アン県だけを通った第15ステージ。アップダウンがひっきりなしに続く山岳で、アンドラで雨傘をさして走った陽気なコロンビア人パンタノが勝利。チームスカイは今日も盤石の体制でレースをコントロール下においた。



スタート前にローラー台でウォームアップするロットNLユンボの選手たちスタート前にローラー台でウォームアップするロットNLユンボの選手たち photo:Makoto.AYANOスタート前にウォームアップするティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)スタート前にウォームアップするティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) photo:Makoto.AYANO


1級山岳コル・デュ・ベルティアン、2級と3級2つの中級山岳を経て超級山岳グランコロンビエに、そして一度フィニッシュのキュロズに下り、再びグランコロンビエの途中までの1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエまで登り、下ってのフィニッシュ。グランコロンビエ・ダブルがハイライトだが、フィニッシュ手前に7km平坦路があるためステージ優勝を狙う選手にとっては最後の峠で逃げてもなお独走力が問われ、総合争いの選手たちにとっては差がつけにくい。

チームスカイはこの日は他のチームのようにウォームアップはぜずリラックスモード。もはや余裕さえ感じられる。この日フルームのバイクにセットされたのは、フロントに40mmハイトのリムを採用した新型デュラエースのホイール。この新プロダクトを使用しているのは全選手でフルームだけ。後輪は50mmハイトの現行の同デュラホイールだった。山岳なのに前後エアロホイールの組み合わせ?

クリス・フルーム(チームスカイ)に用意されたピナレロ・ドグマX-light。シマノの新型デュラエースホイールを前輪に使用するクリス・フルーム(チームスカイ)に用意されたピナレロ・ドグマX-light。シマノの新型デュラエースホイールを前輪に使用する photo:Makoto.AYANO
新しい前輪はリムが幅広になり空力特性が向上している。後輪の50は言うまでもなくエアロホイールだ。フルームは通常、勝負どころの山岳ステージでリム高28mmの軽量ホイールを使う。登りでアタックする際には軽量ホイールの軽さを活かしてハイケイデンスで加速し、差をつける。しかし今回は巡航性能を重視。そのチョイスからアタックしないことが伺える。当然重いホイールは登りで不利。つまりそれだけ脚にも余裕があるということなのだろう。

フルームは十分に厳しいこのステージで激しい闘いが起こることを予言していたが、同時に最後のフラットがあるために「勝負するのは今日じゃない」とも話していた。もっとも意外なところで仕掛ける自身の攻撃を前に誰もその言葉をそのまま受け入れられないが。

過去のツールチャンピオン、ロジェ・パンジェオン氏の出身地をツール・ド・フランスが通る過去のツールチャンピオン、ロジェ・パンジェオン氏の出身地をツール・ド・フランスが通る photo:Makoto.AYANO村の人が総出で黄色いシャツを来て沿道で応援する村の人が総出で黄色いシャツを来て沿道で応援する photo:Makoto.AYANO


この日のレースはアン県のみで開催。この美しい県の魅力をアピールする黄色い小旗が沿道の観客に配られ、観戦風景を賑やかに彩った。通過する村には過去のツールで勝利した選手の出身地もあり、そのお祭り騒ぎはこの2日間ニースのテロへの追悼で静けさを保っていたツールが再び活気を取り戻したように感じられた。

ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)がイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)を率いてダウンヒルラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)がイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)を率いてダウンヒル photo:Makoto.AYANO
山岳ポイント争いをすると思われたマイヨアポアのトーマス・デヘント(ロット・ソウダル)は最初の峠で予想通りの早めのアタックに出るも、早々に力を弱めてしまった。体調不良? ここまでは逃げが得意なルーラー脚質でも対応できた。しかしここからは真のクライマーの領域へ。コースに採用された道路はほぼ農道レベルの小道が多く、登りと同時に下りのテクニックも問われる日になった。

バカンス、さらに日曜日ということで田舎にもかかわらず連なる峠には多くの観客たちが押し寄せた。ただし峠では選手の邪魔をしないように観戦マナーに気を配るシーンが多く見られた。路上に溢れる観客たち。しかしいつもより選手と人垣の距離を多めにとって。モンヴァントゥーの一件を繰り返さないように。

チームスカイが集団の前方に固まりハイスピードでダウンヒルを下るチームスカイが集団の前方に固まりハイスピードでダウンヒルを下る photo:Makoto.AYANOハイスピードなダウンヒルをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ)ハイスピードなダウンヒルをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:Makoto.AYANO

大観衆を縫うように超級山岳グランコロンビエ峠を登る選手たち大観衆を縫うように超級山岳グランコロンビエ峠を登る選手たち photo:Makoto.AYANO
ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)のファンが峠に詰めかけたワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)のファンが峠に詰めかけた photo:Makoto.AYANOグランコロンビエ峠に登場した悪魔おじさんのニセモノ(似てない)グランコロンビエ峠に登場した悪魔おじさんのニセモノ(似てない) photo:Makoto.AYANO


ラファル・マイカ(ティンコフ)は160kmレースの最初の峠でアタックし、最後まで逃げ切った。ステージ通算4勝目のチャンスを逃したものの、この日だけで山岳ポイントを50ポイント荒稼ぎし、127ポイントでデヘントを突き放すことに成功。マイヨアポアと敢闘賞を獲得。大きな差がついたため2度めの山岳賞ジャージ獲得の可能性を大きく高めた。

超級山岳グランコロンビエ峠をラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)がイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)を率いて超級山岳グランコロンビエ峠をトップ通過する超級山岳グランコロンビエ峠をラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)がイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)を率いて超級山岳グランコロンビエ峠をトップ通過する photo:Makoto.AYANO
5月のジロでは総合5位となり、そのコンディションを保ってのツール入り。今ツールでは第5と第9ステージで3位になっている。4勝目が間近だったが、ラセ・ド・グラン・コロンビエールの下りでミスして芝生にコースアウト。落車は免れたもののパンタノに追いつかれることに。

下りが遅かった原因は他にもあった。4日前に落車して腕を痛め、その痛みのために下りでリスクを取るほど攻められなかったのだ。この日腕にはサポーターをして走っているマイカ。「4つ目の勝利は欲しかったけど、アルプスではまだ何度もチャンスが有る。またこのジャージを着れて嬉しい。これは最後までキープしたい」。

コンタドールが居なくなったティンコフにとってサガンのスプリント賞とマイカの山岳賞獲得はチームの大きな2つの目標。しかしマイカはステージ優勝にも意欲的だ。「2度めのジャージが余裕を持っている今、ステージを勝ちたい。マイヨアポアを着ているのは嬉しいけど、3位が2回と今回の2位。やはりステージも勝ちたい。まだツールは長いけど、このジャージが護れるといい。自分には強さを感じている」。

ラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登る集団。外界に美しい湖水風景が広がるラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登る集団。外界に美しい湖水風景が広がる photo:Makoto.AYANO
グランコロンビエ峠を4位通過するヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)グランコロンビエ峠を4位通過するヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:Makoto.AYANO
ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)はマイカに追いついたラセ・ド・グラン・コロンビエールのダウンヒルで87km/hを計時した。

ちなみに逃げたイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)はダウンヒルで遅れたが、その原因はクリテリウムドーフィネでの落車事故の心理的影響が残っていたのだろうと思われたが、レース後のプレス担当者の話では原因はコンタクトレンズを失ったことによるものだという。路面が良く見えずにスローダウンせざるを得なかったとのことだ。

ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)をスプリントで下したヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)をスプリントで下したヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:Makoto.AYANO
ラセ・ドゥ・グランコロンビエでラファル・マイカを追うセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)とヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ラセ・ドゥ・グランコロンビエでラファル・マイカを追うセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)とヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:Makoto.AYANOステージ表彰を受けるヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ステージ表彰を受けるヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:Makoto.AYANOツールで初のステージ優勝を挙げたパンタノは、数日前のアンドラ・アルカリスにフィニッシュするステージで、土砂降りの雨と雹のなか傘をさしてフィニッシュしたユニークな姿が話題になった選手だ。

コロンビア人に共通する人の良さを感じるパンタノだが、この日は最後のラセ・ド・グラン・コロンビエール峠のつづら折れを終えての緩斜面区間を、一緒に追走したセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)の後ろについて力をセーブし、峠の前で一気に追い抜くと得意のダウンヒルテクニックをフルに駆使してマイカに追いついた。6月のツール・ド・スイスで欧州プロとして初勝利を挙げた。その好調とスプリント力、そしてしたたかな計算高さも持ち合わせていたのだ。

パンタノの勝利はナイロ・キンタナ(モビスター)も祝福する。「逃げていた選手たちの走りには脱帽だ。コロンビアで良く一緒にトレーニングしていたヤルリンソンの勝利を嬉しく思う。コロンビアにとって良い1日になったよ」。

パンタノの出身地はコロンビア第三の都市サンティアゴ・デ・カリ。キンタナが勝ったラブニールで3位となり、キンタナと同時期にプロ入りのチャンスを掴み、IAMでワールドツアーで闘う機会を得た。

パンタノは言う。「昨年よりもずっといい年になっている。でももっとプロとして学ばなくてはいけないことがある。今年はこのレベルで走ることがどういうことかがわかってきているから、それが今日違いとして現れた。今まで頑張ってきたから勝てて嬉しい」。

今年で幕を引くスイスのチーム、IAMサイクリングへの感謝の言葉も忘れない。「このチームは来年はなくなる。でも人生と同じで始まりがあれば必ず終わりがある。とても悲しいけど、この勝利はチームが今まで僕にしてくれたことに対する最高の感謝の方法になる。このチームのおかげで僕はワールドツアーの選手になれたんだ」。

スイスでの勝利から、すでに来季の獲得を目指して各チームから申し出があるという。「嬉しいことにたくさんのオファーがある。でも次のチームについて話すことができる8月まで待たなきゃ」。

マイヨ・ジョーヌのクリス・フルーム(チームスカイ)を含む集団がグランコロンビエ峠を登るマイヨ・ジョーヌのクリス・フルーム(チームスカイ)を含む集団がグランコロンビエ峠を登る photo:Makoto.AYANO

最後のラセ・ドゥ・グランコロンビエではアスタナのペースアップとアレハンドロ・バルベルデ、ロメン・バルデのアタックなど、細かな攻撃があった。ティージェイ・ヴァンガードレンの脱落。しかしナイロ・キンタナのアタックは無く、コースプロフィールからの前評価どおり総合争いは大きな変化をもたらさなかった。

ラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠でアタックしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)ラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠でアタックしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:Makoto.AYANOクリス・フルーム(チームスカイ)ととバウク・モレマ(トレック・セガフレード) を含む集団がラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登るクリス・フルーム(チームスカイ)ととバウク・モレマ(トレック・セガフレード) を含む集団がラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登る photo:Makoto.AYANO

マイヨヴェールを着たアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)がラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登るマイヨヴェールを着たアダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)がラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠を登る photo:Makoto.AYANOラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠でマイヨ・ジョーヌ集団から遅れたティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)ラセ・ドゥ・グランコロンビエ峠でマイヨ・ジョーヌ集団から遅れたティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング) photo:Makoto.AYANO


3人もの選手を残したチームスカイ。チームの充実ぶりをフルームは話す。「チームスカイは史上最高のチームでツールに挑んでいる。他のチームに行けばエースになれる選手ばかりが揃っている。例えばワウト・ポエルスはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュの優勝者。彼のような選手にアシストされる自分は幸せ者だ。彼らがアシストとしてライバルたちのアタックを封じてくれる」。

アシストたちに護られて走るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)アシストたちに護られて走るクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.AYANOポエルスはアシストに徹した一日を振り返る。「もっとアタックがあると思っていたけれど、チーム十分な人数を残してレースをコントロールしきった。小さなアタックはいくつかあったが、ビッグなヤツは無かった。きっと彼らは来週に向けて脚を貯めているんだろう。思い出して欲しい。昨年の最終週はとても厳しく、キンタナはとても強かった。最後の勝負どころのラルプデュエズで。ここまでハードな日が続いているが、最後まで状況をコントロールしたい」。

ブレイルスフォードGMはモビスターの動きには疑問があると言う。ヨン・イサギーレとネルソン・オリヴェイラの2人を前に送り込みながら、キンタナとバルベルデを待つ気配を見せなかった。そしてキンタナも攻撃を仕掛けなかったことで「モビスターはチーム総合に向かっているのだろうか?」と。

「我々は日々を大切に走るだけ。レースをコントロールし続ける。今日もコントロールを失わなかった。クリスなら最後にアタックできたかもしれないが、ここでタイム差をつけるよりもチームメイトとともにとどまって安全に走ることを選んだ」。

翌16ステージはベルンでの石畳スプリント勝負(つまり総合争いは関係なし)。休息日を挟んで難関山岳が続く最終週の決戦に突入する。

photo&text:Makoto.AYANO in Bourg en Besse, France