ベルギーのバイクブランド、エディ・メルクスより「Blockhaus67」をインプレッション。トリプルバテッドチューブによって高い剛性を確保しつつ軽量化を実現したレーシングアルミバイクとして、エントリーモデルながら優れた反応性を持つ1台に仕上がっている。



エディ・メルクス Blockhaus67エディ・メルクス Blockhaus67 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
現役通算525勝という偉業を成し遂げた伝説的なレーサー、エディ・メルクス氏が引退後自らの名前を冠し立ち上げたバイクブランドがエディ・メルクスだ。圧倒的な勝利への執念から自身の機材にも強いこだわりを持ったメルクス氏の経験とノウハウをバイクに落とし込み、各ラインアップともに優れたレーシング性能を実現している。

グランツールの総合優勝回数はツール5回、ジロ5回、ブエルタ1回など驚異的な戦績を残しつつ1978年に選手を引退。現役時代に自身のフレーム製作を一貫して依頼していたデローザの創業者でもある、ウーゴ・デローザ氏に師事しフレームビルダーとしての技術を学んだ後、ベルギーのブリュッセルに工房を開いたのがブランドの始まりだ。

BBに向かって幅広になるフレア形状によって接合面積を広げ剛性を強化したシートチューブBBに向かって幅広になるフレア形状によって接合面積を広げ剛性を強化したシートチューブ 上下異径のオーバーサイズヘッドチューブにより優れたハンドリング性能を実現上下異径のオーバーサイズヘッドチューブにより優れたハンドリング性能を実現 フォークはコラムまでフルカーボンとし軽量性と剛性を強化、安定したコーナリングに貢献するフォークはコラムまでフルカーボンとし軽量性と剛性を強化、安定したコーナリングに貢献する

メルクス氏のフレーム哲学と、史上最強レーサーである己のフィードバックから生み出されたジオメトリーによって、各モデルともライダーとの高い一体感が特徴だ。最高のパフォーマンスを発揮できる走りをイメージし、各サイズでジオメトリーを細かく調整。それにあわせシートステーを始めとする各チューブの長さも数mm単位で変更されている。

生粋のレーシングブランドとしてラインアップを拡充させてきた同社は、過去にはクイックステップなどのワールドチームもサポートし、現在はプロコンチネンタルチームのスポートフラーンデレン・バロワーズや地元ベルギーの若手チームを中心に機材供給を行う。そんなエディ・メルクスのエントリーグレードを担うアルミフレームバイクが、今回紹介する「Blockhaus67(ブロックハウス67)」である。

角型断面を用いたダウンチューブ形状がねじれ剛性を高める角型断面を用いたダウンチューブ形状がねじれ剛性を高める モデル名の由来であるブロックハウスを制した当時のレースプロファイルが刻まれるモデル名の由来であるブロックハウスを制した当時のレースプロファイルが刻まれる
BB86によってフレームボリュームを稼ぎ、かつチェーンステークリアランスの確保にも一役買うBB86によってフレームボリュームを稼ぎ、かつチェーンステークリアランスの確保にも一役買う 左右非対称設計のチェーンステーがパワー伝達性を高める左右非対称設計のチェーンステーがパワー伝達性を高める

モデル名はメルクス氏がグランツール初優勝を飾った第50回ジロ・デ・イタリアの第12ステージ、イタリア中部にそびえるアペニン山脈にあるブロックハウスの山頂ゴールを制したことに由来する。”67”は当時の年号1967年から。ラスト1kmの登りを凄まじい速度で駆け抜けたというメルクス氏の走りを体現するフレームとして、抜群の軽量性を有しているのが大きな特徴だ。

フレーム素材には標準的な6061アルミニウムよりも30%剛性が高いという6069アルミニウムを採用。重量比剛性の高い素材を使用することにより、同じ強度でも重量を軽く仕上げることが可能になる。かつチューブの厚みを3段階に変化させるトリプルバテッド構造を用い、力の加わる部分に厚みを持たせ剛性を確保しつつ、それ以外を薄くすることで軽量化を図っている。

シフトワイヤーはダウンチューブに内装され、BB下からフレーム外装へと変化するシフトワイヤーはダウンチューブに内装され、BB下からフレーム外装へと変化する シートステー上部を扁平形状とし振動吸収性を高めるエディ・メルクス特有のデザインシートステー上部を扁平形状とし振動吸収性を高めるエディ・メルクス特有のデザイン

そのためフレーム重量はアルミフレームながら1,190gと軽量な値をマークする。かつフロントフォークは上位モデルと同じフルカーボンのワンピース構造によって重量360gとこちらも軽量に仕上がり、バイク全体で軽快な走りと高い反応性を実現している。

ヘッドチューブは上部1-1/8”、下部1-1/2”となった上下異径のオーバーサイズによって剛性を確保し、優れたハンドリング性能を生み出す。また圧入式のBB86によりBB周辺部のボリュームを稼ぎ、同時に左右非対称形状のチェーンステーとBBに向かってフレアしたシートチューブなどによってパワー伝達性を高めるよう設計されている。

トップチューブに「LEAVE THE PACK BEHIND(集団を置き去りにしろ)」のスローガンが入るトップチューブに「LEAVE THE PACK BEHIND(集団を置き去りにしろ)」のスローガンが入る ダウンチューブ裏には”EDDY MERCKX”のロゴを配置ダウンチューブ裏には”EDDY MERCKX”のロゴを配置 溶接を2度重ねることで仕上げの美しさと継ぎ目の強度を確保する溶接を2度重ねることで仕上げの美しさと継ぎ目の強度を確保する

エディ・メルクスのバイクに特徴的なシートステー上部を扁平させた造形はアルミフレームとなっても引き継いでおり、振動吸収性を高め快適性を強化する。タイヤクリアランスは最大28mmまで対応し、優れた転がり抵抗と乗り心地を両立するワイドタイヤもセット可能だ。各チューブの継ぎ目はTig溶接した後、さらに仕上げの溶接を加えることで見た目の美しさとチューブ間の強度向上を実現している。

シフトワイヤー類はダウンチューブに内装された後、BB下からフレーム外装に切り替わる方式とすることで、スッキリした見た目とメンテナンス性の両方に配慮された作りとなる。販売はシマノULTEGRA完成車とシマノTIAGRA完成車の2種類。女性用ジオメトリーに変更したモデル名違いの「Montreal74(モントリオール74)」も展開される。それでは、インプレッションに移ろう。



― インプレッション

「レーシングな性能を感じる実戦向きの1台」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

エントリーのアルミバイクながら非常に出来の良いモデルというのが第一印象です。ハイエンドのカーボンバイクに乗り慣れている人だと、そこからさらにプラスアルファの性能を感じるとまではいきませんが、ハンドリングも剛性感も良くて、ただ硬いだけのアルミバイクから比べると乗りやすさが際立っていますね。

といっても、走りの性格は至ってレーシー。コンフォートなイメージはなく、速く走るために高い加速性など動きの良さを追求した乗り心地に仕上がっています。それでいて硬さを感じないフレームの作りで、足馴染みが良いのも大きな特徴です。踏み返しのダメージが少なく、かつダンシングもしやすい振りの軽さで走りのリズムも取りやすいと思います。

「レーシングな走りの性能を感じる実戦向きの1台」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)「レーシングな走りの性能を感じる実戦向きの1台」西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
乗った時にアルミフレームらしいフィーリングはありますが、トルクを掛けても反応性は良く低速での進み方も気持ちの良い。下手なカーボンバイクよりも走りの性能は良さそうな印象です。カチカチな剛性感にせず、バランス良い踏み味でオールマイティに使えるレーシングバイクに仕上がっています。

対して振動吸収性はそこまで重視されていない部分でしょう。ですが、素材的にもアルミで快適性を狙ってもカーボンバイクほどの性能へは煮詰めきれません。それならこのバイクのように、全方位を狙うのでなく、走りの性能を追求する方向にいくのが正解だと感じました。それでも不快な乗り心地ではなく、価格を考えても全体的に上手くまとまった性能と言えますね。アルミだから安価な値段設定ではありますが、走りは決して安いバイクではないなと思いますね。

丸型ではなく台形のように変形させたチューブシェイプなど凝った点も見受けられますし、エントリーモデルながら作りに粗さは感じません。パーツ類もデダをアセンブルしたチョイスは安心できますよね。フレームのポテンシャルは高いので、軽めのアルミホイール、例えばマヴィックのキシリウムやシマノのC24などを合わせるとより戦闘力が上がるでしょう。

登りの性能も良いので、ヒルクライムを始めてみたい人やアップダウンのあるレースを考えている人にオススメできる実戦勝負のバイクです。エントリーモデルですが、期待を裏切らない走りで満足できる1台となってくれるでしょう。

「アルミバイクらしい掛かりの良さ、技量を磨く入門バイクにぴったり」小西裕介(なるしまフレンド)

「アルミバイクらしい掛かりの良さ、技量を磨く入門バイクにぴったり」小西裕介(なるしまフレンド)「アルミバイクらしい掛かりの良さ、技量を磨く入門バイクにぴったり」小西裕介(なるしまフレンド) 低速での漕ぎ出しの軽さやハンドリングの軽快さなど、ロードバイク特有の気持ちの良い走りが十分に表現された1台です。柔らかめのカーボンバイクだと快適性は高くても推進力が足りないものもある中で、アルミフレームながら走りの性能は高く、ロードバイクのなんたるかが感じられて非常に好印象でした。

大パワーに対応したフレーム剛性を持っており、トルクを掛けた時のかかりの良さが光ります。アルミという素材の性質上、しなりやウィップを活かした走りではなく素直な反応性を味わって欲しいですね。優れた加速から淡々とペースを刻んだり、踏み直しが多いクリテリウムを駆けたりといったシーンで活きそうなバイクです。

登りも問題なくこなせる性能ですが、疲労でパワーが出なかったり急な斜度に差し掛かったりしたときに、速度が落ちてしまうと走りに重さが出てきてしまいます。気持ちよく走り切るために、イーブンペースで登りきれる走力や無理のないギア選択を身につける手助けをしてくれる、ライダーの技量を磨く1台となってくれそうです。

身体に優しい快適性を求めるならカーボンバイクを選択した方が無難ですが、アルミでこれだけの走りのバランスが出せているなら全く不満はありませんね。ましてやTIAGRA組みの完成車として考えるなら最高に走りますよ。レースで使えるフレームポテンシャルは十分に持ち合わせているので、よりハイスピードを意識したパーツアセンブルにすると、もっともっと走りが洗練されるイメージが湧きますね。

エントリーモデルとは言いますが、下りでハードブレーキしてもフォークがビビることもなく、また腰高感があるわけでもなく、安心感の高いライディングが楽しめます。硬いアルミフレームの中には、タイヤの接地感が薄くてヒラヒラした走り心地のものもありますが、これはそんなこともなく安定したステアリングでした。

全体的にそつのない走りで初めてのロードバイクとしてもぴったりですね。ここからレース志向のカーボンバイクに買い換えようとか、より快適性の高いツーリングモデルの方がマッチしそうだとか、そういった判断基準となるスタンダードな走りが魅力でもあると思います。

エディ・メルクス Blockhaus67エディ・メルクス Blockhaus67 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
エディ・メルクス Blockhaus67
フレーム:6069アルミトリプルバテット
フォーク:カーボンモノコック(コラム:カーボン)
重量:フレーム1,190g、フォーク360g
BB規格:プレスフィットBB86
サイズ:XS、S、M、L
価格:
シマノULTEGRA完成車 275,000円(税抜)
シマノTIAGRA完成車 207,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

小西裕介(なるしまフレンド)小西裕介(なるしまフレンド) 小西裕介(なるしまフレンド)

なるしまフレンド神宮店メカニックチーフ。長年実業団登録選手として活躍し、国内トップレベルのレーサーとしてホビーレースで数多くの優勝経験を持つ。レース歴は20年以上に及び走れるスタッフとして信頼を集めながらも、メカニックの知識も豊富で走りからメカまで幅広いアドバイスをお客さんに提供する。脚質はサーキットコースを得意とするスピードマンだ。

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西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)西谷雅史(サイクルポイント オーベスト) 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)

東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。過去にはツール・ド・おきなわ市民200kmや、ジャパンカップオープンレースなどの国内ビックレースにて優勝を経験。2016年にはニセコクラシック年代別優勝も果たし、今なお衰えを知らない”最速店長”の一人である。

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text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO