逃げの中から生まれた逃げ。独走に持ち込んだヤコブ・イーホルム(デンマーク)がジュニア世界チャンピオンに輝いた。暑さと落車に苦しめられた日本勢は蠣崎優仁(伊豆総合高校)の42位が最高位だった。



ジュニア男子ロードレースに挑む沢田桂太郎(日本大学)、渡邉歩(EQADS)、重満丈(北中城高校)、蠣崎優仁(伊豆総合高校)ジュニア男子ロードレースに挑む沢田桂太郎(日本大学)、渡邉歩(EQADS)、重満丈(北中城高校)、蠣崎優仁(伊豆総合高校) photo:Kei Tsuji
生中継用に取り付けられたGoProベースのオンボードカメラ生中継用に取り付けられたGoProベースのオンボードカメラ photo:Kei Tsujiスタート前に全バイク対象のチェックが行われるスタート前に全バイク対象のチェックが行われる photo:Kei Tsuji


183名の選手たちがスタートを切る183名の選手たちがスタートを切る photo:Kei Tsuji暑さがピークを迎える午後1時15分、183名の大きなプロトンが「ザ・パール」の周回レースをスタートさせた。ジュニア世界チャンピオンを選び出すのは平坦でテクニカルな人工島を合計9周する135.5km。このジュニアレースも例に漏れず序盤から落車が連続して発生した。

エーススプリンターを担った沢田桂太郎(日本大学)エーススプリンターを担った沢田桂太郎(日本大学) photo:Kei Tsuji4名が出場した日本は「集団スプリントに持ち込まれれば沢田を全力でサポートし、中盤の危険な逃げに渡邉、蠣崎、重満が対応する」というオーダー。しかし度重なる落車の影響によってエーススプリンターの沢田が3周目に集団から脱落してしまう。遅れた選手たちとグループを形成して追走した沢田だったが、スピードが落ちないメイン集団とのタイム差は拡大。沢田は5周目にバイクを降りた。

アタックが決まらないまま「ザ・パール」の周回コースを進むアタックが決まらないまま「ザ・パール」の周回コースを進む photo:Kei Tsujiレース先頭では個人TTで7位に入ったアウェト・ハブトム(エリトリア)らが果敢にアタックを繰り返したものの、逃げグループが形成されない状態が続いたまま周回を消化していく。

レースが大きく動き始めたのは後半に差し掛かってから。個人TTを制したブランドン・マクナルティ(アメリカ)らのアタックによって14名が先行を開始する。日本勢を含むメイン集団とのタイム差は徐々に広がって行った。

集団前方に位置していた渡邉歩(EQADS)は「マクナルティたちが先行し始めたタイミングで、反応して追いつくチャンスがあったのに一瞬だけ躊躇してしまった。今日のような出場人数が多くて平坦なコースで、レースが決まるのはそのタイミングだった。チャンスはその1回しかなかった」と、勝負が決まった瞬間を振り返る。



スピードが弱まらないまま周回を重ねていくスピードが弱まらないまま周回を重ねていく photo:Kei Tsuji
ハイスピードで進む集団内で走る重満丈(北中城高校)ハイスピードで進む集団内で走る重満丈(北中城高校) photo:Kei Tsujiメイン集団内で走る蠣崎優仁(伊豆総合高校)メイン集団内で走る蠣崎優仁(伊豆総合高校) photo:Kei Tsuji
アレクシ・ブルネル(フランス)が先頭グループを率いるアレクシ・ブルネル(フランス)が先頭グループを率いる photo:Kei Tsuji積極的にアタックを仕掛けたTT優勝者のブランドン・マクナルティ(アメリカ)積極的にアタックを仕掛けたTT優勝者のブランドン・マクナルティ(アメリカ) photo:Kei Tsuji


メイン集団内で最終周回に向かう渡邉歩(EQADS)メイン集団内で最終周回に向かう渡邉歩(EQADS) photo:Kei Tsujiフィニッシュまで3周を残してマクナルティはアレクシ・ブルネル(フランス)とユリウス・ヨハンセン(デンマーク)とともに抜け出したが、追走グループを振りきれずに引き戻される。デンマーク3名、スロベニア3名、フランス2名、スイス2名を揃える20名の先頭グループがメイン集団から1分弱のリードを得たまま最終周回に差し掛かった。

重満丈(北中城高校)が渡邉歩(EQADS)を引き上げる重満丈(北中城高校)が渡邉歩(EQADS)を引き上げる photo:Kei Tsuji数を利を生かして攻撃を継続したのはデンマーク。再度アタックしたヨハンセンに反応する形で飛び出したイーホルムがフィニッシュまで9kmを残して独走を開始する。ヨハンセンに合流したブルネルの懸命の追走は届かず、リードを守ったイーホルムが7秒差で逃げ切った。

独走でフィニッシュするヤコブ・イーホルム(デンマーク)独走でフィニッシュするヤコブ・イーホルム(デンマーク) photo:Kei Tsujiフィニッシュ後、チームスタッフやチームメイトに祝福されながらも、どこか状況を飲み込めない表情のまま表彰台に向かったイーホルム。「チームメイトのスプリンターをサポートする役目で出場したので、この勝利はまったく予想していなかった」と打ち明ける。

チームメイトと喜ぶヤコブ・イーホルム(デンマーク)チームメイトと喜ぶヤコブ・イーホルム(デンマーク) photo:Kei Tsuji「残り10kmを切ったところでチームメイトのユリウスと先頭に出ると後続と距離が開いたので、そのまま踏んで行った。残念ながらユリウスは千切れたけど、失うものは何もなかったので逃げ続けた。逃げ切りが決まったことは信じられない。来シーズンからのU23カテゴリーが楽しみだ」と、アルカンシェルと金メダルを受け取ったイーホルムは語る。2位と3位には集団スプリントで競り合ったニクラス・マルクル(ドイツ)とレト・ミュラー(スイス)が入っている。

逃げに先行を許したメイン集団は1分45秒遅れでフィニッシュ。最終スプリントに挑んだ蠣崎の42位が日本勢の最高位となった。

「ボトルの受け取りを分担するなど残された3人で連携して動いていましたが、決定的な動きには乗れなかった」と、ジュニア1年目の蠣崎は語る。沢田と渡邉とともに来シーズンU23に昇格する重満は「中盤までは日本にとって有利な展開だった。今の日本のジュニアにとって今回のコースは上位を狙えるチャンスだっただけに、期待に応えることができずに悔しい」と目を赤らめる。

渡邉は「水を取る動きで手一杯だった」と、チャンスを逃した現実を受け入れられない表情を浮かべた。渡邉の言葉を借りると日本チームは「惨敗」。カタールの太陽の下で経験した若者たちの苦しい敗北が日本の未来につながる前向きなステップになることを願いたい。



42位でフィニッシュした蠣崎優仁(伊豆総合高校)42位でフィニッシュした蠣崎優仁(伊豆総合高校) photo:Kei Tsujiハンドルに沈み込む渡邉歩(EQADS)ハンドルに沈み込む渡邉歩(EQADS) photo:Kei Tsuji
レースを振り返る蠣崎優仁(伊豆総合高校)、渡邉歩(EQADS)、重満丈(北中城高校)レースを振り返る蠣崎優仁(伊豆総合高校)、渡邉歩(EQADS)、重満丈(北中城高校) photo:Kei Tsuji
2位ニクラス・マルクル(ドイツ)、1位ヤコブ・イーホルム(デンマーク)、3位レト・ミュラー(スイス)2位ニクラス・マルクル(ドイツ)、1位ヤコブ・イーホルム(デンマーク)、3位レト・ミュラー(スイス) photo:Kei Tsuji


ロード世界選手権2016ジュニア男子ロードレース
1位 ヤコブ・イーホルム(デンマーク)       2h58’19” (Ave 45.526km/h)
2位 ニクラス・マルクル(ドイツ)           +07”
3位 レト・ミュラー(スイス)
4位 ルーカ・モッツァート(イタリア)
5位 ジガ・ホルヴァト(スロベニア)
6位 ジガ・ジェルマン(スロベニア)
7位 イデ・シェリング(オランダ)
8位 ヤカ・プリモジッチ(スロベニア)
9位 セドリク・ウレヴォ(ノルウェー)
10位 ハリー・スウィーニー(オーストラリア)
42位 蠣崎優仁(伊豆総合高校)           +1’45”
60位 渡邉歩(EQADS)
62位 重満丈(北中城高校)
DNF 沢田桂太郎(日本大学)

text&photo:Kei Tsuji in Doha, Qatar

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