スイスに拠点を置くバイクブランド、BMCがフラッグシップロードレーサー「Teammachine SLR01」をフルモデルチェンジ。トップレベルのプロチームであるBMCレーシングのライダーたちを支えるオールラウンドマシンの実力に迫る。



BMC SLR01BMC SLR01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
カデル・エヴァンス(オーストラリア)のツール・ド・フランスでの勝利やフィリップ・ジルベール(ベルギー)の世界選手権制覇を支えてきた初代SLR01。グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー)によるリオオリンピックでの金メダルやパリ~ルーベの勝利と共にあった第2世代。常に栄光に満ちた歩みを続けてきたレーシングバイクが、BMCのSLR01だ。

2013年にデビューした先代から4年。各社のモデルチェンジサイクルがどんどんと短くなる中で異例ともいえるほど非常に長い期間、同社のフラッグシップマシンであり続けた事実は前作が既に完成された性能を持っていることを証明している。そんな、ある種多大なプレッシャーがかかる中デビューしたのが第3世代となる最新作だ。

トップチューブは上から見るとブラックに塗られ、違った印象だトップチューブは上から見るとブラックに塗られ、違った印象だ リアブレーキワイヤ―の取り込み口の内部にはポールジョイントが設けられているというリアブレーキワイヤ―の取り込み口の内部にはポールジョイントが設けられているという ストレートフォークを採用するストレートフォークを採用する


開発にあたり、BMCレーシングの選手たちから出された要望の中で最も大きかったのが「ブレーキング」。剛性や軽量性、快適性といった走行性能に関しては、前作のSLR01の持つ性能について不満はほぼ出なかったという。高い評価を持った前作の走行性能をそのままに、ブレーキ性能を更に強化するために、BMCの開発陣は動き出した。

開発の土台となったのは、先代と同じくスーパーコンピューターを元にスイスの大学と共同開発した開発・解析ソフトウエアであるACE(Accelerated Composites Evolution)テクノロジー。これは、無数のシミュレーションモデルを生成し、比較検討していくことによって、各チューブの形状や接合部分の内部構造、そしてカーボンレイアップといったフレーム製作にまつわる全ての要素を徹底的に煮詰め、最適なモデルを探求するための手法。

新型SLR01の開発にあたり、ACEテクノロジーは18,000回のサンプルをシミュレートしたという。ACEテクノロジーを初めて導入した前作では34,000回の演算を行っており、その結果を踏まえた上で行われたため、実質52,000個の仮想モデルの中から選ばれた究極の”一”が、この第3世代SLR01だ。

コンパクトなリアトライアングル 高い走行性能を生む流行のデザインだコンパクトなリアトライアングル 高い走行性能を生む流行のデザインだ シフトワイヤーはダウンチューブの上部から内装されるシフトワイヤーはダウンチューブの上部から内装される
高い制動力を持ったダイレクトマウントブレーキ高い制動力を持ったダイレクトマウントブレーキ 鋭い加速感に貢献する幅広のBBハンガー鋭い加速感に貢献する幅広のBBハンガー


そして、コンピュータによる膨大な計算によって導き出された最適解に、ヴァンアーヴェルマートやリッチー・ポート、そして現在ブランドアンバサダーとして活動するエヴァンスらのフィードバックをプラスすることで、新型SLR01は完成した。

最も大きく、かつ重要な変更点となるブレーキに関しては、ダイレクトマウントキャリパーを採用するリムブレーキモデルとディスクブレーキモデルの2つが用意される。リムブレーキモデルはダイレクトマウントブレーキながら、リアブレーキはシートステーにマウントされる方式をとる。ブレーキのフィーリングとメンテナンス性を両立するための選択だろう。

フレーム形状としては、前作のエッセンスを色濃く受け継いでいる。いかにもパワー伝達効率に優れるボリュームあるダウンチューブとチェーンステー、快適性を担保する薄く扁平したシートステーがコンパクトなリアトライアングルを形成するというシルエットはほぼ前作を踏襲するものだ。

大手メーカーでは初となるダイレクトマウントハンガーを採用大手メーカーでは初となるダイレクトマウントハンガーを採用 オリジナルステムに対応するアウトフロントマウントが付属するオリジナルステムに対応するアウトフロントマウントが付属する


一方で、実際の性能は更に向上している。快適性を司る縦方向への柔軟性、加速性に繋がるBB部の剛性、キレ味のあるハンドリングを実現する捻じれ剛性といった、ロードレーサーに欠かせない要素は全て前作の数値を上回っている。特に大きいのは快適性の向上だろう。

リアセンターを延長したことに加え、Roadmachineにも採用された、D型断面のコンプライアンスシートポストを採用することで、縦方向への柔軟性を10%以上改善することに成功しているのだ。臼式のシートクランプをトップチューブに内蔵することで、シートピラーの出代を増やすデザインも快適性の向上に大きく貢献している。

快適性に貢献するD型断面のシートピラー快適性に貢献するD型断面のシートピラー すっきりとしたシートクランプ周辺すっきりとしたシートクランプ周辺 ボリュームのあるダウンチューブボリュームのあるダウンチューブ


細やかな部分でのアップデートも新型SLR01の特徴だ。ヘッドチューブに設けられたリアブレーキケーブルアウターの取り込み口にはボールジョイントが設けられており、日本に多い右前のセッティングでもケーブルへの負担を抑える工夫がされている。また、大手ブランドでは初となる、ダイレクトマウント対応のリアエンドを採用しているのもエポックメイキングなポイントだ。

緻密な計算の結果作り上げられた最高峰のレースバイク、BMC Teammachine SLR01。今回インプレッションしたのは、R8000系アルテグラで組み上げられた完成車。ホイールにDTスイスのP1750、タイヤはヴィットリアのCORSAを組み合わせた一台だ。それではインプレッションをお届けしよう。



― インプレッション

「安定感の高さとオールラウンドな性能が魅力の1台」御園井智三郎(ミソノイサイクル)

このバイクは軽量でありながら安定感があるため、登りも下りも万能にこなしてくれるオールラウンドバイクといった乗り味です。またホイールベースとトップチューブが短いのも特徴的で、レーシーなハンドリングを実現しています。ですが、決して扱いづらい味付けではなく、バランスの取れた万人受けする操作感を持っているレーシングフレームとなっています。

「安定感の高さとオールラウンドな性能が魅力の1台」御園井智三郎(ミソノイサイクル)「安定感の高さとオールラウンドな性能が魅力の1台」御園井智三郎(ミソノイサイクル) フレームの下部にあたるダウンチューブからチェーンステーにかけての剛性が高いため、どっしりと安定した印象を受けるのでしょう。チューブも太く、BBもボリューミーに仕上がっているため、大きなパワーで踏み込んでもよじれるような感覚はありません。

そのため登りではパワーで踏んでいく登り方、軽いギアを回していく登り方、どちらのペダリングでも安定して走る事ができます。大きなパワーを掛けたからといってBB部分がしなり自転車が蛇行するといったこともないですし、高回転で回したとしてもバイクの軸がブレること無く真っすぐ走ってくれます。

また一般的にこれだけホイールベースとトップチューブが短い場合、非常にピーキーなハンドリングとなってしまいがちですが、このSLR01はフレームが持つ安定感が活きており、下りのコーナリングも腰を据えた安心感のあるライディングが可能です。コーナリング途中でも重心を少しずらすだけでラインを変更することができ、自分が思った通りにバイクが付いてきてくれる感覚があります。

短いトップチューブによりポジションに柔軟性が出るのもポイントでしょう。ロードバイクはどうしてもヨーロッパの人に合わせたジオメトリーのものが多い中、このサイズ感なら160cm台の日本人でもハンドルとサドルの高低差をつけることが出来ますね。

グランツールを走るレーシングバイクですから、長距離のロードレースには最適だと感じました。また、軽量かつ下りも安定しているオールラウンドな乗り味を活かして、よりハードなロングライドやブルベに使用しても良いでしょう。どんなシチュエーションにも万能にその力を発揮してくれると思います。

各性能は非常に高く、今までBMCのバイクに乗ったことない人はぜひ乗ってみて欲しい完成度となっています。他社のトップモデルに乗っている人が乗り換えても、非常に満足出来るでしょうし、乗り換えということでなく、自らのバイクコレクションに加えるというのも良いでしょう。

「リニアな掛かりの良さとスピードの伸びが特徴のレーシーな味付け」村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI)

ハイエンドモデルらしいピーキーな部分をハンドリングやフレームの反応性に感じますが、決して扱いにくいような嫌な癖ではなく、ライダーの操作に素直に応えてくれるレーシングバイクらしい挙動を見せてくれます。ロードバイクに乗り慣れた中級者以上の方にとっては、良き相棒になってくれるであろう頼もしさを感じますね。

「リニアな掛かりの良さとスピードの伸びが特徴のレーシーな味付け」村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI)「リニアな掛かりの良さとスピードの伸びが特徴のレーシーな味付け」村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI)
このバイクはダンシングで踏み抜くように大トルクをかけても、細かいピッチで回転するペダリングをしても、実際の自分の出力以上にスピードが出ているように進む感覚を受けます。もちろんその分、脚への反発もあるのですが、体全体でバイクをコントロールして進むようなハイエンドらしい乗り味が特徴的です。

圧倒的なボリューム感のあるフレームに対し乗り味は至ってマイルド。チェーンステーは非常に太めですが、扁平形状のシートステーがきちんと仕事をしており、十分な快適性を得られますね。それでいて踏み込んだ際には気持ちよく前へ押し出してくれるようなパワー伝達性の高さがあります。

平地の直線で目一杯踏んでみたのですが、バイク自体が先に先に行くような掛かりの良さを感じました。ですので、ゴールスプリントで思い切りもがいてもスピードの切れ良く伸びてくれることでしょう。レーシングバイクらしいリニアな踏み味ですね。

また、このBMC SLR01は他のバイクに比べホイールベースがやや短いのも特徴です。ペダルに脚を乗せてハンドルを切った際にホイールがつま先が当たってしまうほどでしたが、逆にこれが掛かりの良さに繋がっていると感じます。またハンドリングもクイック過ぎてしまうのではと懸念していましたが、タイトなコーナーでスムーズに切り返せる操舵感を獲得していますね。

この性能で60万円というプライスは非常にお買い得だと思います。高いスピード領域や切れ味の良いハンドリングなど、ある程度レベルの高いライダーであれば、よりその性能を十分に活かせるのだと思います。日々トレーニングを積むレーサーにこそ乗って欲しいバイクになりますね。

BMC SLR01BMC SLR01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMC SLR01
サイズ:47, 51, 54, 56
価格:SLR01 TWO(スラム機械式RED完成車)680,000円
   SLR01 THREE(シマノR8000アルテグラ完成車)600,000円
   SLR01 MOD(フレームセット+パーツキット)500,000円



インプレッションライダーのプロフィール

御園井智三郎(ミソノイサイクル)御園井智三郎(ミソノイサイクル) 御園井智三郎(ミソノイサイクル)

今年で創業120周年を迎えた、国内はもとより世界的にも最古参クラスの歴史を誇り、静岡県浜松市内に3店舗を構えるミソノイサイクルの5代目代表を務める。海外メーカー及び国内代理店と強い繋がりを持ち、ロードレーサーから実用車まで、あらゆるジャンルの機材で、新旧を問わない豊富な知識を持つ。また、かつてはトップアマとして国内レースで活躍した経験も。現在は地元浜松市と共に、走行環境の整備やイベントの企画・運営を行い、スポーツサイクルの更なる普及に注力している。

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ミソノイサイクル HP

村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI)村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI) 村山智樹(ZING² FUKUOKA-IWAI)

福岡市は天神地区に店舗を構えるZING² FUKUOKA-IWAIにて、セールス&メカニックやトライアスロンアドバイザーを担当する。モータースポーツを趣味にするほどの機械いじり好きが高じて自転車業界へ。自身は各地で行われるトライアスロンのレース会場へも、メカニックとして出向くほどTTバイクの扱いを得意とする。お客さんに向けたトライアスロン教室も行い、普段からトライアスロンのレース参加に向けたトレーニングとして自転車を嗜む。トライアスリートらしく愛車はサーヴェロのP3。

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ZING² FUKUOKA-IWAI HP

ウェア協力:カステリ
ヘルメット協力:カブト

text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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