フォーカスがスポンサードするUCIプロチーム"チームミルラム"のバイクのグラフィックを忠実に再現したものが、このイザルコ・チームレプリカだ。フレームはカーボン素材をUD(ユニディレクショナル)カーボンを採用している。

フォーカス IZALCO TEAM REPLICAフォーカス IZALCO TEAM REPLICA (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
このUDカーボンチューブとは単一方向性繊維のカーボンチューブ。繊維を織り込まずに一方向に繊維が並んでいるもの。メーカーによってはハイエンドモデルに採用されている素材だ。

フレーム構造は上位モデルと同様だ。特徴は昨年モデルから大胆にモデルチェンジしている点だろう。ヘッドは上下異径のテーパードヘッドチューブを採用している。上側は1・1/8インチ、下側は1・1/4インチというサイズだ。これは重量増を招くことなく、ヘッド周辺とフォークの剛性を向上させ、ステアリグ性能を高めるといった効果がある優れた機構といえる。

まるで血管が浮きあがったサラブレッドの脚のようなダウンチューブまるで血管が浮きあがったサラブレッドの脚のようなダウンチューブ ワイヤーはフレーム内蔵式になっているワイヤーはフレーム内蔵式になっている


フレームにはワイヤーを内蔵する独自の機構が採用されている。特にビジュアル的にインパクトがあるのはシフトワイヤーのルーティングだろう。チューブの表層に近い下部を這うようなケーブルルートが視認できる。ワイヤーはフルアウター内蔵式ではなく、フレーム内に専用のライナーが通っている構造だ。ワイヤーを外部にさらさないことで、環境による劣化や汚れを未然に防ぐことができるメリットもある。

またワイヤーケーブルのルーティングは極力直線的に配置できるように設計され、ワイヤーの負担を軽減している。チェーンステーの上部を通過するのもそのコンセプトの一環だろう。

チームミルラムのカラーを採用したレプリカバイクチームミルラムのカラーを採用したレプリカバイク ユニークなリアエンドの構造ユニークなリアエンドの構造


有機的なフレーム形状は、トップチューブ、シートステーなど振動吸収性に影響がある部位を横扁平加工させ、振動を減衰しやすくしている。また横剛性が高まり、ペダリングパワーの伝達効率を妨げないように工夫されている。

リアエンドの形状もユニークだ。このデザインにより、スタビリティ(安定感)が向上し、剛性もアップする。そのすべての形状に意味があるといった印象である。

走りを左右する要であるフロントフォークには、フォーカスオリジナルカーボンフォークを搭載する。フレームのヘッド規格”テーパードヘッドチューブ”に合わせ、上下異径に対応するスーパーオーバーサイズを採用した最新の機材だ。

上下異径のテーパードヘッドを採用する上下異径のテーパードヘッドを採用する フォーカスオリジナルカーボンフォークを採用するフォーカスオリジナルカーボンフォークを採用する BB廻りの剛性はハイレベルBB廻りの剛性はハイレベル


このチームレプリカは、フレームセット販売のほか、シマノ・デュラエースをアッセンブルした完成車と、シマノ・アルテグラをアッセンブルした完成車をラインナップしている。予算や仕様用途に応じて選択できるシステムだ。

チーム・ミルラムのグラフィックを忠実に再現したこのハイエンドモデルを、元プロライダーの三船雅彦氏と分析能力に定評のある山本健一氏はどう評価したのだろうか? 早速、両氏によるインプレッションをお届けしよう。





― インプレッション


「不満を見つけるほうが難しいレプリカモデル」 三船雅彦


「廉価版と言う例えがまったく的を得ないほどの高性能」 三船雅彦「廉価版と言う例えがまったく的を得ないほどの高性能」 三船雅彦 09年ハイモデュラスカーボンを使用したイザルコ。2010年のニューモデル・ラインナップはより細分化され、バリエーションが豊かになった。

このチームレプリカは“イザルコの廉価版”という言い方は適切ではないかもしれない。チームミルラムのレプリカバージョンが比較的手に届きやすい範囲の価格でラインナップされたという意味では、そういう例えがわかりやすいかもしれないのだが。

なによりもより多くの人がイザルコのテクノロジーを体感できるようになったのがすごいことだ。しかし廉価版と言う例えがまったく的を得ていないことは、跨ってすぐに体感できる。

その走りはまさにイザルコのそれに違いない。トップモデルとの違いはハイモデュラスカーボンではくUDカーボンになっていること。そしてフロントフォークはプロスペックの場合は3T社製フンダ・プロフォークを装備しているのに対し、フォーカスオリジナルのフォークが採用されていることだ。

フレーム形状による乗り心地の良さ、そして剛性感にはまったく差が感じられない。もちろん最後の「詰め」の部分で最終兵器的な超高性能を持ち合わせているハイエンドモデルとのわずかな差はある。しかしプロツアーレベルのレースで勝つか・負けるかというレベルの戦いでなければ、このレプリカで不満を見つけるほうが難しい。

ビジュアル的にはかなりしなやかな乗り心地を連想させるシートステーも、実際走ってみるとまったくそんなことを感じさせない。第一印象のイメージを裏切られるほどの反応のよさに驚いてしまうのだ。

前方を向いて加速しているとき、ふと意識をシートステーに向けてみる。走る前に見た、あの細いシートステーが大出力を支えているとはとても信じられない。それどころか「もしかしていつの間にか太いステーに入れ替わったのか?」、と思うほどに剛性がある!。

BB周りを中心にしたフレーム全体が醸し出す素晴らしい剛性感。そしてそれをまったく何事もないかのように挙動するフォーカスオリジナルフォークのポテンシャルの高さ。そのバランスの良さ・高さにただ感心するばかりだ。ヘッド周りのボリュームも伊達ではなく、コーナーでのハンドリングからスプリントまでストレスがなく、好印象だった。

廉価版という表現が適正ではないと思わせるイザルコ。その価値は価格以上のものがある。



「素性がよいレーシングフレーム」 山本健一(サイクルジャーナリスト)


「フレームのポテンシャルに不満は全くない」 山本健一「フレームのポテンシャルに不満は全くない」 山本健一 このチームレプリカは、イザルコ・エキスパートなどと比較しても同様の性能を示す優良バイクだ。同等グレードながらカラーリングの違いによって1万円少々アップグレードしているというイメージだ。

運動性能は高く、低速から中速域にかけては、ペダルに力を込めるイメージを持たずして気持ちよく加速していく。快適な乗り味も上位機種から受け継いでいる。スタビリティも高く、安心してライディングに集中できた。

気持ちにゆとりが生まれるような高いポテンシャルをもち、ハイエンドの素性があるにしてもビギナーだろうが乗りこなしやすい設計といえる(この試乗車のアッセンブルという前提となるが)。レース出場を志すライダーなら、このイザルコ・チームレプリカという選択肢は誰にとっても間違いがないだろう。

今回乗った試乗車はシマノ・ニューアルテグラをアッセンブルするミドルクラスの完成車だった。フレームの素性からすれば、ミドルクラス以上と思え、アルテグラの採用は妥当だろう。この上のプロスペックフレームの存在がなければ(存在したとしても)、デュラエースでも十分釣り合うフレーム性能だろう。

ユニークな機構が搭載されているが、コンポーネントとの相性は良い。ケーブルルーティングを邪魔せず、取り回しは良好。ハンドリングにも影響はなさそうだ。シフト&ブレーキコントロールも軽いタッチだった。

このアッセンブルでひとつ気になったのはホイールだろうか。フルクラムのエントリーモデルであるレーシング7が装備されており、さすがに物足りないイメージがある。このホイールが悪いわけではなく、このフレームにはもう少し上位グレードのホイールが性能的には似合うと思うのだ。

この価格帯を実現するためには必要なアッセンブルなのかもしれない。例えば、レーシング7をトレーニングやソロで走るときのために回して使い、グループライドやイベント、レース出場時にはワンランクからツーランク上のホイールを用意することをオススメしたい。それだけの対価を払う価値がこのフレームにはある。





フォーカス IZALCO TEAM REPLICAフォーカス IZALCO TEAM REPLICA (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp

FOCUS IZALCO TEAM REPLICA


サイズ:50、52、54cm
カラー チーム
フレーム フォーカスカーボン インターナルケーブル BB30

フレームセット ¥334,950(税抜¥319,000)
シマノ・デュラエース仕様完成車 ¥555,450(税抜¥529,000)
シマノ・アルテグラ仕様完成車 ¥406,450(税抜¥389,000)

※ヘッドチューブ径についての記述で、12月7日までの記述において上側は1・1/8インチ、下側は1・5インチ
としましたが、下側は1・1/4インチです。お詫びして訂正します( 12月7日追記)。該当箇所修正済み。




― インプレライダーのプロフィール

三船雅彦(みふねまさひこ)三船雅彦(みふねまさひこ) 三船雅彦(みふねまさひこ)

9シーズンをプロとして走り(プロチームとの契約年数は8年)プロで700レース以上、プロアマ通算1,000レース以上を経験した、日本屈指の元プロサイクルロードレーサー。入賞回数は実に200レースほどにのぼる。2003年より国内のチームに移籍し活動中。国内の主要レースを中心に各地を転戦。レース以外の活動も精力的に行い、2003年度よりJスポーツのサイクルロードレースではゲスト解説を。特にベルギーでのレースにおいては、10年間在住していた地理感などを生かした解説に定評がある。2005年より若手育成のためにチームマサヒコミフネドットコムを立ち上げ、オーナーとしてチーム運営も行っている。

過去数多くのバイクに乗り、実戦で闘ってきたばかりでなく、タイヤや各種スポーツバイクエキップメントの開発アドバイザーを担う。その評価の目は厳しく、辛辣だ。選手活動からは2009年を持って引退したが、今シーズンからはスポーツバイク普及のためのさまざまな活動を始めている。ホビー大会のゲスト参加やセミナー開催にも意欲的だ。
マサヒコ・ミフネ・ドットコム


山本健一(バイクジャーナリスト)山本健一(バイクジャーナリスト) 山本健一(バイクジャーナリスト)

身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。


text:山本 健一
photo&edit:綾野 真

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