リドレーからリリースされるX-Fireは、フルカーボンのシクロクロス専用バイクだ。強豪FIDEAチームの活躍などはマニアなら詳しいだろう。同社のフラッグシップにはX-KNIGHTなどがあるが、現実的に購入しやすい決戦モデルがこのX-Fireだ。かつてシクロクロスの選手としてベルギーやオランダで走った経験を持つ鈴木祐一(Rise Ride)がテストする。

リドレーX FireリドレーX Fire (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

ベルギーといえば、フランスやイタリアなどと並ぶ自転車競技大国だ。春先のクラシックシーズンに魅力的なレースを開催し、真のロードレースファンなら無意識に食指が動くほど魅力溢れる地域だ。そして大規模な山岳地帯こそなくても、路面状況や天候など自転車競技にとって非常にタフな状況が揃っている。シクロクロスはそんなベルギーでもっとも愛されているスポーツといえるだろう。

そんな環境の中で育まれたリドレーは、1990年創業とレースファンが抱くイメージからは意外なほど若いメーカーだ。しかも当初は塗装会社としてスタートを切ったという隠れたエピソードも持ち合わせている。

ジョシム・アールツ氏が、息子であり現社長のヨアキム・アールツと共に、塗装だけでなくフレームの製作に乗り出したのが自転車事業への第一歩だった。当時、世界はスチールからアルミへの世代交代が行われている真っ最中で、新時代の到来を予見したリドレーは、アルミフレーム製作をきっかけにワールドブランドへと成長していく。

日本ではシクロクロスは一部の競技者たちが注目する程度に留まっているが、ヨーロッパではロードレーサーたちのオフトレーニングとして、そして競技として、確固とした地位を築いている。

リドレー・XファイアはU23の世界チャンピオン ニールズ・アルバートも使用する最新鋭のフルカーボン・シクロクロスバイクだ。

マッドコンディションが当たり前のシクロクロスのために、タイヤクリアランスは25mm幅の製品を履かせても十分なゆとりがあるように設計されている。ホイールベースはロードモデルに比べて3cm長く、悪路での安定性が向上している。

十分なタイヤクリアランスは25Cのオフロードタイヤに対応する設計だ十分なタイヤクリアランスは25Cのオフロードタイヤに対応する設計だ スマートなカンティブレーキワイヤーの取り回しスマートなカンティブレーキワイヤーの取り回し トップからおろしたケーブルを滑車を介してフロントディレイラーを引く動きに変換トップからおろしたケーブルを滑車を介してフロントディレイラーを引く動きに変換


また、2008年までリドレーがフレームを供給していたサイレンス・ロットは、このバイクをパリ・ルーベで使用していた。通常のロードレースでも使えるといういい証左になるだろう。2009年はカチューシャ、コンテントポリスにロードフレームを供給している。

2010年モデルからヘッドの下ワンが「ワンポイントファイブ」(1-1/2インチ)にサイズアップされ、テーパーコラムになり、剛性と安定性を手に入れている。
元々ワンポイントファイブはオフロードバイク用の規格だが、より高い剛性と軽量性を手に入れようとするロードバイクメーカーに積極的に取り入れられている。しかしシクロクロスフレームで対応している製品は非常に希だ。Xファイアに対するリドレーの情熱が伝わってくる。

その一方で、むやみにスペック戦争に脚を踏み入れない手堅い側面も持ち合わせる。Xファイアはフレーム素材に24tクラスのミディアムクラスのカーボンファイバーを使用している。これはこのクラスがシクロクロスという競技には適しているという技術者たちの判断だろう。

製法はモノコックとチューブtoチューブ接着方式を場所により織り交ぜるというスタイルを取る。1300グラムというフレーム重量は信用に値する数値だ。ストレートブレードのフロントフォークも肉厚な作りで、堅牢な印象を受ける。

ケーブルは徹底的にトップチューブ上部に集められるケーブルは徹底的にトップチューブ上部に集められる チェーンステイは細身で高い路面への追従性を生み出すチェーンステイは細身で高い路面への追従性を生み出す


フレームセットで¥176,400(税込)という破格のプライスだ。輸入元のジェイピースポーツグループが『シクロクロス普及価格』と銘打って昨年から価格を据え置いたのも、このバイクに対する信頼がある故にだろう。





― インプレッション


「この1台で迷い無くシクロクロスの真髄に近づける」 鈴木祐一(Rise Ride)


剛性感はロードレーサーと比較すると(本来タイプが違うモノなので比較できないが)、若干落ちる。それはシクロクロスは不整地を走る乗り物なので、剛性が高すぎても柔軟性が無くなってしまい、路面の凹凸がライダーにダイレクトにきてしまうから当然のことだ。不整地を走る自転車としては十分な剛性があると思う。

担ぎスタイルで走ってもケーブル類は一切肩に干渉しない担ぎスタイルで走ってもケーブル類は一切肩に干渉しない ハンドリングは少しもたつく感じがあるが、それは正しい。なぜなら速度域がシクロクロス独自の範疇だから。超低速のコーナーもあれば、ハイスピードの滑りやすいコーナーもあったりするのがシクロクロスの世界だ。そんな時にいつでも同じように対応できるようにするには、これくらいがいいのだろう。

ライダーが意のままに操れたりするというのは、頭で「ああしなきゃ、こうしなきゃ」と考えたりすることなく、どんなシチュエーションでも同じように操作できて、同じように曲がっていけることなのだと思う。そのような特性がライダーに安心感を与えることに繋がる。Xファイアはそう言う意味で合格点をつけられる。

個人的な考えかも知れないけれど、シクロクロスは競技時間が短いので、あまりもっさりした自転車だと「やってられるか!」という感じになってしまう。1時間くらいのレースなら「勢いで走ってしまいたい」というところがあるので、鈍なバイクだとやる気も削がれてしまう。

そんな時、キビキビ感と安定感のバランスが良い自転車なら、アドレナリンが出ている状態で走れる。そういった意味でもこのリドレーX-Fireはやる気にさせる自転車だと思う。

コーナーリングも嫌なもたつき感が全くない。最初で言ったように、急勾配で神経を使うようなコーナーなどを、通常と同じようにハンドルを切って車体を寝かせてクリアしていける。そこがオフロードを走る上ですごく重要なポイントだ。MTBがフロントサスペンションがあったほうがいいのはそういった理由だし。

リジッドフォークでありながら、X-Fireのフロント周りは非常に高い接地能力を持つ。オフロードの場合、フロントが流れてしまうと恐怖心が生まれてしまう。そこを一生懸命作り込んでいる感じを受ける。

ヘッドからフォークに掛けてのフロント周りは、今までブレるバイクが多かったと思う。シクロクロスは泥ハケ性向上のため、どうしてもタイヤクリアランスを拡げなくてはならない。同じ材料で作っていれば、遠回りすればどうしても剛性が落ちてしまう。その2点のバランスが、今まではうまく取れていなかった。フォークが撓んでしまい、タイヤが逃げてしまうなどで安定しない部分もあった。X-Fireにはそのような不安定部分が全くない。いや、感じさせないのだろうか。

荒れた路面を飛ばして下ればその振動吸収性の高さにナットク荒れた路面を飛ばして下ればその振動吸収性の高さにナットク テスト中、階段下りなどシビアな状況も試してみたのだが、そのヨレに対する不安がなかったのが好印象だった。リヤ周りは「こんな自転車もあるよね」という位だが、フロント周りは個人的にすごく評価が高い。こんな接地感は今までなかったのではないだろうか。

どんなバイクにも言えるが、オフロードを走るバイクなのでブレーキ性能はとくに大切だ。特にフロントブレーキ。このバイクは2010モデルでヘッドパーツが下側がワンポイントファイブ(1-1/2インチ)に変更されているので、フォークのクラウン部分が去年のモデルと比べてかなり剛性がアップしている。

このサイズアップがブレーキ性能にいい結果をもたらしている。フィーリングもとてもナチュラルで、安心してブレーキを掛けることが出来る。オフロードでのブレーキングも、すごくスムースにブレることなく停まる。ここも評価が高いところだ。

全体的に意図的にフレームの剛性を少し落としているのだろうか? すごくキレのある加速ではない。そのかわり路面との追従性が凄く高く感じる。ペダリングをしていくときに、路面とのコンタクトが常に取れているので、かなり高速で踏んでいっても力が逃げない。路面との接触がかなりきちんとしている。

フレームの工作も感心することが多い。例えばワイヤの取り回しなどは、レースでのトラブルシューティングに影響することが多々ある。ワイヤの取り回しを細かく見ていくと、水の影響を受けにくくするように配置されており「流石シクロクロスの本場ベルギー製!」と言いたくなる。アウター受けも非常に絶妙な場所にある。ベルギーではシクロクロスは国技みたいなもの。「そういうところで生まれた自転車なんだ」、という納得感がある。

シクロクロスは不整地を走る分、必要な要素、装備、性能が増えてくる。このリドレーはそのあたりをしっかりとカバーしているのがいい。細かいところで言えば、トップチューブの扁平加工、担ぎやすさなども評価できる。軽さも大切。担ぎなどもあるシクロクロスには、軽さは間違いなくメリットだ。

オフロードを飛ばしてその快適性に感心するオフロードを飛ばしてその快適性に感心する リドレーのシクロクロスバイクの特徴として言うと、もっさり感が全くない。通常は不整地を走るために、太いタイヤを履かせたり、安定走行ができるようにより直進安定性が強いように振ったりしているが、このバイクはレーシングをターゲットにしているので、普段使いであっても、安定感を確保しつつ、軽快感、気持ちのいいシャキシャキ感がある自転車だ。

X-Fireを購入すれば、レースだけでなく、日々の通勤やツーリング、トレーニングなどにもメリットが生まれる。例えば昼間は働き夜にトレーニングする時などは、通常のロードバイクだと不安に思う状況も出てくると思う。そんな時シクロクロスに少し太めのタイヤを履かせて走ることで、トラブルで貴重な時間をロスしなくなるということも十分あるだろう。

さらに本来の目的とは違う使い方も出来る。トップチューブがロードモデルより1センチくらい短いはずなので、ツーリングのような、いわゆるコンフォート的なリラックスしたポジションを取ることも可能だ。それでいてオフロードも走れる……そんな長所が沢山ある。そう言う意味では、この自転車にコンパクトクランクを装着して、少し太めのロードタイヤを履かせると、何処でも走れてしまう快速クルージングバイクになる。

値段も超お買い得だし、いろんなシチュエーションで使えて、多分ロードレースも普通に走れてしまう(笑)。アタックなどの反応は少し鈍いかもしれないが。集団ゴールなら全然出来てしまう。そういう万能性でも評価できる。

このバイクに乗って「ようやくシクロクロスも完成されてきた」という感想を抱いた。昔のアランのような、「ロードバイクのクリアランスを拡げて、カンチ台座を着けました」といったようなロードの延長線にあったバイクとはまったく違う自転車になっている。

シクロクロスに必要な要素、例えばトップチューブを短くしてハンドルのコントロール性を上げるとか、そのトップチューブを短くする量も煮詰められて、ロードと比べると大体マイナス1センチくらいだとか……、徐々に答えが出てきている。そう言った最新理論もX-Fireには盛り込まれている。

本格クロスでありながらボトルケージ穴を2つ備えるのは嬉しい本格クロスでありながらボトルケージ穴を2つ備えるのは嬉しい レース本番では、障害板があったり、担ぎがあったり、そこから加速しなければいけなかったり。そのすぐ後にブレーキを掛けたりする『ストップ&ゴー』の世界なので、伸びのある自転車でないと厳しい面もある。X-Fireはそういった部分がちゃんと煮詰められている。各メーカー共に世界標準としてそういった要素を取り入れているんだとは思うが、それらの要素が詰まったバイクがこのX-Fireなんだろう。

シクロクロスの基準となるモデルがようやく完成した気がする。シクロクロスはルール変更も続き、レースの目指す形態が不安定な時期があったので、今まで掛かってしまったのだろうか? 10〜15年ほど前にそれらの区切りがやっと出来て、今に繋がるフレーム性能の底上げが始まった。

歴史を辿れば100年以上やっているのだが、MTBの登場により本来あるべき姿からブレてしまった。ルールが安定しなければ、開発も進行しにくい。X-Fireは、今定まった今のルールの中で使うバイクとしては、かなり完成されている。これを買えば、自分がかつて走った時代のように迷うこともないだろう。

自分が今まで乗ってきたシクロクロスバイクは、クロモリは勿論、アルミ、チタン、カーボンなどあるが、やはりカーボンは路面追従性はいいと思う。シクロクロス自体は日本ではかなりマイナーな競技だ。ロードバイクパーツのお下がりを使っていたりすることもままある。でも、一部で盛り上っている地域などがあり、頑張っている競技者もいると聞く。

シクロクロスに長らく関わっている自分の立場から言うと、X-Fireはリアルレーシングに対応する最先端のフレームだ。このバイクを使うことで、周囲のライバルよりも有利なレース展開に持ち込めることが必ずあるだろう。

このバイクを買えば、本物のシクロクロスに必要なモノが一気に手に入る。リアルなシクロクロスバイクのレーサーとして、優れている一台ではないかと思う。



リドレーX Fire リドレーX Fire  (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

リドレーX-Fire
フレーム ハイモジュラスカーボンモノコック 24TON
カラー 1014A
サイズ 48、50、52
希望小売価格(税込み)フレームキット¥176,400

※訂正:初回記事で紹介した完成車販売はありません。お詫びして訂正します(編集部/2009.10.13追記)





鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride)

インプレライダーのプロフィール


鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。
2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
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