴木 祐一 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド


ウェア協力:Santini, Sportful(日直商会

text&edit :Tsukasa.Yoshimoto
photo:Makoto.AYANO