4月9日(日)、フランス北部の石畳を舞台に第115回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が開催される。トム・ボーネン(ベルギー)の現役最終レースであるこの「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」の見どころをチェックしておこう。



2セクター追加でパヴェ全長が55kmに延長

パリ〜ルーベ2017コースマップパリ〜ルーベ2017コースマップ image: A.S.O.「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第115回を迎えるパリ〜ルーベが今週日曜日に開催される。

フランスを北上し、ベルギー国境近くのルーベを目指すフランスを北上し、ベルギー国境近くのルーベを目指す photo:TDWsportパリ〜ルーベの特徴は何と言っても荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースレイアウトだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。

アランベールの森を進むアランベールの森を進む photo:TDWsportパリ北部のコンピエーニュをスタートする257kmのコースには大きな登りが登場しない。平野部を縫うように蛇行しながらベルギー国境近くのルーベを目指す。フルフラットと言っても、レース前半には2〜3%ほどの細かいアップダウンが登場するため、獲得標高差は1,200mに達する。

角が立った石が敷かれ、波打ったパヴェ角が立った石が敷かれ、波打ったパヴェ photo:TDWsportレース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。フィニッシュ地点ルーベに至るまでに登場するパヴェは合計29区間で、112.5km地点の「No.26 ヴィースリー〜ブリアストル」と116km地点の「No.25 ブリアストル〜ソレム」が1987年以来30年ぶりに復活となる。

レースを締めくくるのはルーベ・ヴェロドロームレースを締めくくるのはルーベ・ヴェロドローム photo:Makoto Ayanoパヴェ区間の総延長は前年比2.2km増の55km。最初の「No.27 トロワヴィル〜アンシー」を越えると、そこからフィニッシュまでのレース後半部の約3分の1がパヴェに覆われている計算になる。

パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。毎年補修が行われているものの、普段は巨大なトラクターが行き交う農道であり、石と石の間の土は風雨によって浸食されている。鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こすため、チームは総力を挙げて選手をサポートする。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ないだろう。

そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。

数あるセクターの中でも特に有名なのが、難易度5つ星の「No.19 アランベール」と「No.11 モンサン・ぺヴェル」、そして「No.4 カルフール・ド・ラルブル」の3区間だ。いずれも全長が2kmを超え、その路面の荒れ具合を見ると5つ星も納得だ。

「アランベールの森」を貫く直線的な「アランベール」の全長は2,400mで、その路面は荒れに荒れている。両脇が観戦用のフェンスで覆われているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。そしてここからレースは加速して行く。

難所の「モンサン・ぺヴェル」を越えるとフィニッシュまで残り約45km。ここからのラスト1時間は一つのミスが命取りになる。終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度の高い3区間(No.7 シソワン・ブルゲル、No.6 ブルゲル・ワヌエン、No.5 カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場する「カルフール・ド・ラルブル」だ。長さ2,100mのこの難所を越えると、フィニッシュまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、この5つ星セクターで勝負が決まる可能性が高い。

そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。

現地の天気予報によると日曜日の天候は快晴。最高気温が22度まで上がる予報が出ており、暑さと砂埃との戦いになりそうだ。



登場するパヴェ29区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
29 97km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
28 103.5km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
27 106km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
26 112.5km Viesly à Briastre 3000m
25 116km Briastre à Solesmes 800m 
24 124.5km Vertain à Saint-Martin-sur-Écaillon 2300m ☆☆☆
23 134.5km Verchain-Maugré à Quérénaing 1600m ☆☆☆
22 137.5km  Quérénaing à Maing 2500m ☆☆☆
21 140.5km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
20 153.5km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
19 161.5km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
18 168km Wallers à Hélesmes 1600m ☆☆☆
17 174.5km Hornaing à Wandignies 3700m ☆☆☆☆
16 182km Warlaing à Brillon 2400m ☆☆☆
15 185.5km Tilloy à Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆☆
14 192km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
13 197km Orchies 1700m ☆☆☆
12 203km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2700m ☆☆☆☆
11 208.5km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
10 214.5km Mérignies à Avelin 700m ☆☆
9 218km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
8 224km Templeuve (Moulin de Vertain) 500m ☆☆
7 230.5km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆
6 233km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆
5  237.5km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4  240km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3  242.5km Gruson 1100m ☆☆
2  249km Willems à Hem 1400m ☆☆
1  256km Roubaix 300m ☆

パリ〜ルーベ2017コース高低図パリ〜ルーベ2017コース高低図 image: A.S.O.


ボーネン有終の美なるか 調子の良いサガンやヴァンアーヴェルマートにも注目

パヴェを試走するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)パヴェを試走するトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ) photo:TDWsportレースの先頭であっても先頭でなくても、「トルネードトム」がルーベのヴェロドロームに入った瞬間、大歓声が辺りを包むことになるだろう。2005年、2008年、2009年、2012年にヴェロドロームの真ん中で石畳のトロフィーを受け取った36歳のトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)が、この第115回大会を最後に現役を引退する。

ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:TDWsport13回目の出場となるボーネンは、70年代に活躍したロジェ・デフラミンク(ベルギー)と並ぶ史上最多のパリ〜ルーベ4勝を飾っている。2016年はヴェロドローム内でのスプリントに敗れて自身2度目の2位。1週間前のロンド・ファン・フラーンデレンではフィリップ・ジルベールの勝利をアシストする好調ぶりを見せながら、自身はメカトラで勝負に絡めなかった。

グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)グレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング) photo:TDWsportロンド覇者ジルベールは欠場するが、クイックステップフロアーズは2014年大会の優勝者ニキ・テルプストラ(オランダ)やゼネク・スティバル(チェコ)、マッテオ・トレンティン(イタリア)といった強者揃い。ロンドに続いて圧倒的なチーム力でレースを動かしてくるだろう。勝てる選手を揃えているが、王者ボーネンをエースに据えることは間違いない。

マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット)マシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット) photo:TDWsportロンドで落車し、大会連覇のチャンスを失ったペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)はパリ〜ルーベで巻き返しを図る。メジャークラシックで勝利を重ねているサガンだが、パリ〜ルーベでは優勝経験もなければ表彰台の経験もない(2014年の6位が最高位)。過去に5人が達成し、1981年のベルナール・イノー(フランス)以来36年間達成されていないアルカンシェルでのパリ〜ルーベ勝利に期待がかかる。

ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード) photo:TDWsportロンドでサガンとともに落車しながらも、懸命な追走で2位に入ったグレッグ・ヴァンアーヴェルマート(ベルギー、BMCレーシング)は2015年大会で表彰台に上っている。サガンと同じ1990年生まれで、クラシックライダーとして頭角を現しつつあるオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール)にも注目。なお、ここ数年コンスタントに成績を残しているセップ・ヴァンマルク(ベルギー、キャノンデール・ドラパック)はロンドの落車の影響で欠場する。

ディフェンディングチャンピオンのマシュー・ヘイマン(オーストラリア、オリカ・スコット)は出場選手の中で最多出場(15回目)かつ最年長(38歳355日)。今年はルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)やイェンス・クールレール(ベルギー)を味方につけてタイトル防衛に挑む。2016年に自身初の表彰台を射止めたイアン・スタナード(イギリス、チームスカイ)はルーク・ロウ(イギリス)やジャンニ・モスコン(イタリア)のサポートを受けることになるだろう。

2016年をもって引退した3度の優勝者ファビアン・カンチェラーラ(スイス)に代わって、トレック・セガフレードのエースを担うのは2015年大会の覇者ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、トレック・セガフレード)だ。2016年はトレーニングキャンプの事故の影響で欠場したが、1週間前のロンドでは7位の成績を残すなど、石畳バトルの主役になる力を取り戻している。

石畳も戦えるスプリンターとしては他にもアレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ・アルペシン)やアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)、アルノー・デマール(フランス、エフデジ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、ディメンションデータ)らの名前も。単独逃げか数名の逃げ切りか、それとも小集団スプリントか。展開の読めない石畳決戦が間もなく始まる。



歴代パリ〜ルーベ優勝者
2016年 1位 ヘイマン、2位 ボーネン、3位 スタナード
2015年 1位 デゲンコルブ、2位 スティバル、3位 ヴァンアーヴェルマート
2014年 1位 テルプストラ、2位 デゲンコルブ、3位 カンチェラーラ
2013年 2位 カンチェラーラ、2位 ヴァンマルク、3位 テルプストラ
2012年 1位 ボーネン、2位 テュルゴー、3位 バッラン
2011年 1位 ヴァンスーメレン、2位 カンチェラーラ、3位 チャリンギ
2010年 1位 カンチェラーラ、2位 フースホフト、3位 フレチャ
2009年 1位 ボーネン、2位 ポッツァート、3位 フースホフト
2008年 1位 ボーネン、2位 カンチェラーラ、3位 バッラン
2007年 1位 オグレディ、2位 フレチャ、3位 ウェーゼマン
2006年 1位 カンチェラーラ、2位 ボーネン、3位 バッラン
2005年 1位 ボーネン、2位 ヒンカピー、3位 フレチャ

text:Kei Tsuji