8月31日〜9月4日にかけてドイツで開催された世界最大の自転車ショー「ユーロバイク」。次期新製品が明らかになると同時にバイク界の潮流がつかめる展示会でホットなニューモデルを探した。まずは今年のトレンドを見てゆこう。



フリードリヒスハーフェンのメッセで開催された2016ユーロバイクショーフリードリヒスハーフェンのメッセで開催された2016ユーロバイクショー 世界各国からディーラーやディストリビューターが集う世界各国からディーラーやディストリビューターが集う

BMCからリオ五輪ロードチャンプのグレッグ・ファンアフェルマートにゴールドバイクが贈られたBMCからリオ五輪ロードチャンプのグレッグ・ファンアフェルマートにゴールドバイクが贈られた photo:Makoto.AYANOブース入り口の踊り場に飾られたアワード受賞バイクの数々ブース入り口の踊り場に飾られたアワード受賞バイクの数々


今年で25周年を迎えるユーロバイクショーは、ドイツのフリードリヒスハーフェンのメッセで開催された。ユーロバイクとは世界各国の自転車関連メーカーが集結する世界最大の商業見本市であり、今年は48カ国から1,350もの参加企業が集いブースにて展示を展開した。

ユーロバイクは世界の主たるバイクブランドはもとより、パーツやアパレル、OEMに関係する企業までが一同に集うビジネスショーである。会期は3日間のビジネスショーと2日間のユーザーショーの2期に分けて開催され、ビジネスショーでは世界中から42,720人が来場し、商談を行った(2015年は45,870人)。自転車関係のメディアも1,700人以上が集まる。週末2日間の一般開放日「フェスティバルデイ」には約34,400人が来場 (2015年は20,730人)。一般の来場者数については2日間となったことで過去最高となったようだ。

ドイツのストークはアストンマーチンとコラボしたロードバイクを展示ドイツのストークはアストンマーチンとコラボしたロードバイクを展示 photo:Makoto.AYANOKTMのエアロロード系のコンセプトバイクを展示KTMのエアロロード系のコンセプトバイクを展示 photo:Makoto.AYANO


■スポーツタイプの電動アシスト自転車 ”E-Bike”が各社のハイエンドモデルに

ショー全体を通して見れば今年のトレンドをうかがい知ることができる。取材にあたった記者として印象に残った今年の流行や傾向をいくつか紹介しよう。

スコットはE-Bikeに多くのラインアップを打ち出していたスコットはE-Bikeに多くのラインアップを打ち出していた photo:Makoto.AYANO
まず目を引いたのは欧州ならではの本格的なスポーツタイプの「E-Bike」の驚くべき充実度だ。モーターを備えた本格スポーツタイプの電動アシストサイクルは、日本では速度規制もあって輸入も販売もされていないのが現状。しかしスコットやメリダ、ジャイアントなどMTB系のトップブランドはいずれもハイエンド系のスポーツタイプE-Bike(E-MTBと言うべきか)をブースの特別な位置に飾り、その技術力を競い合うようにアピールしていた。もはやこれに眼をつぶることはできない。

筆者はスイスやフランスなどアルプス周辺のMTBライド事情について軽く知る程度だが、最近はE-MTBが普通に山中のシングルトラックを走り回る姿が目立つようになってきた。フリーライドにおいて「下るために登る」つまり”ペダルアップ”は体力が要求されるもの。しかし体力の衰えた中高年層にとってE-Bikeは福音だ。

ジャイアントのE-BikeジャイアントのE-Bike photo:Makoto.AYANOキャノンデールのE-Bike ”MOTERRA”キャノンデールのE-Bike ”MOTERRA” photo:Makoto.AYANO

メリダのE-Bike。トランスミッションにシマノデオーレXT Di2を装備メリダのE-Bike。トランスミッションにシマノデオーレXT Di2を装備 photo:Makoto.AYANO
シマノのE-Bikeシステム「STePS」&デオーレXT Di2を搭載したメリダのE-BikeシマノのE-Bikeシステム「STePS」&デオーレXT Di2を搭載したメリダのE-Bike photo:Makoto.AYANOE-Bikeの心臓部として最強のBosch(ボッシュ)E-Bikeの心臓部として最強のBosch(ボッシュ) photo:Makoto.AYANO


ゴンドラで登れるゲレンデ以外でもマウンテンバイキングが楽しめるE-MTBは、アメリカ、ヨーロッパで市民権を得つつある。速度規制の緩いアメリカではスピードの出るタイプが販売可能。ヨーロッパでもアシストスピードの25km/h以下制限はあるものの、規制緩和へ向けた動きもあるといい、それを睨んでの開発が先行している。それらが日本に入ってこないのは、もはや機会の損失とも言える状況だ。体力面の不足をカバーしつつ、本格的なライディングが楽しめるスポーツE-Bikeには新たなマーケットを拓くポテンシャルが大いに秘められている。あるいは、一度去った人を呼び戻す力さえあるように思える。

■グラベルへと向かうオフロード志向

日本人には意外に感じられるかもしれないが、ヨーロッパではロードバイクよりマウンテンバイクのほうがずっとマーケットが大きいということ。ユーロバイクショーでもっとも元気なのはMTBだ。27.5+やファットというタイヤの大径化は2015年より始まった流行だが、今年もその流れは続いている。タイヤやリムのバリエーションも各社から出揃った感がある。

エアロ形状のグラベルロードとして話題の3Tエクスプローロエアロ形状のグラベルロードとして話題の3Tエクスプローロ photo:Makoto.AYANOリーフスプリング式サスを搭載したリドレーのグラベルロードリーフスプリング式サスを搭載したリドレーのグラベルロード photo:Makoto.AYANO

バイクパッキング仕様のサルサのグラベル系29インチバイクはロードそれともMTB?バイクパッキング仕様のサルサのグラベル系29インチバイクはロードそれともMTB? photo:Makoto.AYANO
そしてロードにおいてもグラベルロードの流行は加速し、ユーロバイク全体でオフロード系プロダクツの元気の良さが目立った。WTBなどに代表されるような今まで目立たなかったリムやタイヤのブランドがファット化を含めたタイヤサイズのますますのマルチ化とバリエーション豊かなラインナップを揃え、勢力を増しているのも面白い流れだ。

■デオーレXT Di2がMTBの電動化を促進? それとも1✕12スピードが優位?

コンポに関してはシマノがミドルグレードコンポのディオーレXTのDi2モデルを発表し、電動シフト化を一層推し進めるのに対し、スラムはリア12スピードスプロケットのEAGLE(イーグル)シリーズを発表し、一躍脚光を浴びていた。

シマノデオーレXT Di2の変速表示シマノデオーレXT Di2の変速表示 photo:Makoto.AYANOお披露目されたシマノデオーレXT Di2リアディレイラーお披露目されたシマノデオーレXT Di2リアディレイラー photo:Makoto.AYANO


■1✕12スピードシステム

ゴールドテイストのスラムEAGLE XX1コンポーネントゴールドテイストのスラムEAGLE XX1コンポーネント photo:Makoto.AYANO
スラムEAGLEの1✕12スピードシステムは、フロントシングルにリアスプロケット歯数が10〜50Tという、ギアレシオ500%を誇る駆動系が特徴だ。見た目に巨大でもの凄いインパクトがある50Tスプロケットは、クライミングでの十分な登攀力を備えつつ、フロントディレイラーとインナーギアが不要となることでパーツの小点数化とメカトラブルの低減を両立している。ちなみにイーグルのスプロケットの価格は日本円なら6万円以上だが、部品点数が減ることでコンポの総価格と重量はフロントW仕様と同等か、より軽量・低価格に抑えられる。

スラムEAGLEの12段スプロケットは10〜50T!スラムEAGLEの12段スプロケットは10〜50T! photo:Makoto.AYANO野趣凝らしたバイクパッキングギアの展示野趣凝らしたバイクパッキングギアの展示 photo:Makoto.AYANO


キャリアを用いずに荷物を積んで旅するバイクパッキングの流行も続いている。お膝元ドイツの防水バッグの元祖的存在のオルトリーブ等もバイクパッキング用バッグのフルセットを発表。ブラックバーンなど先行したブランドに加わり、競争も激化している。さらにタイヤ、リム、キャリア類はグラベルロード系ともクロスオーバーし、ますますアウトドアフィールドを舞台としたバイクツーリングの楽しみの選択肢が広がっているようだ。

バイクパッキングフル装備のオープンサイクルのグラベルロードバイクパッキングフル装備のオープンサイクルのグラベルロード photo:Makoto.AYANO多くの魅力的なグラベル系タイヤを用意したWTBのブース多くの魅力的なグラベル系タイヤを用意したWTBのブース photo:Makoto.AYANO

47mm幅を持つ27.5+規格のグラベルロード用タイヤ HORIZON4747mm幅を持つ27.5+規格のグラベルロード用タイヤ HORIZON47 photo:Makoto.AYANOENVEのファット系カーボンリム。多くのブランドの参入により重量デメリットが無くなりつつあるENVEのファット系カーボンリム。多くのブランドの参入により重量デメリットが無くなりつつある photo:Makoto.AYANO


■電動シフト&ハイドローリックブレーキ

伝統的な純ロードバイクに関しては劇的な変化を感じるプロダクツは少なかったものの、ディスクロードの充実と各コンポメーカーの競争の激化を感じる。注目のハイドローリック(油圧)ディスクブレーキと電動シフティングシステムの融合に注目だ。

ホアキン・ロドリゲスとカチューシャモデルのキャニオンのバイクホアキン・ロドリゲスとカチューシャモデルのキャニオンのバイク photo:Makoto.AYANOスマートな仕上がりのスラムRED eTapハイドローリックレバースマートな仕上がりのスラムRED eTapハイドローリックレバー photo:Makoto.AYANO

モビスターモデルのキャニオンに搭載されたカンパニョーロのEPS&ハイドローリックレバーモビスターモデルのキャニオンに搭載されたカンパニョーロのEPS&ハイドローリックレバー photo:Makoto.AYANOFSAのハーフワイヤレス電動変速システムもほぼ製品バージョンが展示されていたFSAのハーフワイヤレス電動変速システムもほぼ製品バージョンが展示されていた photo:Makoto.AYANO


シマノ、スラム、カンパのコンポ御三家の争いでは、シマノは7月に新型デュラエースを発表するも、油圧式Di2レバーとブレーキ本体についてはモックアップのプロトを用意するに留まる。販売は年明け1〜2月という話だ。スラムはRED eTapと油圧レバーを同一化した完成度の高いプロトを展示。カンパニョーロのEPS&油圧シフトはプロトとしてはもっとも完成度の高い状態で、モビスターとカチューシャの乗るキャニオン、ロット・ソウダルの乗るリドレーに組み込んだ状態で各ブースに展示されていた。実際にレバーを引いても作動は非常にスムーズ。カンパの広報担当社は「発表はまもなく」と答えた。

■パーツ&アクセサリーは各ジャンルで進化を続ける

バイク本体やコンポ以外でもホイールやパーツ、シューズやヘルメット、アパレルの進化など、細かく見ていけば各プロダクツの進化は大きく、決して退屈なものではない。

SRMは独自のクランクを用意。ハイエンドはカーボンクランクだSRMは独自のクランクを用意。ハイエンドはカーボンクランクだ photo:Makoto.AYANOガーミンはEdge820を発表。さっそくユーロバイクアワードを受賞したガーミンはEdge820を発表。さっそくユーロバイクアワードを受賞した photo:Makoto.AYANO
コルナゴのエアロロードがデビュー。熱い注目を浴びていたコルナゴのエアロロードがデビュー。熱い注目を浴びていた photo:Makoto.AYANOステージスはパワーメーターに対応するモニターを発表ステージスはパワーメーターに対応するモニターを発表 photo:Makoto.AYANO


フィジークは身体の柔軟性や屈曲率に合わせた「スパインコンセプト」を採用したビブショーツを発表。ブル、カメレオン、スネークの3つのタイプで設計されたビブショーツは身体へのフィッティングを追求した結果だ。素材も斬新で、大きな注目を集めた。他にもアパレル系の素材の進化はめざましい。

フィジークはスパインコンセプトのビブショーツを発表したフィジークはスパインコンセプトのビブショーツを発表した photo:Makoto.AYANO
ホイールなど足回りはディスクブレーキに対応するモデルの充実がある。また、ロードもリムはワイドリム化に向かっているが、こちらはエアロダイナミクスを追求してのもの。25mmタイヤを基準とした規格の製品が主流になっいる。

ライトウェイトもディスク対応のホイールをタイプ別に取り揃えたライトウェイトもディスク対応のホイールをタイプ別に取り揃えた photo:Makoto.AYANOライトウェイトのディスクブレーキ対応ホイールのハブライトウェイトのディスクブレーキ対応ホイールのハブ photo:Makoto.AYANO

ZIPPはディスクブレーキ対応ディスクホイールをラインアップに追加ZIPPはディスクブレーキ対応ディスクホイールをラインアップに追加 photo:Makoto.AYANOZIPPのディープリムに施されたブレーキ面の特殊処理ZIPPのディープリムに施されたブレーキ面の特殊処理 photo:Makoto.AYANO


■ヘルメットは安全性向上への回帰

ヘルメットに関してはハイエンドモデルにMIPSテクノロジーを採用する動きが広まっている。 MIPSとは、回転衝撃から頭部への衝撃を減少させるスリップ・プレーン(滑り面)システムのこと。ヘルメット内部に配置された1枚のシートが頭の動きに応じて動くことにより、衝撃から伝達されるエネルギーのスピードを緩める働きをする。地面にヘルメットから落ちた時、頭部へのダメージを軽減してくれる。

MIPSをハイエンド系ヘルメットに採用するメーカーが多かったMIPSをハイエンド系ヘルメットに採用するメーカーが多かった photo:Makoto.AYANOMIPS搭載を前提に設計されたBELL ZephyrヘルメットMIPS搭載を前提に設計されたBELL Zephyrヘルメット photo:Makoto.AYANO

ジロは紐とベルクロ、BoAダイアルを併用するファクトレス・テックレースを発表ジロは紐とベルクロ、BoAダイアルを併用するファクトレス・テックレースを発表 photo:Makoto.AYANO150g(実測136g!?)まさにペーパーウェイトのジロのレーシングシューズ「プロライト・テックレース」 150g(実測136g!?)まさにペーパーウェイトのジロのレーシングシューズ「プロライト・テックレース」  photo:Makoto.AYANO


BELLはMIPSを組み込んだ状態で新設計した最高峰のレーシングヘルメット Zephyr(ゼファー)を発表。近年は軽量性や通気性、デザインが重視されてきたロードヘルメットだが、まず安全性を重視したという、基本に立ち返ったうえでの性能をアピールした。

2日間開催の試乗メインの一般開放デー「Festival Days」

メッセ内の試乗コースもオフロードが用意されたメッセ内の試乗コースもオフロードが用意された photo:Makoto.AYANOメッセから外へ出る10kmの試乗コースは本格的オフロードメッセから外へ出る10kmの試乗コースは本格的オフロード photo:Makoto.AYANO


今年のユーロバイク初の試みとなったのは試乗機会の充実だ。Festival Days(フェスティバル・デイズ)と名付けられた一般開放デーは、会期の週末2日間に設けられた。今まではDEMO DAY(デモデイ)としてビジネスデイの前に、地理的にも離れた会場での開催だったが、Festival Daysは土日の2日間に拡大され、メッセ内拠点での開催で、より一般ユーザーが気軽に、十分に楽しめる試乗となった。

その規模は驚くほどで、約3000台の試乗車が用意され、10km以上のコースで試せた。MTBやE-Bike、グラベルバイクにはメッセ周辺に本格的なオフロードも用意された。試乗に関しては日本のサイクルモードが試乗メインのイベントとして展開しているが、奇しくもユーロバイクもユーザーによる試乗を重視する方向に進んでいるようだ。

サイン会に姿を現したアンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)サイン会に姿を現したアンドレ・グライペル(ロット・ソウダル) photo:Makoto.AYANO注目を集めたエアロ系ロード ルック795注目を集めたエアロ系ロード ルック795 photo:Makoto.AYANO

デビューしたシマノ新型デュラエースを触って確かめる機会となったデビューしたシマノ新型デュラエースを触って確かめる機会となった photo:Makoto.AYANO会場を闊歩するセクシー系バイクポリス(グローブのCHIBAのキャンペーンガール)会場を闊歩するセクシー系バイクポリス(グローブのCHIBAのキャンペーンガール) photo:Makoto.AYANO


その規模はビジネスショーをそのまま引き継ぐため甚大だった。メッセ内にも参加型イベントが目白押し。パフォーマンス、イノベーション、アカデミー、デモ、キッズ、ウーマン、バイクキッチン、トラベルなど11のエリアが用意され、セミナーなども多く開催されたのはさすが自転車が生活に根付き、スポーツとして盛んなヨーロッパだと感じさせるものだった。

本記事以降は例年のように、ユーロバイクの各ブースで印象に残ったプロダクツをブランドごとにピックアップしてお伝えして行きます。

photo&text:Makoto.AYANO