イスラエルのUCIプロコンチネンタルチームであるイスラエルサイクリングアカデミーが、加入予定だったイスラム圏のトルコ出身者アフメット・オルケン(トルコ)を放出すると発表した。緊張が高まる中東情勢の影響により選手側から打診を行い、チームがこれを了承した。


2017年にUCIプロコンチネンタル登録を行ったイスラエルサイクリングアカデミー2017年にUCIプロコンチネンタル登録を行ったイスラエルサイクリングアカデミー リオ五輪個人TTで34位に入ったアフメット・オルケン(トルコ)リオ五輪個人TTで34位に入ったアフメット・オルケン(トルコ) photo:TDWsport

「胸が張り裂けるような決断だった。これからもチームはドアを開けて待っている。スポーツを通じて平和を目指す私たちのメッセージは常に変わらない」。イスラエルサイクリングアカデミーはプレスリリースの中でオルケンとの契約解除についてそう説明する。

イスラエルサイクリングアカデミーは2017年9月に24歳のオルケンと2年契約を結んだ。オルケンはトルコのUCIコンチネンタルチームであるトルク・セケルスポールに6年間所属。トルコの個人タイムトライアルチャンピオンに4度輝いており、ツアー・オブ・チンハイレイクではステージ通算3勝。地元トルコで開催されたUCIワールドツアーレースのツアー・オブ・ターキーではスプリンターとして3ステージでトップ10フィニッシュし、トルコ勢最高位となる総合25位でレースを終えていた。

オルケンの出身国トルコはイスラム圏。チームの中で唯一のイスラム教徒として平和アンバサダーに任命されるなど、その役割に注目が集まっていた。しかしアメリカのトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認める発表を行った12月6日以降、イスラエルとイスラム圏を取り巻く情勢が悪化。オルケン側からチームに「中東の情勢変化の影響が自分と家族に及ぶ」として離脱を打診した。

チームのプレスリリースによると、オルケンの意思表明の後すぐにチームのラン・マーガリオットGMはトルコ・コンヤのオルケンの自宅を訪問し、チーム残留の道を探ったが、オルケンの決意は変わらなかった。オルケンの意思を尊重した結果、チームは「胸が張り裂けるような決断」に至っている。

平和アンバサダーに任命されたアフメット・オルケン(トルコ)平和アンバサダーに任命されたアフメット・オルケン(トルコ) photo:Israel Cycling Academy

「アフメットは素晴らしいアスリートであり、素晴らしい人間だ。政治の壁を乗り越えて平和を目指す私たちチームのビジョンを体現する存在だった。残念な結果だが、彼と彼の家族にとって何がベストなのかを尊重する必要がある。これからもドアを開けて待っているので、いつの日か彼が再びチームに加わってくれることを願っている」とマーガリオットGMは語っている。

チーム離脱を決めたオルケンは「家族のように迎え入れてくれたイスラエルサイクリングアカデミーのサポートに感謝している。自分にとってユニークな体験だった。これからも彼らの活動を応援したい」とコメントする。「残念ながら現在の情勢は自分の手に負えない状態にあり、トルコにいる家族、特に母親と兄弟は、(自分がイスラエルチームに所属することで)差し迫った状態に置かれてしまった。プロのサイクリストとして活動させてもらっているが、それ以前に自分は家族を思う息子であり、兄弟であるんだ」と、辛い胸の内を明らかにしている。

イスラエルサイクリングアカデミーは2018年シーズンに向けてBMCレーシングのベン・ヘルマンス(ベルギー)やオリカ・スコットのルーベン・プラサ(スペイン)、ディメンションデータのクリスティアン・ズバラーリ(イタリア)、アージェードゥーゼールのソンドレ・ホルストエンゲル(ノルウェー)らを相次いで獲得。チーム右京のネイサン・アール(オーストラリア)も加わり、大幅に戦力をアップする。チームが狙うのはイスラエルで開幕するジロ・デ・イタリアのワイルドカード獲得だ。

text:Kei Tsuji

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