グランツールの山岳ステージやクラシックレースなど、天候や気温の変化が激しいレースに向けてRaphaが開発した新作ウェア「Pro Team Shadow」コレクション。防風性・防水性・通気性を高バランスで兼ね備える意欲作を宮澤崇史さんがインプレッションした。



マヨルカ島の冬の冷たい雨が降る中、シャドージャージを着て走る宮澤崇史さんマヨルカ島の冬の冷たい雨が降る中、シャドージャージを着て走る宮澤崇史さん photo:Makoto.AYANO
ここ数年、サイクルウェア界で大きなトレンドの1つとなっている「レインウェアの高機能化」。以前は防水性と撥水性があれば充分だったが、昨今では肌をドライに保つための通気性や、バタつきを抑えるための高い伸縮性も求められるようになってきた。

特にプロレース界においては、高性能なレインウェアのニーズは極めて高い。それは、距離にして250km以上、7時間に迫る長距離レースでは、1日のうちに天候が何度も変化するからだ。以前であればレインウェアの着脱で対応していたが、今日のレース現場ではそうはいかず、ウェアを着脱している間にレースが動いてしまうかもしれない。展開の緩急が大きなプロレースでウェア調整のタイミングを誤れば、足を使わされるどころか、勝負に絡めなくなることもある。だからこそ、どんな状況でも着脱せずに済む全天候対応の高性能なレインウェアが必要なのだ。

Rapha Pro Team ShadowコレクションRapha Pro Team Shadowコレクション
今回インプレッションを行う「Pro Team Shadow」コレクションは、レインウェアに関するチームスカイのリクエストを受けてRaphaが開発。生地が1本の糸である段階からDWR(耐久性撥水)処理を施し、編み上げた生地を熱処理し密度を高め、さらにその生地全体に再びDWR処理を行う独自製法を採用することが特徴だ。この結果、高い撥水性に加え、しなやかな着心地と優れた通気性を兼ね備えるレインウェアを造りあげることに成功した。

すでにPro Team Shadowコレクションはプロトタイプが選手によって使用されており、雪と寒さに見舞われた今年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではワウト・ポエルス(オランダ、チームスカイ)の初優勝に貢献。また、近年稀に見る悪条件のなか行われた2015年3月のヘント〜ウェベルヘムではチームスカイのルーク・ロウ(イギリス)が使用し、以下のように感想を述べている。

雨風の侵入を抑えるべく、襟は高めとされている雨風の侵入を抑えるべく、襟は高めとされている 脱ぎ着しやすいように、ジッパーには止水加工は施されていない脱ぎ着しやすいように、ジッパーには止水加工は施されていない

前身頃とサイドパネルの縫製部のみ、止水テープが貼られている前身頃とサイドパネルの縫製部のみ、止水テープが貼られている 雨水が溜まらないよう、バックポケットには水抜き穴を設けた雨水が溜まらないよう、バックポケットには水抜き穴を設けた


「春のクラシックレースにおける厳しい天候の日、まさに類をみないほど厳しいものだったわけだが、私たちはこのジャージを着て走った。昨年のヘント~ウェベルヘムは私のキャリアでも最も風が強く最も恐ろしいレースのひとつになったが、Shadowキットのおかげで集団の前で集中して走ることができた」。

ラインアップはジャージとビブショーツの2種類となる。いずれもレースやハードなライドを想定したタイトフィットに仕上げられており、1分1秒を争う状況にも最適。また悪天候時のみならず、ウォーマー類と組み合わせることで肌寒い季節のライドにも対応してくれる。

ジャージの袖は7分丈となっており、雨や風から腕をしっかり保護してくれる。レース用と言えど開閉しやすいファスナーや、ずり上がりを防ぐ裾部分のエンボス加工ラバーグリップ、スタンダードな3つのバックポケット(底部には雨水を排出する穴を用意)、肩の縫い目に施されたテーピング補強など、使いやすさと耐久性が求められた。

高い防水性と共に、優れた伸縮性を兼ね備えるRapha独自の生地高い防水性と共に、優れた伸縮性を兼ね備えるRapha独自の生地 蒸れを抑えるべく、ショーツの背中側はメッシュ素材としている蒸れを抑えるべく、ショーツの背中側はメッシュ素材としている

裏面は起毛仕様とされている裏面は起毛仕様とされている 快適性に貢献するサイテックス社のパッド快適性に貢献するサイテックス社のパッド


ビブショーツは柔らかな裏起毛仕様とされ、視認性を高めるリフレクターも設けられている。Pro Teamコレクションのトレードマークであるストライプがデザイン上のアクセントだ。

来る梅雨時期にぴったりな「Pro Team Shadow」コレクション。今回はプロのレース現場におけるウェア事情に精通し、自身もRaphaを愛用する元プロロードレーサーの宮澤崇史さんによるインプレッションを紹介。雨のスペイン・マヨルカ島ライドで宮澤さんが感じた「Pro Team Shadow」コレクションの魅力とは?




「雨のなかを冷え知らずで走れる革新的なジャージだ」宮澤崇史

ヨーロッパプロサイクリストの中では言わずと知れたこの素材。雨や寒さにめっぽう強いこのアイテムは、似た市販品が販売されたとき、プロが自腹で買う一品としてレースでこぞって使われていた。それまでもっとも優秀な製品はカステリ製であったことは公然の秘密。そのロゴが塗りつぶされた真っ黒なジャージを使っている選手を、ファンたちは悪天候のレースごとに見てきたはずだ。

冬のマヨルカ島、雨の中の4時間のライドにでかけた冬のマヨルカ島、雨の中の4時間のライドにでかけた
スペインはマヨルカ島の滞在2日目にして、「雨、風、寒い」と見事に3拍子揃った天候の中、シャドージャージ上下を着てライドへ出かけた。

インナーは夏用のメッシュ生地。この日はかなり寒かったので、その下に半袖ジャージを着て、最後にシャドージャージを着た。パンツは縫い目も気にならず、これもかなり強いフィット感で身体と一体感を感じる作りになっている。腕と脚にはラファの特徴的なアクセサリーであるメリノウール製のアームとレッグウォーマーを着けた。

ダンシングなどの体の動きにもストレス無くついてくるダンシングなどの体の動きにもストレス無くついてくる ペースが上がるながででのテストも行ったペースが上がるながででのテストも行った シャドーはジャージもパンツもやや伸びにくい素材を使っているため、なるべく素肌に近い状態で着ることをお勧めする。そして、着る時はかなりキツイ思いをしてファスナーを締める。とくに選手体型の人(私)は、腹筋をはじめとした体幹部が太いため、試着してのサイズ決めが必要だろう。

しかし、着るときにあれだけキツイと感じたのに、全く違和感がない。お腹、脇、胸周りに空間ができるようなことがなく、身体にジャストフィットしている。立っている状態よりも、自転車に乗る前傾姿勢をとった方がよりフィット感を感じるつくり。レーシングモデルに定評のあるRaphaの採寸は流石だ。

腕を上げたり回したりしても動きにくさはなく、長い時間乗っていたとしても、窮屈な思いや肩コリを起こすようなこともなさそうだ。パンツもシワが寄ることがなく、ぴったりとフィットしているのでストレスがなく、パットも柔らかく履きやすい。

なんだかこんなに良いことばかり書いているが、短所を見つける方が大変なポテンシャルを持っているようだ。長い年月使った時に、防水機能がどう変わるかが心配になるくらいだ。

さて、そんなシャドーを着て気分良く、4時間の雨のマヨルカライドへ出かけてた。霧雨が降ったり止んだり、気がつけばしっかりと降り始めたりと、悪条件が次々と襲ってくるが、寒さを感じるのはアームウォーマーやレッグウォーマーであって、ジャージの中は汗以外の外的要因で濡れることはない。メリノ製のアームとレッグウォーマーも、濡れからくる冷えがない不思議な着心地であったことを書き加えておこう。

雨のなかを走り続けても、身体は濡れず、冷えも呼ばない雨のなかを走り続けても、身体は濡れず、冷えも呼ばない
ジャージについた雨粒は、手で振り払うだけで水玉となって飛び散っていく。この様子がなんとも面白い。水が弾かれるのをそのまま放っておけばいいのに、嬉しさのあまり何回もジャージを叩いては、水を弾かせてみる。この機能は凄さもそうだが、楽しささえ覚えてしまうのだ。

途中のコーヒーブレイクでは靴から頭からびっしょり濡れた状態で到着。自転車に乗っている時は全く気づかなかったが、止まると寒い。つまり雨の冷えや気温の低さを気にせず走れたということだ。動いている時は暑すぎず、汗をかくわけでもなくちょうど良いことを考えると、このシャドージャージは動き続けていればストレスフリーということか。

自転車で走っている時に最適化しているのはライダーにとっては嬉しいし、そして肌寒い雨の日に余計なジャージの心配で、走ること自体を悩まなくても済むのは嬉しい限りだ。着心地もロングライドでもストレスがない。ジャージ、パンツともに雨のレースでも不利な点無く使えるだろう。

Pro Team Shadowは降る雨をことごとく弾いてしまうPro Team Shadowは降る雨をことごとく弾いてしまう
雨の中トータルで4時間ほど走ってきた。そして暖炉のあるレストランに入って体を乾かしていたら、水を弾くだけあってシャドーはすぐに乾いてしまったのだ。

天候の変化によるストレスがないのはとても良い。せっかく走っていて雨が止んでもジャージが濡れっぱなしでいたら寒いし、風邪の原因にもなり得るからだ。以前は雨の日は寒さを我慢するのが当たり前だった。しかし、このシャドーの登場によって寒さに強いヨーロッパ人も、実はやせ我慢していたことが明らかになった。

今回シャドージャージを使ってみて、雨の中を薄着で走っても寒くないことを実感できたことがいちばん嬉しいことだった。どんなに着込んでも、雨に濡れることで筋肉や骨が冷えてしまったら、体温を維持することが難しくなる。それを薄いジャージとパンツ1枚でここまで保護してしまう機能は、まさに革命的なアイテムと言えるだろう。



impression:Takashi.Miyazawa
photo:Makoto.Ayano

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