ジロはヴェネト州に突入。ついに北イタリアまでやってきた。イェーツ曰く「最もイージーな1日」の平均スピードは史上19番目に速い45.682km/h。ゾンコラン決戦を翌日に控えたジロ第13ステージの模様をお届けします。



スタート地点フェラーラは自転車の町スタート地点フェラーラは自転車の町 photo:Kei Tsuji
ヴェネト州出身のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)を応援するヴェネト州出身のエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)を応援する photo:Kei Tsuji
マリアローザを着て登場したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)マリアローザを着て登場したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
第13ステージのスタート地点が置かれたエミリアロマーニャ州のフェラーラは自転車の町。自転車競技が盛んというわけではなく、日常に自転車が欠かせない存在になっている。ある統計によると市民の自転車使用率はヨーロッパで一番高いらしい。石畳が敷かれた街中を、文字通り老若男女問わずに人々が自転車に乗って縦横無尽に走り回っている感じ。

現在ヨーロッパ各地で電動アシスト自転車が凄まじい勢いでシェアを伸ばしているが、ポー平原のど真ん中で真っ平らという地形も影響して、フェラーラ人が乗る自転車にはバッテリーもモーターも付いていない。乗り手と同じ年齢じゃないかと思うほどのレトロなシティバイクからホームセンターに売ってそうなMTBルック車まで種類は様々。共通して言えるのは、とことん使い込まれながらも愛情が注がれていて、盗難防止のためにごっつい鎖の鍵をぶら下げていること。

この日も当然スタートから逃げるためのアタックが繰り返されたが、2018年のジロは、第6ステージのエトナ山で優勝したエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)を除いて、序盤に生まれた逃げグループが逃げ切っていない。これはスプリンター向きのステージでスプリンターが、パンチャー向きのステージでパンチャーが、そしてクライマー向きのステージでクライマーが勝っていることを意味する。同時に、それだけフィニッシュ地点でのボーナスタイムやポイントが重要視されているとも言える。

開幕から2週間が経ってなお、UCIプロコンチネンタルチームによるステージ優勝がない。ステージ優勝がないばかりか、ステージトップ3に入ったのは第2ステージ2位のヤコブ・マレツコ(イタリア、ウィリエール・トリエスティーナ)だけ。4賞ジャージ着用はエンリーコ・バルビン(イタリア、バルディアーニCSF)のマリアアッズーラだけだ。

スタート後すぐに始まった逃げるためのアタック合戦スタート後すぐに始まった逃げるためのアタック合戦 photo:Kei Tsuji
逃げるエルゲルト・ズパ(アルバニア、ウィリエール・トリエスティーナ)ら5名逃げるエルゲルト・ズパ(アルバニア、ウィリエール・トリエスティーナ)ら5名 photo:Kei Tsuji
並んで走るサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)とエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)並んで走るサム・ベネット(アイルランド、ボーラ・ハンスグローエ)とエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
観客が詰めかけた4級山岳モンテッロを登る観客が詰めかけた4級山岳モンテッロを登る photo:Kei Tsuji
昨日紹介した逃げ賞(フーガ賞)に続いて、今日は敢闘賞(コンバティヴィタ賞)を紹介。他のステージレースにある「よく頑張ってたあの選手にあげたらいいんじゃないかなぁ」という曖昧な敢闘賞とは違い、ジロでは明確なポイントシステムにより敢闘賞が争われている。

ジロの敢闘賞は、ステージ順位(6pts,5pts,4pts,3pts,2pts,1pt)、スプリントポイント通過順位(5pts,4pts,3pts,2pts,1pt)、1級山岳通過順位(4pts,3pts,2pts,1pt)、2級山岳通過順位(3pts,2pts,1pt)、3級山岳通過順位(2pts,1pt)、4級山岳通過順位(1pt)の合計ポイントでステージ成績と総合成績が争われる。ステージ順位によるポイントが少ないため、毎日逃げるような選手に有利な賞であると言える。

実際に、ここまで逃げに逃げているマルコ・フラッポルティ(イタリア、アンドローニジョカトリ・シデルメク)が39ポイントで総合首位に立っている。38ポイントの2位にエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)、37ポイントの3位にサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)という興味深い争いが進行中だ。敢闘賞ステージ1位の賞金は300ユーロ(39,000円)で、敢闘賞総合1位の賞金は4,000ユーロ(520,000円)。

ちなみにフラッポルティは敢闘賞と逃げ賞、中間スプリント賞でトップを走っている。

4級山岳モンテッロを登るプロトン4級山岳モンテッロを登るプロトン photo:Kei Tsuji
4級山岳モンテッロを登るプロトン4級山岳モンテッロを登るプロトン photo:Kei Tsuji
雨雲に覆われて薄暗いコース雨雲に覆われて薄暗いコース photo:Kei Tsuji
レッジョエミリア州からヴェネト州に入ると、ロードバイクに乗るサイクリストの数がどっと増えた。さすがイタリア国内で最も自転車競技が盛んと言われる地域だけあって、サイクリストたちがお揃いのクラブチームのジャージを着て隊列を組んで走っているシーンを良く見かける。見たことのないクラブチームのチームカーが我が物顔でコースを走り、ステッカーが付いていないことを発見した警察が追いかけて制止するシーンもあった。

フィニッシュ地点のネルヴェーザ・デッラ・バッターリアから10kmほどしか離れていないヴェネト州コネリアーノ出身のサーシャ・モードロ(イタリア、EFエデュケーションファースト・ドラパック)は、この第13ステージで何としても勝ちたかった。同じく、ヴェネト州出身のヴィヴィアーニもここで何としても勝ちたかった。

両者ともに家族やファンを迎えてのスプリント。モチベーションは今大会最も高かったはず。敗れたモードロはハンドルを叩いて悔しがり、勝ったヴィヴィアーニは、前日のマリアチクラミーノ表彰式で見せた仏頂面は何処へやら、軽快なジャンプで表彰台に飛び乗った。

ヴィヴィアーニの勝利は、ジロにおけるイタリア人のステージ1,250勝目にあたる。イタリア人が1大会でスプリント3勝を飾るのは2008年のダニエーレ・ベンナーティ以来。ヴィヴィアーニは昨年フェルナンド・ガビリア(コロンビア、クイックステップフロアーズ)がマークしたステージ4勝にあと1勝に迫っている。ちなみに1大会のステージ最多勝は1927年にアルフレード・ビンダがマークしたステージ12勝(そして総合優勝)。2000年以降では2004年のアレッサンドロ・ペタッキのステージ9勝、2010年以降では2013年のマーク・カヴェンディッシュのステージ5勝が最多。

ヴェネト州と言えば、3年前に自分が車上荒らしにあった場所なので気が気じゃない。被害者は自分だけではなく、ここ数年、ジロがヴェネト州を訪れるたびに駐車場やプレスセンター近辺で盗難被害が発生している。この日もスペイン人フォトグラファーがレンズ1本を盗まれていた。味をしめたプロの窃盗団が裏で動いているとしか思えない。

下りをこなすサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)下りをこなすサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)やクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
観客に落ち着くよう促すポーズでエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)がフィニッシュ観客に落ち着くよう促すポーズでエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)がフィニッシュ photo:Kei Tsuji
スティバルと喜ぶエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)スティバルと喜ぶエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
ステージ3勝目をアピールするエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)ステージ3勝目をアピールするエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
心配された雨も降らず、風も吹かず、ようやくプロトンに平穏が訪れた。マリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)曰く「最もイージーな1日だった」。サプライズは起こらなかった。

「最もイージー」と言いながらこの日の平均スピードは45.682km/h。これは今大会ここまでのステージの中で最速の平均スピードであり、開催101回を数えるジロの通算1,761ステージ(TTを除く)の中でも19番目に速い記録だった。ちなみにTTを除く最速ステージは2012年の第18ステージで、49.429km/hを記録している。

スプリンターが残る集団から、終盤の4級山岳でマリアアッズーラが遅れた。すでに総合成績を気にしなくていいほど順位を落としているチャベスがメイン集団からひとりで脱落。単独で走り続け、ダントツ最下位のステージ168位/15分24秒遅れでフィニッシュしている。これは単にチャベスの調子が物凄く悪いのか、それとも翌日のモンテゾンコランに向けて脚を温存しているだけなのかは不明。単に脚を温存するのであれば、残り20kmを単独で走るようなことはしないと思われる。

さあ明日はモンテゾンコラン。「ヨーロッパ最難関の峠道」は雨予報。スタート地点でのギア比チェックから長い1日がスタートする。

4級山岳モンテッロで脱落したエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)4級山岳モンテッロで脱落したエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) photo:LaPresse
初めてフィニッシュ地点を迎えたネルヴェーザ・デッラ・バッターリア初めてフィニッシュ地点を迎えたネルヴェーザ・デッラ・バッターリア photo:Kei Tsuji
駆けつけた母親に花束を渡すエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ)駆けつけた母親に花束を渡すエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Conegliano, Italy

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