大会最大の勝負どころウィランガ・ヒルが設定されたツアー・ダウンアンダー第5ステージ。世界王者カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)の熱い走りに、集まった119000人の観客が酔いしれた。

オーストラリアに世界中のメディアが集結

スタート地点はどこも観客でごった返すスタート地点はどこも観客でごった返す photo:Kei Tsujiツアー・ダウンアンダーはシーズン最初のプロツアーレースだけに、世界中からメディア関係者が駆けつけている。ヨーロッパから遠く離れた(本当に遠い)南半球のオーストラリアに、これだけのメディアが集まっているのは少し異様だ。

ガゼッタ紙やレキップ紙の記者も取材で忙しく走り回っており、メディアセンターでは英語、イタリア語、フランス語が飛び交っている。今も目の前でガゼッタ紙の記者が国際電話で「ニーバリが総合リーダーのサンルイスをガゼッタ・ウェブ版の一面に出すか、LLサンチェスの勝利を一面に出すか」について話し合っている。

選手との挨拶を済ませたパット・マックエイドUCI会長選手との挨拶を済ませたパット・マックエイドUCI会長 photo:Kei Tsuji前日からパット・マックエイドUCI(国際自転車競技連合)会長も現地入りしており、記者会見を行なったりスタート地点で挨拶に回ったり、表彰式でプレゼンターを務めたりと忙しそう。

時間の都合で記者会見には行けなかったが、地元メディアの知り合い曰く、マックエイド会長は「様々な面でオーストラリアの発展に大きく期待している」ということを強調したらしい。

その期待に応えるように、ツアー・ダウンアンダー第5ステージは「歴史に残る、史上最高の闘い(レース公式サイトの見出し)」が繰り広げられた。


総合優勝をかけたウィランガ・ヒルの闘い

今日もマイカーに同乗するのは、シクロワイアードにも寄稿しているイタリア在住アメリカ人サイクルジャーナリストのグレゴー・ブラウンと、遥々イタリアからやってきたのにメディアバンの席を確保出来なかったフォトグラファーのステファノ・シロッティ。

眺望の良い海岸線を進むメイン集団眺望の良い海岸線を進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
大小2つの周回コースを2周ずつコースは、撮影チャンスが多そうに見えて案外難しい。一般の観客が同じことを考えるからだ。レース通過後の民族大移動に巻き込まれると、動きたくても動けなくなる。

ウィランガ・ヒルの上りでテレビ観戦ウィランガ・ヒルの上りでテレビ観戦 photo:Kei Tsujiステファノの「ゴール写真は絶対に撮る。リスクは絶対に負わない」という気迫に負けて、合計2回通過するウィランガ・ヒルを1回だけ撮影してゴール地点に向かうことにした。

ウィランガ・ヒルは観客で溢れていた。駐車スペースの関係で上り中腹に腰を据える。アデレード市内からクルマで1時間ほどとアクセスが良く、しかも週末なのでなおさら観客が多い。頂上から降りてきた観客曰く、「頂上付近はまるでツール・ド・フランスの山岳みたい」らしい。

BMCレーシングチームやフランセーズデジューが牽くメイン集団が1回目のウィランガ・ヒルを進むBMCレーシングチームやフランセーズデジューが牽くメイン集団が1回目のウィランガ・ヒルを進む photo:Kei Tsuji結局ウィランガ・ヒルでの撮影は、山岳賞ジャージを着るトーマス・ローレッガー(ドイツ、チームミルラム)が目の前でアタックしたこと以外は、比較的平穏に終わった。名残惜しい感情を抑え込んで、2回目のウィランガ・ヒルを撮影せずにゴール地点に向かう。

ゴール地点には大きなスクリーンでテレビ中継が行なわれていた。注目のステージだけに、この日だけはスタートからゴールまでオーストラリア全土でテレビ中継されている。

メイン集団から遅れたグループが最後のウィランガ・ヒルの上りに向かうメイン集団から遅れたグループが最後のウィランガ・ヒルの上りに向かう photo:Kei Tsujiそこに映し出されたのは、ウィランガ・ヒルを独走するアルカンシェル。エヴァンスのアタックに、会場は
「うおーーーーーーー!!!!」という絶叫に包まれた。しかも頂上通過の時点でメイン集団とのタイム差は40秒。エヴァンスが暫定リーダージャージだ。

最高の場所で最高の走りを見せたエヴァンスはゴール後「沿道の観客たちはみんな熱烈に声援を送ってくれた。みんな味方についてくれたから、プレッシャーを感じずに走れたんだ。アルカンシェルを着て良い走りが出来て本当に良かった」と満足した表情で記者の質問に答える。

ウィランガ・ヒルでアタックしたエヴァンスの映像に見入るウィランガ・ヒルでアタックしたエヴァンスの映像に見入る photo:Kei Tsuji「最初はステージ優勝と総合ジャンプアップを狙って飛び出した。レース終盤はステージ優勝を逃しても良いから、総合タイムを稼ぐために逃げグループを牽いたんだ。逃げグループの中にケースデパーニュの選手が2人入っていなかったら、逃げ切れていなかったと思う。とにかくケースデパーニュに祝いの言葉を贈りたい。彼らは1週間に渡っていい働きをしてきたし、ステージ優勝に値する走りだった」。

エヴァンスはステージ優勝争いでLLサンチェスに敗れて4位。総合では5位に終わった。二兎は捕らえられなかったが、今大会最大の見せ場を作ったことは間違いない。

チームメイトに祝福されるルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ)チームメイトに祝福されるルイスレオン・サンチェス(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Kei Tsuji翌日の新聞には「まるでツールのようだ!」「観客のハートを鷲掴みにしたカデル!」という見出しが躍った。この日の模様は2月17日にJ SPORTSで放送されるのでお楽しみに!詳しい放送予定はJ SPORTS HPまで。

ツアー・ダウンアンダーも残すところあと1ステージ。最終日の第6ステージはアデレード市内の市街地サーキットコースで行なわれるスプリントバトル。果たしてアンドレ・グライペル(ドイツ、チームHTC・コロンビア)はスプリント無敵の4勝目で二度目の総合優勝を達成するのか?

レース後、グライペルの発射台を務めるマシュー・ゴス(オーストラリア)とホテルで雑談。最終ステージの意気込みを聞くと「コロンビアトレインは最強だ。最後も勝利を掴んでみせる」と力強く親指を立てられた。

text&photo:Kei Tsuji