2017/07/03(月) - 15:11
リエージュの街には暖かい太陽がさしたが、ドイツからベルギーへの旅路の大半は雨降り。ディスクブレーキがグランツール初勝利を果たしたツール第2ステージの模様をフォトグラファーの辻啓がお届けします。
「デュッセルドルフのグランデパールは大成功」と現地では言われているが、雨が降ったことが影響してか、それとも人が集まった場所を狙うテロを警戒してか、現実的なことを言うと前回の海外スタートである2年前のユトレヒトよりもずっと観客の数は少なかった。猛烈な数の観客に埋め尽くされた3年前のヨークシャーと比べると半分かそれ以下。これは何もデュッセルドルフ市や主催者ASOに非があるわけではなく、単純にドイツ国内におけるロードレースの人気の低さを示しているのかもしれない。
7月だというのに気温は20度に届くか届かないかの肌寒さ。分厚いジャケットを着込んだ観客たちが列をなしたドイツ国内を走り、オランダとベルギーの国境が交わる地域を南下するうちに雨は本降りになった。一帯は文化や言語が混じり合った地域であり、南に下れば下るほどグラデーションのように言語がドイツ語からフランス語に色と形を変えていく。あと、ドイツから国境を越えてベルギーに入ると高速道路の最高速度が無制限(※場合による)から120km/hにダウン。フランスに入ると130km/hにアップする。
フィニッシュ地点リエージュはベルギーだが、ベルギーはベルギーでもフラマン語が話されている北部フランドル地方ではなくフランス語圏の南部ワロン地方。それだけにほぼ100%フランス人で構成された主催者ASOのスタッフは心持ちリラックスしていて足取りが軽い。
この日、テイラー・フィニー(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)はマイヨアポワ獲得というチームオーダーに沿って開始直後のアタックに反応した。最初の4級山岳で早々にジャージ着用を確定させたフィニーは「まさか自分が、100万年経っても着ることをイメージできないようなこのジャージを、こうして着るなんて」と驚く。
1984年ロス五輪団体ロード銅メダリストの父デーヴィスと同五輪の女子ロード金メダリストの母コニーの間に1990年に生まれたサラブレッドはジュニア時代から頭角を現し、2009年からトラック世界選手権個人追い抜きで2連覇を達成。その後、フィニーは2011年にBMCレーシングに移籍すると、2012年ジロ・デ・イタリア初日の個人タイムトライアルで優勝した。
そんな順風満帆のフィニーにストップをかけたのが、2014年全米選手権ロードレース中の落車で負った左脚の複雑骨折。キャリアが終わりかねない大怪我を乗り越え、約1年2ヶ月のリハビリの末にフィニーはレースに復帰した。2016年にはBMCレーシングのメンバーとしてジャパンカップに参戦している。
困難な時期を経験したフィニーだけに、初出場のツールの舞台で逃げに乗り、表彰台でマイヨアポワを受け取ることは大きな意味があったようだ。「まるで夢の中を走っている、正直言って、そう思えた。村上春樹を多く読んでいるせいか、夢のように思えたんだ」と、フィニーは小説「スプートニクの恋人」に登場する「ぼくは夢を見る。ときどきぼくにはそれがただひとつの正しい行為であるように思える」という一節を匂わせる言葉を残している。
各選手のGPSデータによると、およそ65km/hでリードアウトの列車が走り、そこから加速して70km/h程度でスプリント。マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)はそこからさらに上のスピードで先頭に出て、勝利した。
キッテルはグランツールの歴史上初めてディスクブレーキ搭載バイクでステージ優勝した選手となった。UCIレースでのディスクブレーキ初勝利はトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が1月のツール・ド・サンフアンで達成。続いて2月にキッテルがドバイツアーで勝利している。
「別にディスクブレーキだから何か特別変わったことがあるわけじゃない。ただ、新しいテクノロジーの大きなステップアップにはなる」と語るキッテルの他に、この日はマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)とレト・ホレンシュタイン(スイス、カチューシャ・アルペシン)がディスクブレーキを使用。第1ステージの個人タイムトライアルではアルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ドラパック)がディスクブレーキを使っている。
機材と言えば、第1ステージでチームスカイが使用したスキンスーツにエフデジのパフォーマンスコーチであるフレッド・グラップ氏から物言いがついた。確かにクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)らが着たスキンスーツをよく見ると、肩から上腕の外側にかけて空気の流れを整えるための凸凹のシートが貼られている。この凸凹がヴォルテックスジェネレーター(渦流生成器)として機能し、空力性能の改善につながっているとグラップ氏は訴えた。同氏の計算によるとそのスキンスーツによってチームスカイは18〜25秒程度のアドバンテージを得ているという(その数字が本当ならすごいことだ)。
UCIルール(1.3.033)によると選手が着用するジャージやスキンスーツは身体の形に沿ったものとし、フィンなど「空力性能を高める物」の追加を禁止している。
チームスカイはすでに同じスキンスーツをジロ・デ・イタリアやクリテリウム・デュ・ドーフィネでも使用しており、UCIの認証を受けたと主張している。確かに今回の訴えを受ける前にUCIはチームスカイのスキンスーツをチェック済み。UCIコミッセールが出した答えは「問題なし」。乱流を生み出す凹凸は素材に組み込まれたもので、ルールに反していないので禁止する理由はないという結論を出している。
「それならば(最終日前日の)マルセイユ個人タイムトライアルでヴォルテックスジェネレーターを腕や背中に付ける。素材に組み込まれていれば問題ないというのであれば、背中の素材に空気の流れを整える形のパッドを入れても文句はないはず」と、グラップ氏はチームスカイを批判するというよりもUCIルールの矛盾を指摘している。
text&photo:Kei Tsuji in Liege, Belgium
「デュッセルドルフのグランデパールは大成功」と現地では言われているが、雨が降ったことが影響してか、それとも人が集まった場所を狙うテロを警戒してか、現実的なことを言うと前回の海外スタートである2年前のユトレヒトよりもずっと観客の数は少なかった。猛烈な数の観客に埋め尽くされた3年前のヨークシャーと比べると半分かそれ以下。これは何もデュッセルドルフ市や主催者ASOに非があるわけではなく、単純にドイツ国内におけるロードレースの人気の低さを示しているのかもしれない。
7月だというのに気温は20度に届くか届かないかの肌寒さ。分厚いジャケットを着込んだ観客たちが列をなしたドイツ国内を走り、オランダとベルギーの国境が交わる地域を南下するうちに雨は本降りになった。一帯は文化や言語が混じり合った地域であり、南に下れば下るほどグラデーションのように言語がドイツ語からフランス語に色と形を変えていく。あと、ドイツから国境を越えてベルギーに入ると高速道路の最高速度が無制限(※場合による)から120km/hにダウン。フランスに入ると130km/hにアップする。
フィニッシュ地点リエージュはベルギーだが、ベルギーはベルギーでもフラマン語が話されている北部フランドル地方ではなくフランス語圏の南部ワロン地方。それだけにほぼ100%フランス人で構成された主催者ASOのスタッフは心持ちリラックスしていて足取りが軽い。
この日、テイラー・フィニー(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)はマイヨアポワ獲得というチームオーダーに沿って開始直後のアタックに反応した。最初の4級山岳で早々にジャージ着用を確定させたフィニーは「まさか自分が、100万年経っても着ることをイメージできないようなこのジャージを、こうして着るなんて」と驚く。
1984年ロス五輪団体ロード銅メダリストの父デーヴィスと同五輪の女子ロード金メダリストの母コニーの間に1990年に生まれたサラブレッドはジュニア時代から頭角を現し、2009年からトラック世界選手権個人追い抜きで2連覇を達成。その後、フィニーは2011年にBMCレーシングに移籍すると、2012年ジロ・デ・イタリア初日の個人タイムトライアルで優勝した。
そんな順風満帆のフィニーにストップをかけたのが、2014年全米選手権ロードレース中の落車で負った左脚の複雑骨折。キャリアが終わりかねない大怪我を乗り越え、約1年2ヶ月のリハビリの末にフィニーはレースに復帰した。2016年にはBMCレーシングのメンバーとしてジャパンカップに参戦している。
困難な時期を経験したフィニーだけに、初出場のツールの舞台で逃げに乗り、表彰台でマイヨアポワを受け取ることは大きな意味があったようだ。「まるで夢の中を走っている、正直言って、そう思えた。村上春樹を多く読んでいるせいか、夢のように思えたんだ」と、フィニーは小説「スプートニクの恋人」に登場する「ぼくは夢を見る。ときどきぼくにはそれがただひとつの正しい行為であるように思える」という一節を匂わせる言葉を残している。
各選手のGPSデータによると、およそ65km/hでリードアウトの列車が走り、そこから加速して70km/h程度でスプリント。マルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)はそこからさらに上のスピードで先頭に出て、勝利した。
キッテルはグランツールの歴史上初めてディスクブレーキ搭載バイクでステージ優勝した選手となった。UCIレースでのディスクブレーキ初勝利はトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が1月のツール・ド・サンフアンで達成。続いて2月にキッテルがドバイツアーで勝利している。
「別にディスクブレーキだから何か特別変わったことがあるわけじゃない。ただ、新しいテクノロジーの大きなステップアップにはなる」と語るキッテルの他に、この日はマイケル・マシューズ(オーストラリア、サンウェブ)とレト・ホレンシュタイン(スイス、カチューシャ・アルペシン)がディスクブレーキを使用。第1ステージの個人タイムトライアルではアルベルト・ベッティオール(イタリア、キャノンデール・ドラパック)がディスクブレーキを使っている。
機材と言えば、第1ステージでチームスカイが使用したスキンスーツにエフデジのパフォーマンスコーチであるフレッド・グラップ氏から物言いがついた。確かにクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)らが着たスキンスーツをよく見ると、肩から上腕の外側にかけて空気の流れを整えるための凸凹のシートが貼られている。この凸凹がヴォルテックスジェネレーター(渦流生成器)として機能し、空力性能の改善につながっているとグラップ氏は訴えた。同氏の計算によるとそのスキンスーツによってチームスカイは18〜25秒程度のアドバンテージを得ているという(その数字が本当ならすごいことだ)。
UCIルール(1.3.033)によると選手が着用するジャージやスキンスーツは身体の形に沿ったものとし、フィンなど「空力性能を高める物」の追加を禁止している。
チームスカイはすでに同じスキンスーツをジロ・デ・イタリアやクリテリウム・デュ・ドーフィネでも使用しており、UCIの認証を受けたと主張している。確かに今回の訴えを受ける前にUCIはチームスカイのスキンスーツをチェック済み。UCIコミッセールが出した答えは「問題なし」。乱流を生み出す凹凸は素材に組み込まれたもので、ルールに反していないので禁止する理由はないという結論を出している。
「それならば(最終日前日の)マルセイユ個人タイムトライアルでヴォルテックスジェネレーターを腕や背中に付ける。素材に組み込まれていれば問題ないというのであれば、背中の素材に空気の流れを整える形のパッドを入れても文句はないはず」と、グラップ氏はチームスカイを批判するというよりもUCIルールの矛盾を指摘している。
text&photo:Kei Tsuji in Liege, Belgium
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