「一生手に入らないんじゃないかと思っていたアルカンシェルを獲得。キャリアの中で最もエモーショナルな勝利だった」と語るのは新チャンピオンに輝いた38歳のアレハンドロ・バルベルデ。ロード世界選手権男子エリートロードレースを走った選手たちのコメントを紹介します。



1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン)

アルカンシェルに袖を通したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)アルカンシェルに袖を通したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン) photo:Kei Tsuji
はっきり言って、信じられない。世界選手権とツール・ド・フランスは誰もが勝つことを夢見るレース。ツールではまだ勝てていないけど、こうして世界チャンピオンになることができた。レースで勝って泣くのはこれが初めてではないけど、一生手に入らないんじゃないかと思っていたアルカンシェルを獲得。キャリアの中で最もエモーショナル(感情的)な勝利だった。何度も惜しいところで逃してきたタイトル。何度もメダルを獲得してきたけど、金メダルだけが自分に足りなかった。

今日はスペインチームがどの展開にも絡み、フィニッシュラインまでレースをコントロールできていた。天候とチーム力、レース展開などすべてが自分に味方した。もちろん2番手か3番手からスプリントするのが理想だけど、後ろから誰かが迫ってきているかもしれないので、最後は自分が責任を担いながら先行して残り350mからスプリントを開始。長めのスプリントだったけど、自分には完璧な距離だった。

先頭でフィニッシュに飛び込んだアレハンドロ・バルベルデ(スペイン)先頭でフィニッシュに飛び込んだアレハンドロ・バルベルデ(スペイン) photo:Innsbruck-Tirol 2018 / BettiniPhoto
この勝利はナショナルチームの勝利であり、今でも信じられなくて言葉が出てこない。史上2番目に年齢の高い世界チャンピオンになったとは知らなかった。これは40歳近いベテラン選手でもレースで勝てることを意味している。アルカンシェルのお披露目はイル・ロンバルディアになる予定。

2位 ロマン・バルデ(フランス)

世界最大のレースで勝利まであと少しのところまで行ったので、この2位という成績には満足できない。集団スプリントでも先頭を取れるようなバルベルデを相手に、長くてハードなレースの最後にスプリントで勝負するのは簡単なことじゃない。満足はしていないけど、他にもっと違った走り方ができたとは思えないし、悔いはないよ。願わくは彼が登りで千切れるか、後ろからチームメイトが追いついて来ることを願っていた。

フランスチームの走りは素晴らしかった。チームとして戦略的に動いた結果、多くの選手をふるい落とすことにも成功したし、勇気を持って挑み、自己を犠牲にして一つの目標に向かって走ったことを誇りに思う。素晴らしい1分間の出力を発揮するジュリアン(アラフィリップ)を最高のポジションで最後の登りに連れて行ったけど、彼は苦しんでやがて攣ってしまった。その時点で今日は自分が勝負しないといけないと思った。250kmを超えるレースでは最後まで何が起こるかわからない。結果には失望しているけど、フランスチームは最善の走りをした。

3位 マイケル・ウッズ(カナダ)

周回コースの雰囲気は最高だったよ。あまりにも歓声が大きくてずっと耳鳴りがしていたほど。そういう歓声を味方につけて今日は走ろうと思っていたんだ。そして最後のヘッレの登りは完璧に自分向きだった。800mにわたって急勾配が続く登りをダンシングでこなすような状況では、自分は世界トップクライマーの一人だと思う。調子も良かったし、早く激坂を登りたいという気持ちだった。遅れていくビッグネームを見て余計にアドレナリンが出たよ。

「ヘッレ(地獄)」で先頭を走るマイケル・ウッズ(カナダ)ら「ヘッレ(地獄)」で先頭を走るマイケル・ウッズ(カナダ)ら photo:Kei Tsuji
オランダやフランスのようにカナダは人数を揃えることができないので、ポジションを守るのは難しい。でも今年は他の選手たちに認められたという実感があって、以前よりもずっと位置どりがしやすくなった。

(バルベルデとバルデと)3人になってから言葉をかけながら走った。彼らはチャンピオンであり、付き位置固定で力を温存しようとはしなかった。全員が勝ちたいと思うグループの中で走るのは素晴らしい気持ちだったし、協調体制は築けていた。スプリントには自信があったし、バルベルデがスプリントを開始してからも最後の一発で前に出れると思っていた。でも残り150mで脚が強烈に攣ってしまったんだ。勝てるところだっただけに残念な結果になってしまった。

4位 トム・デュムラン(オランダ)

「ヘッレ(地獄)」の登りをこなすトム・デュムラン(オランダ)「ヘッレ(地獄)」の登りをこなすトム・デュムラン(オランダ) photo:Kei Tsuji
登りで彼ら(バルベルデやバルデ、ウッズ)のスピードに対応できなかった。全力で踏めば食らいつけたと思うけど、そうすればそこで脚が攣ったり、脚が終わっていたと思う。28%の激坂で脚が攣ってしまうともうどうしようもない。だから自分のテンポで登ったんだ。下りを目一杯攻めれば追いつけると確信していたけど、いずれにしても平坦区間で先頭3人に追いついた時点で自分にはもう力が残っていなかった。少しだけ彼らの後ろで力を貯めて残り1kmで仕掛けたけどバルベルデの走りは鋭かった。スプリントで彼らに引き離されるほど、もう力は残っていなかった。

今シーズンは低迷した春先を除いて良い成績を残せたと思う。自分のキャリアの中で最高のワンデーレースだったと言える。春のクラシックレースでもいずれ結果を残せるようになりたい。

5位 ジャンニ・モスコン(イタリア)

インスブルックに拠点を置くジャンニ・モスコン(イタリア)が遅れるインスブルックに拠点を置くジャンニ・モスコン(イタリア)が遅れる (c)CorVos
あと少し力が足りなかった。あと少し、あと少し踏めていれば先頭に残れていたのに、あれ以上踏めなかった。限界に達していて、もうなす術がなかった。後ろから追いついてきたトム・デュムランに食らいつくことさえできなかった。下りで回復を図ってから、先頭が牽制状態になって失速していることを期待しながら平坦区間で追い上げたけど、最後まで彼らの背中に追いつかなかった。

オーストリアとインスブルックの街が好きで、今年ここに移り住んだばかり。ホームタウンとも言える場所でメダルを獲得することができれば最高だったけど、今日は自分の日ではなかった。5位という結果は祝福するに値しないけど、間違いなくイタリアチームは全力で戦った。(出場停止処分を受けずに)ブエルタに出場できていれば最高の準備レースになっていたと思う。今日のレースから学ぶことは多いし、今の調子であればシーズン最後の数レースで結果を残せると思う。

7位 ミケル・ヴァルグレン(デンマーク)

積極的な走りを見せたミケル・ヴァルグレン(デンマーク)積極的な走りを見せたミケル・ヴァルグレン(デンマーク) (c)CorVos
厳しい激坂を前に、逃げ切るには少なくとも2分のリードが必要だった。もう少し頑張れば6位に手が届いたと思うけど、その結果は気にしていない。どっちにしてもトップ5には入ることができなかった。勝つために動いた自分の走りには満足しているし、最後は力が足りなかった。エネルギー切れで、最後は脚も攣っていた。体重が65kgクラスの他の選手とは違うので(70kg超)、そこで差がついてしまった。

8位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス)

「ヘッレ(地獄)」で遅れたジュリアン・アラフィリップ(フランス)「ヘッレ(地獄)」で遅れたジュリアン・アラフィリップ(フランス) photo:Kei Tsuji
個人的に、とても残念な気持ちに包まれている。でも言い訳なんてない。最後の登りは自分には厳しすぎた。もう脚には何も力が残っていなかった。それまで全てが順調だったのに、最後の最後に爆発してしまった。一度失速してしまうと、もう回復できなかった。

49位 ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)

この世界選手権をミケーレ・スカルポーニと今年亡くなった祖父に捧げたいと思っていた。でも自分の走りは残念なものだった。あるところで突然スイッチが切れて失速。クライスヴァイクのアタックに反応したことが仇となって、レッドゾーンまで追い込むこともできなかった。ブエルタが終わってから自分の状態に手応えを感じていたものの、まだまだ調整が足りなかった。2017年の同時期と同じコンディションであれば最後の勝負に残ることができていたと思う。朗報だったのは、予想よりもスピードが速いハードなレースにもかかわらず、背中が痛くならなかったこと。来シーズンに向けてこの冬はしっかり乗り込まないといけない。

50位 グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)

早めのタイミングでアタックしたグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)早めのタイミングでアタックしたグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー) (c)CorVos
とても登りが多い厳しいコースだったけど、今日はとても調子が良かった。最後の登りまで待っていてはチャンスがないので早めにアタックしたんだ。でも2人しかついてこず、フライレは協力しなかったし、リードは奪えなかった。完璧にコントロールされたレースだった。

バルベルデは世界タイトルに値する走りをした。彼が勝って嬉しいよ。彼の(ドーピング違反の)過去について振り返る必要はない。彼は安定感の塊のような選手であり、まだ手にしていないタイトルに向けて素晴らしい走りをした。

DNF ペテル・サガン(スロバキア)

大会4連覇を狙ったペテル・サガン(スロバキア)大会4連覇を狙ったペテル・サガン(スロバキア) photo:Kei Tsuji
予想していた通り2018年の世界選手権はクライマー向きだった。インスブルックのコースは自分のタイプの選手には難易度が高すぎた。それでも3年間着用したアルカンシェルに敬意を表すために全力を尽くしたよ。世界チャンピオンに輝いたアレハンドロ・バルベルデを祝福したい。

DNF 中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ)

スタートを切る中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ)スタートを切る中根英登(NIPPOヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji
世界選手権への出場は今月に入ってから決まった。今シーズンは、9月中旬のイタリア連戦に重点を置いており、今シーズンの一番いいコンディションだったのは、8月末のアジア大会から9月19日のジロ・デラ・トスカーナ(UCI1.1)だった。トスカーナから約10日、アジア大会からは約1ヶ月経ってしまっていたので、コンディションが下降気味だと感じていたが、所属チームやナショナルチームがベストな状態でスタートに送り出してくれたので、コンディションは大丈夫だと自分に言い聞かせていた。2週間前のコンディションだったら、もう少し先頭集団にいられて、周回を重ねることができたとは思うが、だからといって上位を狙えたわけではない。圧倒的なレベルの差があるのはわかっているが、すごく悔しい気持ちで、もっと強くなりたいと思っている。

シーズン序盤は、世界選手権に出場できるとはまったく考えていなかった。しかし、出場させてもらえる機会を得て、初めて走り、もっと準備しないといけない、力やテクニックをつけたいと強く感じた。日本代表として、日本人選手が一丸となって獲得したUCIポイントでスタートラインに立たせてもらった。そういう責任を感じていたが、結果を出せず、申し訳ない気持ちが強い。しかし、落ち込んでいても仕方がないので、来年も自分が出るという気持ちで準備していきたい。そして、さらにポイントを獲得して、もう一つ上の”出場枠4”をめざしたい。今度は日本人選手4人で厳しいレースにチャレンジしていきたい。

text:Kei Tsuji