混沌のツール第1ステージ。ゴールスプリントを制したのは下馬評通りの強さを見せたフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)。ツール初出場での初ステージ勝利は、同時にコロンビア人にとって15年ぶり2人目となるマイヨジョーヌ獲得だ。



マイヨジョーヌを着て敬礼するフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)マイヨジョーヌを着て敬礼するフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ) photo:Makoto.AYANO
昨年はジロで4勝を挙げたガビリアがツールでデビューウィンを飾った。昨年は同じクイックステップチームに居たマルセル・キッテルがツールでスプリンターを担ったが、今年キッテルはカチューシャに移籍して、ガビリアは初めてツールデビューを迎えた。

コロンビア人によるツールでのマイヨジョーヌ着用は、2003年のビクトル・ウーゴペーニャ以来となる。「マイヨジョーヌはコロンビアのような国にとってはより大きな意味を持つ」と話すガビリア。

ペーニャがマイヨジョーヌを着たのは2003年、100回記念大会のツール・ド・フランス。ランス・アームストロングのチームメイトとして当時USポスタルで走ったが、チームタイムトライアルでチームがダントツの速さで勝利し、持ちタイムでペーニャがマイヨジョーヌを着ることに。それから15年、コロンビア人としては稀なスプリンターであるガビリアが、同国史上2人目のマイヨジョーヌ獲得者となった。

アームストロングに仕えて走るビクトル・ウーゴペーニャ(コロンビア)アームストロングに仕えて走るビクトル・ウーゴペーニャ(コロンビア) photo:Makoto.AYANO2003年ツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着たビクトル・ウーゴペーニャ(コロンビア)2003年ツール・ド・フランスでマイヨジョーヌを着たビクトル・ウーゴペーニャ(コロンビア) photo:Makoto.AYANO


「ペーニャのことは知っている。話したこともあるけど、そんなにしょっちゅう話すほどの関係ではなかった。彼は偉大な人物で、コロンビアの重要なチームのひとつを運営している。ペーニャから15年。ついに僕がマイヨジョーヌをコロンビアに捧げることができる」とガビリア。

80年代のルイス・エレラとファビオ・パッラ、続いてサンチャゴ・ボテーロ、ファビオの息子イバンラミロ・パッラ、ホセ・セルパ...。そして現在の「コロンビア黄金期」とも言われる活躍を見せるナイロ・キンタナ、ミゲルアンヘル・ロペス、エステバン・チャベスら数々のコロンビア人選手の活躍。唯一のスプリンターであるガビリアを除き、そのすべてがクライマーだ。

コロンビア人選手の身体能力の高さの理由は、心肺機能。首都ボゴタで標高2,640m、ガビリアの出身地ラ・セハも標高2,200mというアンデス山脈の高地にある。加えてエレラ活躍で自転車競技が盛んなこと、貧困からの脱出方法としてプロスポーツ選手を(ハングリーに)目指す動機があることなどが、南アメリカ各国に通じる要因だ。

サガンを下しツール初勝利のフィニッシュに飛び込むフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)サガンを下しツール初勝利のフィニッシュに飛び込むフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ) photo:Makoto.AYANO
トラック競技の種目「オムニアム」で2度の世界チャンピオンに輝いた実績で2015年にクイックステップに研修生として加入したガビリア。20歳当時すでにカヴェンディッシュを破り、驚くべきポテンシャルを見せつけた。未だに23歳。このツールでは新人賞対象選手だ。

記者会見に臨むガビリアに、コロンビアのジャーナリストがマイクで語りかける 「マイヨジョーヌを待ちわびていた。コロンビアにとって意味深い。コロンビアはサイクリングの国だが、その歴史は主にクライマーのものだった。ところが君はスプリントで獲得した。スプリントでのマイヨジョーヌは何を意味する? 」

コロンビアのファンが大盛りあがりコロンビアのファンが大盛りあがり photo:Makoto.AYANO
「たぶん、これは国にとって一歩前進だ」と冗談ぽく笑うガビリア。笑顔が出だしたのは勝利してから。2日までのチームプレゼンテーションの際にも表情がこわばり、ナーバスになっているのが伝わってきた。

クイックステップのウィルフィード・ピーテルス監督クイックステップのウィルフィード・ピーテルス監督 photo:Makoto.AYANOウィルフィード・ピーテルス監督は、この日のレース前に話した。「ガビリアは他のコロンビアの選手とはまったくタイプの異なる選手。大きなストレスを感じていたことで話し合った。すでにジロで4勝していることで我々には自信があったが、ツールには最高のスプリンターが揃い、誰もが勝ちたがる。レースはカオスな状況になり、なんでも起こるという難しさはある。

何しろ彼はまだ若い。最高のメンバーにサポートされる好環境も、重荷に感じているようだ。しかしすでにジロで4勝しているガビリアに経験不足はない。若い選手を(潰さないように)ツールに出すことには慎重な我々クイックステップだが、23歳でゴーサインを出した」。

#TheWolfPack

クイックステップフロアーズのThe Wolf Pack(ウルフパック)ステッカークイックステップフロアーズのThe Wolf Pack(ウルフパック)ステッカー photo:Makoto.AYANO
クイックステップのツール・ド・フランスでのステージ優勝は、チーム創設より数えて33勝目。チームでは5人目のマイヨジョーヌ獲得者となる。そしてシーズン通算49勝目。モニュメントの2勝、グランツールのステージ6勝、ナショナル選手権5勝、その他の勝利36勝と、過去最高の勝利数の年だった2014年の64勝を、ペースでは上回る勢いだ。ウルフパックの勢いは春のクラシックだけでなく、グランツールでも止まらない。

フォークの裏に#TheWolfPackフォークの裏に#TheWolfPack photo:Makoto.AYANO
ベテランたちが牽引するクイックステップフロアーズのアシスト列車は、プロトンのなかでもっともスピードが出せ、有利にスプリントに持ち込める。単身になったサガンやキッテルら
よりカードは多かった。

落車で割れ70人に減った集団をフィリップ・ジルベールとニキ・テルプストラが高速で牽引、ボブ・ユンゲルスがフラムルージュから踏み、残り750mでイヴ・ランパールトへ。そしてガビリアの最後の発射の重要な役割を担うのはマキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)だ。60km/h超で巡航できる、自身でもスプリント勝利の狙える高速発射台だ。

追いすがるサガンやクリストフ、キッテルの位置を確認するフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)追いすがるサガンやクリストフ、キッテルの位置を確認するフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
「勝利に向けたチームの働きはとても重要で欠かせないものだ。デクラークはレースの最初からとても大きな仕事をしてくれた。そして他の選手たちは皆が強かった。彼らチームメイトたちはトリッキーなファイナルで、向かい風で、僕をうまく護ってくれ、パーフェクトにリードアウトしてくれた」。

フィリップ・ジルベールとニキ・テルプストラがガビリアの勝利を知ってハイタッチフィリップ・ジルベールとニキ・テルプストラがガビリアの勝利を知ってハイタッチ photo:Makoto.AYANO
「マイヨジョーヌをどれぐらいキープするつもりか?」と訊かれてガビリアは応える。

「このマイヨジョーヌはとても大切だ。今までにたくさんのコロンビア人選手が挑戦してきたれど、今は僕がこのジャージを楽しむときだ。できるだけ長く、一日一日守ってこの美しい瞬間が続くことを楽しみたい。重要なポイントを獲得したけれど、グリーンジャージを獲ることは今は考えていない。それはまだ早すぎる」。

下剋上、世代交代、そして記録更新狙い

ツール34勝の記録を持つエディ・メルクス氏とフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)ツール34勝の記録を持つエディ・メルクス氏とフェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ) photo:Makoto.AYANO
ピュアスプリンターにチャンスの有るステージが少ないと言われる今大会。しかしそれでも世界最大のレースには屈強のスプリンターたちが出場している。

キャリアの終盤を迎えるまでにエディ・メルクスのツール最多勝記録の更新を狙うと公言する33歳のカヴェンデュッシュは、現在のプロトンの中で30勝ともっとも(ダントツに)勝利数の多い選手だ。マルセル・キッテル(カチューシャ・アルペシン)は昨年5勝を挙げ14勝、アンドレ・グライペル(ロット・スーダル)が11勝、ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)は8勝。

ガビリアとともに期待される若手スプリンター、ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)ガビリアとともに期待される若手スプリンター、ディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ) photo:Makoto.AYANOマイヨヴェールの行方は?マイヨヴェールの行方は? photo:Makoto.AYANO


1勝ながら昨年のシャンゼリゼを制して波に乗るディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)、過去2年で3勝を挙げているマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)、他にも2014年の2勝以来勝てていないアレクサンドル・クリストフ、ナセル・ブアニを退けコフィディスのエーススプリンターの座についたクリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)、マグナス・コルトニールセン(デンマーク、アスタナ)、ソニーコルブレッリ(イタリア、バーレーン・メリダ)、ジョン・デゲンコルプ(ドイツ、トレック・セガフレード)らもチャンスを狙っている。各選手のバイクのナンバープレートには、勝利数の数がVとともに入る。

ツール最多勝記録の34勝の記録をもつエディ・メルクス氏が表彰プレゼンターとして帯同しているのは、とりわけその記録に近いカヴェンデュッシュのツールカムバックに加えてチャンスがあること、その場合の最高の演出として氏を招いているのだろう。

明日もスプリントステージだが、終盤の道は狭く、危険な中央分離帯だらけと聞く。

text:Makoto AYANO.
photo:Kei Tsuji,Makoto AYANO.