畑中勇介(TeamUKYO)の独走勝利で幕を下ろした全日本選手権男子エリート。畑中や別府史之(トレック・セガフレード)、木村圭佑(シマノレーシング)など上位選手のほか、様々な思惑を持って臨んだ各監督陣のコメントでサバイバルレースを振り返ります。



優勝:畑中勇介(TeamUKYO)

天を仰ぐ畑中勇介(チーム右京)天を仰ぐ畑中勇介(チーム右京) Photo:Satoru Kato
(アタックのタイミングについて)どこと決めていた場所はありません。自分を含めて5人が飛び出していたのですが、やはり人数が減ってきた中で各チームでも思惑があり、その中でローテーションを回さない選手が現れた。でもせっかく脚を使って飛び出していたのに追いつかれてはもったいないと思い仕掛けました。

スローペースに進んでいるように見えたと思いますが、上り区間は結構速く、実際かなりの選手が千切れていたのが見えていたので、流れの中でレース勘、経験でカバーしたんです。

アタック後は、残り40分踏み切れるようなペース配分はもちろん、上りや下り、コーナリングのフォーム、エアロヘルメット(機材)など経験を全てつぎ込んで、1秒でも速く前に進むように力を尽くしました。32歳になった経験が活きたのかもしれません。

15周目、畑中勇介(チーム右京)がフィニッシュ地点目指して31kmを逃げ続ける15周目、畑中勇介(チーム右京)がフィニッシュ地点目指して31kmを逃げ続ける photo:Hideaki TAKAGI畑中勇介(チーム右京)が31kmに渡る独走で全日本選手権初優勝畑中勇介(チーム右京)が31kmに渡る独走で全日本選手権初優勝 photo:Hideaki TAKAGI

ラスト1周でタイムが1分以上開いた時は、かなりいけると思ったが、もちろんそれでもまだ長い距離があって、緊張もしていたし、脚が止まるんじゃないかとか、そういった恐怖もありました。でもこれくらいのきつい練習はずっと積んできたので、最後はなんとも言えない自信はあったんです。

勝利を確信する段階は何度もありましたが、それまでは緊張していて、本当に実感が沸いたのは残り500mくらい。歓声が聞こえて、知っている人もたくさん見えた。僕もいろいろチームを渡り歩いていて、(そこでお世話になった)いろんな人達が見えて…ここで、ついに来たなと思った。本当に嬉しい勝利です。

(娘さんの誕生日プレゼントになったとの質問に対して)そうですね、今日が4歳の誕生日でした。もちろんそうなったらいいなと思ったけれど、そんな簡単じゃないレースだし、緊張もしたし、いろんな事を考えました。ただ、それが今すべて報われました。

妻・絹代さんとこの日誕生日を迎えた娘と抱き合って喜ぶ畑中勇介(チーム右京)妻・絹代さんとこの日誕生日を迎えた娘と抱き合って喜ぶ畑中勇介(チーム右京) photo: Yuichiro Hosodaブリヂストンアンカーの水谷監督から祝福される畑中勇介(チーム右京)ブリヂストンアンカーの水谷監督から祝福される畑中勇介(チーム右京) Photo:Satoru Kato


(ライバルについて)ブリヂストンの初山選手は家も近い練習仲間です。今までの全日本は新城選手、別府選手と言った格上の人達が勝ってきたレースでしたが、去年初山選手が勝ったことで自分のモチベーションが1つ上がって、早く(獲りたい)、となりました。

32歳になってプロ14年目。一番欲しかったこのジャージを手に入れることができて本当に嬉しい。ずっとサポートしていただいて、みんなに応援していただいた。本当にありがとうございました。

次は7月スペインUCIカテゴリーのレースに、今日アシストしてくれていた若い20代前半の選手達を連れて参戦します。僕も若い時、フランスのアマチュアで4年間走っていたので、そういう経験も伝えながらヨーロッパを走ってチーム力を上げることが目標の1つ。また、8月からはチンハイレイク、チャイナ、ツール・ド・北海道とアジアツアーが連続するので、そこにも調子を合わせていきたいです。やはり日本のチームなので、日本人として活躍したいですね。

2位:別府史之(トレック・セガフレード)

今回全日本選手権に出場する事にしたのは、口ばかり若い子が増えていると感じていたから。そして自分の走りを見せたかったから。本当は勝てれば良かったのですが、メッセージにはなったかなと思います。レースのかなり前から青森入りしてトレーニングしていましたが、有意義な日本滞在を過ごせたと思います。ベストコンディションで臨んだレースで、やるだけの事はやったという感じでしょうか。

10周目 遅れた別府史之(トレック・セガフレード)10周目 遅れた別府史之(トレック・セガフレード) Photo:Satoru Katoファンサービスする別府史之(トレック・セガフレード)ファンサービスする別府史之(トレック・セガフレード) Photo:Satoru Kato

9周目に集団を引いて逃げを追走したのは、自分のテリトリーの範囲に置いて、後々面倒にならないようにするためです。焦ったわけではなく、経験上そうしておいた方が良いと思ったからです。自分1人でレースを組み立てなければならないので、その点はチームで出ている選手と違いますし、それを踏まえて自分はプロとしての走りをする事が仕事ですからね。

次はツール・ド・ポーランドの予定です。日本での次のレースはジャパンカップになるでしょう。コンディションは良いので、シーズン後半もこの調子を維持していきたいです。

3位:木村圭佑(シマノレーシング)

昨年の3位と今回の3位は重みが違うように感じます。チームとしてもなんとか表彰台を勝ち取りました。他のチームには負けたくないと言う気持ちでやってきましたし、トップ10にもシマノ多くはいりました。他のチームと比べても最後の動きは良かったと思います。2週間この場所で合宿を重ね、嫌と言うほど走り込んで、勝負どころ、脚のため方、最後のスプリントをかけるポイントまで全て熟知していたこと、そして全日本選権に懸けていた気持ちが最後の局面に出ました。

「去年の3位よりも重みのある3位」木村圭佑(シマノレーシング)「去年の3位よりも重みのある3位」木村圭佑(シマノレーシング) photo:So.Isobeレースを振り返る木村圭佑と入部正太朗(シマノレーシング)レースを振り返る木村圭佑と入部正太朗(シマノレーシング) photo:So.Isobe


最終局面ではやはり小林選手が強かった。自分が追走している時に彼が追いついてきて、小林選手には申し訳ないけれど、チームとして(シマノレーシング3人が逃げているので)自分は引けなかった。彼はスプリントする脚がないとは言っていたけれど、それは勝負なので本当かどうか分かりません。僕らも真剣勝負なので、2位と言う順位を獲る上で最善の走りをしました。

ゴール後に小林選手から「逃げ切れなかったじゃないか。一緒に回していけば2位3位穫れたかもしれないのに」と言われましたが、逆に僕らも小林選手の強さを知っているので、そんな甘いことはできません。結果として2位は獲れませんでしたが、僕らは間違っていないと思います。

僕がもう一段、いやもう二段三段強かったら、勝負を引き寄せられていたかもしれません。もっと強くなって帰ってきたいですね。ただ僕らは強いシマノレーシングをもう一度、と思ってやっているので、最後までチームとして動けた今日のレースを普段から常に出来るようにしていきたい。去年よりもっと強くなろうと思っていますし、去年と同じ事していたら3位にすらなれていません。これからも常に上を目指していきたいですね。

4位:鈴木龍(ブリヂストンアンカー)

12周目、抜け出した湊諒(シマノレーシング)、鈴木龍(ブリヂストンアンカー)、森本誠(イナーメ信濃山形)12周目、抜け出した湊諒(シマノレーシング)、鈴木龍(ブリヂストンアンカー)、森本誠(イナーメ信濃山形) photo:Hideaki TAKAGIやれることはやっての4位ですが、優勝だけを目指してやってきたので残念です。アンカーとしては最初の落車で初山さんを失ってしまったことが大きかった。考えとしては上りに強い西薗さん、初山さんで勝負を狙っていくつもりだったのですが…。

本当は西薗さんの脚を残すためにアシストしなければならなかったのですが、人数が少なかったことで全て西薗さんにしわ寄せがきてしまった。敗因としてはその部分だったかと考えています。個人的には登りがキツかったので粘れるだけ粘ろうとレースに臨み、4位になったという流れです。

登りの強さが光った小林海(NIPPOヴィーニファンティーニ)

インタビューを受ける小林海(NIPPOヴィーニファンティーニ)インタビューを受ける小林海(NIPPOヴィーニファンティーニ) Photo:Satoru Kato畑中さんは1人だったから、追いつくと思っていました。それで最後まで脚を貯めて上りで踏めばいいと思っていた。ただ、みんな脚がなかった。シマノは人数も残したし、思ったより強かったです。自分しか引く人がいなくて、最後は自分も思った以上に消耗していた。とにかく今日は畑中さんが強かった。木村が粘ってきて、僕と3人になったけど、自分はゴールスプリント出来ないので「一緒に行こう」と話しましたが、彼らとしてはアタックを繰り返す作戦だったので(折り合わず)。でももうそこはレースなので仕方ありません。

NIPPOとしては脚を貯めながら走っていたのだが、判断をミスってしまった。終盤がキツくて。途中の直登の部分で踏んでみたら、思ったより後ろが離れてしまったので、これだけ脚があったのなら最後に使えば良かったなと。上りでは自分が一番強かった。でもレースだからしょうがない。僕らの判断ミスです。

野寺秀徳監督(シマノレーシング)

「実力的にはまだまだですが、チームの成長を見ることができて良かった」野寺秀徳監督(シマノレーシング)「実力的にはまだまだですが、チームの成長を見ることができて良かった」野寺秀徳監督(シマノレーシング) photo:So.Isobeもちろん勝てなかったことは残念ですが、チームが展開を作っていたので、その成長ぶりを見て感動しました。まだ選手たちは若く、今日のレースも目標とすべき選手はたくさんいました。そういう格上の選手に挑む上ではまず気持ちで負けないことが大切。全日本選手権はどんなコースであろうと、強い選手だけが残ることができるレースです。昨日のU23で横山はじめ各選手が奮闘したことが、エリートの選手たちにも良い影響を及ぼしたように思いますね。

最近はOBからもシマノレーシングは成績が出ないと言われることが多々あったのですが、名門のプレッシャーを感じつつも選手たちはここ数年で一気に成長してくれています。今日は勝ちこそ届かなかったのですが、終盤では一番組織的に動くことができていました。だから素晴らしいと思いますが、でも結果的には負けは負け。まだまだ畑中と僕らにも大きな差がありますし、畑中もシマノレーシングで長く走っていた選手です。早く彼のレベルに追いついて、追い越していく流れを作っていけたら良いと思います。

清水裕輔監督(宇都宮ブリッツェン)

「もう一人いてくれたら展開が違うことができたと思う」清水裕輔監督(宇都宮ブリッツェン)「もう一人いてくれたら展開が違うことができたと思う」清水裕輔監督(宇都宮ブリッツェン) photo:So.Isobe岡が戦線離脱してしまったのが痛かった。それでエースになるはずのメンバーの1人がいなくなってしまい、案の定、最後は雨澤が一人になってしまった。集団が(他チームが)人数を抱えている中で1人となっても、雨澤はよく頑張ってくれました。

(雨澤が前半動いていたのは)本当はあの動きをレースの後半でやりたかった。レース前の作戦としてはまず雨澤、コンディション的に岡、(鈴木)譲も狙えると考えていました。前半は小野寺、飯野中心にうまく回ってくれて、中盤にかけて馬渡もしっかり残ってくれた。でももう1人いれば…。6人ギリギリでやっていたので、岡がいれば、もう少し違った事が出来た気がしますし、阿部の不在も大きかったですね。

水谷壮宏監督(ブリヂストンアンカーサイクリングチーム)

今日は中盤以降に逃げを作って勝負する作戦で臨みました。見ての通り集団では逃げのつぶし合いで大逃げもなく、自分達が予想していた通りの展開になりました。でも最初からくだらない落車があって、リーダーの初山がリタイアしてしまいました。それはレースだから仕方ないんですけれどね。それでも鈴木龍が調子良くて、最初の逃げに乗ってレースを作ってくれて、終盤の展開にも加わって、それを(西薗)良太と(石橋)学がサポートしてくれました。でも今日なぜ勝てなかったのかと言うと、畑中を行かせてしまった事に尽きます。それが最大の敗因ですね。

石田哲也監督(キナンサイクリングチーム)

8周目、椿大志(キナンサイクリングチーム)が単独逃げる8周目、椿大志(キナンサイクリングチーム)が単独逃げる photo:Hideaki TAKAGI今日は山本元喜に絞って、後手に回らないよう他のメンバーで逃げに乗りながら元気を前でゴールさせる作戦でした。序盤に野中が落車に巻き込まれたりして人数が減ってしまいましたが、中盤に椿が逃げに乗れたのでやっと自分達のペースに持ち込めたという感じでした。

出来ればもう1人くらい乗せてもっと長い時間逃げて、他のチームが消耗する展開にしたかったのですが、そうなりませんでした。チーム右京も人数を減らしていたけれど、畑中選手がうまく勝ったなという感じですね。

text:So.Isobe.Yuichiro.Hosoda,Satoru.Kato