2017/05/01(月) - 09:26
高い空力性能を有したホイールラインアップで、ロードレースからトライアスロンまで幅広い支持を得ているZIPP(ジップ)。特殊形状リムによってエアロダイナミクスをさらに高めた新型ホイール「454 NSW クリンチャー」をインプレッションした。
最先端テクノロジーの集積地である、アメリカはインディアナポリスに拠点を置くジップ。まだエアロが着目されていなかった1988年にカーボンディスクホイールを発表して創業し、その後バトンホイールやディープリムホイールを追加し、アイアンマンレースを始めとするトライアスロン競技やトラック競技において幾多の勝利を重ねその支持を拡大させていった。
ロードレースにおいても各トップチームへと供給され、ここ近年では2011年~2013年のトニー・マルティン(ドイツ、当時オメガファーマ・クイックステップ)の世界選手権個人タイムトライアル3連覇に貢献し、過去にもファビアン・カンチェラーラ(スイス)やアルベルト・コンタドール(スペイン)ら超一流トップレーサーが愛用しており、その信頼性の高さは語るまでもない。今シーズンはUCIワールドチームのカチューシャ・アルペシンをサポートし、その走りを支えている。
ジップのロードホイールラインアップは使用するシチュエーションに合わせて選択できるように、それぞれリムハイトが異なる202、303、404、808という4種類の展開となっていたが、そこに新たな番号が加わった。それが今回インプレッションを行った「454 NSW クリンチャー」である。
454 NSWの特徴は、何と言っても従来のリム形状とは一線を画す、波を打ったノコギリ形状だ。「より速く、よりコントローラブルに」を目指す上でバイオミメティクス(生物模倣技術、生物の構造や機能、生産プロセスなどから着想を得る科学技術のことである)を取り入れ、ザトウクジラのヒレから着想を得たという最低部53mm、最高部58mmの高低差を持たせたノコギリ状の「SawTooth」リムを採用するに至った。
リム表面に同社特有の丸型ディンプル加工を施した「Firecrest」シリーズのテクノロジーを進化させ、ディンプル配置や表面加工をより最適化した設計とすることで空力性能を向上させたフルカーボンクリンチャーラインアップ「NSWシリーズ」に分類される454 NSWは、更に6角形状に変更が加えられ配置も最適化されたリム表面の「HexFin」ABLCディンプル、そして「SawTooth」リムをかけ合わせた「HyperFoils」テクノロジーによりリム上の空気の流れを飛躍的に改善したという。
これはつまり意図的に小さな乱流をリム表面に生み出すことで、ホイールのスタビリティを阻害する大きな乱流を抑制し、それによりホイールに当たるあらゆる角度からの風に対しても、その抵抗を削減することで空力性能を高め、かつ安定性を生み出した。狙うところは、より省エネルギーで効率的な速度維持である。
また、NSWシリーズ共通で投入されている「ImPress」と「Showstopper」の2つのテクノロジーも引き続き採用。ディンプルの効果を最大限に高めるべくロゴデカールは廃され、直接リムへプリントされる仕様になるとともに、ブレーキ面には硬度、耐熱性に優れる炭化ケイ素コーティングを施し波状の溝を設けることで、アルミリムよりも強力で安定したブレーキパフォーマンスを実現しているという。
ハブも同じくNSWシリーズのために新開発された「Cognition」ハブを採用。「Axial Clutch」という独自のフリー構造を搭載することで、ぺダリングを止めた際にラチェット機構を半解放し、ハブシェルとフリーボディ間の抵抗を低減してくれるというものだ。2枚のクラッチを噛み合わせることで、駆動時には優れた反応性を実現する。
リム最大幅は27.8mmと昨今主流のワイドリムとなり、空力を重視したことで軽量性は優先されずペア重量は1525gとなる。今回はIRCのアスピーテタイヤをセットしテストした。エアロダイナミクスを科学する老舗のホイールメーカーが放つ新型ホイールの性能や如何に。早速、インプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「短時間でトップスピードに乗せられる高い空力性能」杉山友則(Bicicletta IL CUORE)
リム重量がやや重くゼロ発進こそ軽いと言えませんが、ひとたびスピードに乗ってホイールが回りだしてしまえば、ぐいぐいと加速していくフィーリング。空力性能の高さが随所に現れており、あっと言う間に40、50km/h以上の高速域まで達することが可能な加速性能を強く感じることができました。
特に感動したのが下りでのスピードの乗りですね。新設計ハブの助けもあるかもしれませんが、下りで足を止めてからトップスピードに上がるまでの時間がごくわずかで済んでしまいます。もちろん上がったスピードを維持するのは容易なほどのエアロダイナミクスを持っているので、ライバルたちに対しても大きなアドバンテージとなるでしょうね。体感的には同社のディープリムホイールである808にも匹敵するくらいの空力の良さがありました。
高速域を得意とするホイールですが、それをコントロールするブレーキ性能も優秀で、カーボンリムながら違和感なくナチュラルな制動をすることができます。急にガツンと効くわけでもなく、しかしながらしっかりと止まれるブレーキングが可能なので不安感は全くありません。
作りを見ていけば、リム単体でしっかりとした剛性があるため踏んだ時の反応性を高めていると感じます。また、従来のジップホイールはニップルホールがリムの中央に設けられていましたが、このホイールではちゃんと左右に振ってありますね。スポークやニップルに無理な負荷なくテンションをかけてあるため耐久性も伸びていると言えそうです。
低速域の加速こそ得意ではありませんが、そもそも454NSWの狙いは中〜高速域ですのであまり関係ありません。平地を高速で走るエンデューロやトライアスロンにうってつけで、惰性が効くようなアップダウンのコースレイアウトでも十分に武器になります。高速域を維持するシチュエーションや、そこからスプリントを狙っていくようなシーンで活きてくるホイールですね。
「巡航が楽になるエアロ感、見た目に反した軽いフィーリング」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
ふた漕ぎ目から走りの軽さを実感できます。実際の重量は軽くありませんが、それに反してスイスイ加速していく気持ちの良いフィーリング。あまりにも高性能ですからガンガン踏み込みたくなってしまいますよ。
性能的にはジップらしく高速巡航が最も得意です。少出力でも速度維持が可能なので、一定ペースを刻むトライアスロンやタイムトライアルにこそ向いていますね。下りに差し掛かった時ににひと漕ぎふた漕ぎ踏み直してあげるだけでスピードを乗せていけますし、パワーをかけて踏んだ時の反応も良いので、速度の上げ下げにも十分に対応できると感じました。
ブレーキフィーリングもとても自然な感じでいけるので、アルミホイールから交換しても違和感なく乗っていけるはず。ただしワイドリムですからクリアランスが十分に確保されていないバイクに合わせてしまうと、踏み込んだ際にフレームと擦ってしまう可能性がありますね。TTバイクなどは特にクリアランスが狭く作ってあるので、注意が必要です。
キワモノのような見た目ですが、非常に扱いやすく気持ちよく走れるため、お財布の余裕があればレースだけでなく普段履きで使いたいと感じてしまいました。今回はアルミバイクでテストしてみてもその性能をしっかり感じることができたので、どんなバイクに合わせても走りの質はぐっと上がることでしょう。やや高めの価格設定ではありますが、それだけの性能や価値は大いに感じるところでした。エアロを追求するライダーにはオススメできる1本です。
ジップ 454 NSW クリンチャー
リムハイト:53~58mm
ブレーキ幅:26.4mm
リム最大幅:27.8mm
重量:1525g(フロント690g、リア835g)
フリー:シマノ/カンパニョーロ 10-11速対応
付属品:ホイールバッグ、チタンクイックリリース、バルブエクステンダー、ブレーキシュー、チューブ700c x 20-28mm、リムフラップ700c x 20mm
価格:529,100円(税抜)(フロント238,600円、リア290,500円)
インプレッションライダーのプロフィール
杉山友則(Bicicletta IL CUORE)
東京都台東区のBicicletta IL CUORE 下谷本店店長。ダミアーノ・クネゴがジュニアチャンピオンだったころからクネゴのファンだという、自他ともに認めるミーハー系自転車乗り。グエルチョッティやコルナゴ、ルックなどヨーロピアンブランドへの造詣が深い。ショップ店長としては、ユーザーがサイクルライフを楽しめる遊び方の提案を心がけている。
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ショップHP
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。
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ワタキ商工株式会社 ニコー製作所
ウェア協力:シマノ
ヘルメット協力:ベル
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
最先端テクノロジーの集積地である、アメリカはインディアナポリスに拠点を置くジップ。まだエアロが着目されていなかった1988年にカーボンディスクホイールを発表して創業し、その後バトンホイールやディープリムホイールを追加し、アイアンマンレースを始めとするトライアスロン競技やトラック競技において幾多の勝利を重ねその支持を拡大させていった。
ロードレースにおいても各トップチームへと供給され、ここ近年では2011年~2013年のトニー・マルティン(ドイツ、当時オメガファーマ・クイックステップ)の世界選手権個人タイムトライアル3連覇に貢献し、過去にもファビアン・カンチェラーラ(スイス)やアルベルト・コンタドール(スペイン)ら超一流トップレーサーが愛用しており、その信頼性の高さは語るまでもない。今シーズンはUCIワールドチームのカチューシャ・アルペシンをサポートし、その走りを支えている。
ジップのロードホイールラインアップは使用するシチュエーションに合わせて選択できるように、それぞれリムハイトが異なる202、303、404、808という4種類の展開となっていたが、そこに新たな番号が加わった。それが今回インプレッションを行った「454 NSW クリンチャー」である。
454 NSWの特徴は、何と言っても従来のリム形状とは一線を画す、波を打ったノコギリ形状だ。「より速く、よりコントローラブルに」を目指す上でバイオミメティクス(生物模倣技術、生物の構造や機能、生産プロセスなどから着想を得る科学技術のことである)を取り入れ、ザトウクジラのヒレから着想を得たという最低部53mm、最高部58mmの高低差を持たせたノコギリ状の「SawTooth」リムを採用するに至った。
リム表面に同社特有の丸型ディンプル加工を施した「Firecrest」シリーズのテクノロジーを進化させ、ディンプル配置や表面加工をより最適化した設計とすることで空力性能を向上させたフルカーボンクリンチャーラインアップ「NSWシリーズ」に分類される454 NSWは、更に6角形状に変更が加えられ配置も最適化されたリム表面の「HexFin」ABLCディンプル、そして「SawTooth」リムをかけ合わせた「HyperFoils」テクノロジーによりリム上の空気の流れを飛躍的に改善したという。
これはつまり意図的に小さな乱流をリム表面に生み出すことで、ホイールのスタビリティを阻害する大きな乱流を抑制し、それによりホイールに当たるあらゆる角度からの風に対しても、その抵抗を削減することで空力性能を高め、かつ安定性を生み出した。狙うところは、より省エネルギーで効率的な速度維持である。
また、NSWシリーズ共通で投入されている「ImPress」と「Showstopper」の2つのテクノロジーも引き続き採用。ディンプルの効果を最大限に高めるべくロゴデカールは廃され、直接リムへプリントされる仕様になるとともに、ブレーキ面には硬度、耐熱性に優れる炭化ケイ素コーティングを施し波状の溝を設けることで、アルミリムよりも強力で安定したブレーキパフォーマンスを実現しているという。
ハブも同じくNSWシリーズのために新開発された「Cognition」ハブを採用。「Axial Clutch」という独自のフリー構造を搭載することで、ぺダリングを止めた際にラチェット機構を半解放し、ハブシェルとフリーボディ間の抵抗を低減してくれるというものだ。2枚のクラッチを噛み合わせることで、駆動時には優れた反応性を実現する。
リム最大幅は27.8mmと昨今主流のワイドリムとなり、空力を重視したことで軽量性は優先されずペア重量は1525gとなる。今回はIRCのアスピーテタイヤをセットしテストした。エアロダイナミクスを科学する老舗のホイールメーカーが放つ新型ホイールの性能や如何に。早速、インプレッションに移ろう。
ー インプレッション
「短時間でトップスピードに乗せられる高い空力性能」杉山友則(Bicicletta IL CUORE)
リム重量がやや重くゼロ発進こそ軽いと言えませんが、ひとたびスピードに乗ってホイールが回りだしてしまえば、ぐいぐいと加速していくフィーリング。空力性能の高さが随所に現れており、あっと言う間に40、50km/h以上の高速域まで達することが可能な加速性能を強く感じることができました。
特に感動したのが下りでのスピードの乗りですね。新設計ハブの助けもあるかもしれませんが、下りで足を止めてからトップスピードに上がるまでの時間がごくわずかで済んでしまいます。もちろん上がったスピードを維持するのは容易なほどのエアロダイナミクスを持っているので、ライバルたちに対しても大きなアドバンテージとなるでしょうね。体感的には同社のディープリムホイールである808にも匹敵するくらいの空力の良さがありました。
高速域を得意とするホイールですが、それをコントロールするブレーキ性能も優秀で、カーボンリムながら違和感なくナチュラルな制動をすることができます。急にガツンと効くわけでもなく、しかしながらしっかりと止まれるブレーキングが可能なので不安感は全くありません。
作りを見ていけば、リム単体でしっかりとした剛性があるため踏んだ時の反応性を高めていると感じます。また、従来のジップホイールはニップルホールがリムの中央に設けられていましたが、このホイールではちゃんと左右に振ってありますね。スポークやニップルに無理な負荷なくテンションをかけてあるため耐久性も伸びていると言えそうです。
低速域の加速こそ得意ではありませんが、そもそも454NSWの狙いは中〜高速域ですのであまり関係ありません。平地を高速で走るエンデューロやトライアスロンにうってつけで、惰性が効くようなアップダウンのコースレイアウトでも十分に武器になります。高速域を維持するシチュエーションや、そこからスプリントを狙っていくようなシーンで活きてくるホイールですね。
「巡航が楽になるエアロ感、見た目に反した軽いフィーリング」
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
ふた漕ぎ目から走りの軽さを実感できます。実際の重量は軽くありませんが、それに反してスイスイ加速していく気持ちの良いフィーリング。あまりにも高性能ですからガンガン踏み込みたくなってしまいますよ。
性能的にはジップらしく高速巡航が最も得意です。少出力でも速度維持が可能なので、一定ペースを刻むトライアスロンやタイムトライアルにこそ向いていますね。下りに差し掛かった時ににひと漕ぎふた漕ぎ踏み直してあげるだけでスピードを乗せていけますし、パワーをかけて踏んだ時の反応も良いので、速度の上げ下げにも十分に対応できると感じました。
ブレーキフィーリングもとても自然な感じでいけるので、アルミホイールから交換しても違和感なく乗っていけるはず。ただしワイドリムですからクリアランスが十分に確保されていないバイクに合わせてしまうと、踏み込んだ際にフレームと擦ってしまう可能性がありますね。TTバイクなどは特にクリアランスが狭く作ってあるので、注意が必要です。
キワモノのような見た目ですが、非常に扱いやすく気持ちよく走れるため、お財布の余裕があればレースだけでなく普段履きで使いたいと感じてしまいました。今回はアルミバイクでテストしてみてもその性能をしっかり感じることができたので、どんなバイクに合わせても走りの質はぐっと上がることでしょう。やや高めの価格設定ではありますが、それだけの性能や価値は大いに感じるところでした。エアロを追求するライダーにはオススメできる1本です。
ジップ 454 NSW クリンチャー
リムハイト:53~58mm
ブレーキ幅:26.4mm
リム最大幅:27.8mm
重量:1525g(フロント690g、リア835g)
フリー:シマノ/カンパニョーロ 10-11速対応
付属品:ホイールバッグ、チタンクイックリリース、バルブエクステンダー、ブレーキシュー、チューブ700c x 20-28mm、リムフラップ700c x 20mm
価格:529,100円(税抜)(フロント238,600円、リア290,500円)
インプレッションライダーのプロフィール
杉山友則(Bicicletta IL CUORE)
東京都台東区のBicicletta IL CUORE 下谷本店店長。ダミアーノ・クネゴがジュニアチャンピオンだったころからクネゴのファンだという、自他ともに認めるミーハー系自転車乗り。グエルチョッティやコルナゴ、ルックなどヨーロピアンブランドへの造詣が深い。ショップ店長としては、ユーザーがサイクルライフを楽しめる遊び方の提案を心がけている。
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ショップHP
吉田幸司(ワタキ商工株式会社 ニコー製作所)
名古屋に店舗を構えるワタキ商工株式会社 ニコー製作所の4代目店長を務める。一般企業に勤めてから入社した経験を活かし常に"外側からの視点"に注意を払い、初心者さんが気軽に入店しやすい雰囲気づくりを心がけている。週末にはロードやシクロクロス、トライアスロンなど多岐にわたってイベントを開催し、お客さん同士が仲良くなれるような場を提供している。ショップでは「当たり前のことを当たり前にやる」ことをモットーに作業を行い、お客さんが乗りやすいバイクを提供している。
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ワタキ商工株式会社 ニコー製作所
ウェア協力:シマノ
ヘルメット協力:ベル
text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO
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