マペイやファッサボルトロ、リクイガス、ロット、ISDを経て、今季チームスカイと契約を結んだ35歳のダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア)。チームスカイの盤石なサポート体制に満足するプロ10年目のベテランに、グレゴー・ブラウンが訊いた。

チームスカイで10年目のシーズンをスタートさせたダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア)チームスカイで10年目のシーズンをスタートさせたダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア) photo:www.teamsky.com「チームスカイは絶好調だ。ここまで全てが上手く進んでいる」。チームスカイジャージでGPインスブリアに出場したチオーニは、笑顔で新チームの良さを語った。

イギリスのメディア王ルパート・マードックが所有するブリティッシュ・スカイ・ブロードキャスティング社が出資し、デーヴィッド・ブレールスフォード監督が指揮を執るチームスカイ。その構想は2008年にスタートした。

2004年ツール・ド・スイスで総合3位に入ったダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア、右)2004年ツール・ド・スイスで総合3位に入ったダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア、右) photo:Cor Vos長い準備段階を踏んだチームは、サイモン・ジェランス(オーストラリア)やフアンアントニオ・フレチャ(スペイン)、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー)と言ったスター選手を次々に獲得。2009年12月にはブラドレー・ウィギンズ(イギリス)の電撃移籍で世間を騒がせた。

しかしチームの特徴はその所属選手の豪華さではなく、スタッフを含めた盤石のサポート体制だ。チオーニ曰く、それはかつて最強チームとして君臨したマペイに通じるものがある。

2004年のイタリア選手権タイムトライアルで優勝したダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア)2004年のイタリア選手権タイムトライアルで優勝したダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア) photo:Cor Vos「チームは選手に主眼を置いて動いている。見落としそうな細かい部分まで徹底的にサポートするし、スタッフも素晴らしい人物ばかり。いつでもスタッフが問題を解決してくれる。チームの理念から何から何まで、全てのアプローチが他のチームとは違うんだ。中にはF1チームで働いていたスタッフや、NASAの面接に行ったというスタッフもいる」。

チオーニと25名のチームメイトたちは、昨年12月にイギリス・マンチェスターで顔を合わせた。そこでチームは、選手一人一人にどのレースに出場したいかを尋ね、選手全員にiPhoneとMacBookProを1台ずつ支給した。もちろんそれらは単なる特典ではなく、目的があっての支給だ。

サイレンス・ロット時代のダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア)サイレンス・ロット時代のダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア) photo:Cor Vos「チームは特に選手とスタッフ間のコミュニケーションに重点を置いている。何か困った問題が発生した時、スタッフはすぐにEメールか電話で連絡してくる。直接訪問してアドバイスをくれることも珍しくない」。

精神科医として警察の犯罪捜査に加わったことのあるスティーヴ・ピータースも、チームスカイのスタッフの一人だ。かつてピータースはこう語っていた。「精神科医の仕事は、クルマの扱い方を教えるようなもの。先ずはボンネットを開け、車体を隅々まで点検する。必要があれば全てばらして、パーツを一つずつチェックし、また元通りに組み上げる。そうすればクルマはそれまでよりずっと速く走るんだ」。

趣味でオリーブを栽培してオイルを製造するダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア)趣味でオリーブを栽培してオイルを製造するダリオダヴィデ・チオーニ(イタリア) photo:Cor Vosチオーニはピーターズのアドバイスがチームを影で支えると信じている。「精神的なケアが必要な時は、彼の存在が大きなアドバンテージになると思う。ピーターズは例を挙げて説明してくれたことがある。人間は自己中心的な生き物だけど、チンパンジーと違って、チームとして闘うために理性で自己をコントロールすることが出来る。種の繁栄に全てを捧げて生きている蟻のように、全員で同じ方向を向いて障害を乗り越えて行くのがチーム競技。もしそれが不可能なら、また違う方法を探せばいい」。

チームスカイと1年契約を結んだチオーニは、現在イタリア・トスカーナ州に住んでいる。元プロ選手で英国チームのコーチを務めたこともあるマックス・シアンドリ監督の家から25kmほど離れた場所だ。「彼とは2008年に知り合って、それ以降ずっと連絡を取り合っていた。そして昨年のジロ・デ・イタリアで初めてデーヴィッド・ブレールスフォードに出会い、契約話がまとまったんだ」。

チオーニは現在35歳。現役選手としては最年長クラスだが、引退はまだ考えていない。「僕は自分のことを“経験豊かな”選手だと思っている。歳を重ねても能力が落ちていないから、現役を退く理由が無い。チームが望むなら、まだまだ選手を続けるつもりだよ」。

2004年のジロ・デ・イタリアで総合4位に入ったチオーニは今年、ウィギンズと共にジロに出場する。そこでチオーニは2007年以来の勝ち星を目指す。「今年のジロは最終週がとても厳しいけど、前半のステージも決して手が抜けない。チームスカイとしては第1週のチームタイムトライアルでチャンスがあると思う。ブラドリー(ウィギンズ)はステージ優勝に興味を示しているので、総合成績を狙うのは僕だ。仮に僕が総合成績を狙えるコンディションならば、チームは全力でサポートしてくれる」。

チオーニは3月7日から14日まで開催されるパリ〜ニースに出場する。チームスカイからは、チオーニの他に、サイモン・ジェランス(オーストラリア)、シルヴァン・カルザッティ(フランス)、キェール・カールストローム(フィンランド)、スティーブ・クミングス(イギリス)、グレゴリー・ヘンダーソン(ニュージーランド)、セルジュ・パウエルス(ベルギー)、ジェレイント・トーマス(イギリス)が出場する予定だ。


text:Gregor Brown
photo:Gregor Brown, Kei Tsuji, Cor Vos
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。





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