英国・マンチェスターで開催されている2009UCIパラサイクリングトラック世界選手権大会2日目の7日、藤田征樹が男子1kmTT(LC3)で金メダルを獲得した。タイムは北京パラリンピックの自身のタイムを約2秒上回る1分15秒307。北京でサイモン・リチャードソンがマークした世界記録の1分14秒936まで、あとコンマ4秒だった。

藤田征樹、男子1kmTT(LC3)藤田征樹、男子1kmTT(LC3) photo:Yuko SATO北京で藤田が手にしたメダルは惜しくも銀、銀、銅だった。1年後のいま、初めて世界チャンピオンとなった藤田は、メダルの重さを確かめるようにメダルにふれ、まだ信じられないといった笑顔で、表彰台の一番高いところに立っていた。

今大会は怪我で不参加の石井雅史が07年にボルドーで獲得したUCIチャンピオンジャージはパラサイクリング独自の若草色だったが、今年9月のUCIパラサイクリングロード世界選手権からは、健常者のチャンピオンと同じ白となった。日本パラサイクリングチームが初めて獲得する白いアルカンシエルに、藤田はゆっくりと袖を通した。

大会初日の個人追抜のスタート前、チームスタッフの肩をかりながら出走機へと向かう藤田。パラサイクリングでは珍しい光景ではないが、通常の藤田であれば介助を必要としない。実はこのとき藤田は、切断した足の断端に突然起こった原因不明のしびれ、痛みを抱えていた。

個人追抜予選終了後、決勝までの数時間、そして翌日の1kmTTにむけて、日本チームは総力をあげて藤田をぶじ出走させようと奮闘していた。痛みの原因はわからない。義足に原因があるのではないかと日本の義肢装具士に電話で相談もした。「痛みがなくもし走れれば、それで幸せ、という気持ちでした」と藤田は切実な心境を振り返る。

藤田征樹、男子1kmTT(LC3)表彰藤田征樹、男子1kmTT(LC3)表彰 photo:Yuko SATO表彰のあと、「何と言ったらいいか… もう、分からない」と喜びで言葉にならず、やわらかい笑顔を見せた藤田。「表彰台にのぼって、もう、どうしたらいいんだろう、って思いました」。ゆっくりと言葉を探しながら、気持ちを語ってくれた。

「今日は、北京のときとも違って、気持ちはすごく楽にいけました。今までやってきたことしか出ないですから、班目監督に教わったことを、正確に少しは形にできたかな、と思います。切断部分にトラブルが出たりとか、大会中は苦しかったけれど、今までやってきたことが、出せた。」

「きのうは日本スタッフの献身的なサポート、日本の義肢装具士のサポートを受けて、会場に入るまでいろいろ対処して、それがうまくいった。しっかり走れるようになったわけだから、今までやってきたことがどこまで出るのか、楽しみに、走れました。痛みですか? やっぱりちょっと痛かったですけど、でも、何とか。」

「表彰後にサイモン(※)が来て、おめでとうと言ってくれました。来年からは規定変更でクラスが大きく再編されて、ダレン(※2)とも一緒になるので、今日のメダルは、もう今日で終わりです。また一から出直します。もっとすごくないといけない。今度は、相手になれるところから始めないといけないと思っています。」
 
またこの日、男子1kmTT(LC1)に出場した阿部学宏は、1分17秒092のタイムで13位。パラサイクリングの世界でスタートに立ったばかりの阿部も、今大会では大きなモチベーションを得たようだ。

男子1kmTT(LC1)を走る阿部学宏男子1kmTT(LC1)を走る阿部学宏 photo:Yuko SATO「個人追抜も1kmTTも、目標タイムより1〜2秒遅かった。世界との差は大きいので、これまで以上に練習方法を考えて差をつめるように、と思う。ロンドンへは、いい意味で『こういう場所に行かされた以上、そういうものを背負わなければ』と思う。」と阿部。「同じ人間がやっているのだから、できないことはない。やるしかないでしょう!」と力強く、自分を奮い立たせるように、意気込みを語った。

2010年のパラサイクリングワールドカップの予定は、5月のフランスを始めとする3都市がIPCのサイトですでにアナウンスされている。大会詳細や日本チームの状況などはまだ不明だが、今後の情報に注目したい。


※ 北京パラリンピックの1kmTT(LC3)、男子個人追抜(LC3)で藤田を破り金メダルを獲得したサイモン・リチャードソン(英国)。今大会ではクラスがLC3からLC2に変わった。

※2 ダレン・ケニー。北京パラリンピックで4つの金を含む5つのメダルを獲得するなど、数多くのメダルの実績を持つCP3クラスの英国選手。

text&photo:Yuko SATO