スイスに近いフランス南東部のジュラ山脈を横断するツール・ド・フランス第15ステージでヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)が初勝利。獲得標高差が4,000mに達したこの日もクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)はライバルたちの攻撃を全て封じ込めた。



超級山岳グランコロンビエ峠を登る選手たち超級山岳グランコロンビエ峠を登る選手たち photo:TDWsport/Kei Tsuji
ツール・ド・フランス2016第15ステージツール・ド・フランス2016第15ステージ image:A.S.O.ツール・ド・フランス2016第15ステージツール・ド・フランス2016第15ステージ image:A.S.O.


序盤の1級山岳ベルティアン峠で飛び出すラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)序盤の1級山岳ベルティアン峠で飛び出すラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsujiツール第15ステージはジュラ山脈を横断する。160kmコースには6つのカテゴリー山岳の他にも細かい起伏が詰め込まれており、まさに登りと下りしかないコースレイアウト。1級山岳ベルティアン峠(6km/平均8.1%)に始まり、超級山岳グランコロンビエ峠(12.8km/平均6.8%)と1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエ(8.4km/平均7.6%)が連続して登場。ピレネーとアルプスの陰に隠れがちだが、獲得標高差が4,000mを超える難関山岳ステージだ。

常にアップダウンを繰り返す山岳コースを走るチームスカイ常にアップダウンを繰り返す山岳コースを走るチームスカイ photo:TDWsport/Kei Tsujiすでに総合成績を落としているクライマーたちにとっては逃げ切り勝利と山岳ポイント量産の絶好のチャンス。序盤の1級山岳ベルティアン峠では熾烈なアタック合戦が繰り広げられ、ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)とイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)が先頭で頂上をクリアする。平均勾配が8%を超えるこの登りで早くもスプリンターを含むグルペットが形成された。

ハイスピードダウンヒルをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ)ハイスピードダウンヒルをこなす新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:TDWsport/Kei Tsujiマイカとザッカリンには追走の28名が追いつき、先頭では今大会最多の30名の逃げグループが出来上がる。2014年大会の覇者ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)やピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)の他、トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)、アレクシ・ヴィエルモーズ(フランス、AG2Rラモンディアール)、セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)を含む強力な逃げが先行を開始した。

超級山岳グランコロンビエ峠で逃げのペースを上げるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)超級山岳グランコロンビエ峠で逃げのペースを上げるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji総合で11分41秒遅れのセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)が逃げに入っていたため、チームスカイは大きくペースを落とすことなくメイン集団を牽引。グルペットのスプリンターたちが集団に復帰できないままアップダウンコースを進んでいく。先頭ではマイカが順調に山岳ポイントを稼いだ。

ステージ優勝狙いの選手と山岳ポイント狙いの選手、総合ジャンプアップ狙いの選手、先行することで総合エースをアシストしたい考えの選手が混ざり合った逃げグループは上手く協調体制を築けない。フィニッシュまで70kmを残したタイミングでディラン・ファンバールレ(オランダ、キャノンデール・ドラパック)がアタックすると早くも逃げグループは崩壊した。

今大会すでにステージ2勝を飾っているドゥムランがファンバールレをパスして独走に持ち込んだが、しばらくしてニーバリとパンタノ、ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、AG2Rラモンディアール)が合流する。しかしこの動きも決定打を欠き、先頭は13名にまとまった状態で最大の難所である超級山岳グランコロンビエ峠に突入。

中盤にかけて最大勾配が15%に達する標高1,501mの峠道が始まると先頭は再びマイカとザッカリンの2人に。急勾配の登りを平均20.6km/hで駆け上がったマイカが先頭で山頂をクリアする。なお、7分後方でアスタナがペースを作ったメイン集団は平均20.1km/hで超級山岳グランコロンビエ峠を登りきっている。逃げグループから脱落したニーバリの登坂スピードは平均16.7km/h、グルペットは平均16.5km/hだった。



超級山岳グランコロンビエ峠を先頭で登るイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)超級山岳グランコロンビエ峠を先頭で登るイルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji
超級山岳グランコロンビエ峠を登るヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ら超級山岳グランコロンビエ峠を登るヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ら photo:TDWsport/Kei Tsuji超級山岳グランコロンビエ峠を登る新城幸也(ランプレ・メリダ)超級山岳グランコロンビエ峠を登る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:TDWsport/Kei Tsuji
超級山岳グランコロンビエ峠の頂上に近づくクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら超級山岳グランコロンビエ峠の頂上に近づくクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:TDWsport/Kei Tsuji


超級山岳グランコロンビエ峠の下りで落車したジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)超級山岳グランコロンビエ峠の下りで落車したジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ) photo:TDWsport/Kei Tsuji超級山岳グランコロンビエ峠を越えると、16kmかけて高低差1,200mを一気にダウンヒル。テクニカルかつハイスピードなこの下りで先頭マイカとザッカリンにはアラフィリップとパンタノが合流する。この下りで出場選手中最も速い最高スピード98.5km/hをマークしたアラフィリップだったが、その後のメカトラによって先頭から脱落。ザッカリンも遅れ、先頭はマイカとパンタノに入れ替わる。

1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエを先頭で駆け上がるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエを先頭で駆け上がるラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji一旦キュロズのフィニッシュラインし、最後の1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエに差し掛かった時点で先頭マイカとパンタノは追走グループ(ライヘンバッハ、ザッカリン、ヴィエルモーズ、パウエルス)から1分リード。

先頭マイカを追走するセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)とヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)先頭マイカを追走するセバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)とヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:TDWsport/Kei Tsuji「ラセ(レース編み)」の語源にもなった最大勾配14%の九十九折りで先頭ではマイカが独走に持ち込んだ。超級山岳に続いて1級山岳も先頭通過し、この日だけで山岳ポイントを50ポイント荒稼ぎしたマイカは山岳賞2位から1位にジャンプアップしている。

先頭でフィニッシュに向かうヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)先頭でフィニッシュに向かうヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)とラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji「4日前の落車で痛めた腕にまだ痛みが走っているので下りではリスクを冒さなかった」というマイカには、下りを猛烈なスピードで駆け抜けたパンタノがジョイン。先頭2人でフィニッシュまでの平坦路に差し掛かる。

後続のヴィエルモーズとライヘンバッハがじわりと迫る中、マイカとパンタノが心理戦を繰り広げながらスプリントへ。上手く勝負に持ち込んだパンタノが先頭に立つと、マイカは無理に抵抗することなくペダリングを弱めた。

ツール・ド・スイスの最終ステージでも優勝している27歳がステージ初優勝。「インクレディブル(信じられない)。夢が叶った。もちろんステージ優勝を目標にしていたけど、勝てるとは思っていなかった。それもこれもチームメイトのおかげだ。昨日体調不良でリタイアしてしまったチームキャプテンのマティアス・フランクと妻にこの勝利を捧げたい」とパンタノは語っている。

初出場の2015年ツールを総合19位で終えているコロンビアンクライマーが、スイスのIAMサイクリングにツールのステージ初優勝をもたらした。今シーズン限りで解散が決まっているIAMサイクリングにとってグランツールでの勝利はジロ・デ・イタリア第17ステージに続く2勝目となる。

スプリントで敗れたマイカは「4度目のステージ優勝に手が届くと思っていたけど、最後は追いつかれてしまった。アルプスではまたチャンスが回ってくると思うし、マイヨアポワに再び袖を通すことができて良かったよ。これからこのジャージを守るために走りたい」とコメント。山岳賞争いでは断トツの首位をひた走る。



マイカをスプリントで下したヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)マイカをスプリントで下したヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:TDWsport/Kei Tsuji


1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエでメイン集団からアタックしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエでメイン集団からアタックしたロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール) photo:TDWsport/Kei Tsuji超級山岳グランコロンビエ峠に続いて1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエでもメイン集団ではアスタナが積極的にリード。するとファビオ・アル(イタリア、アスタナ)がアタックを仕掛け、ここにアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)も合流する。しかしチームスカイがメイン集団を率いてこの動きを封じ込めた。

チームメイトに導かれてバルデを追うクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)らチームメイトに導かれてバルデを追うクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:TDWsport/Kei Tsuji頂上まで2kmを残して今度はロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)がアタックしたものの、ワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)の牽引によって吸収。結局メイン集団から抜け出すことに成功した選手は現れず、ポエルスとフルームを先頭にパンタノから3分07秒遅れでフィニッシュした。

1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエで脱落したティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)を除いて、総合上位陣は同タイムでフィニッシュした。ヴァンガーデレンは総合6位から総合8位に順位を下げている。

「もっとライバルたちの激しいアタックを予想していた。アルやバルベルデ、バルデが攻撃を仕掛けたものの、今の脚の状態では誰にも先行させない自信があった」というフルームがマイヨジョーヌをキープ。ジュラ山脈での戦いを終えたツールは翌日スイスに入国する。



22分遅れで1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエを登る新城幸也(ランプレ・メリダ)22分遅れで1級山岳ラセ・ドゥ・グランコロンビエを登る新城幸也(ランプレ・メリダ) photo:TDWsport/Kei Tsuji3分07秒遅れでフィニッシュするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら3分07秒遅れでフィニッシュするクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)ら photo:TDWsport/Kei Tsuji
ステージ初優勝を飾ったヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)ステージ初優勝を飾ったヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング) photo:TDWsport/Kei Tsujiマイヨアポワに再び袖を通したラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)マイヨアポワに再び袖を通したラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:TDWsport/Kei Tsuji


ツール・ド・フランス2016第15ステージ結果
1位 ヤルリンソン・パンタノ(コロンビア、IAMサイクリング)         4h24’49”
2位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)
3位 アレクシ・ヴィエルモーズ(フランス、AG2Rラモンディアール)         +06”
4位 セバスティアン・ライヘンバッハ(スイス、FDJ)
5位 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、エティックス・クイックステップ)    +22”
6位 セルジュ・パウエルス(ベルギー、ディメンションデータ)            +25”
7位 ピエール・ロラン(フランス、キャノンデール・ドラパック)
8位 イルヌール・ザッカリン(ロシア、カチューシャ)               +1’30”
9位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)
10位 トムイェルテ・スラグテル(オランダ、キャノンデール・ドラパック)     +2’08”
14位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                +3’07”
15位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)
16位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)
17位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)
18位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)
19位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ティンコフ)
20位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)
21位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)
22位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)
23位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)
24位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)
25位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
30位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)        +4’35”
102位 新城幸也(日本、ランプレ・メリダ)                   +22’40”

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)               68h14’36”
2位 バウク・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード)             +1’47”
3位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)         +2’45”
4位 ナイロ・キンタナ(コロンビア、モビスター)                 +2’59”
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              +3’17”
6位 ロメン・バルデ(フランス、AG2Rラモンディアール)             +4’04”
7位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)             +4’27”
8位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシング)         +4’47”
9位 ダニエル・マーティン(アイルランド、エティックス・クイックステップ)    +5’03”
10位 ファビオ・アル(イタリア、アスタナ)                   +5’16”

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ)                 340pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、ディメンションデータ)        278pts
3位 マルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)        228pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)                 127pts
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)              90pts
3位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)                69pts

マイヨブラン(ヤングライダー賞)
1位 アダム・イェーツ(イギリス、オリカ・バイクエクスチェンジ)      68h17’21”
2位 ルイス・マインティーズ(南アフリカ、ランプレ・メリダ)          +3’03”
3位 ワレン・バーギル(フランス、ジャイアント・アルペシン)          +16’20”

チーム総合成績
1位 モビスター                              204h44’46”
2位 チームスカイ                               +7’08”
3位 BMCレーシング                              +9’40”

ステージ敢闘賞
ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ・サクソ)

リタイア
ヘスス・エラーダ(スペイン、モビスター)
イェンス・デブシェール(ベルギー、ロット・ソウダル)

text&photo:Kei Tsuji in Culoz, France