ステージ、山岳賞、ポイント賞、総合成績と様々な思惑が絡む激しい展開となったブエルタ最終山岳決戦。超級山頂フィニッシュをピエール・ラトゥールが制し、クリス・フルームをマークし続けたナイロ・キンタナが総合優勝に王手を掛けた。



モビスターの牽きで山岳を行くメイン集団モビスターの牽きで山岳を行くメイン集団 photo:TDWsport/Kei Tsuji


ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第20ステージブエルタ・ア・エスパーニャ2016第20ステージ image:Unipublic最初の1級山岳を前に飛び出したイェーレ・ワレイス(ベルギー、ロット・ソウダル)とシルヴァン・ディリエル(スイス、BMCレーシング)最初の1級山岳を前に飛び出したイェーレ・ワレイス(ベルギー、ロット・ソウダル)とシルヴァン・ディリエル(スイス、BMCレーシング) photo:TDWsport/Kei Tsuji積極的に逃げに加わり、敢闘賞を獲得したルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)積極的に逃げに加わり、敢闘賞を獲得したルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ) photo:TDWsport/Kei Tsujiアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がメイン集団のペースを整えるアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)がメイン集団のペースを整える photo:TDWsport/Kei Tsuji3週間に渡って繰り広げられてきたブエルタ・ア・エスパーニャもいよいよこの日が最終決戦。2011年大会の開幕地ベニドルムをスタートする193.2kmコースにはカテゴリー山岳が5つ詰め込まれており、序盤から平均勾配5〜6%の2級山岳が断続的に4つクリアした後、最後には標高差1300m、距離21kmという超級山岳アイタナ峠へ。この日はステージ優勝、山岳賞、そしてマイヨロホを掛けた3つの戦いが同時進行で進む、いつにも増して激しい展開が待ち受けていた。

逃げグループから飛び出すケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)逃げグループから飛び出すケニー・エリッソンド(フランス、FDJ) photo:TDWsport/Kei Tsuji攻めの走りで1つ目のKOMを狙うケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)だったが、後に失速攻めの走りで1つ目のKOMを狙うケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)だったが、後に失速 photo:TDWsport/Kei Tsujiステージ2勝目を目指したロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)が追走グループを牽引ステージ2勝目を目指したロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)が追走グループを牽引 photo:TDWsport/Kei Tsujiニュートラル走行からリアルスタートが切られると、まずはローラン・ディディエ(ルクセンブルク、トレック・セガフレード)が真っ先にアタック。これを皮切りに、アタックに次ぐアタックの応酬が口火を切り、活発に動く過程で最初の2級山岳コル・ド・レート(距離13km、平均勾配3%)へと入っていく。

すると山岳賞で3ポイント差の2位に付けるオマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)がKOMを狙って先行したが、同首位ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)もぴったりとマークを怠らない。この2名を含む20名以上の選手が逃げる中、ハイスピードの登りで頂上まで距離を残してエリッソンドが単独アタックを敢行する。フルスロットルで逃げたエリッソンドだったが頂上を待たずに失速を喫し、逆に頂上付近でフライレにパスされてしまう。悠々とフライレが5ポイントを獲得し首位に躍り出る一方、完全に勢いを失ったエリッソンドはメイン集団にまで落ちてしまった。

メイン集団ではこの下りでチームスカイがアタックを仕掛け、一時的にクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)やマイヨロホのナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)、エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)らが抜け出たが、ティンコフ率いるメイン集団によって引き戻される。この動きで逃げグループとの差が縮まり、50kmを消化してレースは再び降り出しに戻った。

ルイス・マインティーズ(南アフリカ)のアタックを引き金にルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)やロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)ら強力な7名が逃げ、時間を置いてダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング)を中心とした8名が追走の後に合流する。

すると更にメイン集団からはレオポルド・ケーニッヒ(チェコ、チームスカイ)がアタックし、再びエリッソンドとフライレも動く。しかしメカトラでフライレは逃げるチャンスを失い、エリッソンドのみが山岳ポイント獲得のチャンスを得た。この時点でのポイントはフライレ58pts、エリッソンド56pts。エリッソンドは逃げグループに追いついたものの、力を使ってしまったことで2つめの2級山岳ではグループ内に埋もれポイント獲得ならず。

KOMを先頭通過したルディ・モラール(フランス、コフィディス)とルイスレオン・サンチェスを残してその他のメンバーは再びメイン集団に吸収され、状況は先頭2名、モビスターが率いるメイン集団という構図になった。

落ち着くかと思えたレース展開だったが、ヴァレリオ・コンティ(イタリア、ランプレ・メリダ)らが再びアタックを仕掛けて追走グループを形作る。ポイント賞首位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)も追走グループに加わるなどしたが吸収され、アタックを仕掛け続けるヘーシンクらを中心とした新たなる15名の追走が前を追った。

ペースを落とそうとしたメイン集団からはエリッソンドが単独で抜け出し、およそ2分前の追走グループを目指していく。3つめの2級山岳頂上までには間に合わなかったものの、この下りでキャッチに成功。次なる山岳ポイントを狙うべく息を整えていく。

このダウンヒルでは追走に加わっていたスペインチャンピオンのホセホアキン・ロハスが落車し、ガードレールの下に滑り込むように激しく叩き付けられた。幸い命に別条はなかったものの、脛骨と腓骨の開放骨折という重傷を負ってレースからリタイア。アルコイの病院へと緊急搬送されている。



後に逃げに入り、落車リタイアしてしまったホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)がメイン集団を牽引後に逃げに入り、落車リタイアしてしまったホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター)がメイン集団を牽引 photo:TDWsport/Kei Tsuji
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)とエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が総合ジャンプアップを目指して先行するダミアン・ホーゾン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)とエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)が総合ジャンプアップを目指して先行する photo:Bettiniチャベスの先行を許したアルベルト・コンタドールが自らメイン集団を牽引していくチャベスの先行を許したアルベルト・コンタドールが自らメイン集団を牽引していく photo:Bettini

21kmにも及ぶ登坂が続く超級山岳アイタナ峠21kmにも及ぶ登坂が続く超級山岳アイタナ峠 photo:TDWsport/Kei Tsuji


単独でコンタドールとの総合タイム差逆転を狙って走るエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)単独でコンタドールとの総合タイム差逆転を狙って走るエステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ) photo:TDWsport/Kei Tsujiクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がアタックするが、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)は離れないクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がアタックするが、ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)は離れない photo:TDWsport/Kei Tsujiスプリントで頂上ゴールを制したピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)スプリントで頂上ゴールを制したピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:TDWsport/Kei Tsujiナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がともに頂上を目指すナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)とクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)がともに頂上を目指す photo:TDWsport/Kei Tsuji4つめの2級山岳を前に、レース状況は先頭2名(LLサンチェスとモラール)と追走グループ、そしてメイン集団という構図に。モビスターはメイン集団のペースを落としたが、タイム差の拡大を嫌うオリカ・バイクエクスチェンジが率いて10分差までに抑え込んだ。

KOM付近では追走グループ内でクレメン・シェヴリエ(フランス、IAMサイクリング)と観客が衝突した落車が起こったものの、シェヴリエは大事無く復帰。エリッソンドが追走グループの先頭(全体の3位)でKOMを通過し、フライレに1ポイント差まで迫った。

10分差で追いかけるメイン集団でも、この2級山岳で早くも動きが出る。アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)の総合3位を狙うチャベスが単独アタックして逃げ、前待ちしていたダミアン・ホーゾン(オーストラリア、オリカ・バイクエクスチェンジ)を目指して先を急いだ。総合3位を脅かされたコンタドールだったがしかし、この時点でメイン集団内にアシストの姿は無し。自ら集団を率いてタイム差の拡大を防ぐべくチャベスを追走していく。

KOMではチームスカイが下りアタックを仕掛けたが不発に終わり、ペースが緩んだことでチャベス&ホーゾンとの間隔は1分程度にまで開いていく。事態を重く見たティンコフは追走グループに入っていたユーリ・トロフィモフ(ロシア)を下げて牽引させたが、思ったように差は詰まらなかった。

超級山岳アイタナ峠の中盤では、先頭LLサンチェスが独走を開始。7%前後の勾配を刻む中で追走にもシャッフルが掛かり、アタプマとピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)、マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)が加速して遂にLLサンチェスをキャッチ。何としても山岳ポイントを加算したいエリッソンドだったが力を使い果たし脱落。これでフライレが1ポイント差で総合山岳賞獲得が現実のものとなった。

アタプマ、ラトゥール、フランクの3名に絞り込まれ、残り3kmからアタプマが攻撃を仕掛けていく。フランクが脱落し、苦しい表情を見せつつもラトゥールは食い下がり、反対にアタック。死力を搾り尽くすようなアタックの応酬が続いたままゴール前に辿り着き、最後はアタプマが諦めラトゥールのステージ優勝が決まった。

ツール・ド・ロマンディでの新人賞獲得など、クライマーとして頭角を現している23歳のラトゥールにとっては初のビッグレース勝利であり、今大会を最後に引退するジャンクリストフ・ペローに(フランス)との世代交代を周知してみせる結果に。追い上げたファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)はステージ3位に入り、これまで長くバルベルデが着用していたポイント賞ジャージを奪ってみせた。



クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)をゴール前で引き離すナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)をゴール前で引き離すナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:TDWsport/Kei Tsuji


勝利を祝うピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)勝利を祝うピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:TDWsport/Kei Tsuji総合優勝に王手をかけたナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)総合優勝に王手をかけたナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) photo:TDWsport/Kei Tsujiその後ろ、単独となってもチャベスの勢いは止まらず、1分以上の差をキープしたままアイタナ峠最終盤を登り続ける。コンタドールのペースは上がらず、実質的に総合3位からの転落は確実なものとなっていく。フルームのアタックには余裕を持ってキンタナがマークし、他メンバーを全員千切って2名が抜け出した。

最後までフルームは踏み続けたが、ゴール手前では力を見せつけるようにキンタナがスプリント。チャベスがゴールした40秒後にフィニッシュラインを割り、第71回ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝の座を確定的なものにしてみせた。

全開で登ってきたコンタドールは一時大きく開いたチャベスとの差を詰める形でゴールしたが、結果的に13秒届かずに逆転を許してしまい、悔しい総合4位へと降格。ブエルタ最終決戦は結果的にキンタナとチャベスの総合ワン・スリー獲得とコロンビア勢が大活躍した1日となった。

各選手のコメントは追って掲載します。



ブエルタ・ア・エスパーニャ2016第20ステージ結果
1位 ピエール・ラトゥール(フランス、AG2Rラモンディアール)
2位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、BMCレーシング)
3位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
4位 マティアス・フランク(スイス、IAMサイクリング)
5位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)
6位 バルト・デクレルク(ベルギー、ロット・ソウダル)
7位 ルディ・モラール(フランス、コフィディス)
8位 リリアン・カルメジャーヌ(フランス、ディレクトエネルジー)
9位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
10位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
5h19’41”
+02”
+17”
+40”
+1’03”
+1’28”
+2’02”
+3’01”
+3’17”
+4’03”


マイヨロホ(個人総合成績)
1位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
3位 エステバン・チャベス(コロンビア、オリカ・バイクエクスチェンジ)
4位 アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)
5位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)
6位 サイモン・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)
7位 ダヴィド・デラクルス(スペイン、エティックス・クイックステップ)
8位 ダニエル・モレーノ(スペイン、モビスター)
9位 ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、キャノンデール・ドラパック)
10位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ロットNLユンボ)
80h42’36”
+1’23”
+4’08”
+4’21”
+7’43”
+8’33”
+11’18”
+13’04”
+13’17”
+14’07”


マイヨプントス(ポイント賞)
1位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
2位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター) 
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
100pts
97pts
93pts


マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 オマール・フライレ(スペイン、ディメンションデータ)
2位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)
3位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ロットNLユンボ)
58pts
57pts
37pts


マイヨコンビナーダ(複合賞)
1位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)
3位 ケニー・エリッソンド(フランス、FDJ)
8pts
17pts
33pts


チーム総合成績
1位 BMCレーシング
2位 モビスター
3位 キャノンデール・ドラパック
241h21’47”
+4’43”
+22’44”


敢闘賞
ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)

text:So.Isobe